ここに来てフィーネリアさんヒロイン説が浮上するって一体どうなっているの!?
ロードガオンの属国であるワーテロー国による侵攻を受け、大日本皇国は大義名分を引っ提げてロードガオンへの逆侵攻を決定した。
とはいえ、大日本皇国にはロードガオン以外にも明確な敵が複数存在する。
勿論、ロードガオンだけに注力する訳にはいかず、大日本皇国の防衛戦力も層を厚くしておく必要があった。
結果として、ロードガオンへの侵攻には大日本皇国側から無縫、ヴィオレット、シルフィア、エーデルワイス、惣之助、詠、メラク、ベネトナシュの八人が、ロードガオン出身者からはフィーネリア、ミリアラ、マリンアクアが参戦することになった。
フィーネリアが苦笑いを浮かべたくなるくらいには過剰戦力になっている無縫一行である。
一方、残された『真の神の使徒』達は鬼斬機関や陰陽連、科学戦隊ライズ=サンレンジャー、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァなどの戦力は大日本皇国の防衛に当たることになる。
ロードガオン側からの新たな侵攻への対処、ネガティブノイズの襲来、地底人による攻撃、時空災害が発生した際の対処など様々な脅威の発生が想定できるが、その中には同盟相手である『時計塔の正騎士団』への警戒の意味もあった。
騎士団長デイム・アデル・クリスティと書面で同盟は結んでいるものの、相手は隙を見せれば侵略行為をも辞さない者達であることは前回のネガティブノイズの大規模侵攻が如実に示している。
『時計塔の正騎士団』が約束を反故にして攻撃してきた場合に対処できるように厳重な警戒を敷くとと共に、いざとなれば同盟を結んでいるクリフォート魔族王国から増援を送ってもらえるように宰相シトラスとも話の擦り合わせをしていた。
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「……まさか、虚界を経由せずにロードガオンに戻ることになるなんて、こっちに来た頃には想像もしなかったわ」
今回の侵攻のスタート地点となる東京の内務省庁舎一号館二階にある応接室にて、フィーネリアは無縫から作戦を聞き、唖然としていた。
「では、改めて作戦を説明させて頂きます。時空の門穴を使ってフィーネリアさんから提供してもらったロードガオンのレーネ家の領地に飛び、まずはレーネ領を制圧します。勿論、ロードガオン本国の息の掛かった者達を排除するという意味です。……詠さん、全員抹殺するような行動はしないでくださいよ」
「ふん、無縫、貴様は俺を莫迦にしているのか?」
「クリフォート魔族王国に、他にも余罪があるからだろう? ……フィーネリア殿、心配しなくとも良い。コイツが暴れたら俺が対処する。まあ、半分はそのためにロードガオンに向かうんだしなぁ」
詠を止められるのは幼馴染で拮抗する実力を持つ惣之助や無縫クラスの実力が必要となる。
それだけの戦力がいて一応の安全が確保されているとはいえ、やはり自分の故郷に爆弾を抱えて帰るのは嫌の一言に尽きる。
フィーネリアは惣之助の言葉に苦笑いを浮かべつつ、内心では「……ついて来なければいいのに」と思っていた。
「続いて、レーネ家の領民やフィーネリアさん達の家族を人工惑星セルメトに避難させます。ロードガオンとの全面戦争になったら彼らは弱点になりかねないですからね。あちらの受け入れ準備も既に完了しています。それが終われば最終段階――国の中枢を叩きます。狙いは一点、ヴァッドルード=エドワリオ――奴を潰せば国は頭を失うことになります」
「……でも、そう上手くはいかないわよね?」
「フィーネリアの言う通り、ヴェルンナルス家とシュトラノム家が介入し、交戦することになるじゃろうな。……無縫、一応聞いておくが、奴らを討伐対象に入れていないのは放置していても勝手に攻撃を仕掛けてくると踏んでのことじゃな?」
「ヴィオレットの言う通りだ。ガラウスがどこまで情報を流しているかは分からないが、俺達が時空を渡る技術を持っていることは知られているだろうと考えた方がいい。俺達は最速でレーネ領を落としてヴァッドルード=エドワリオのいるロードガオン政府を一点狙いで討ちに行くが、既にレーネ領に軍勢が派遣されている可能性も高いし、制圧した時点で向こう側に情報が入って防衛を強化される可能性もある。そうなれば、ヴェルンナルス家とシュトラノム家もヴァッドルードに誠意を見せるために参戦するだろう。……ということで、皆様、積極的にヴェルンナルス家とシュトラノム家と事を構えるつもりはありませんが、ほぼ確実に彼らと戦いになる覚悟だけはしておいてください」
「……まあ、戦争に介入せずとも人工惑星セルメトへの移住の件で二家が介入してくる可能性はありそうだからな。先に実力を示して優劣をはっきり付けた方が良いかもしれない。ヴェルンナルス家やシュトラノム家との戦いがヴァッドルードの討伐前に勃発してくれることを祈っておくとしよう」
◆
ミーティングの後、無縫達はレーネ領へと時空の門穴で移動した……が、レーネ家の領地の状況は無縫達の想定を大きく裏切ることとなった。
そこにはいつもと変わらないレーネ領の姿があった。
貧しいながらも領民達は幸せそうに商売をしたり、農業をしたりしている。戦争の足音など、ロードガオン政府軍の侵攻の気配などどこにもない。
「フィーネリアお嬢様、お久しぶりでございます」
「――ッ!? フィーネリア様だ! フィーネリア様が帰ってきたよ!!」
フィーネリアの姿を見つけ住民達が集まってきた。
住民達に心から慕われているフィーネリアの姿を、無縫達はほんの少しの間微笑ましそうに見つめていた。……若干二名、移動した瞬間に戦闘が勃発することを期待していた詠は明らかに不服そうな顔をしていたが。もう一人、ジェイドの方はやはり見慣れぬ農作物や景色に興味を刺激されたのか、早速キャンバスを立てて筆を走らせ始めた。
「フィーネリアさん、そろそろ」
「……えぇ、そうね。みなさん、もっとお話ししたいのだけど、お父様にお話をしないといけないことがあるの。だから、地球での生活のこととか、向こうの世界でできた友達のお話とか、そういうお話はまた今度にしてもいいかしら?」
「……お嬢様がこうして帰還されたということは、領主様との大切なお話があるのでしょう。儂らが邪魔をする訳には行きませんなぁ。……お嬢様、この老骨にも任務の思い出をお話しして頂けると光栄です。お嬢様の好いた方のお話しも聞きたいですからなぁ」
「なっ、なな!? そ、そんな人いないわよ! ヴォロさん!!」
「ふぉふぉふぉ!」
「おおっ! 波菜さんに恋のライバル登場かな!? 無縫君って甘いから色々なところでフラグ建てているし、これは近い将来修羅場になる予感がするよ!!」
「つくづく罪な男なのじゃ。まあ、我は楽しそうな娯楽になりそうじゃからもっとやれ! と思っているのじゃが」
『……意外ね、二人は無縫さんに恋人ができることを喜ばないタイプだと思っていたのだけど』
「何か勘違いしているようじゃな、エーデルワイスよ! 我やシルフィアが無縫の恋人とか妻になるとか、そういうことが起きると本気で思っているのか? ……まあ、昔は淡い恋心とか抱いたこともあったぞ? だが、今は無縫のことが保護者とか母親とかにしか見えん」
「……まあ、二人を恋人に見るなんて無理な話だな。出来の悪い世話のかかる子供にしか見えないしなぁ」
「ということで、我らは引き続き無縫の脛を齧って居候できればそれで良いのじゃ!」
「ヴィオレットの意見に賛成だよー!!」
『……お主らには誇りというものはないのか!? 誇りというものは!!』
『失礼ながらお嬢様、我々も三食と棲家を提供して頂いている身で働いていませんのであまり強く言える立場ではないと思います』
「いや、ベネトナシュさんは屋敷の保全活動を色々と手伝ってくれているからな。家事も立派な仕事だよ。……まあ、メラクに関しては何も言う権利はないと思うけど」
『少なくともヴィオレットやシルフィアのように負債は生み出しておらぬぞ!!』
「……どっちが程度が低いかの対決しても意味ないと思うけどなぁ。……というか、ごめんね、フィーネリアさん。君の故郷で際限なく醜態晒して」
「……気づいているならもっと前からやめて欲しいと思っていたわ。みんなとんでもない顔をしているわよ……。これ以上、醜態を晒さないうちにうちの屋敷に行きましょう! えぇ、今すぐ行きましょう!! とっとと行くわよ!!」
顔を真っ赤にしたフィーネリアは逃げるように屋敷の方へと向かう。
無縫達も急いでその跡を追った。
「……まあ、色々と何とも言えない方々でしたが」
「お嬢様も良き方向に成長されているようで……お優しいお嬢様が侵略部隊に入るとなった時には心配でしたが、結果的に良かったのかもしれませんな」
フィーネリアの成長を幼少の頃から見守ってきた領民の大人達はほんの少しだけ成長して帰ってきたフィーネリアの後ろ姿を微笑ましそうにいつまでもいつまでも見守っていた。




