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死の運命を回避するために、未来の大公様、私と結婚してください!  作者: 江本マシメサ
第四章 婚約期間の始まり

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爵位継承の謎について

 冷たい風が吹く冬の季節から、暖かな風が頬を撫でる春に移り変わっていく。

 あれから私の体調は回復し、結婚式の準備をしつつ、時折ミミ医院に奉仕活動に行くという日々を過ごしていた。

 婚礼用のドレスは順調な仕上がりで、あと半年もすれば完成するだろう。

 今は結婚式に招待するお客様をリストアップしている途中だ。

 結婚式をめちゃくちゃにされたくないので、当日は父のみを招待する予定だ。兄も少し怪しいので、ご遠慮いただこうと思っている。

 鉄騎隊の仕事と学業で忙しいクラウスは、顔すら見せにこない。

 別に、ふたりで仲良くやるものでもないので、勝手に進めさせてもらっている。


 ◇◇◇


 出版社から記事の見本を刷ったものが届いた。それは、私とクラウスのなれそめが書かれたインタビューである。

 王宮でのパーティーで騒動を起こした私達について、社交界の人々は興味津々らしい。お茶会などの招待は体調不良を理由に断っていたので、なおさら気になっていたのだろう。

 新聞社から取材させてほしいという打診があり、しぶしぶ受けたのだ。

 書かれているなれそめは、コルヴィッツ侯爵夫人とふたりで真剣に考えたものである。

 ロマンチックに仕上がっているので、みんな喜んでいるはずだ。

 そんななれそめと一緒に、新しいシュヴェールト大公の誕生を祝す記事が書かれていた。

 先日、シュヴェールト大公は病気がちなのを理由に、爵位を長男に継承したらしい。

 通常、爵位は生涯持つものなのだが、病気の容態がよくないということで、特別に許可を得たようだ。


 そんな記事を読みながらふと考える。

 クラウスは継承権についてどう思っているのか。

 新しくシュヴェールト大公になった長男はクラウスの従兄なのだが、人妻と駆け落ちするという予知夢をみていた。

 次男は病死で、三男は財産を持って失踪。その後、爵位を継承したクラウスの父親は事故で亡くなる。

 偶然が重なった結果、二十五歳となったクラウスが大公を継承することとなったのだ。


 現在、クラウスは十八歳である。七年の間に、シュヴェールト大公家から多くの人々がいなくなるというわけだ。

 大公位を継承した者が次々といなくなったので、クラウスは〝悪魔公子〟時代よりも〝悪魔大公〟時代のほうが恐れられていた。

 もしも、クラウスが爵位を望んでいないのであれば、未来を変えなければならない。


 数日後――記事が無事に掲載され、大変な評判だった、という感謝状が新聞社から届いた。

 また後日取材させて欲しいという打診があったものの、結婚式の準備で忙しいので断った。

 ドレス作りも佳境に入っており、しばらく集中したいのだ。

 そんな日々の癒しは、コルヴィッツ侯爵夫人とお茶を飲む時間である。

 ふと、シュヴェールト大公家の代替わりについてどう考えているのか、コルヴィッツ侯爵夫人にそれとなく聞いてみた。


「そういえば、シュヴェールト大公が代替わりしたようですが、新しいシュヴェールト大公はどんな御方ですの」

「あの子……ゲレオンはねえ」


 コルヴィッツ侯爵夫人はため息交じりに話し始める。


「どこで味を占めたのか、信じられないくらい女好きなのよ。愛人はうちの夫よりも多いのよ? まだ結婚して二年しか経っていないのに、奥方が気の毒だわ」

「は、はあ、そうでしたのね」


 貴族は基本的に離婚は許されていない。それゆえに、人妻と手を取り合って逃げるという手段しかなかったのだろう。

 私が介入しても、どうにもならないような気がした。


「他のご兄弟は、どんな方々ですの?」

「次男のヘルゲは病弱らしくて、不治の病を患っているみたい。そのうち、継承権を放棄するって話だったわ。彼は三兄弟の中で唯一、一度も会ったことはないの。三男のヨアヒムはとんでもない守銭奴で、大公位を狙っているって話を聞いたわ」


 兄がふたりもいるのに、大公位を狙っているとは呆れた話である。ヨアヒムという男は、とんでもない野心家なのだろう。


「あと、次に継承権があるのは、クラウスの父親ブルーノね。あの子は大公位なんて欠片も興味がなくて、ただの仕事人間なの。クラウスとよく似ているわ」

「そうでしたのね」


 一度ご挨拶を――と思ったのだが、クラウスから忙しいので会えない、と言われてしまったのだ。

 クラウスの父ブルーノは外交官で、ほとんど家を空けているらしい。


「娘が生きていたら、あんなふうに仕事ばかりのつまらない人間ではなかったのだと思っているのだけれど……」


 コルヴィッツ侯爵夫人の娘であり、クラウスの母親である女性は、産じょく熱で亡くなってしまったのだという。

 話を聞いていると、胸が痛む。


「結婚する前、ブルーノは爵位の継承権を面倒だからという理由で返上しようとしていたのだけれど、娘が止めたらしいわ」

「それは、どうしてですか?」

「爵位継承権を持っているなんて、かっこいいから、ですって」


 亡くなった妻のその一言で、今も継承権を保持しているのだろうか。だとしたら、かなりの愛妻家だったのだろう。


 コルヴィッツ侯爵夫人のおかげで、シュヴェールト大公家の爵位継承権を持つ者達についての情報を得ることができた。


 考えれば考えるほど、シュヴェールト大公家の男性陣が姿を消すというのはおかしいとしか言いようがない。

 もしや、誰かが糸を引いていた出来事ではないのか、と思ってしまう。

 もっとも怪しいのは、大公の座を狙っているという三男のヨアヒムだろう。

 彼はクラウスよりも七つ年上の、二十五歳だとコルヴィッツ侯爵夫人が話していた。

 予知夢でみたのは、ヨアヒムがシュヴェールト大公家が所有する財産のほとんどを持ち出し、余所の国へ失踪したというものだった。

 そのため、クラウスの代のシュヴェールト大公家はそこまで裕福ではなかったのだ。

 兄ゲレオンが人妻と駆け落ちするように仕向け、病弱な二番目の兄ヘルゲの継承権を返上させ、大公位を得たとしたら――?

 ただ、クラウスの父、ブルーノの事故死は偶然なのか……わからない。

 ひとまず、勝手に未来を変えるのはよくないだろう。クラウスの意見も聞いてみないといけない。

 今晩、クラウスはコルヴィッツ侯爵夫人からホワイトアスパラシュパーゲルの晩餐会に招待されている。

 食後に少し話ができたらいいなと思った。

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