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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第一部第二章「無法都市ダルニカと幸運の女神に愛された勝負師」

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「場合によってはロードガオンと袂を分ち、ロードガオンの民達の移住のために独自路線を貫く。その覚悟が貴女にはありますか?」

 研究階層(ラボフェーズ)の中央口――三種類の結界魔法を抜けた先に広がっていたのは、死の大地と呼ぶに相応しい世界だった。

 目の前には広大な赤土の砂漠が果てしなく広がり、草木の一つも生えていない。大気の流れは一様ではなく、一瞬北方向から風が吹いたと思えば止み、少し凪いだかと思ったら南東方向から暴風が吹き荒れて赤土を巻き込んだ大竜巻が発生するなど一切の規則性がない。


 大気は薄緑色に汚染され、遙か遠方に見える海は真っ赤に染まっている。

 川もこの辺り一帯では、その大部分が乾涸び、僅かに水が流れていた痕跡を残しているのみである。生き残った水も赤い光を放ち、とても飲めそうな水質ではない。


 突如として虹色に輝く雲が生じた。無数の積乱雲を彷彿とさせるその異様な雲は突如として真っ赤な雨を降らせる。

 激しい雷鳴と共に降り注ぐ雨も勿論猛毒である。皮膚に触れれば瞬く間に焼け爛れ、痛みにのたうち回る羽目になるだろう。


「ここが……この星の地上の姿のですね」


 エアリスとミゼルカが知っている異世界ジェッソの自然溢れる姿とは対極に位置する地獄がそこにあった。


「かつて、この地には多くの動物や魔獣が生息していたようです。……でも、それは昔の話。今は種の方舟計画と呼ばれる計画でコロニーに保護された生物を除き、全ての種が滅びました。生物の有する適応能力ですら、この地獄と化した星の気象に適応することはできなかったのです」


 全ての動物や魔獣を保護することはできた訳ではない。

 残された動物や魔獣は猛毒の空気や水の接種によって命を落としていった。


 命を落としたのは何も魔獣や動物だけではない。

 コロニーへの移住を拒否し、地上に残る決断をした者も少なくは無かった。


 自分達が星の環境を滅茶苦茶にしておきながら、のうのうと自分達だけ生き残ることをよしとしないもの。

 思い出ある地上を捨てる決断ができなかったもの。

 コロニーの開発を指導した国家に比肩する力を手に入れた大規模企業連合と各国の主導権争い――そういった政治的駆け引きに巻き込まれていいようにされていくことを良しとしないもの。

 家や先祖代々の墓を守るために地上に残ることを決断したもの。


 理由は様々だったが、コロニーの完成から数週間後には皆命を落とした。これまで大気浄化や汚染水浄化などのサービスを請け負ってきた大規模企業連合が地上でのサービスを打ち切ったのも大きな要因と言える。


 アルシラが海の方へと二人を案内しようとした丁度その時、地鳴りが響いた。

 僅かに地面に亀裂が走る。しかし、被害はそこまで酷くなかったようで、アルシラ達は体勢を崩して尻餅をつくだけで済んだ。


「……こんなに揺れるのですか?」


 異世界ジェッソにも地震はある……が、エアリスもミゼルカも地震が少ない地域の生まれだったため、彼女達にとっては衝撃的な出来事だったのだろう。

 しかし、アルシラにとってはこれが日常だ。北米プレート、ユーラシアプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレート――四つのプレートに囲まれるという稀有な立地にある大日本皇国以上に地震に悩まされている異世界アルマニオスの民はこの程度では動じない。


「まだ揺れは小さい方ですね。ですが、地震は頻発するもの……この地震が呼び水となって巨大地震が襲ってくる危険があります。ここは一旦コロニーに戻りましょう。コロニーの内部は安全ですからね」


 こうして、エアリスとミゼルカの異世界アルマニオスの地上探索はコロニーを出た瞬間に終わりを迎えたのだった。



 研究階層(ラボフェーズ)内に存在するレベル三区画。

 そのエリア内に存在する応接室にて、無縫、フィーネリア、ミリアラ、マリンアクアの四人はミトラシスコロニーの重役達と対面していた。


 ショートカットの藍色の髪と、紫水晶(アメジスト)を彷彿とさせる紫の瞳を持つ黒いパンツスーツ姿の女性――秘書室長ミモザ=キッシュヌー。


 麦穂の如き豪奢な金髪と澄んだ淡い水色の瞳、尖った耳が特徴的な緑色のドレスを纏った美しい女性――ハイエルフのアルエット=マグノリア。


 腰まで届く白髪と一体化した長い白髭、濁った赤い目とドワーフ族特有の低身長がトレードマークの大戦時代を生き抜いてきたドワーフ族の英雄――エルダードワーフのナガファス=ドワルナノフ。


 局長のローヴマルク=ダザイノフこそ不在なものの、ミトラシスコロニーの最終決定はこの三人でも下すことができるため、この会議はロードガオンとミトラシスコロニー双方にとって重要なものとなっていた。


「うむ、無縫殿から話は聞いておる。地球侵攻を企むロードガオンの幹部殿じゃな。なんでも、虚界と呼ばれる宇宙空間のような場所? から来たようじゃが……その虚界を渡るのに使われた船の技術を提供してくれると」


「えぇ、ただしその対価として移住先となる星を作ってもらいたいわ。我々の住むロードガオンはワーブルと呼ばれるエネルギーによって作られているわ。膨大なワーブルを有する者を攫い……或いは国内から見繕い、その者を人柱として星の核とし、国家を存続させてきたわ。でも、星の核にも寿命はある。だから、当代のロードガオンの君主、ヴァッドルード=エドワリオ様はワーブルに頼らない星を侵略し、その土地に移住をすることを目論んだの。私達は移住先となりうる星を求めているわ。……でも、原住民の皆殺しにしてその土地を乗っ取るつもりはないの。侵略側が言うべきことじゃないとは思うのだけど、私達が暮らしていけるだけの土地を分けてもらって共存共栄ができたらいいなって」


「それは、フィーネリアさんのご意見かしら? それとも、本国の方針?」


 フィーネリアの言葉に疑問を投げ掛けたのはアルエットだ。


 ハイエルフはエルフという長命種の中でも更に長い寿命を持つ種族ではあるが、アルエット本人はまだ二十三歳――百年から千年、場合によってはそれ以上の寿命を持つエルフ族の中ではかなりの若者である。


 だからと言って、彼女の能力が他のエルフ族に劣っているということはない。

 寧ろ、ミトラシスコロニーの重役に選ばれるだけあって彼女はエルフ族の中でもかなり優秀な部類に属する。

 物事の本質を見抜く観察眼、高い事務処理能力、部下達の能力を正確に把握し、それぞれに合った的確な仕事を割り振った上でしっかりと結果を出せたものを正当に評価する上司力。


 アルエットの部下には彼女よりも遥かに年上のエルフ族が何人もいるが、そんなエルフ達がアルエットの指示に従っているのは、こうしたアルエットの優れた人間力の賜物であると言えるだろう。


 そんなアルエットは、今回の会議でロードガオンの方針を重要視していた。

 相手は問答無用で侵略行為を行うような者達である。その危険性は無縫からもよく聞いていた。


 確かにフィーネリアは穏健派だ。極力波風を立てずに移住ができる状況に持っていきたいと考えているのだろう。

 だが、それはフィーネリアの意見であって、ロードガオン本国の総意ではない。

 寧ろ、彼らの過激な侵略スタンスから見えてくるものは、「侵略先の星を奪い、そこに暮らす現地民を労働奴隷として運用する」という星の乗っ取りである。これまでも侵略先の星のことなど考えずに人攫いを行い、容赦なく星の核として運用してきた者達だ。突然、「現地民達と共存だ」と言い出すよりも、「現地民を丸々奴隷として奪った星を支配する」と言う方がまだ納得ができるというもの。


「……ロードガオン本国の方針は、まだ分からないわ。前回送った中間報告の返事がまだ返ってきていないもの。でも、きっと移住先の星が見つかれば侵略行為はやめる筈よ。その必要がないのだから」


 フィーネリアは穏健派で、少々平和ボケしている傾向(きらい)がある。

 だからこそ、その可能性には気づいていないのだろう。


(……マリンアクアさんと、ミリアラさんもおそらく気づいている。あのガラウスの野郎も理解はしているし、それに賛同している側だ。……フィーネリアさんとドルグエスくらいだな。……もっとも、ドルグエスの方は興味がないってのが適切な表現方法だと思うが。ロードガオンはただ移住先を手に入れればそれで十分であるとフィーネリアさんは考えているんだろうが、考えが甘い。ロードガオンは強欲だ――強欲で傲慢だ。共存共栄なんて眼中にはないさ。住む土地を奪い、現地民を労働奴隷に落とし、支配階級としてその星の頂点に君臨する、それくらいのことはするだろう)


 このまま侵略が成功すれば土地と奴隷を手に入れられる。

 そんな中で侵略軍の幹部から「侵略行為を止めるのであれば、移住先となる星を提供する代わりに一切の侵略行為をやめてください」と言う交渉を持ちかけられたと報告を受けたらどんな反応をするのか想像に難くない。


 奴隷も土地も両方手に入れられる可能性が消え去ってしまうのだ。――もし、侵略を成功させれば両方手に入る可能性があるというのに。

 下等な星の者達にロードガオンの科学力が劣る筈がないと信じきっている彼らの頭の中に、奴隷どころか新たな移住先すら手に入らないという状況に陥るのではないかという考えは欠片もない。


 少なくとも地球においては、庚澤無縫という強大な存在がいるため侵略行為は不可能である。……これは、地球に侵略行為を行っているロードガオンの二つの部隊に所属している者達の共通認識である。

 その圧倒的な強さを、恐怖を、フィーネリア達は身をもって知っている。

 だが、それを本国と共有できているとは言い難い。彼らから言わせれば、フィーネリア達の提出した報告書はただ自分達が無能であるということを隠そうとした言い訳に過ぎないのだから。

 正しい認識を共有しておらず、ロードガオン至上主義を掲げ続ける者達がどんな選択肢を選ぶかなど火を見るより明らかだ。


「えぇ、確かにフィーネリア様の仰る通りかもしれませんね。でも、ロードガオンが移住先の星を提供するだけで必ず納得するという保証はあるのでしょうか? それに、そもそもロードガオン本国が技術提供をするべきではないと結論付けるかもしれません。新たな星へと移住は我々にとっても重要なプロジェクトなのです。だからこそ、ここでハッキリさせて頂きたいのですわ。貴方達の国が――ロードガオンが今回の契約の締結を拒否した場合、フィーネリア様、貴方達はどうするのか。ロードガオンが契約締結を拒否しても、フィーネリア様達が独断で技術を提供してくださるというのであれば私は今回の契約、結んで良いと思いますわ」


「うむ、アルエット殿に右に同じだ。惑星の創造は複数のコロニーと連携しなければ成立しない大魔法だが、我々がまだ作り上げることができていない移住用の乗り物の技術を提供してもらえるのならば安いものだ」


「私もアルエット様とナガファス様と同じ意見です。場合によってはロードガオンと袂を分ち、ロードガオンの民達の移住のために独自路線を取る。その覚悟があるのでしたら、交渉を続けましょう」

◆ネタ等解説・六十五話

ロードガオンの四大領主

 着想元は葦原大介氏の漫画『ワールドトリガー』に登場する近界(ネイバーフッド)の惑星国家の一つアフトクラトルを支配する四大領主。……というより、ロードガオンそのものの着想元がアフトクラトルである。

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