相手が【七皇】なのに、あまりにも七人の魔法少女達が強過ぎて呆気なく決着がついてしまった件について……。
『――【黄昏の斬翼】! 【幻夢の双剣】』
夜を溶かし込んだような黒青色の翼を顕現し、大きく飛翔したアリオトはネガティブエネルギーを収束することで二振りの剣を生み出した。
その戦闘スタイルは奇しくも『真の神の使徒』に酷似しているが……。
『【七皇】の力はこんなものじゃねぇぞ!! 権能『玉衡』ッ!!』
アリオトが雄叫びを上げると同時に、その身体がノイズが走ったようにブレて七つに分裂する。
七体のアリオトはそれぞれ双剣を構えると、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス、魔法少女ヴァイオレット=レイ、魔法少女シルフィー=エアリアル、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァ、魔法少女エルフィン=ブラダマンテ、魔法少女プリンセス・マスケット、魔法少女マイノグーラ・ナイトメアに襲い掛かった。
「――ッ!? 分身か!? 小癪な戦法をッ!!」
数的優位を一気に破壊したアリオトに魔法少女ヴァイオレット=レイが悪態をつく。
「過重力圏域! 【魔王の一斬】じゃ!!」
「妖精の天嵐だよッ!!」
迫り来るアリオトに、魔法少女ヴァイオレット=レイが重力操作の魔法を発動して地面に叩きつけて魔王技を叩き込み、魔法少女シルフィー=エアリアルが固有魔法の『風魔法』を発動し、無数の竜巻をアリオト目掛けて放つ。
特に魔法少女ヴァイオレット=レイの攻撃は確実にアリオトの胸部を貫いていた。ネガティブノイズも生物で言うところの心臓に当たるコアは胸部にあることが多いので確実にこの一撃で仕留められたと確信していた……が。
『『――全然効かねぇな!!』』
魔法少女ヴァイオレット=レイに倒された筈のアリオトと魔法少女シルフィー=エアリアルの竜巻によりダメージを負った筈のアリオトが同時に薄寒い笑みを浮かべた。
それと同時に破壊された筈の胸部が修復され、魔法少女シルフィー=エアリアルの竜巻により負ったダメージも回復していく。
「――不死身なの!? そんなのあり得ないよ!!」
「いや、不死身じゃない」
魔法少女シルフィー=エアリアルがアリオトが不死身だと確信して驚愕し、魔法少女ヴァイオレット=レイ、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァ、魔法少女エルフィン=ブラダマンテ、魔法少女プリンセス・マスケット、魔法少女マイノグーラ・ナイトメアにも動揺が走る中、ただ一人魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスだけは冷静だった。
「『玉衡』の効果を【万象鑑定】で読み解いた。どうやら、敵対する相手の数だけ自分を複製する能力ということらしい。そして、互いが互いを定義し合うことでその存在を維持している」
「難しい言い回しをしないで頂戴。結論から言いなさいよ!!」
「要するに、全員同時に倒さなければアリオトは倒せないってことだ」
『――フハハハ! まさかあっさり見抜くとは流石は魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスだ! だが果たしてできるか? 俺を同時に倒すことなど!!』
「できるさ……ここにいる魔法少女は優秀なんだ……唯一懸念事項があるとすれば、一人だけ未熟な奴がいることだけどな」
「――ッ!? 何よ!!」
「誰も一言も茉莉華、お前だと名指ししていないけどなぁ……自覚あるの?」
「本当にムカつくわね!! タイミング合わせればいいのでしょ? 行くわよ!!」
今度は魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス、魔法少女ヴァイオレット=レイ、魔法少女シルフィー=エアリアル、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァ、魔法少女エルフィン=ブラダマンテ、魔法少女プリンセス・マスケット、魔法少女マイノグーラ・ナイトメア――七人の魔法少女達が一斉に動き出す。
『ギミックがバレたところで倒せるほど俺は甘くねぇんだよ!! 『『『『『『絶望の奔剣!!』』』』』』』
「その言葉、そのままお主に返すとしよう。我の超重力には抗えぬのじゃ!! 過重力圏域! 【魔王の一斬】じゃ!!」
「大いなる風よ! 万物を切断する回転刃となれ!! 荒妖の嵐回刃!!」
「水縛の誘手! からの、【収束波動砲】!!」
「――ダークネス・チェンジ! 『騎士魔法』・紅滅の劫火! 火焔斬飛!!」
「空飛ぶ砲台展開!! 一斉掃射!!」
「混沌より生まれ出る触手よ! 冒涜的な咆哮と共に拘束せよ! 混沌の抱擁! 【太極・円環の蛇剣】」
「覇霊氣力を濾過し、新たな段階、神霊覇気へと昇華させるッ! 【限界突破】! ――【勇者技奥義・勇聖大破斬】!! 【魔王技奥義・魔闇大破斬】!! ――【太極・混沌御中】!!」
魔法少女ヴァイオレット=レイは再び超重力でアリオトを拘束し、「絶望の奔剣」がその身に到達する前にコアを一撃で切り伏せた。
魔法少女シルフィー=エアリアルは風を収束させて巨大な円盤を形成――ナノメートルサイズという微小な刃状に変化した風の刃が容赦なくアリオトの身体を両断する。
魔法少女プリンセス・カレントディーヴァが構えた波動砲から放たれた波動エネルギーの奔流はアリオトのコア諸共上半身を吹き飛ばした。
闇堕ちモードを発動して魔法少女ダークネス=ブラダマンテとなった魔法少女エルフィン=ブラダマンテが『妖精魔法少女の細剣』に炎を纏わせると「絶望の奔剣」を回避しつつコアに刺突を放って一撃で破壊してみせた。
無数の砲台を展開した魔法少女プリンセス・マスケットは迫り来るアリオトに狙いを定めて四方八方から砲撃を行う。無数の砲台の雨に流石のアリオトも耐え切れずに身体のほとんどを吹き飛ばされた。
魔法少女マイノグーラ・ナイトメアは固有魔法『黒魔術魔法』で顕現した混沌の触手でアリオトを拘束し、『聖魔混沌槍ケイオス・ハウリング』から理解を拒絶するほどの膨大な混沌としたエネルギーの奔流を解き放ち、逃げ場を奪ったアリオトを消し飛ばす。
そして、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカは【限界突破】で強化した上で神霊覇気まで覇霊氣力を濾過し、【太極・円環の蛇剣】を超えるエネルギーの奔流を解き放つ。
寸分の狂いもなく同時に七人の魔法少女達の攻撃がアリオトを貫く。
権能『玉衡』によって保証されていた不死性が崩壊し、世界を脅かしていた【七皇】の一角はこの瞬間、落とされることとなった。
やはり、【七皇】といえどもこれだけの強力な魔法少女達を一度に相手するのは厳しかったということなのだろう。
こうして、アリオトの死は確定した……が、戦いはまだ終わっていなかった。
突如としてアリオト達の死体がネガティブエネルギーへと変化し、大規模な爆発を生じさせる。
ネガティブノイズの支配種の奥の手――「絶望の大爆発」が発動したのだ。
爆発のエネルギーはルーグラン王国の王都を丸ごと吹き飛ばすほどの理解を超えた圧倒的なものだった。
普通の魔法少女であれば成す術なく吹き飛ばされて命を落とすことになるだろう。
死してなおただではやられないという【七皇】の意地の結晶と呼ぶべき技である。
自らの命と引き換えに少なくとも敵対していた魔法少女の命は確実に奪えると考えれば、この死なば諸共の必殺技も脅威と言える。
【七皇】が一人も倒されたことがなく、その技の存在を魔法の世界フェアリマナが把握していないため、奇襲性能も申し分ない。
魔法少女かいるということは近くには妖精もいる可能性が高く、他の住民も無差別の爆発に巻き込むことができる可能性が高い……死にかけの命で魔法少女との痛み分け以上の戦果が見込める一撃と考えれば、実際には消極的な死なば諸共の攻撃ではなく、十分戦略に組み込むことができるほどの切り札になり得る攻撃手段であると言えるのだ。
が……それは、通常の魔法少女の場合だ。
この場には例外中の例外――「絶望の大爆発」の天敵と呼ぶべき魔法少女がいたのである。
「操力の支配者」
あらゆるエネルギーを自在に操る悪魔の如き固有魔法を発動した魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスは発生した七つの爆発のエネルギーを全て制御下に置き、エネルギーを遥か上空へと打ち上げる。
そのエネルギーは惣之助と交戦していた『真の神の使徒』達を巻き込んで大爆発を引き起こし、この攻撃で『真の神の使徒』達は全滅に追い込まれた。
ルーグラン王国と白花神聖教会の戦力はほとんどが撃破に追い込まれ、残る戦力は大日本皇国側に降伏した。
『真の神の使徒』は惣之助と魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスによって全滅に追い込まれた。
【七皇】アリオトも撃破され、残るはネガティブノイズの残党のみ……。
だが、戦争は終わらない……まだ、最後の敵との戦いが残っているからだ。
『真の神の使徒』達を滅ぼされ、表舞台に出て来ざるを得なくなったエーデルワイスが遂に戦場に降り立つ。
◆キャラクタープロフィール
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・アリオト
性別、男。
年齢、四百八十三万……歳。
誕生日、十一月五日。
血液型、S型Rh-。(フェアリマナの妖精の血液型はF型、S型、X型のいずれかである)。
出生地、魔法の世界フェアリマナ。
一人称、俺。
好きなもの、鍛錬。
嫌いなもの、魔法の世界フェアリマナの住人、魔法少女。
座右の銘、武力の世界。
尊敬する人、特に無し。
嫌いな人、特に無し。
職業、【七皇】。
主格因子、無し。
「ネガティブノイズを支配する【七皇】の一角。フェアリマナの住人に殺意を抱いていると共に、妖精達から力を得た魔法少女に対しても憎悪している。ネガティブノイズの軍勢を率いて地球に多大な被害を出してきたが、規格外な魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス達――七人の魔法少女軍団には手も足も出ずに敗北した。相手が悪過ぎたというだけであり、別に彼が弱いという訳ではない」
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