表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第二部第五章「庚澤無縫達の(非)日常」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

253/261

シンギュラリティを迎えたAIは荳也阜謾ッ驟の夢を見るか。その四。

 見渡す限りの銀世界を美冬に先導された無縫一行は突き進んでいく。

 そんな一行の上空には一台のドローンが飛んでいた。


「ここだと思います」


『見渡す限り雪ばかりね……確かにこれだと場所が分からなくなるわね』


「まあ、大まかな座標さえ分かれば十分だ。――蒸発(ドライアップ)


 無縫は火属性魔法を応用して周囲の雪を瞬時に溶かした。

 大地が露出し、地下へと続く階段が姿を表す。


「……ふむ、入り口は閉ざされているようじゃな」


「しかし、よく閉鎖空間の中で生きられるよね」


「酸素も内部で循環していますし、植物も地下の研究施設だけで育てられる環境が構築されていました」


「なるほど、その生産施設に不都合が生じたから連絡を入れてきた……ということじゃな」


「考えられるとすれば、博士が研究していた人工知能でしたか? その人工知能とやらが暴走し、生産施設を掌握……その意図せぬ状況に救援を呼んだということでしょうか?」


 オルトリンデの推論に「そういうことであれば、どれだけマシだったことか……」という感想を持ちつつも、それを無縫は飲み込んだ。

 既に回避できない状況に陥っているのだが、それでもできる限り残酷な真実を遠ざけたいと無縫はいつもの彼らしからぬ消極的な態度を取り続けている。


「この扉……開かないみたいですよ」


「おかしいわね。食料を届けて欲しいということなら扉のロックを解除しておいてくれたと思ったのだけど」


 ぴくりとも動かない扉に首を横に振る頼宣に、美冬も首を傾げる。


「……扉が施錠されているんじゃ中に入れないわよね。別の入り口ってあるのかしら?」


「私の知る限りはこの入り口だけです」


「じゃあ、地面でも掘削して研究所までの道を開拓するしかないのかしら? それか、扉を物理的に強引に吹っ飛ばすとか?」


「真由美さんって意外と脳筋なこと言うよね。……まあ、この状況は想定内だよ。そのためのドローンだ。ということで、よろしくお願いします」


『よし、仕事の時間ですね』


 ドローンのスピーカーを通じて肇の声が響き、それと同時にドローンがブーンと音を立てて研究所の分厚い扉に近づいた。

 それと同時にドローンから何やらアームようなものが次々と現れ、アームが変形して扉につけられた端子に接続された。


『ハッキング開始! まあ、この程度なら二分くらいあればいけますね』


「こういう時だけは頼りになりますね」


『こういう時だけってなんですか!? と言っている間に終わりました。じゃあ、無縫君、後始末よろしく!』


 そう言い残してドローンは突如として爆発した。

 粉々になったドローンに無縫は追撃を仕掛けるように灼熱の火球を放ち、粉々の部品を焼き尽くしていく。


「ここからはコンピュータ面でのサポートが一切受けられなくなります。……まあ、この扉さえ突破できれば後は大丈夫でしょう。後は、一応保険を掛けておくか」


 聖剣オクタヴィアテインと魔剣デモンズゲヘナを取り出し、【高位付与術(ハイエンチャート)】を発動する。

 人格付与によるオクタヴィアとデモンズゲヘナの顕現だ。


『……相変わらずとんでもない魔法ね。もうこれある種の生命の創造でしょう?』


 エーデルワイスが呆れてものが言えないという顔になる中、無縫は真剣な表情で二人に声をかける。


「オクタヴィア、デモンズゲヘナ、これから俺達はこの施設の内部に入る。俺達以外にここから出てくるものがいれば全て破壊してくれ。一体でも逃せば最悪の事態になる可能性がある」


「――ッ!? 承知しました、ご主人様!!」


「これは、オクタヴィアちゃんに戯れている時間は無さそうね」


「時間があってもそんなことしないでください! 聖剣と魔剣は相容れない存在です」


「ガーン……」


「まあ、全て片付いたら好きなだけオクタヴィアを堪能すればいいよ。オクタヴィアも何か希望があれば言ってくれ!」


「ほ、本当に!?」


「ご主人様、変な許可を出さないでください!! ……しかし、それほどの状況なのですね」


「ああ、まさに今パンドラの匣を開けたような状況だからな」


「でも、パンドラの匣って、最後にほんの少し希望が残っていたっていう解釈もあったわよね?」


「デモンズゲヘナの言うような説もあるが……今回は何も残っていない。いや、強いて言うなら最後まで絶望たっぷりだ」


「……最後までチョコたっぷりみたいなノリで言うことじゃないと思うわ、無縫君」



 某チョコレート菓子の謳い文句を引き合いにして突っ込みを入れるくらいの余裕があった真由美だが、すぐにこの任務がかつて経験したどの鬼斬の任務よりも過酷であることを思い知ることとなった。


「――ッ!? 本当に面倒くさいわね! 倒しても倒しても……一体どこから湧いてくるのよ!!」


 扉が開いて早々に待ってましたとばかりに現れたのは無数の人型の機械兵とドローンのような無人小型航空兵器の軍団だった。


「――鬼斬我流・厄災ノ型(カラミティ)神避(薨崩)!!」


過重力圏域(スーパー・グラビティ)! 【魔王の一斬サタナキア・ダークネスラッシュ】じゃ!!」


妖精の天嵐フェアリー・テンペストだよッ!!」


『神の怒りに貫かれなさい! 神光飛折(セイクリッド・メギド)!!』


翼撃の分解銀羽(シルバー・テンペスト)!!」


「桃源天剣流・北斗ノ太刀・禄存!」


「源流鬼殺剣・天網恢恢疎にして漏らさず!!」


「――九尾燃砲キュウビ・フレアバーストじゃ!!」


「――激流の斬撃(カレント・ストリーム)よぉ〜」


「氷片乱舞!!」


 無縫、魔法少女ヴァイオレット=レイ、魔法少女シルフィー=エアリアル、エーデルワイス、オルトリンデ、真由美、頼宣、楪、雪芽、美冬――流石にこれだけの戦力が揃っていて不利になるということはない。

 だが、決して一体も逃してはならないという制限は想像以上のストレスを真由美達に与えていた。


「――ッ!? 一匹取り逃がしてしもうた!?」


銀閃の双大剣(シルバー・ウィング)!」


「オルトリンデ殿、助かったのじゃ!!」


「……しかし、全く終わりが見えないわね。少し大袈裟だと思っていたけど、本当に開けてはならないパンドラの匣だったわ」


「少しの討ち漏らしに関してはオクタヴィアとデモンズゲヘナがいるし、雪女の有志の包囲網もある。……だけど、なるべく削っておきたい。この第一防衛ラインで全部押さえ込むという気概は必要だな」


 人型の機械兵の放つ弾丸の雨や斬撃の嵐を往なし、無人小型航空兵器の弾丸の雨や自爆特攻攻撃にも対応しつつ確実に敵の数を削っていく無縫達。

 牛歩というレベルで研究施設に入ってからそれほど距離は進めていないが、着実に敵を殲滅し、研究所の攻略を進めていた。


「……波は去ったようじゃな」


「ここは閉鎖空間……リソースにも限界はある。だからといって、この第一ウェイヴで終わりだと決まった訳じゃないからな。ここからも警戒して進もう」


 無縫の予想通り、一つ目の波を退けただけでは終わらなかった。

 第二、第三の波がやってきて、その度に熾烈な戦いが繰り広げられる。


 一体一体はそれほど強い訳ではない。最強の魔法少女に、異世界の魔王の娘、フェアリマナの妖精、女神とその使徒、優秀な鬼斬二人に、伝説の妖狐の子孫と雪女までいるのだ。

 寧ろ、敗北する方が難しい状況である。


 破壊した機械兵達の残骸も回収されないように全て粉砕している。機械兵側は次第に資源を失っていき、第四の波の到達時点でその軍勢の総数は第一の波の五分の一以下になっていた。


「……しかし、奇妙じゃな。そもそも、食料が足りなくなったから来て欲しいということじゃった筈じゃ。だが、食糧生産プラントも問題なく起動しているようじゃ」


 美冬によれば、この食糧生産プラントは施設全体の丁度半分の位置にある。

 食料の生産は全てこの場所でできるように建設段階で設備が運び込まれていたようだ。

 その設備も壊れた場合に内部で修理できるようになっており、実際にヴィオレット達が確認した設備は問題なく機能していた。


「あらぁ? おかしいわねぇ……これじゃあ前提が変わってくるわぁ」


『……となると、連絡そのものが嘘だったってことよね? 全く人騒がせな話だわ』


「まあ、人騒がせで済めばまだ良かったんだけどね」


「……じゃあ、三栖丸零悟さんの目的って一体なんだろうね。そんな嘘までついて美冬さんに研究施設に来るように促した……まあ、私達みたいな戦力まで付いてくるのは想定外だったと思うけど」


「なかなかいい着眼点だなぁ、シルフィア。気になるのは二点かな? まず、敵の攻撃対象には妻である美冬さんや娘の雪芽さんも含まれていた」


「……確かに本当に無差別に攻撃してきていたわよね。そこはずっとノイズになっているわ。……それともう一つ、美冬さん。あの扉が閉じられていたわよね? 美冬さんには解錠できたと思う?」


「雪は片付けられたと思いますが、あの扉は開けられなかったと思います」


「……まあ、そうよね」


 真由美の想定通り、あの扉は美冬の力では開けられなかった。かといって、力技で開けられるとも思えない。雪女の力とはそもそも相性の悪い扉だ。


「まあ、つまりあの扉は誰かの協力を得て開けられることが想定されていたってことだな」


「頼宣殿の言う通りじゃな……何者かが同行することも想定のうちじゃろう。だが、あれだけの戦力を揃えてどうする? 雪女の集落でも落とすつもりか?」


「そ、そんなこと零悟さんはしないわ!!」


「楪さん、多分雪女の集落は眼中にないと思うよ。……まあ、邪魔をするようであれば排除は検討しただろうけど。さて、敵も少なくなってきて探索が一気に進んだ。もうそろそろ最深部だろう」


 巨大な研究施設内部はまるで一つの小さな世界のようだ。

 その中にひっそりと佇む小さな研究所――それこそが、零悟が普段の研究をする場所として建てた研究所なのだという。


「……遂に、零悟さんに会えるのね」


 美冬が数十年ぶりの再会に心を躍らせる中……無縫は他の全員に魔法で念話を飛ばした。


『――全員、戦闘準備を整えておいてくれ』


 そんな不吉な言葉と共に、遂に美冬達は零悟のいる研究所へと突入する。

 果たして、その先に待っているものとは――。

◆ネタ解説・二百五十二話(ep.253)

最後までチョコたっぷり

 LOTTEの「トッポ」のCMで有名なフレーズ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ