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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第二部第五章「庚澤無縫達の(非)日常」

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【七皇】メラクとベネトナシュの来訪 後編

 博多駅にて、メラクとベネトナシュ――ネガティブノイズの【七皇】達と遭遇してしまった無縫は奇門遁甲を用いて意識を逸らして魔法少女の変身を解除すると、博多駅の近くにある滞在予定のホテルにキャンセルの電話を入れた。

 流石に近くのカフェに入ってお茶をしつつ交渉……という訳にはいかない。ネガティブノイズである二人がいればパニックになるだろう。


 では、滞在予定のホテルで話をすれば、ということになるかもしれないが、今回予約したホテルはごく普通のホテルである。

 ある程度融通が効き、秘密の秘匿もしっかりとしてくれる顔馴染みの老舗旅館とは異なり、メラクとベネトナシュを伴って向かえばフロントでパニックが発生して最悪の場合、ホテルから追い出されてしまう懸念もあった。


 ホテルとしても大勢いる宿泊客を守らなければならないのだから至極当然の対応だ。

 だが、一流のホテルや旅館であれば、宿泊者の事情や希望を伺った上で、叶えられる範囲という注釈は付くものの可能な限りその希望を現実のものにしてくれる。

 今回の場合であれば、ネガティブノイズ達の存在をしっかりと他の客達に秘匿した上で交渉の場を設けるくらいのサービスはしてくれるだろう。


 サービスの質が高い分、そうした宿に宿泊する場合はしっかりとそれ相応の対価を支払わなければならない。

 政府高官――それも、総理大臣クラスであれな警備面などから融通の効き、信頼もできる一流のホテルや旅館に滞在するが、無縫一人で出歩く場合はそのようなサービスを受ける必要がない。

 そのため、比較的安価な宿を予約していたのだが、メラクとベネトナシュとの交渉の席を設けるにあたり、大田原惣之助御用達の宿へと宿泊先を変更したのである。


 電話で連絡を入れ、インターネットのサイトでキャンセル料の支払いを済ませてから、旅館へと連絡を入れつつ博多の街を移動する。

 旅館まではそう遠くない距離だが、旅館が惣之助御用達の旅館で無縫も顔馴染みの客に数えられるくらいには滞在経験があることもあってか実際に旅館に到着するまでに宿泊の準備を整えることができた。


「お待ちしておりました、庚澤無縫様。お連れ様もどうぞ」


 高級旅館ということで一般と呼べるような宿泊客はほとんどいないが、事情が事情ということもあって政府高官などが利用する旅館の裏口の方へと回るように電話で促された無縫達は、最早馴染み深いものになってしまった旅館の裏手で待っていた若女将から挨拶を受けた。

 流石は老舗旅館の女将というべきか、ネガティブノイズである二人にも動じた様子を見せずに宿泊用の部屋へと案内する。


 しっかりと人払いがされていることもあって、途中他の宿泊客とすれ違うこともなく目的の部屋に辿り着くことができた。

 いつの間に呼び寄せたのか、仲居が人数分のお茶をお茶菓子と共にテーブルへと運び、そのまま静かに部屋を後にする。


「それでは、私は失礼致します。何かございましたらお気軽にご申しつけくださいませ」


「ありがとうございます、櫻井さん」


 丁寧に会釈し、音もなく襖を開けてその場を後にする旅館の若女将――櫻井(さくらい)日南(ひなみ)に礼を述べると、無縫は座布団の上に座るように促した。


「いや、やっぱりいい旅館だ。……まあ、普段使いするにはあまりにも勿体なさ過ぎて普段は適当な安宿にしているんだけど、今回は君達もいるし流石にそうは言っていられなくてね。……で、一応話は内藤参事官から聞いているけど、改めて要件を聞いておきたい」


『うむ、要件は全部で三つだ。まず、先日討たれたという同僚――アリオトについて。【七皇】は伯仲する実力を持ち、誰が強いとか弱いとか、そういったことはない。妾達【七皇】はこれまで一人として落とされたことがなく、この世界での侵攻において圧倒的優位に立ってきた。故に、アリオトが落とされたというのは妾達にとって大問題だ。同時期に起きたミザールの敗北については情報も得られているが、アリオトについては消息を絶ち、その後行方知れず……彼の死の真相について語って欲しいというのが一つ。無論、話せる範囲で、という注釈がつくが』


「当時、俺は異世界ジェッソというこことは異なる世界に召喚され、滞在していました。帰還そのものは我々の持つ空間に干渉する魔法技術で即座に可能でしたが、こちらにはこちらの事情がありましたので。更にその時期は召喚を行った国家と、召喚魔法を提供した神を信仰する宗教との戦争の時期でしたので、大日本皇国は主力を失っていました」


『……なるほど、道理で戦力が少なかった訳か。じゃが、それを話して良いのか?』


「過ぎたことだからね。……それに、主力不在でタイムラグがあったとしても負けたのはアリオト達だ。さて、本来は俺達が大日本皇国の各地を巡って対処すべきところでしたが、見事に後手に回りました。そこで空間魔法を用いて侵攻を行ったネガティブノイズの軍勢を異世界へと転移させ、戦争していたルーグラン王国と白花神聖教会の戦力共々相手をすることにしたのです」


『――まさか、他の敵を倒す片手間で倒されたというのか!?』


「あちらの世界では複数の異世界から呼び寄せた戦力や、旅で出会った魔族の主力、その他強力な戦力が揃っていましたからね。それに、こちらの世界とは違い、戦争の余波で首都が壊れることを心配する必要がない。寧ろ、一定以上のダメージを与えられた方が都合のいいくらいです。後々の統治のためにも。大日本皇国には俺が知る限り五人の魔法少女がいます。うち、大日本皇国側で動いたのは俺と魔法少女プリンセス・カレントディーヴァの二人です。残りは異世界の魔王の娘で、うちの居候のヴィオレットの変身した姿である魔法少女ヴァイオレット=レイ、貴方達が嫌悪しているフェアリマナの妖精の一人であるシルフィアが変身した魔法少女シルフィー=エアリアル、そこに異世界召喚後に魔法少女への変身能力を獲得した侵略者のロードガオン人が一名、異世界人のエルフで同じく召喚後に魔法少女に変身できるようになった方が一名、ヴィオレットの侍女で内務省の参事官補佐を務めていた次期魔王が変身した魔法少女が一名、計七名で共闘して撃破しました」


『知らぬ間に魔法少女が増えているのじゃ……しかし、厄介じゃな、フェアリマナの羽虫は。……隙を見て始末したいくらいじゃが』


「放っておいたら負債を生み出す学習能力皆無な恥ずべき莫迦ですが、あれでも一応大切な家族なんでね。……てめぇら、今ここで纏めて殺されたいって言うなら遠慮なく会話を断ち切らせてもらうぞ」


『フェアリマナのことを恨む我らの気持ちにも少しは理解を示してもらいたいものなのじゃがな』


「だったらこっちは何もしてないのに勝手に侵略されている被害者だぞ? 面倒だからやって無かったが、大規模遠征チームでも組んで邪悪心界ノイズワールドでも滅ぼしに行ってやろうか? 今回の件で【七皇】も正直恐れるほどではないっていうことが証明されたしなぁ。魔法少女プリンセス・カレントディーヴァっていう足手纏いを抱えていても余裕で勝てたし」


 茉莉華が聞いたらブチギレそうなことを平然と言いつつ、無縫は殺意の篭った視線を向ける。


「……機嫌が変わらないうちに次の質問をしろよ」


『う、うむ……では次じゃ。妾と爺やはアリオト達が落とされたことを受けて人間が想定以上の強さを持つことを実感した。【七皇】の中でも意見はまちまちじゃが、妾達は人間の庇護下に入り、休戦することが我々ネガティブノイズの利益に繋がるという判断じゃ。最終的な質問は、我々を庇護下に加えるということは可能かどうか? お主達の国のトップと交渉してもらえないか? ということを聞きたいのじゃが』


「現時点では望み薄な交渉だな。……ぶっちゃけ利益ない上にうちの家族に殺意を向けるような危険な相手だ。二人を同時に相手するのは厄介だろうが、後々のことを考えればここで処分するのも吝かではない」


『ず、随分と大きく出るのぉ……』


 メラクの言葉は虚勢だ。無縫の言葉に、何一つ嘘がなく、苦戦はするだろうが本気で自分達を殺すことができるのだとメラクは本能的に確信していた。


『だが、その前に確認しておかなければならないことがある。例え我らネガティブノイズを倒したところで問題が解決する訳ではない。寧ろ、我々という目に見える脅威が去ったことで、フェアリマナはこの世界を不用なものと判断するじゃろう。奴らは本質的に自分達以外を見下しておる。このまま奴らの肩を持っていても良いように使われて捨てられるだけじゃ。内務省の高官にもそれを伝えたが笑われてな。それくらい織り込み済みだと』


「ああ、内藤さんか。……そりゃ当然だろ? こっちは最初からフェアリマナもノイズワールドも滅ぼすつもりで動いている。利用するのがフェアリマナ側だといつ決まった? ……それとも、魔法少女の力が奪われたらこの世界の人間では彼らに太刀打ちできないとでも? この世界には多くの秘匿された技術がある。それに、異世界や虚界からもたらされた技術も。フェアリマナが敵に回ったとしても対処はできるだろう。俺達からしたら、フェアリマナはロードガオンとかと何ら変わらない。我々が自国と周辺の防衛のみに徹しているから対処していない、ただそれだけだ。それと、シルフィアが裏切るっていう可能性を考えているんだろうが、それはないぞ? あいつ、フェアリマナの国庫のお金を借りパクしてギャンブルで全額溶かしたからな。やったことがやったことだからもう祖国には戻れないだろうし、俺としてもどうせ滅ぼす国だ。失ったお金を補填する気はない」


『……あ、呆れてものが言えないのじゃ。というか、はっ? フェアリマナの妖精はいつからそんなに莫迦になったのじゃ?』


「あいつが特別なだけだと思うぞ。まあ、分かっただろ? 俺はノイズワールドを滅ぼしたらフェアリマナを滅ぼそうと思っている。利用できる間は利用しようってだけの話だ。少なくとも、俺と魔法少女プリンセス・カレントディーヴァはそのつもりだし、他の魔法少女や妖精の考えていることは知らないが、敵に回るなら国益のために殺す覚悟もしている」


『倫理観が、倫理観が終わっているのじゃ……色々と納得できんが、まあ、狂っているは狂っているが、一先ず敵対する理由がないということだけは分かった。妖精シルフィアにも正直呆れてものが言えんが、フェアリマナに損失を与えたという意味では……喜ぶべきことなのか? 手放しでは喜べんがッ!!』


「三つ目の質問の答えだが、大日本皇国の敵が減ることは喜ばしいこと。そのつもりなら大田原総理に二人との休戦の提案をしてみるよ。だが、あんなんでもうちの家族なんでね。シルフィアや他の魔法少女へ攻撃する場合は容赦なく滅ぼし、休戦の約束も消え去るのでそのつもりで」


『思った以上に魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスが色々な意味で危険な存在じゃった。敵対など愚かなことじゃと痛感したのじゃ。……庇護してもらえるだけで充分。その上で敵対をしようとするなど無粋なことは流石にせんよ。爺や、分かったな』


『承知しました、メラクお嬢様』


「一々言い方が気になるが、まあ、大田原さんには俺の方から話をしておくよ。総理を交えての交渉はまだ先になるから、それまでは……内務省に行ってもらっても、ここにいてもあんまり変わらないだろうし、この宿でしばらく待機で。変に動かれると面倒なことになるから、くれぐれも宿からは出ないように。それで大丈夫なように女将さん達にも伝えておくから」


『委細承知したのじゃ!』

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