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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第一部第四章「傲慢で敬虔な異世界人達に捧ぐ王教滅亡曲〜ルーグラン王国聖戦戦争篇〜」

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死霊術師・細石照の最期 前篇

 大日本皇国の東京都にある内務省庁舎一号館。

 通常であれば、普通の高校生が足を踏み入れい場所にその日、細石照の姿があった。


 事の発端は異世界から帰還してから二週間後。

 唐突に照の自宅に内務省庁舎一号館に来るようにという手紙が届いたのである。

 差出人には国の首相――大田原惣之助の名が書かれていたが、照はその手紙がルーグラン聖戦戦争にて庚澤無縫と交わした約束に関わるものであると照は即座に察した。


 異世界からの帰還後、雷鋒市立雷鋒高校の解体に伴う他の高校への編入に内務省は尽力してくれた。

 その間、担当の内務省職員が割り振られて、その職員とのやり取りも頻繁に行われた……が、無事に高校に編入できたことを確認したところで彼らの任務は終了となり交流も無くなっている。


 あくまで彼らの仕事は異世界召喚による不利益の補填と再出発の支援である。だが、暗黙の了解としてメンタルケアも含まれており、本来であれば内務省職員が専用の連絡先を渡し、継続的な支援を行う形が構築されていた。

 黒崎波菜と庚澤無縫や内務省職員との繋がりが今なお続いているのもこのメンタルケアの一環である……のだが、今回の雷鋒市立雷鋒高校での異世界召喚に関しては後者のメンタルケアの仕事は放置され、最低限の再出発の支援をするのみに留められている。


 庚澤無縫を苛めていた者達の巣窟ということもあって内務省異界特異能力特務課の職員達のモチベーションは低かった。

 それでも最低限とはいえ、再出発のための支援は完璧にしている。


 異世界召喚の被害や雷鋒市立雷鋒高校の元生徒達も、他の異世界召喚の被害者達がどのような支援を受けていたかは知らない。

 そのため比較ができず、ほとんどの者達は内務省職員が親身になって助けてくれたと感じていたようである。


 そんな訳で、近隣の高校に編入を果たした一週間前のタイミングで内務省職員との関係は断たれている。

 異世界での出来事について担当の内務省職員からいくつか質問されてが、そうした事情聴取のようなものも一週間前までに終わっているため、このタイミングで内務省から呼び出しを受けるとすれば庚澤無縫と交わした約束に関わるもの以外あり得ないのである。


「やあ、久しぶり? 二週間ぶりかな? といっても、異世界ではそれ以上に会っていなかったから久しぶりって感覚もないんだよね? どう? 新しい高校には馴染めた?」


「……嫌味にしか聞こえないわ。元クラスメイト達とは今も連絡を取り合っているけど、避けられたり虐めの対象にされたり散々だわ。まあ、私達は集団で虐めを行っていた犯罪者。どれだけ殴っても許される存在だもの。……無縫君、貴方は今清々しい気分かしら? ざまあみろと思っているのかしら? 当然よね」


「いや、心底どうでもいいってのが本音だよ。もう関わるつもりはなかったし、雷鋒市立雷鋒高校の解体も頼んだ訳じゃない。あれは大田原さんの独断だよ。……今回の件、多分一番怒っているのは大田原さんや内藤さんなんじゃないかな? 俺も正直、もう少しコミュニケーションを取った方が良かったんじゃないかな? とは思っているんだよ」


「……まあ、でもあれはどうやっても無理だと思うわ。白石さんや天月さんが貴方と仲良くしていたことが腹立たしかったってのがそもそもの発端だもの。……じゃあ、今回は過保護な親御さんの暴走ということなのね。でも、そっちの方がタチが悪いわよね。現政権の首相――この国で今、最も権力を持っている人の恨みを買っているということだもの。……それで、話してくれるのよね? 私の父――細石敏行を新澄社のビル諸共爆破した犯人を」


「より正確に言えば、今巷を騒がせている連続爆破事件の犯人だよ。……正直、あの時は戦場で敵に回ると最もタチの悪い細石さんの戦意を挫いておきたいという意図での発言で、話さないという選択肢もあった。……ただ、君の無念を考えれば真実を知る権利はあると思う。それに、あれは君がいないところで起きてしまった事件だ。流石に公平性に欠けるとも思う。……あの人は俺も苦手だから敵対は避けたいし、躊躇はしたんだ。だけど、それをいつかは克服しないと、っていう気持ちもあって、一歩を踏み出したいという覚悟を持っての提案でもあった。プリュイさんからあれから話を聞いてね、色々なことを知った今、その選択が正しかったと確信している」


「……話がさっぱり読めないわ。とりあえず、あのタイミングでの発言は私の戦意を折るのが目的だったけど、同時に何かを覚悟したものでもあって、私の立場を慮ったものでもあった……色々な意味が多角的に存在したものだったということね」


「抽象的な話だから今は分からなくても大丈夫。今から具体的な話をしていくよ。……まず、メディア連続爆破事件には二人の犯人がいる」


「……二人?」


「実行犯と指示役だ。指示役の願いを汲み、実行役が実行している構図になる。……つまり、複数のメディアに恨みを持つ者がいて、その人の部下の科学者が新型の爆弾の実験も兼ねてその願いを叶えているという形だ。ボスの願いも叶えられて非合法な実験もできる……双方にとってWin-Winな関係ということになるね」


「嫌なWin-Win関係ね。つまり爆破を実行した犯人にはメディアへの恨みはないと」


「まあ、ないだろうね。寧ろ感謝しているんじゃないかな? いい実験ができたのは君達のおかげだってね。あの人は狂っているから……まるでクトゥルフ神話で描かれる外なる神の使者(メッセンジャー)のようだよ」


「……ニャルラトホテプ、それはタチが悪いわね」


 細石照は元図書委員。

 特に小学生の頃から図書委員に立候補してした彼女の根底には本好きの性があり、読んできた本の数は数多。そのため、文学に関する知識は一角のものがある。


「まず実行犯の方から。私立白百合大学の学長で、私立白百合大学医学部附属病院病院長を務めている門無平和。本名、化野學。その裏の顔というか、正体は多くの未解決事件に関わったマッドサイエンティストだよ。彼の周りではよく元恋人が間男と共に消えているという。危険な人ではあるけど、同時に彼の非合法の実験によって多くの新薬が生み出され、多くの人が救われている。善悪で語れる人間ではないのは間違いないな」


「まさか、それほどの大物が……私立白百合大学といえば、歴史が浅いけど名門と言われている大学と肩を並べる新進気鋭の大学じゃない! それほどの大学の学長が関わっている……ってことは、それほどの人に命令を下せる人ってこと!?」


 復讐心に身を任せてここまで来た照も流石に危険性を理解し始めたのか、少しずつ彼女に理性が戻ってくる。


「問題は依頼者の方。私立白百合大学の理事会には参加していないけど、大学設立のために必要な資金の大半を融資した資産家で、恐らく照さんも名前を聞いたことがあるんじゃないかな? 主にサブカルチャーの分野で活躍していて、アニメ、漫画、ライトノベル……様々な業種で名前を聞く存在。メディアに対する影響力も強い人物でもあるけど、最も馴染みがある呼び方をするのであれば世界的ゲームメーカーとして知られるアスセーナ社会長」


「――まさか、百合薗圓!?」


「そう、世界的な資産家にして、大日本皇国の闇そのものと言われる百合薗グループ総帥・百合薗圓。大日本皇国政府も、警察関係者も絶対に手を出せないこの国で最も危険な人物だ」


「そんな人が……何故、お父さんを」


「内務省にも色々とネットワークがあってね。彼らに直接手出しはできないものの、彼らに纏わる情報は入手できる。皐月凛花と医師の玉梨滄溟先生――この名前に聞き覚えは?」


「えぇ、週刊女性日和でも取材をしていたわ」


「今爆破事件が起こされているメディアの共通点――それは、皐月凛花と玉梨滄溟先生の熱愛報道を行ったメディアなんだ。それも、しつこく付き纏い、玉梨滄溟先生の私生活を侵害した悪質な者達」


「た、確かにお父さんのやり方は強引だったかもしれない……恨みを買っていた。でも、それでも……流石に……それに、二人が殺意を持つならともかくなんで関係ない百合薗圓が」


「何が逆鱗に触れたからは分からないけど、あの二人が彼のお気に入りだったとしたら? あり得ない話でもないよ。……彼らを擁護するつもりはないけど、最近は週刊誌による過度な取材も多かったし、メディア全体が調子に乗っていたからね。そういったことを加味しての連続爆破事件を起こすようにという指示だったのかもしれない。……いずれにしても、相手は邪魔だと思った存在を簡単に消し去れるほどの力を持った存在だ。今回は化野學が動いたってだけで、百合薗圓本人が動いていても似たような結果になった可能性はある。相手は警察も政府も手が出せない大日本皇国の闇だ。平穏に生きたいなら関わってはならない。……折角拾った命だ。それを無駄にせず、亡くなった父と母の分まで長生きするといい」


「事情は分かってきたわ。相手が敵対してはならない存在……でも、だからって諦められると思う!? お父さんを殺されたのよ! お母さんが自殺したんだよ!! それなのに……それなのに、目を逸らして幸せに暮らせって!? できる訳ないでしょ!?」


「まあ、そういうとは思ったよ……だから話した。土方さん辺りにキレられそうだけど、関わることもないだろうしいいか。……照さんが復讐の選択肢を捨てないのは承知の上。だから俺も覚悟を固める必要があったってことだ」


「そうよね……貴方が私を嗾けた形になるものね」


「彼には昔から苦手意識があってね。それが何故なのか、プリュイさんから聞いた話で分かったよ。どうやら、俺は前世で、並行世界の百合薗圓の手によって殺されたらしい」


「……はい?」


「異世界召喚が実際したんだ。転生があっても不思議じゃないだろう? ってか、フレイヤさんもプリュイさんも転生者だったらしいからね。こことは違う並行世界の地球からの」


「……つまり、前世に起因する魂に刻まれたトラウマということかしら?」


「まあ、前世の記憶はないし、そういう本能とか魂とかそういう根幹に刻まれたものということになるね。……ああ、それと今回の事件の犯人についての物的証拠はない」


「……そこまで断言しておいて?」


「そもそも爆弾も既存の爆発物の成分が一切検出されないようなものだからね。寧ろ、証拠がないからこそ、彼以外に考えられないという逆説的な推測が立つんだ。まあ、どうせ突撃するんでしょ? なら本人に直接聞けばいいんじゃないかな? 一応、同じ高校のクラスメイトだった嘉で百合薗グループの本拠地の住所は教えてあげるからさ」


「色々と教えてくれてありがとう。……本音を言えば、私のことを恨んでいるだろうし適当なことを言ってはぐらかされると思っていたわ」


「ん? 照さんに対して恨みはないよ。高校時代、一度も俺を非難する言葉を投げ掛けたり、イジメに加担したり、そういうことしなかったでしょう? 少なくとも他の連中に比べたらマシだったからね。……健闘を祈っているよ、復讐者(アヴェンジャー)殿」


 応接室を去る照の後ろ姿を無縫は真剣な眼差しで見送る。


 庚澤無縫と細石照が言葉を交わしたのはこれが最後となった。

 細石照の死体が発見されたというニュースを無縫が耳にしたのはそれから数週間後のことである。

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