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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第一部第四章「傲慢で敬虔な異世界人達に捧ぐ王教滅亡曲〜ルーグラン王国聖戦戦争篇〜」

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戦争が終わってからの戦後処理の方が遥かに重要で大変だよね……特に今回のような大量の死者が出て王国の機能が麻痺しているような場合は特に。

 エーデルワイスの目が捉えたコインは……裏だった。


 エーデルワイスが認識できたのはそこまでだ。直後として膨大な破壊的エネルギーがエーデルワイスの身体を焼き尽くし、消し飛ばしていく。

 『夢幻の半球(ドリーム・フィールド)』の外でリスポーンを果たしても、エーデルワイスの精神に刻まれた恐怖は拭いきれなかった。


「……遊戯の女神であっても、この呪いの如き幸運は突破できなかったか」


 ほんの少しの落胆があったが……その一方で勝利による充足感が変身を解いた無縫の表情にはあった。

 『気紛れなノルン・ブレッシング・女神の寵愛オブ・ネームレス・グローリー』によってまたしても命を拾った形だが……かつて積極的に敗北を、死を望んでいた頃とは違い、大切な家族とこれからも過ごせることへと安堵感を噛み締めているらしい。


『――ッ!! 貴女は、一体、なんなのッ!?』


 そんな無縫にエーデルワイスが得体の知れないものを見るような目を向ける。


「俺か? 俺はただの人間だよ……ほんの少し幸運の女神に愛された……いや、呪われているだけのね」


『そんな筈がないわ……その力、まるで女神そのもの。私よりも遥かに格の高い……あり得ない、あり得ないわ……』


 遊戯において絶対的な力を持つ遊戯の女神エーデルワイス。

 そのエーデルワイスは遊戯で負けたのだ。ただ負ける以上の屈辱を味わったエーデルワイスだが、何故かそれを当然のことのように受け入れている自分もいる。


 神の格が、相手の方が上だった。だから、その力が通用しなかった――それをエーデルワイスは本能的に感じ取ったのである。


「まあ、なんでもいいけど……約束は守ってもらう」


『……えぇ、敗者は勝者に服従。そういう約束だったものね。……というか、今更だけどとんでもない契約よね!! 神権がないとか!!』


「異世界召喚して勇者を駒扱いした……人として扱わなかったお前に相応しい処分だと思うけどな。じゃあ、エーデルワイス。今から内務省に転移させるからそこで大人しくしておけ。詳しい処分の内容はこっちの処理が終わり次第通達する」


 時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを開き、その中にエーデルワイスを蹴り飛ばす。

 その光景はエーデルワイスと魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスの戦いと共に全世界に放送され……全世界に女神の敗北を告げた。



「さて……戦いを終えたら戦後処理だな」


 戦争を終えた無縫達は早速戦争の被害状況の確認を行った。

 これは戦争の全体像を把握して戦果の確認をすると共に今後のルーグラン王国の統治の参考にするためである。


 ルーグラン王国の被害は散々たるものであった。

 まず神山で祈りを捧げていたパグスウェル=グオンツを含む教会上層部の人間は全滅した。

 ルーグラン王国の王族も失踪していたブリュンヒルダ、波菜に囚われていたイリスフィア、王城に残っていた第二王子のアッシュ・ムーンライト・ルーグランを除いて死亡が確認されている。


 やはり、不意打ちであれほどの高所から落下して生存は不可能だったということだろう。

 もはや原形も留めぬ肉塊と化しており、家族であるブリュンヒルダとイリスフィアが確認を行ったものの、死体が三人のものであることを確信できるまでかなりの時間を要することとなった。

 落下地点は地獄の様相を呈しており、死者は落下地点を合わせて数千にも及ぶ。瓦礫と渾然一体となったグロテスクな肉塊が風に晒される惨状にイリスフィアは幾度となく吐き気を催した。


 白花神聖教会に傾倒して狂ってしまっていたものの、父王オルティガも、母妃アリスティアも、兄王子オーブリアも大切な家族だ。

 そんな彼らの変わり果てた姿を目の当たりにしてイリスフィアは泣き崩れ……ブリュンヒルダもまた涙を流した。


 そんな地獄の如き惨状を創り出した張本人――逢坂詠はというと「もうここには用はない」と言い残して大日本皇国に帰国した。

 彼に遅れること、各国勢力もそれぞれの世界に帰還を果たしており、現在、ルーグラン王国に残っているのは無縫、惣之助、内務省の一部役人、魔王テオドアと宰相シトラスのみである。


 戦争の死者数は、非戦闘員の一般人だけで数万に達した。

 ルーグラン王国の戦力――騎士団などに注目すれば、ガルフォールとセリスティスを除けば騎士数人が生き残っているだけという有様である。特に各隊の隊長達は大日本皇国連合軍側が要殲滅対象にあげたことから全滅に追い込まれており、ルーグラン王国の軍事力は著しく弱体化している。


 また、王城勤めの使用人や文官達も黒崎波菜の虐殺によりかなりの数が殺害されており、軍事面だけに留まらず王城の機能そのものも壊滅状態に陥っていた。

 ダメージを免れたのが厨房のコック陣と図書館だけだったあたり、その被害規模は計り知れないものである。……まあ、波菜の怒りを考えればこの程度で済んだだけマシという捉え方もできるが。


 そして、ネガティブノイズについて。大日本皇国に攻め込んでいたアリオト率いるネガティブノイズの軍勢はルーグラン王国王都の戦いで全滅した。

 その遺骸はベークシュタインが持ち帰った一部を除いて今なお街に残り続けており、街中に転がる騎士達の死体と共に戦争の生々しさを今に伝えている。


 『真の神の使徒』も惣之助の戦いで全滅……したのだが、彼女達はある種のゴーレムのような存在であったため、傷の修復を行うと共に魔力供給権となっていた核の部分を錬金術を駆使して作成し、オルトリンデを含めて何体か復活している。

 残る使徒達も遺骸の回収を終えており、復活させることも可能な状況になっている。

 エーデルワイスが倒されてしまったからか、オルトリンデ達に敵意はなく、今は無縫達の指示に従っていた。王都の被害状況を取り纏めたのもオルトリンデである。

 ……まあ、敵意は無かったが、改めて被害状況を目の当たりにして無縫達に非難の視線を向けてはいたのだが。


「エーデルワイスの捕縛、白花神聖教会の壊滅――ここまでは想定していましたが、それに加えて【七皇】アリオトまで仕留められたのは嬉しい誤算でしたね」


「……まあ、気持ちは分からない訳でもねぇが、第一王女殿下や第二王女殿下の気持ちを理解してもらえねぇか?」


 オルトリンデ達が情報収集を終えて王宮に戻った頃、王宮内の応接室には、無縫、ヴィオレット、シルフィア、惣之助、龍吾、テオドア、シトラス、ブリュンヒルダ、イリスフィア、フレイヤ、プリュイ、波菜、ガルフォール、セリスティスが集まっていた。

 今後のルーグラン王国の統治について決めるための重要な会議が行われているこの部屋に美雪が花凛の助力を得て突撃をかまそうとしていたが、部屋の護衛を任された二人の『真の神の使徒』に阻まれて入ることができずにいるようである。

 美雪の声が五月蠅過ぎて、無縫は思わず部屋に音を遮断する魔法を貼ってしまった。


「ガルフォール騎士団長、分かってないですねー。勿論、わざとやっているんですよ」


「……本当にさぁ、お前性格悪いよ、無縫」


「全てはルーグラン王国と白花神聖教会の自業自得。元を糺せば俺達を召喚したことが間違いだ。……さて、ルーグラン王国の今後についてですが、大田原総理、テオドア陛下、シトラス宰相閣下、俺から概要を話しても大丈夫でしょうか?」


「ああ、いいぜ」


「よろしくお願いします、無縫さん」


「私にはお断りする権利はありません。テオドア陛下と大田原総理がそう仰れるのであれば是非」


「では、僭越ながら。……ルーグラン王国の問題は二つ。一つはルーグラン王国の戦力低下です。騎士団は壊滅しており、他国からの攻撃に晒されれば国は間違いなく滅びを迎えるでしょう。もう一つは政治能力の低下。国王や、大臣をはじめとする国を支える文官達は波菜さんの八つ当たりで死亡し、内政も外交も現在の状態では不可能です。また、使用人も壊滅状態で、王族の身の回りのお世話も容易にできない状況になっています。まあ、そもそも使用人達が仕えるべき王族も数を大幅に減らしているので負担も減っているんですけどね。……どちらにしろ王族は今回の責任を取る形で公開処刑をするつもりだったのでどの道似たようなものです。白花神聖教会の力を徹底的に削いで再発防止を徹底したいのですから、あの邪教に毒された狂信者なんて邪魔にしかなりませんからね」


「……無縫様、正論ですが……もう少しお二人の王女殿下を労っては……」


「セリスティスさんのお願いでも嫌です!」


 満面の笑みでセリスティスの頼みをバッサリ切り捨てる無縫。

 やはり、ルーグラン王国や白花神聖教会の行いはよっぽど腹に据えかねていたのだろう。


「で、俺は今のルーグラン王国に自己統治能力はないと判断します。いずれはイリスフィア王女殿下に女王となって頂き、国を正しい方へと導いて行ってもらいたいものですが……ルーグラン王国が異世界召喚を強行したこと、クリフォート魔族王国に戦争を仕掛けたこと……この二つの罪は消えず、こうした過ちを再び繰り返す危険性は残されています。そこで、クリフォート魔族王国にはルーグラン王国の後見、監督国なって頂きたいのです。地球の用語を使うのであれば、保護国といった扱いでしょうか? 勿論、植民地という意味合いではありません」


「まあそれが順当だろうな。……シトラスの仕事が増えることになるが」


「ご安心ください。既にルーグラン王国改革プランの構想は固まりつつあります」


「おっ、おう……本当にうちの宰相様は優秀だな」


「シトラス殿、よろしく頼む。……イリスフィア、色々なものを背負わせてしまい申し訳ない」


「ブリュンヒルダお姉様……私はやっぱりお姉様が国を治めるべきだと思います」


「私は一度国を捨てた……召喚勇者達の手を血で汚させたくないという理由があったとはいえ、王女という役割を投げ捨てて姿を眩ませている。それに、召喚の存在を知りながら私は止めれなかった……いや、そもそも止めようとしなかった。波菜殿の言う通り、私にも罪の一端はある。その罪に向き合ったイリスフィアと違い、私は逃げた。……そんな私に女王が務まるとは思えない。私は王族の身分を捨て、己を鍛え直すつもりだ。それに、外の世界を歩くことで見えてくることもあると、フレイヤ殿とプリュイ殿のおかげで気づくことができた」


「ブリュンヒルダ殿、もしよろしければお二人のご友人と共にクリフォート魔族王国にお越しください。お三方ほどの猛者であれば、クリフォート魔族王国に良い刺激を与えてくれることでしょう」


「……お前は相変わらずだなぁ、シトラス。まあ、俺も同意見だ」


「そうだな……フレイヤ殿、プリュイ殿、私はいいと思うのだが」


「同意見よ。三人で旅……楽しそうね」


「同感です。……庚澤無縫さん、後で時間をとってもらえませんか? 一つお話したいことがあります」


「分かりました。では、会議が終わり次第……さて、もう一点気になるお話があります。既に波菜さんから話は聞いていますが、時風燈里先生について何か知っていますか?」


「……そのお話は薗咲晴香様が詳しいと思います。私は『真の神の使徒』の皆様が怪しいと思っていましたが」


「我々はこの件に一切の関わりがありません。時風燈里はエーデルワイス様の地位を脅かす『豊穣の女神』として着実に立場を強めており、排除に動くべきなのではないかという話がありましたが、エーデルワイス様がご命令を下す前に消息を絶っていました」


「……オルトリンデさんの言葉に嘘はないんだよなぁ」


「となると、時風燈里は別勢力に連れ去られたか……しかし、魔族でもエーデルワイスでもないとなると、誰じゃ?」


「というか、これって時風燈里の自作自演じゃない?」


「まあ、俺もシルフィアと同意見だ。あの人胡散臭かったしなぁ……晴香さんに話を聞けばなんかヒントは掴めるだろ」


「無縫君は前々から疑っていたね……こっちも念の為に監視はしていたんだけど、あちらが上手だったということか。しかし、仮に帰還する方法があったなら何故すぐに自分だけでも逃げ出さなかったのか……何らかの目的があったのだろうか?」


「情報が少ない状態で考察しても仕方がない……まあ、でもあの人とはまた会う気がするんたよなぁ。今度は敵として」


「……嫌な予感じゃな。無縫の予感は当たるから軽々しく口にしないでもらいたいものじゃが」


「オルトリンデさん、晴香さんとの話の場を用意してもらいたい。……美雪と花凛に気づかれないようにセッティングしてくれ」


「……承知しましたが、その、よろしいのですか? 美雪様は無縫様のことを……」


「もうどうせ二度と(・・・)会うことはないんだ。今更会って話すこともないよ。……俺個人としてはもう終わった話だからな。賭けの対象にしたのは申し訳ないと思っていたが、それも街の安全を確保したことで十分償いはできただろう? 元気にやっているみたいだし問題はないさ」


「……そういうお話では」


「それにさぁ、異世界召喚という不幸に巻き込まれたとはいえ、彼女達は一般人だ。……今回はイレギュラーであって、本来は関わるべきじゃないんだ。俺達のような人間とはね」

◆ネタ解説・二百三十一話(ep.232)

・保護国

 条約に基づき、主権の一部を代行させることによってその国から保護を受ける国のこと。国家の主権の有無で植民地と異なるという明確な部分はある模様。


◆キャラクタープロフィール

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・オルトリンデ

性別、女。

年齢、七千九百万……歳。

誕生日、一月十三日。

血液型、A型RH+。

出生地、神域。

一人称、私。

好きなもの、特に無し。

嫌いなもの、神の意思に沿わぬもの。

座右の銘、特に無し。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

職業、『真の神の使徒』。

主格因子、無し。


「美しい銀色の髪と一切の感情を宿さない底冷えするほどの冷たい青い瞳が特徴。戦乙女(ヴァルキューレ)を彷彿とさせる装備を整え、背中には純白の大きな翼を持っている。白花神聖教会を裏から操り、ルーグラン王国を支配してきた使徒の一人。王族に対する洗脳も平気で行う感情のない人形のような存在に思えたが、庚澤無縫や逢坂詠などの非道な行いに憤りを覚えるくらいには真面よりの感性を持っている模様」

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