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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第二部第五章「庚澤無縫達の(非)日常」

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シンギュラリティを迎えたAIは荳也阜謾ッ驟の夢を見るか。その六。

 研究所で三栖丸零悟を模した人工知能の軍勢を撃破した無縫一行は雪女の村へと戻っていた。


 ちなみに途中で合流したオクタヴィアとデモンズゲヘナは先に無縫の屋敷へと戻っている。

 無縫の屋敷の中には使われていない部屋がいくつもあるため、しばらくはその部屋に留まり、人格付与がなされた状態で過ごすつもりのようだ。

 二人だけの世界を作り愛し合う(・・・・)オクタヴィアとデモンズゲヘナを邪魔しないため、しばらくはその部屋に近づかないようにしようと決めた空気の読める無縫達だった。


 そのオクタヴィアとデモンズゲヘナだが、デモンズゲヘナがご褒美を求めるくらいの活躍はしていた。

 どうやら、無縫達が研究所に近づいている頃合いを見計らって研究所からの脱走に動いた人型の機械兵と無人小型航空兵器が多数居たらしく、二人はその対応に追われていたらしい。


 勿論優秀な二人は一体も撃ち漏らすことがなく、雪女の包囲網がこれらの機械兵の対処に追われることは無かったようだ。


 雪花邸に戻るまでは気丈に振舞っていた美冬も流石に精神的に限界だったらしく、家に着いた途端に糸が切れたように倒れてしまった。

 今は楪、真由美、オルトリンデの三人が美冬の寝室に運び込み、楪が美冬の様子を見ている。


 一方、雪芽はというと看病には参加せずに白音とちゃぶ台を囲んでいた。

 あの場で何が起きたのか、それを真白に報告するのに最も適している人物は、やはり零悟と美冬の娘である雪芽以外にはいない。

 無縫のような部外者が報告するような話題ではないと判断した故の人選だ。


「……ふむ、まさかそのようなことになっていたとは。美冬も、辛かったじゃろうな。……無縫殿をはじめ皆様には迷惑を掛けることになったが、儂は良かったと思うぞ。一つ区切りをつけられたのじゃからな」


「まあ、俺も二人の姿を見ていたらこの選択肢を選んで良かったと思いましたよ。……ご協力頂きありがとうございました。村の皆様に後ほど感謝を伝えて頂けると幸いです」


「こちらこそ本当にありがとう。……さて、これからのことじゃが」


 三栖丸零悟の死後、彼の遺産をどのように扱うかというのは大きな問題だ。

 科学技術に疎い雪女達にはその技術を使いこなせない。


 白音達に与えられた選択肢は二つ。その技術を信頼できる機関に提供するか、封印するかだ。

 技術を提供するとなればいくつか懸念点も生じる。


 一つ目は資料の回収などのために外部の人間が頻繁に集落周辺を訪れることになるという点だ。長年鎖国をしてきた雪女の平穏を脅かすことにも繋がるため、雪女達の精神的なハードルはかなり高いだろう。


 そして、二つ目はそもそも信頼できる機関を見分けるのが難しいという点である。

 三栖丸零悟の人工知能の技術はシンギュラリティに到達している。

 それほど高度な技術を今の人間が扱えるかどうかというと微妙なところだ。

 制御ができなければ再び同じ惨劇を引き起こすことになる。今回は防げたが、ネットワークに逃げ込まれてしまったら今度こそ想定しうる最悪の事態が引き起こされかねない。


 それに、仮に人工知能を完全に制御できたとしても今度は人間の悪意が問題になる。

 その人工知能を軍事転用する、ネットワークを通じて他国のシステムを乗っ取って被害を出す、犯罪に利用するなどといったように人工知能を使う人間側の欲によって悪用される可能性も否定できない。


 そうした悪用を行わずに人工知能を技術を安全に、正しく使えるような機関に提供することが技術の発展に繋がる……が、鎖国を続けている雪女達にはそれを見極めるだけの情報が足りていないのである。


「結論から言いますと、今の我々人類にあの技術は早過ぎます。制御できるとは思えない。ですので、皆様には雪女の力を使ってあの研究所を氷結封印して頂きたいのです。必要な時になった際に開けられる氷のタイムカプセルとして保存するのが良いでしょう。そして、皆様にはその守り手をお願いしたいのです」


「それはまた、随分と重要な役割を任されることになった。……ところで、大日本皇国政府として我々に鎖国を解いて欲しいという思いはないのじゃな」


「それはこの地に住まう者達が選ぶことです。……まだ偏見もありますからね、すぐに降りるのはお勧めしません。ですが、楪さんと雪芽さんは正体を明かしてからも神社周辺の地域の方々から大切に思われていますし、鬼斬が来たと分かれば敵意を向けてくるくらいには慕われています。妖怪だからとか、魔族だからとか、そういった見た目で差別され、迫害をされる時代はそう遠くない未来に幕を閉じることになるでしょう」


「……うむ、そうじゃな。最近は我やシルフィアがカジノや競馬場に出入りしても特に何も言われなくなっておるしなぁ」


「まあ、別の意味で警戒対象になっているみたいだけどね。出禁だって言われて追い出されること増えてきたし、挙げ句の果てに内務省の職員に通報されるなんてこともあったし……」


「それはお前らのせいだろ? ……たく、亜人種族とか魔族とか妖精とか、関係ない人達にまで変な偏見を向けられることがないようにちゃんと自覚のある行動をしろよ」


「もう多分手遅れよね……」


「まあ、こいつらに関してはちゃんと個体名ヴィオレットと個体名シルフィアとして認識されているみたいですけどね……リリスさんが回収しに行ったら苦労人なんだなぁ、という目で見られたみたいですし」


「前任者の苦労が伝わってきますね。……その苦労をこれから私達は……」


 これからヴィオレットとシルフィアに振り回されることになる未来を想像し、憂鬱な顔になるオルトリンデだった。



 ほんの少し時を戻そう。

 ヴィオレットとシルフィアに関する報告を受けて一度ジェイド達の元を離れたシグルドリーヴァだったが、二人の捕縛が無縫の手によって為されるとすぐにジェイド達に合流した。

 その理由は勿論、内務省に内緒で行動していた茉莉華とジェイドの監視をするためである。


 シグルドリーヴァが離れている間に茉莉華達一行の監視を行っていた内務省の職員にお礼を伝えてから引き継ぎを受け、内務省の職員を見送った後、シグルドリーヴァは再び任務を再開した。


 富士山の山頂を目指す一行は富士スバルライン五合目を出発し、六合目で吉田口登山道と合流する吉田ルートを選択していた。

 その理由は登山道に山小屋が多いからである。景色と同じくらいジェイドは人との関わりを大切にしており、山小屋では多くの登山客と言葉を交わし、時には頼まれ、時にはジェイドの方からお願いしてその姿を絵画として描いた。

 登山よりも絵を描くことを重視する絵描き旅であるということもあって登山の速度は一般的な登山者の三倍から四倍ほど掛かっている。

 ジェイド一行が山頂に到着したのは、丁度無縫達が岩手県花巻空港を立った翌日のことだった。


 最初は奇異な目で見られることが多かったジェイドだが、山頂に辿り着く頃にはそこそこの知名度を獲得していた。

 素晴らしい絵を描く画家として尊敬を集めており、九合目くらいからは絵の注文も増えていたくらいだ。

 その人気は現役人気アイドルの茉莉華達が少し霞んでしまうほどで、茉莉華は分かりやすくジェイドに対抗心を燃やしていた。


 ちなみに絵画はシグルドリーヴァが責任を持って地上まで運び、その後希望者の元まで配送する手筈になっている。流石に登山と下山を大きな絵を持って行うのは無理があるためである。

 運送会社を通じて送ることになるため、希望者の住所をシグルドリーヴァは手帳に書き付けていた。

 想定外の大仕事が増えた形だが、ジェイド周りのマネジメントもシグルドリーヴァの仕事の範囲内なのでこれも立派な仕事の一環である。


 流石に一軒一軒己の翼で飛行して荷物を届けるとなればシグルドリーヴァも愚痴を吐いただろうが、手帳のデータを元に伝票を作成して後は内務省の職員に頼んで内務省関連の荷物と共に出してもらうだけなのでそれほど大変なことにはならないだろうとシグルドリーヴァはタカを括っていた。……まあ、それとは全く関係のない大変な目に遭うことになる訳だが。


「ふむ、やはり良い景色だ。この地に暮らす者達がこの山を神聖視する理由も分かるな」


「気に入って頂けて何よりだわ。やっぱりこの富士の山は我々大日本皇国民にとっては誇りなのよ」


「後少しで山頂ですね……まさか、本当に登れるとは」


「彰殿は初めて登るのか?」


「えぇ、お恥ずかしい話ですが……」


「世界的に見ればまだまだ高い山は沢山あるとはいえ、この山は大日本皇国の最高峰だ。誰もが登れる山という訳ではない……登山道が整備されていて登りやすいとは思うが、登った経験のない人も多いと思うぞ」


「そうねぇ……ちなみにぃ、私も登るのは初めてよー。テレビで富士山からの御来光を見たことは何回かあるけどー」


「実に便利な発明だな。なかなかに興味深いものが揃っている。ここは良い世界だな」


 すっかり打ち解けた茉莉華、瑞稀、霞、彰の四人は和やかに談笑しながら他の登山者達の後に続いて「日本最高峰富士山剣ヶ峰」と書かれた石碑を目指した。

 そんな四人を優しい眼差しで眺めつつ、シグルドリーヴァは四人の後を追った。


 しかし、和やかな時間は唐突に幕を下ろすこととなる。


 最初に異変に気づいたのは茉莉華とジェイドだった。二人に遅れること、シグルドリーヴァが異変に気づき、顔色を変える。


「――茉莉華、戦闘態勢を取れ」


「言われなくても分かっているわ!! 変身するから少し待ってなさい!! シグルドリーヴァさん、三人を安全な場所へ!」


「ええ、分かったわ! 内務省に連絡を入れてから空間魔法で近くの山小屋まで避難をさせます。瑞稀さん、霞さん、彰さん、ご協力お願いします! 恐らく、これはロードガオンによる大規模侵攻の予兆です!」


 発生した黒い界境門(ゲート)から瞬時にその技術がロードガオンのものであることを察したシグルドリーヴァが発した言葉により周囲は俄かに騒めく。

 登山客の中にはプチパニックを起こした者もいたが、瑞稀と霞がアイドルとして注目を引きつけ、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァが現れるまでの時間を稼いだことで事でパニックは立ち消えになった。


 やはり、幾度となく大日本皇国を守ってきた魔法少女の存在は大きいのだろう。今回もきっと守ってくれるだろうという安心感がパニックを抑えてくれたようだ。

 シグルドリーヴァが展開した時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを使い、彰、瑞稀、霞の三人が避難誘導をして少しずつ山頂に居た登山客達を付近の山小屋に避難させる。


 その迅速な避難誘導が功を奏し、界境門(ゲート)からワーブリス兵の軍勢が現れる前には山頂に魔法少女プリンセス・カレントディーヴァ、ジェイド、シグルドリーヴァだけが残る状況を作り出すことができた。


 一方、避難誘導には関わらなかったジェイドはというと電話をしていた。

 その相手はようやく我が家に到着したばかりの庚澤無縫だった。


「ロードガオンが攻めてきたようだ」


『……想定内とはいえ少し早い。記者会見以前から情報が漏れていた可能性もありそうだな。ジェイドさん、俺達も動きますのでそれまでの間、防衛戦をお願いします』


「任せておくがいい! 茉莉華、シグルドリーヴァ、始めるぞ! 合作の時間だ!!」


「足を引っ張らないでよね! ジェイド!」


「ふん、それはこっちのセリフだ!!」


「全力でお二人を援護させて頂きますわ!」

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