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死の運命を回避するために、未来の大公様、私と結婚してください!  作者: 江本マシメサ
第八章 クラウスを助けるために

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懐中時計を買いに

 ずらりと並んだ懐中時計は、精緻せいちで美しい彫刻がなされ、見ているだけでほうとため息が零れる。

 すべて職人の手作りのようで、ひとつひとつ丁寧に仕上げられていた。

 貴族御用達のお店らしく、美しさを第一に制作されているようだ。

 材質は金や銀、水晶など、繊細で壊れやすそうな物ばかりである。

 これではない、あれでもないと見ていく私の様子を不思議に思った店主が問いかけてきた。


「どうした? 思っていた商品がなかったのか?」

「ええ」

「どういう懐中時計を探しているんだ? ここにはすべての需要に応えられるだけの懐中時計があるぞ」


 とてつもない自信である。ならば、紹介してもらおうか。


「では、世界一屈強な懐中時計を見せていただける?」

「それはこれだろう」


 天井に近い位置に飾ってある、眩い輝きを放つ懐中時計であった。


「これは蓋をダイヤモンドで作った、国家予算三年分ほどの金額の懐中時計だ」


 銀のチェーンに繋がった、それはそれは美しい懐中時計である。

 ダイヤモンドは世界一硬い物質と言われているものの、金槌などで叩くと割れてしまう。よって、命を守るために使うものではないのだろう。


「ダイヤモンドの強さは靱性――粘り強さですわ。そうではなくて、打たれ強い懐中時計を探していますの」

「なるほど。そういうわけか」


 屈強の種類を正しく理解した店主は、店の奥に消えていった。店内には飾っていない懐中時計があるようだ。

 しばらくすると、店主が戻ってきた。手にはひとつの懐中時計が握られていた。

 それは鉄のような素材で、表面には何も加工されていない。


「これは、砲弾に使う金属と素材で作った懐中時計だ。至近距離から射られたクロスボウの矢すら跳ね返す、屈強なものだ」


 私は手を痛めるから持たないほうがいいと言われ、代わりに護衛の女性が受け取る。


「こちらは――かなり重たいですね」

「そうだ。この国の要人が暗殺者に狙われ、心臓付近を守るために作ったんだが、重たすぎると返品されてしまったんだ」


 これはクラウスのためだけにあるような品だろう。

 値段を聞いたら、国王陛下から賜った見舞金で購入できる金額だった。すぐに小切手を書き、店主に差し出す。


「これが売れるとは思わなかったな。店頭に置いていても、誰も見向きもしなかったというのに」


 値引きする予定だったようだが、私が小切手を用意し署名するほうが早かった。そのため、店主がおまけとして表面に加工を施してくれるという。


「とはいっても、この素材は彫ることができないから、銀に彫刻したものを貼りつけたものになる」


 何か彫ってほしい意匠はあるのかと聞かれ、猫とヒイラギをお願いした。

 猫はアルウィンで、私とクラウスにとっては癒やしと守護の象徴のような存在である。

 ヒイラギは花言葉に、〝保護〟、〝強直〟、〝用心深さ〟、〝先見の明〟がある。クラウスが持つにふさわしい言葉ばかりだろう。


「だったら、今日の夜までに仕上げるから、人を寄越してくれ」

「ありがとうございます」


 いい買い物ができたので、ホッと胸をなで下ろす。 

 店主に深々と頭を下げ、お店をあとにしたのだった。


 途中、クグロフの専門店で留守番している侍女達にお土産を買い、アルウィンには乾物店で無塩煮干しを購入して帰った。


 ◇◇◇


 帰宅すると、私宛に手紙が届いていると侍女が持ってきてくれた。

 封筒には猫の絵が描かれている。これはクラウスからの手紙だ。

 なんでも昔、手紙を盗まれたことがあるようで、差出人を示す場所に絵を描くようになったのだとか。

 陛下に送るときは旗、鉄騎隊の部下に送るときは剣、そして私に送るときは猫なのだ。

 封を開くと、今晩戻ると書かれてあった。タイミングよく会えるらしい。

 便箋を封筒に収め、侍女らを振り返る。


「今晩、クラウス様が戻ってまいりますので、今から身なりを整えていただけます?」


 小首を傾げ、可愛らしくお願いしたら、侍女達は頬を染めつつ「もちろんです」と気合いたっぷりな返事をしてくれた。


 私が着飾りたい、というのが珍しかったからだろうか。侍女達はこれから初夜を迎える花嫁に施すような手入れをしてくれた。

 おかげさまで髪はさらさら、爪先はキラキラで、体はどこもつるつるである。

 サルヴィアブルーの華やかなドレスに袖を通し、髪は優雅に結い上げられた。

 どこから持ってきたのか、ダイヤモンドの首飾りや耳飾りなどを次々と装着させられ、姿見で確認するように言われる。


「あの、このダイヤモンドの装飾品はいかがなさいましたの?」

「シュヴェールト大公からの贈り物ですが、ご存じなかったのですか?」

「初めて目にしました」

「シュヴェールト大公から、金庫にある宝飾品はエルーシア様の品なので、大事に管理するよう言われていたのですが」


 金庫の存在すら知らなかった。侍女の案内で見にいくと、壁に埋め込まれるような形で金庫があった。普段は隠されていたらしく、把握すらしていない。

 そして、金庫の中にはダイヤモンドやエメラルド、サファイアなどの宝飾品の数々が並べられていた。

 いつの間にこんなに揃えたのか。頭が痛くなりそうだった。

 ため息を吐くのと同時に、頼んでいた懐中時計が届いたという知らせを受ける。

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