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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第二部第五章「庚澤無縫達の(非)日常」

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襲来する虚界・ワーテロー国からの刺客達 前篇

 独立国家ロードガオンは現在、君主ヴァッドルード=エドワリオを頂点とする体制を敷いている。

 しかし、彼は元々ロードガオンの属国の一つであるノートリと呼ばれる星の市民階級出身だ。

 生まれながらの統治者である四大領主の一族は生まれながらに英才教育を施され、ある程度の統治能力を有しているが、ヴァッドルードには当然ながらそのような下地が無かった。


 圧倒的な武力を持つものの統治に関しては素人であるヴァッドルードは自身の弱点を理解していた。


 ――自分には武力以外の何もかもが足りていない。ならば、どうするか? 元々の統治者達を支配し、彼らを通じて間接的に国家を統治すればいい。


 そのような考えからヴァッドルードは圧倒的な武力により国を恐怖で支配する一方で具体的な統治についてはかつての四大領主の一族に任せていた。

 勿論、彼ら元四大領主の統治者達はヴァッドルードが直接恐怖により支配するため裏切りや離反が発生する可能性は潰している。

 ヴァッドルードが君主になってからただでさえ締め付けの強い傾向が強かったロードガオンの治世は更に恐怖政治に傾いていくことになった……が、四大領主によって統治がなされているという基本体制は変わっていないのである。


 ヴァッドルードの手によって四大領主のランバネルス家は壊滅した。

 現在、各地を三分する形で統治しているのはヴェルンナルス家、シュトラノム家、レーネ家――このうち、フィーネリアの生家であるレーネ家はフィーネリアと秘密裏に連絡を取り、領民を守るために大日本皇国と手を組む道を選んだ。


 表立ってヴァッドルード率いるロードガオン本国と敵対してはいないが、仮にレーネ家がヴァッドルードから地球への侵攻を指示されたとしても攻撃に転じる可能性は皆無だろう。

 彼らは今こそが離反のタイミングであると覚悟し、大日本皇国に賭けて亡命を願い出てくる筈である。


 攻撃を仕掛けてきたという時点で戦力がレーネ家のものである可能性は消え去る。

 となれば、敵はヴェルンナルス家の派閥かシュトラノム家の派閥に属する者と見て良いだろう。


 ちなみにこの手の独裁者にありがちなヴァッドルードを信奉し、彼のためだけに動く直属の部下というものは少なくとも公式には存在しない。

 これには属国の出身者ということでその武力に怯えつつも内心は選民意識からヴァッドルードを蔑んでいる者が多いからということもあるが、ヴァッドルード自身が用心深い性格であるということも強く影響しているのだろう。

 部下は使い捨ての駒のようなもの、恐怖で支配して不要になれば切り捨てればいい――そのような考えの人間についてくる筈もなくヴァッドルードは孤高を貫いている。


 ……ちなみに、今回の大戦犯のガラウスはヴァッドルードを尊敬していると公言しているが、彼の場合は典型的なロードガオンの愛国者であり、その頂点に君臨する君主だからこそヴァッドルードを尊敬しているという意味合いが強い。

 立場あっての尊敬のため、彼の肩書きがロードガオンの属国の市民階級のままであったら恐らく尊敬はしていなかっただろう。



「……恐らく、敵はヴェルンナルス家かシュトラノム家のいずれかでしょう。ロードガオンの現状を探るためにも捕縛し、拷問で情報を吐かせる必要があります」


「敵本体の捜索はシグルドリーヴァ、キサマに任せてもいいか? ワタシはそういうのが苦手でな」


「姿を隠しているでしょうね。……そういうの探すの苦手だし、シグルドリーヴァ、貴女に任せていいかしら?」


「……承知しました」


 ジェイドも魔法少女プリンセス・カレントディーヴァも基本的には前衛タイプだ。

 自分が戦うか、或いは絵画として描いたものを戦わせるかは異なるが、基本的には敵を攻撃することに比重が置かれている。

 一応、高い感知能力を持つ存在を「幻想絵画魔術パープルファンタズマル・カリカチュア」で生み出すという選択肢もない訳ではないが、ジェイドの持つ「幻想絵画魔術パープルファンタズマル・カリカチュア」のラインナップの中に感知能力を持つ者は少ない。


 そのような不得意分野で戦うよりも適任がいるなら任せた方がいい――ジェイドはこう考えて戦闘も回復もサポートも満遍なく熟せる『真の神の使徒』のシグルドリーヴァに隠れ潜む敵本体の探索を依頼したのである。


「さて、茉莉華――合作の時間だ! 幻想絵画魔術パープルファンタズマル・カリカチュア・魔法少女プリンセス・カレントディーヴァ!」


 戦場に二人目の魔法少女プリンセス・カレントディーヴァが現れる。


「……相変わらずの腕ね。ほとんど私と同じ能力……悔しくなってくるわね」


「……やはり魔法少女の顕現をするとごっそり魔力と体力を持っていかれるな。だが、少しずつ慣れてきた。これならば、『幻想絵画武装パープルファンタズマル・アーマメント』も併用できそうだ」


 ルーグラン王国戦争では魔力回復薬を駆使して強引に無数の魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスを顕現していたジェイド。

 幾度となく魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスを顕現し続けた経験はジェイドにも小さくない影響を与えたようで、基本的には生まれながらに総量が決まっている魔力量が小さくない増加を見せていた。


 稀に過酷な魔法のトレーニングや魔力の酷使により魔力が上昇するというケースがある。

 基本的にはその量が微々たるものであることや、それほどまでに酷使をすれば魔力量が増える前に全身に魔力を行き渡らせる魔力回路や魔力経路と呼ばれるものが損傷したり、大気中の魔力を取り込んで溜め込み、魔力回路を通じて全身に魔力を送り込む魔力炉と呼ばれる器官がダメージを負って魔法が使えなくなってしまうこともあって、魔力量の上昇を狙った過度なトレーニングは忌避される傾向にある。


 だが、ジェイドの場合は魔力回復薬が上手く働いたらしく、魔力の増加が発生しつつも身体に特に異常は見られなかった。

 恐らく、過度な魔法のトレーニングにおいては大気中から魔力を吸収することが増えるため、魔力炉へのダメージが大きいのだろうとジェイドは考えていた。

 また、魔力回復薬の場合はこの吸収の過程を省略でき、更に体内から魔力炉を経由せずに血液循環を通じて魔力回復薬に含まれる魔力を全身の魔力回路に運ぶことができるため、魔力回路へのダメージも軽減できているのかもしれない。


 いずれも仮説の段階のため、信憑性は薄いが……。


「もう一人の魔法少女プリンセス・カレントディーヴァ、合わせるわよ! 魔力同調(ユニゾン)!!」


 魔法少女プリンセス・カレントディーヴァと「幻想絵画魔術パープルファンタズマル・カリカチュア」によって顕現した魔法少女プリンセス・カレントディーヴァは右手と左手を繋ぎ、前へと突き出す。

 魔力の流れをコントロールし、渦を成すようにして融合――突き出した手から水の魔法を解き放った。


洌龗の奔舞ユニゾン・ハイドロカレントバースト!!」


 放たれた激流はまるで意志を持ったように竜の如く暴れ回る。


 飛行可能なワーブリス兵だけで構成された軍勢は爆砲火鯱(フレアオルカ)が大半を占め、そこに僅かな白滅龍翼(ドラグナァ)が混ざるという混成軍だった。

 様子見だったのか、将又この程度の軍勢で大日本皇国の程度の小国は壊滅させられると踏んだのかは不明だが、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァ達の放った攻撃は比較的討伐が容易な爆砲火鯱(フレアオルカ)だけがなく白滅龍翼(ドラグナァ)すらも呆気なく撃破していった。


 ロードガオンにおいて白滅龍翼(ドラグナァ)は最先端の強力な兵器である。

 これまで散々理不尽な力を見せつけられたフィーネリア達であれば「まあ、倒されるわよね」と小さなショックで済むだろうが、それはあくまで長年無縫と敵対して良くも悪くも心が折れたフィーネリア達の場合だ。侵略者として長年支配する側に回っていた彼らにとっては想定していない大惨事だろう。


 ――今頃パニックに陥っているんじゃないかしら?


 「まあ、この程度で狼狽える筈が無いわよね」とすぐに思考を振り払った魔法少女プリンセス・カレントディーヴァだったが、あり得ないと切り捨てたその予想は、実は的中していた。



 独立国家ロードガオンには複数の属国が存在する。

 今回、地球へと派遣されたのはそんな属国の一つであるワーテロー国出身の者達であった。


 シュトラノム家に支配されているワーテロー国の部隊はヴァッドルードから勅命を受けたシュトラノム家に命じられ、今回の先発隊を担当することになった。

 つい先日、ガラウスなる人物によって送られた通信――しかし、疑り深いヴァッドルードはそれを鵜呑みにしなかった。

 その言葉の真偽を確かめるために派遣されたのがワーテロー国の部隊である。


 もし、四大領主レーネ家出身のフィーネリア率いる地球担当第一部隊が裏切っていなければ連携して地球を侵略する。

 侵略が成功すればそれで万々歳だし、失敗すればロードガオンに対する敵意ありと見て追加の戦力を送ればいい。

 もし、地球担当第一部隊が裏切っているのであればワーテロー国の部隊が壊滅することになる。その場合は連絡が途絶えた時点でロードガオンから大規模戦力を送り込めばいい。


 地球担当第一部隊が裏切っているか結局のところロードガオンには判断できないが、その点は然程重要でもないのだろう。

 重要なのは、追加の派兵が必要どうかというただ一点だけである。


 ワーテロー国の人々を人質に取られた部隊所属の者達はシュトラノム家に逆らうことはできなかった。

 道はただ一つ――地球への侵攻だけである。失敗すれば死あるのみ、危険な任務だったがワーテロー国の部隊所属の者達はそれほど悲観的ではなかった。

 彼らは地球の民のことをワーブルを扱えない蛮族であると、虚界で生きる全ての者達よりも大きく劣る者達であるという偏見を持っていたのである。


 しかし、彼らの色眼鏡は大日本皇国に到着してから間も無く木っ端微塵に破壊されることになる。

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