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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第二部第五章「庚澤無縫達の(非)日常」

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シンギュラリティを迎えたAIは荳也阜謾ッ驟の夢を見るか。その三。

 雪芽の生家である雪花家は代々雪女達を纏める長老の役割を果たしている。

 この地が、雪女の村や雪女の里と呼ばれるため、いつしか長老は集落の長――村長と呼ばれるようになった。


 そんな雪花家の屋敷で無縫達は丁重なもてなしを受けた。

 応対したのは美冬とその母にして、現村長を務める雪花(せっか)白音(しらね)だ。


 流石は雪女というべきか、雪芽の祖母といってもその容姿は三十代くらいの美しい女性である。

 美冬と姉妹と言われても納得してしまうくらいには明らかに若い容姿をしていた。


「久しぶりじゃな、雪芽よ。村を飛び出して以来じゃな。……戻ってくるとはどういう風の吹き回しか?」


「私はこの閉鎖的な村と相性が悪かった。もっと外の世界を見たいと思ったしぃ〜、その選択に後悔はないわぁ。おかげで、好きな人にも巡り会えたしぃ。今日はお母さんからの頼みもあったけどぉ、一番はその人を紹介したかったのが理由よぉ。紹介するわぁ、私が巫女をしている神社の神様で、私の大好きな人――玉藻楪さんよぉ」


「紹介に預かった楪じゃ。雪芽殿には神社の神主として身の回りの世話をしてもらっている。……じゃが、恋人ではないぞ! それに、これは別に親御さんへの挨拶でも娘を私にくださいという話でもないからな!」


「あらまあ」


「楪さんが素直じゃないだけで、二人は相思相愛です。……まあ、いずれは外堀を埋められて正式に挨拶に来ることになると思いますよ、そう遠くない未来に」


「ふむ……女性同士での結婚というものは聞いたことがないが、この地は外界と切り離された場所じゃ。外の世界はもうそれほど進展しておるのか?」


「いえ、まだまだ前例は少ない話よ。……とはいえ、そういったことにも少しずつ寛容になってきているみたいね」


「……ところで、お主達は鬼斬じゃな。雪芽と共にやってきたということは敵意があるという訳ではないのじゃろうが」


「えぇ、鬼斬もここ数年で大きく方針を転換しているわ。人間に害を及ぼさないのであれば見逃すし、良好な関係を築きたいというのであれば手伝う準備があるわ。……最早、異世界人とかも普通に紛れて暮らしているから、今更、鬼や妖怪を珍しがったり迫害したりするような状況ではないのよね。私達は美冬さんに届いたあのメッセージに関することで戦力として、ここにいる庚澤無縫さんの依頼を受けて来ているわ。鬼斬機関からは他に鬼斬機関の副長の一人を務めている源頼光の子孫である源頼宣にも来てもらったわ。他に、無縫さんの家族の、異世界の魔王の娘のヴィオレットさんと、フェアリマナという世界の妖精のシルフィアさん、異世界で女神をしていたエーデルワイスさんと、神の使徒のオルトリンデさんも今回の作戦に参加することになったわ」


「……ほう、かなりの手練れが揃っているとは思ったが、まさか異世界の神や魔王の娘まで……フェアリマナの妖精というのはよく分からないが、いずれにしても雪女の村を壊滅させられるほどの戦力じゃな。じゃが、娘の話によれば単に食料を運ぶだけの仕事じゃろう? それほどの危険はないのではないか?」


 白音も美冬もこれほどの戦力を連れて来ているという事実に疑問を持っていた。

 これではまるで戦争でも始めるような物々しい雰囲気だ。


「今回、俺達がこちらを訪ねたのは美冬さん、貴女を説得するためです」


「……説得、ですか?」


 この時点で嫌な予感はしていた。彼らは美冬に協力するためにここまでやって来た筈――その目的は三栖丸零悟に食料を届けるためである。

 美冬に協力するためにこの場にやって来たのであれば目的は合致している筈である。説得をしなければならない余地など本来はない筈だ。


「単刀直入に言いますが、三栖丸零悟さんの件、諦めては頂けないでしょうか?」


 それは、全く予想外の言葉で……美冬はしばらくの間その言葉の意味を理解できなかった。

 その残酷な言葉の意味を理解したのは数分後のこと――そこから美冬は一気に距離を取り、氷の刃を生み出して無縫に斬りかかった。


「なんでそんな残酷なことを言えるのよ!! 貴方達は私の願いを叶えてくれるために来たんじゃないの!!」


「まあ、そういう反応をされても仕方ないですよね。……好きな人と会いたい、それをずっと我慢してここまで耐えて来たんだ。俺もその気持ちは理解できますよ。だからこそ、思い出は思い出のままにしておくべきだと思うんです」


 氷の刃を放った掌底打ちで打ち砕きつつ、無縫は覚悟の篭った視線を向ける。

 それが、美冬のことを慮ったものであることを美冬は直感で悟り、それ以上の攻撃を諦めた。


「あの先に待っているもの、それが貴女の望むものとは限りません。……これは、あくまで俺とツテのある大日本皇国最巧のハッカーの見立てですが、あの先には国や世界を滅ぼせるだけの力を持った存在が潜んでいると思われます。それが世に放たれればどれほどの被害が出るか……我々人類はここ数十年、数百年の間に技術を進歩させてきましたが、少なくともその進歩を我々は手放す選択をすることになります。俺は臨時職員――アルバイトとはいえ内務省という国家に仕える役人です。国家の不利益になることを見過ごすことはできません。……もし、その予想が正しいのであれば、貴女の行いは国家や世界を危機に晒す行いとなります。妖怪だから迫害される……とか、そういう段階では最早ありません。国家転覆の罪を貴女は背負う可能性がある……そして、俺も内務省も庇い立てすることはできません」


「……とんでもないスケールの話になってきたのじゃ。……国や世界が敵に回る可能性か。雪女の里も外界から閉ざされた場所では無くなった。国や世界が敵に回って我々が生き残れるとは思えない」


「……なんで、そんな話になるのよ……私は、ただ……」


「まあ、諦めきれないのは分かります。その先に待っているのがどれほど残酷な結末だとしても貴女は見なければ納得できないでしょう。そのために俺達はこの地に足を運びました……不本意ながら。要は、危機を回避できればいいのですよ。実害に及ばなければいくらでも揉み消せる。幸い、ここは雪女達が身を隠して来た永久吹雪地帯です。先ほど、この地に住まう雪女の皆様にも助力を願いました。……これが最後です。世の中には知らなければ良いこともある。ほんの少しの時間であっても、貴女は甘い夢を見た筈です。その夢から果たして醒める必要はあるのですか?」


「それでも……私はこの目で確かめたい。零悟さんに一体何があったのか! どうか……力を貸してください!」


「……はぁ、分かりました」



 美冬の説得は結局できなかった。

 無縫はガッカリしつつ、スマートフォンを取り出してビデオ通話を開始した。


『その様子だと説得には失敗したようですね。まあ、凡そ想定内です』


「ご迷惑をお掛けします、豺波さん」


『まあ、私としては楽しそうな話題なので全然大丈夫ですよ!』


「相変わらず不謹慎なことこの上ないなぁ、この男。……事後報告となりますが、皆様にご紹介致します。内務省異界特異能力特務課預かり、特命エンジニア兼内務省秘密開発部門部門長の豺波肇さんです。元々は【電脳世界に巣食う魔人エレクトロン・ウィザード】の異名で知られる世界的犯罪者で、天才ハッカーとして世界中の政府機関や企業を敵に回し、膨大な外交電文を含む機密文書をばら撒き、己の好奇心のままに暴れ回っていました。性格は終わっていますし、普通に犯罪者ですが、腕だけは確かです」


 あまりにも終わっている経歴に白音と美冬が絶対零度の視線を向けるが、相変わらず頑強なメンタルをしている肇は全く気にしていないようだ。


『無縫さんが既に話しているかもしれませんが、雪芽さん宛に転送された映像を解析した結果、最悪の可能性が浮上しました。正直、私にとっても死活問題なので是非パンドラの箱は開けないでもらいたいのですが……まあ、いいでしょう。では、まず前提条件から。皆さんがお持ちの電子機器は全てこの場に置いて行ってください。できれば、簡単に干渉できない状態を作ってもらいたいですね。丁度雪女もいるようですし、電気機器を丸ごと氷漬けにするのはどうでしょうか?』


「……連絡手段が無くなるのは痛いわね」


『ネットワークに逃げられたら終わりですからね。……できる限り入り口は減らしておきたいのですよ。続いて、無縫さんに手渡しておいた小型ドローンの件です。こちらから遠隔操作でコンピュータに干渉できる機器が組み込まれています。一般的な機器では圏外となる永久吹雪地帯でも問題なく動かすことができることを確認していますが、こちらのドローンも使い終わったら速やかに修復不可能な状態まで破壊してください。そこからは私からのサポートは受けられませんが、まあ、問題はないでしょう。こちらからお伝えすることは以上になります』


「とにかく、電子機器類を封印するという姿勢はよく分かったわ。……本来なら、このような秘境で電子機器は手放せないのだけど」


「この地を知り尽くしている我々が協力する。……まあ、我らと鬼斬は敵同士だった。信頼できぬのも致し方ないが」


「そこは信用しているから大丈夫よ。それに、無縫君もいるしなんとかなるわよ」


「……真由美さん、俺を万能扱いするのはやめて欲しいけどね。……それじゃあ、電子機器類を白音さんに預けたら早速作戦開始だ。美冬さんの案内で全員でラボに向かう。場合によっては、そこから先は敵陣――くれぐれも油断しないように」


 白音にスマートフォンなどの電子機器類を託し、白音と美冬の手によってカチコチに凍らされたことを確認してから無縫達は美冬の案内でラボへと向かうこととなった。

◆キャラクタープロフィール

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雪花(せっか)白音(しらね)(二百五十一話)

性別、女。

年齢、九十一歳。

種族、雪女(妖怪)

誕生日、八月三日。

血液型、O型Rh-。

出生地、奥羽山脈の永久吹雪地帯(どの県の管轄でもない雪女の集落)。

一人称、儂。

好きなもの、雪の下野菜。

嫌いなもの、熊肉(処理に失敗した苦い経験から)。

座右の銘、特に無し。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

職業、雪女の里の村長。

主格因子、無し。


「雪女の里の長老で村長。鬼斬達から追われた経験から外界との関係を断つ道を是とした保守派の人物。一方で、情勢が変わったことを知ると鬼斬達との因縁を一旦横に置き対話をする柔軟性を持ち合わせている。実は彼女も若い頃は外界に興味を持っており、人間の男と情熱的な恋をした経験がある。しかし、男に正体がバレると掌を返されて化け物扱いされ、彼との間に授かった子供と共に命からがら逃げ出すこととなった。その子供こそが美冬である」

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