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死の運命を回避するために、未来の大公様、私と結婚してください!  作者: 江本マシメサ
第七章 エルーシア、社交界へ進出!?

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コルヴィッツ侯爵夫人との再会

 王妃殿下のコンパニオンは、第三王女よりも待遇がよかった。

 まず、給金が出るらしい。私だけでなく、侍女見習いとして付けているネーネにまで。

 仕事内容は毎日面会するわけでなく、週に一回程度、お茶に付き合うだけでいいらしい。 護衛や侍女、友人なども招いていいようで、外出も前日までに申告したら許可を出してくれるようだ。

 なんというか、至れり尽くせりである。

 ちなみに王妃殿下のコンパニオンはこれまでいなかったらしく、私が初めて任命されたという。

 なんとも名誉な話であった。

 コンパニオンの効果は絶大のようで、王城を歩く人々が道を譲るようになる。

 私には過ぎた扱いだと思っているものの、王妃殿下のご威光がとてつもないものなのだろう。

 なるべく出歩かずに、大人しくしていようと心に誓った。


 王妃殿下のコンパニオンに任命された翌日――コルヴィッツ侯爵夫人が侍女や護衛、アルウィンを連れてきてくれた。


「エルーシアさん! ああ、よかった」


 コルヴィッツ侯爵夫人は私を見た途端駆け寄り、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 ずっと心配していたらしい。

 アルウィンも私の周囲をくるくる周り、にゃあにゃあと鳴いている。寂しい思いをさせていたようだ。


「こんなことになるのならば、第三王女のコンパニオンになるのを、強く止めていればよかった」

「いえ、その、いい勉強になりました」


 今回の騒動で私が学んだのは、何かやられてもやりかえすな、賢く立ち回れ、ということだ。


 ネーネが淹れてくれた紅茶で、ひと息つく。侍女や護衛だけでなく、ネーネ自身も一緒にお茶を囲んだ。


「この子はネーネといいまして、わたくしの侍女として迎えようと考えております」


 一応、事前に彼女についてコルヴィッツ侯爵夫人に報告していた。そのときは追及するような言葉はなかったものの、どう思うだろうか。ドキドキしながら反応を待つ。


「あら、いいじゃない。エルーシアさん自身が気に入った侍女を、傍に置いたほうがいいと思っていたところだったわ」


 コルヴィッツ侯爵夫人は暖かな微笑みをネーネに向ける。ネーネは緊張しつつも、控えめにはにかんでいた。

 背が高い侍女や護衛に小柄なネーネが囲まれる様子は、大型の肉食獣の中に子猫が迷い込んだようにしか見えない。

 けれどもみんないい女性ひとばかりなので、優しく接してくれるだろう。


「それにしても、クラウスが余計なことを言ったようで、ごめんなさいね」

「余計というのは?」

「悪魔大公の未来の妻にふさわしい、よ」

「ああ、それでしたか」


 絶妙のタイミングで現れてくれたおかげで、参加者全員の記憶に残るような発言だったのだろう。


「そのときのやりとりが、貴族の婦人向け雑誌に掲載されていて……。それがとてつもない評判を呼んでいて、続きが読みたいという熱烈な手紙が届いているみたいよ」

「つ、続きですか?」

「ええ」


 コルヴィッツ侯爵夫人が雑誌を持ってきてくれたらしい。それは私も読んでいた覚えがある週刊誌である。

 流行の最先端のドレスが掲載されていたり、巻末にはデパートで取り扱う新作のカタログがあったりと、この一冊でさまざまな情報を収集できるのだ。

 その雑誌でもっとも人気なのは、社交界の素敵な男女の恋物語をロマンチックに書いた小説である。実話を元に構成されているという噂話は聞いていたが、まさか自分達がモデルになっていたなんて。


「今は過去編を連載しているみたいなの」

「か、過去編!?」

「エルーシアさんが実家にいた時代のお話ね」


 継母となるイヤコーベがやってきて、義妹となったジルケが私にいじわるをするシーンが、迫力ある表現で書かれていた。


「もしも迷惑であれば、出版社を訴えることができるのよ」

「ええ……」


 複雑な気持ちがこみあげるが、書かれてある内容はすべて週刊誌などで面白おかしく報道されていたものである。雑誌にある文章は、品があって丁寧に描写されていた。

 私なんか、とんでもない美人に書いてある。


「正直に申しますと恥ずかしいのですが、わたくしも以前はこの雑誌を愛読しておりましたし、小説のコーナーは楽しみでした」


 きっと私と同じように、連載を楽しみにしている女性達がいるのだろう。


「ですので、見なかったことにします」

「そう」

「ただ、クラウスには絶対にバレないようにしたほうがいいと思います」

「それはもちろんよ。もしも知ったら、出版社を襲撃するに違いないわ」


 そんなわけで、私達のなれそめについて書かれた小説は放置することに決めた。


 コルヴィッツ侯爵夫人と話していたら、あっという間に三時間も経っていた。

 日が暮れるので、帰るという。別れ際、なんだか寂しくなってしまった。


「連れて帰りたいのはやまやまだけれど、まだここにいたほうがいいわ」

「記者が押しかけているのですよね?」

「王妃殿下から聞いたのかしら?」

「はい」


 コルヴィッツ侯爵夫人は私の手を優しく握り、何も心配しなくていいと言ってくれた。


 アルウィンは私のところで過ごすらしい。ネーネとも打ち解けた様子を見せていたので、心配ないだろう。


 ◇◇◇


 その日の晩、予知夢をみるための計画を立てる。

 これまで予知夢をみたときは、精神的な負担がかかったときだった。

 今は快適に暮らしているので、夢にみないというのが現状である。

 どうしたものかと考えた結果、刑務所にいるイヤコーベと面会することを思いついた。

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