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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第一部第二章「無法都市ダルニカと幸運の女神に愛された勝負師」

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奴隷解放ってファンタジーの定番だけど、実際に行うのはあまりにも非現実的過ぎるんじゃないかな? 主に奴隷解放後の衣食住や職業斡旋などの労力と費用がネックになって。

 かつてジェッソにはブロッサス王国という王国があった。

 白花神聖教会の勢力圏に属しつつもルーグラン王国ほど狂信的ではないこの国は白花神聖教会と適度な距離感を保ってきた。


 魔族による侵攻もほとんどなく、世界で最も平和な国として知られていたが、ある時期を境にその平和が崩れ、崩壊の一途を辿っていくことになる。

 切っ掛けはワグゼル・アグリビュートという文官の青年だった。他国からの移民だった彼はルーグラン王国の王家の血を引く辺境伯の領地で文官として頭角を表すと、王国政府にヘッドハンティングされた。

 その後、彼が国王から大臣に選ばれるまでそれほど時間は掛からなかったという。


 革新的な改革を次々と打ち出して庶民達からも貴族達からも王家からも高い信頼を得ていたワグゼルだったが、その裏の顔は東方白花正統教会を有するマールファス連邦のスパイだった。

 白花神聖教会の力を削ぎたいマールファス連邦が白花神聖教会の影響下にある国を滅ぼすべく各国に派遣していた特殊潜入部隊「神の見えざる手(プロヴィデンス)」の一員であった彼は手始めに王に毒を盛ることで精神を不安定にした。更に、王と仲睦まじかった王妃に近づいてマインドコントロールをして、彼女を国を傾けさせる傾国の王妃へと染めていった。

 更に三人いた王子と二人の王女を仲違いさせ、王位継承を巡る骨肉の争いを引き起こさせた。表では忠臣のような振る舞いをして、国の未来を憂う大臣であるという印象を抱かせつつ、確実にブロッサス王国を蝕んでいったのである。


 更にワグゼルは庶民達に働き掛け、荒廃した国を正すべく革命軍の結成を呼び掛けた。

 かくして、平和な国はたった一人の男によって混沌の情勢と化していく。後は、この状況を白花神聖教会という誤った教えを守ってきたが故に起きた悲劇であると印象付け、東方白花正統教会への宗旨替えを推し進めるだけだったが、ここで事件が起こる。


 ブロッサス王国の立地を狙っていた三つの犯罪組織が荒廃したブロッサス王国に傾れ込んできたのである。


 一つ目は色街を仕切る花魁、ベアトリンクス・パフィオペディルムを頂点とするミル=フィオーレ・ファミリア。


 二つ目は周りからは「カジノ支配人となるために生まれてきた」と称されるほどのディーラーと支配人の才能を持つオスカー・アルゴンを頂点とする「黄金の塔(トーレ・ド・オーロ)」。


 三つ目は麻薬や非合法な人身売買、武器取引、恐喝・暴力的活動などで生計を立てるディアボロス・ジャガーノートをボスに据えるブラックナイトファミリー。


 彼らは王族達を処刑に掛ける直前に姿を見せ、ブロッサス王国を舞台に抗争を開始した。

 ブロッサス王国を奪う争いはワグゼルを含め多くの死者を出したが、抗争開始から五年後に三者による協議の末に終戦協定が結ばれ、以後、三つのファミリーが廃都ダルニカとその周辺を共同統治する形となっている。


 この廃都ダルニカは宗教からも周辺国からも見放された無法都市であり、教会側が人権がないと宣言し、奴隷にすることが許されている魔族だけでなく、人間すらも商品として扱われている。

 教会が禁止した薬物や、盗品なども販売されているこの地は犯罪者だけでなく後ろ暗い活動をしている貴族や宗教家達にも人気の場所となっており、ある程度彼らによるお目溢しがされているというのもあるのだろう。また、一攫千金を夢見る多くの庶民達も無法都市を訪問しており、そのほとんどが借金を負って地下労働送りや奴隷落ち、家族を身売りに出すなど最悪の末路を迎えている。



 橙色のマーメイドラインドレスを着用し、髪をアレンジしたハーフアップに纏め上げた魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスは薄水色のマーメイドラインドレスを着用したフィーネリアを伴って無法都市に足を踏み入れる頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

 しかし、夜に近づきつつある街は寧ろ活気を増しているようで、煌々と魔力灯の灯りが街全体を照らしている。


「……いやらしい視線が突き刺さるわね」


 フィーネリアは刺すように向けられる下卑た視線に何度目か分からない溜息を吐いた。


「溜息を吐くと幸せが逃げていくみたいですよ。……まあ、私は全く自覚したことがありませんが」


「……むほ……じゃなかった、瑠璃(るり)さん。貴女は全く気にならないの? 寧ろ、私より貴女の方がそういう視線に晒されていると思うのだけど」


「いい加減慣れましたよ。……というか、普段からあんな格好をしておいて、今更そんなことに気にしますか? 絶対に全国の健全な男子や脂ぎったおっさんにオカズにされていますよ。なんか、そういった同人誌が書かれているとか聞いたことがありますし。……なんというか、凄いですよね、男の妄想力って。一応侵略者ですよ、これでも」


「一応侵略者って、貴女から見て私達っても映っているのよ! というか、同人誌なんて書かれているの!? 私、許可してないんだけど!!」


「まあ、基本的にああいう類のものは許可なく書かれるものですからね。……というか、悪目立ちしますから、お淑やかにお願いしますね」


「なんだか女子力で負けている気がするわ」


「……気のせいじゃないですか?」


「気のせいじゃないと思うわ」


 「そんなことはないと思うけどなぁ」と呟く無縫……じゃなかった瑠璃という偽名を使っている魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス。


「確か第二の交通の要衝だったかしら? やっぱり賑わっているわね。カジノに、奴隷市場に……」


「フィーネリアさん、地上の賑わいに目を奪われていてどうするんですか? ここはまだ合法な区画ですよ。奴隷も所有が認められている魔族しかいないようですし、カジノもまだ合法の領域に収まっているようです。花街もあるようですけど、まだ金額が常識的な枠に収まっています。我々の目的地は地上ではなく地下ですよ。もっと巨額の富が動き、欲望が渦巻く無法の領域。その地こそ、無法都市を支配する三つのファミリーのホームグラウンドなのです」


「……もう既に嫌な予感しかしないわ。でも、瑠璃さんと一緒に居たら危険は無いわよね?」


「あははは、どうでしょう? それに、結果的には助かってもトラウマになりそうな危険を潜り抜けて……というパターンもありますしね」


「……本当に怖いこと言うわね」


「さて……どうやって地下の賭博場に潜り込もうか? 流石に一見さんじゃ厳しいだろうし、VIP待遇になるのが近道だろうけど……さて、どうしたものか」


「……瑠璃さん、ちょっといいかしら? あの子達を助けられないかしら?」


 今後の方針を考えていた瑠璃だったが、フィーネリアの言葉にふと我に帰り……まるでエイリアンでも見たような顔でフィーネリアを凝視した。


「……君ってさぁ、立場忘れてない? 一応、侵略者でしょう? 交渉ではなく武力に訴えていた時点で、地球を侵略した上で原住民を奴隷にして暮らす気満々だと思っていたんだけど」


「流石にそこまで酷いことはしないわよ。ほんの少しだけ場所を分けてもらって共存を……って考えていたのは私だけかしら? 本国がどう考えているかまでは流石に分からないわ」


「うーん、私は正直反対派かな?」


「……意外ね。瑠璃さんって一応政権側の人間でしょう? 正義云々はかなり怪しいけど、こういう時には動くタイプだと思っていたんだけど」


「買い被り過ぎだよ。私は私の、賭博師(ギャンブラー)の論理に従って行動しているだけ。正義や道徳に従うような真っ当な人間ではないよ。それに、ギャンブルが原因で身売りされるのも、ホストに入れ込んでお金を使い込んで身体を売るのも自己責任っていうスタンスだからね。ただ、自己決定ができない子供が大人に運命を決められるってのは流石に不公平だと思うけど。……もう少し現実的な話をするとして、フィーネリアさんの考えは正しいと思うよ。真っ当で素晴らしい考えだ。まあ、それは侵略者には最も不要な感情、足枷であるとも言い換えられるけど。で、助けてどうするの? まさか、解放して後はどうぞお好きになさってくださいって放り投げる訳じゃないですよね? この無法都市のど真ん中で? 例えば魔族であれば、魔族領に送り届けることになるでしょうし、恐らく地下には人間の奴隷もいます。一人一人故郷に届けるのは難しいでしょうし、仮に送り届けたところでそこで終わりにもなりません。助けた者達の食費は? 衣類は? 輸送方法は? 彼らは世間との繋がりを絶たれているのです。仮に奴隷だったという証を消せても、元の仕事や生活に簡単に戻ることはできません。暮らしていくためには膨大なお金が必要です。それこそ、全ての奴隷を買い取る以上のお金が……フィーネリアさん、そのお金はどうするおつもりで?」


「……そこまで考えが至っていなかったわ。ごめんなさい」


「まあ、フィーネリアさんの考えは崇高だと思いますよ。ただ、世の中綺麗事だけでは回っていかないということです。……いずれにしても非現実的な話です。国家が介入するならともかく、一人二人の一般人にできることはないということだよ」


「瑠璃さんは一般人に数えられないわよ。……というか、瑠璃さんならどうにかできるんじゃないかしら? ……ごめんなさい、それだと言い出しっぺなのに完全に瑠璃さんに完全に頼り切ってしまうわね」


「……まあ、どうしても助けなければならなくなったらその時は何か方法を考えますよ」


「やっぱり、瑠璃さんって優しいわね」


「そんなことないと思うけどなぁ……」

◆ネタ等解説・四十六話

神の見えざる手(プロヴィデンス)

 プロヴィデンスとはキリスト教における「全ては神の配慮によって起こっている」という概念。

 イギリスの哲学者、倫理学者、経済学者である見えざる手(invisible hand)はアダム・スミスの『国富論』第四編第二章などに出てくる言葉。

 両者を組み合わせるアイディアは長月達平氏のライトノベル『Re:ゼロから始める異世界生活』の中で既に登場している。


パフィオペディルム

 Paphiopedilum。袋状の唇弁が特徴的なラン科植物で、洋ランの一属として知られる。

 名前は女神のスリッパを意味する。


ミル=フィオーレ

 スペルはmille+fiore。「千の花」を指す言葉。金太郎飴のように模様が入っているガラス棒、およびそれを使用して作った製品を指すミルフィオリという工芸品もある。

 花魁を花に見立てた命名なので、『週刊少年ジャンプ』二〇〇四年二十六号から二〇一二年五十号まで連載され、一度も休載がなかった天野明氏の漫画『家庭教師ヒットマンREBORN!』に登場する同名のマフィア組織は関係ない。


黄金の塔(トーレ・ド・オーロ)

 スペルはtorre d'oro。イタリア語で「黄金の塔」を指す。

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