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死の運命を回避するために、未来の大公様、私と結婚してください!  作者: 江本マシメサ
第四章 婚約期間の始まり

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兄のやらかし

 なんでも兄は隣国で仮面舞踏会に参加し、ある女性と意気投合したという。

 そのまま一夜を明かしたようだが、お相手の女性は王女だったらしい。

 

「来年、我が国の王太子に嫁いでくる予定だった御方だ」

「な、なんてことを……!」


 さらに最悪なことに、王女は兄の子を妊娠しているという。

 隣国は隠していたようだが、クラウスが情報を暴いてしまったようだ。

 王女との婚約は、おそらく解消されるのだろう。

 兄の迂闊うかつな行為のせいで、隣国と我が国の友好関係にヒビが入った。取り返しがつかないことをしてしまったのだ。

 予知夢でみた兄の運命は、ウベルやイヤコーベ、ジルケの策略に引っかかり、死んでしまうというものだったが。

 私がウベルと結婚しなかったことにより、運命の歯車が狂っているのだろうか。

 

「残念ながら、バーゲンを助けることはできない」

「ええ……」


 助けられたとしても、今度はこちらの国で厳しい処罰が下されるだろう。

 まだ、隣国で終身刑を受けるほうが、長生きできるのかもしれない。

 まさか、父と兄が同時にいなくなってしまうとは、想像もしていなかった。

 

「わ、わたくしは、これからどうすれば、いいのでしょうか?」

「まだ、そういうことは考えなくていい。今日のところはゆっくり休め」


 クラウスの言葉を聞いていたら、張り詰めた気持ちが解けていくように思えた。

 彼は私を部屋まで送り届け、別れ際に「何も心配はいらない」と言ってくれた。

 ひとりになると、涙が溢れてくる。

 母だけでなく、父までも私を残して逝ってしまうなんて。

 枕に顔を押しつけ、私は一晩中泣いたのだった。


 ◇◇◇


 翌日――お昼過ぎに目覚めた。

 さんざん泣いて、眠ってしまったようだ。

 おかげさまで、妙にスッキリとしていた。


 クラウスは仕事に戻ったのかと思いきや、まだいた。

 一緒にお茶を囲み、しばし静かな時間を過ごす。

 私の現実逃避に、彼は辛抱強く付き合ってくれた。


「ラウ様、ありがとうございました。わたくしはもう、大丈夫です」

「大丈夫なわけあるか。無理はしなくていい」


 けれども、このままぼんやり過ごすわけにはいかない。

 しっかり前を見て強く在らなければ、他人に人生を干渉され、めちゃくちゃにされてしまうから。


「これからどうすべきか、考えたいと思います」


 ひとまず、継承者がいない爵位は国王陛下に返上しなければならない。父の財産を継承するのは、唯一血縁関係にある私だ。結婚して一年にも満たないイヤコーベやジルケには権利などないはずである。

 ただ私が死んだら、どうなるかわからない。


「シルト大公と継承権を持つバーゲンが同時にいなくなる、というのは不審でしかない。隣国で起きたことも、誰かの陰謀である可能性がある」


 父の死については、医者が遺体を確認し、死因を特定したほうがいいという。

 

「バーゲンについても、調べれば調べるほど、不可解な点ばかりだった」


 王女は普段、仮面舞踏会のような場に姿を現すことなどなかったらしい。しかしながら、仲のよい侍女に誘われ、しぶしぶ参加したようだ。

 兄と打ち解ける前まで、ワイン一本、シャンパンを五杯飲んでいたのだとか。酒に酷く酔っている状態だったという。

 王女は慎ましく、控えめな性格で、異国の地へ嫁ぐことに関して、不安がっていたのだという。

 さらに、想いを寄せる相手がいたというのだ。


「王家同士の婚姻から逃れるために、バーゲンを利用したようにしか思えない。さらに、お腹の子も、バーゲンの子か怪しいところだ」

「そう、ですわね」


 父と兄がいなくなったあとの夢でみた世界では、ウベルが実質的な当主となり、イヤコーベやジルケと共に財産を使い尽くしてしまった。

 そういう状況は絶対に避けたい。


「葬儀には行かないほうがいいだろうな」

「ええ、わたくしもそう思います」


 どこの誰がやってきていると把握できないような集まりになんて、近付かないほうがいいだろう。危険としか言いようがない。

 

「お前の父の遺体は、国王の侍医のもとへ運ばせた。今頃、死因を調べているだろう」


 まずは父の遺体をどうにかしなければならないと考えていたが、すでにクラウスが先手を取っていたようだ。

 次に、すべきことといったら――脳裏にヒンドルの盾が思い浮かんだ。

 そうだ。予知夢でみたヒンドルの盾は、財産を使い尽くした未来のウベルが売り払おうとして触れたら、壊れてしまったのだ。

 彼らよりも早く発見し、回収しておいたほうがいいだろう。


「ラウ様、ヒンドルの盾をシルト家から持ち出したいのですが、よろしいでしょうか?」

「それは構わないが、何か理由があるのか?」

「嫌な予感がするのです」


 理由としては弱すぎるとしか言いようがなかったものの、クラウスは納得してくれた。

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