あれだけ真の神の使徒との戦闘を引き延ばしたのに、たった一撃で決着が付くなら引き延ばしする必要って無かったんじゃ……。
ルーグラン聖戦戦争は、庚澤無縫によるネガティブノイズの軍勢の転移により新たなステージに突入することとなる。
大日本皇国を襲っていた総勢八十万ものネガティブノイズがルーグラン王国の王都の各所に現れたのである。
【七皇】のアリオトは一気に周囲の景色が変化して困惑していた……が、複数の魔法少女の気配や、謎の天使のような集団と対峙している男――庚澤無縫から感じ取った魔法少女の気配から、即座に殲滅を決定し、ネガティブノイズ達に指示を出す。
『この場にいる者達を皆殺しにするのだ!! 特に魔法少女!! 奴らは一匹たりとも逃すなッ!!』
アリオトの指示を受けたネガティブノイズ達の行動は素早かった。
彼らは街を徹底的に破壊し、この場の全ての命を刈り取るべく行動を開始する。当然、真っ先に彼らの餌食となるのは非戦闘員の王都の民達だ。
「――ッ!? 無縫君! とんでもないことをしてくれたわね! ……まあ、ルーグラン王国と大日本皇国を天秤にかけたら大日本皇国を取るのは当たり前の選択だけど……それでも、流石にこれは一線を超えているわ!!」
フィーネリア達は極力民間人には手を出さずに騎士達などの戦う意志のある戦力を徹底的に削る立ち回りをしていた。戦争で全く人殺しをしていない訳ではないが、それでも守るべきだと引いた一線はあったのだ。
だが、無縫の選択はその一線を無駄にする行為だった。民間人が狙われなかった戦場は無差別に人が死ぬ地獄と化したのである。
「――ッ!! ミリアラさん! マリンアクアさん! 民間人を守るわよ!! ここからネガティブノイズの殲滅に注力するわ」
「承知したわ。――『空の門』。……ワーブウェポン・流星降弾」
「勿論よー! 白ワーブウェポン『渾天の翼』!」
フィーネリアはこの状況でも民間人を守ることを宣言、ミリアラとマリンアクアに指示を飛ばした。
ミリアラとマリンアクアもフィーネリアの願いに応えてそれぞれ白ワーブウェポンを使用する。
ミリアラは無数の門を展開し、その中にワーブルの弾丸を打ち込むことで次々と奇襲攻撃を仕掛けてネガティブノイズを殲滅に動く。奇襲性が高い一方で攻撃そのものはノーマルのワーブウェポンに頼らざるを得ないが、それでも下級種のネガティブノイズであれば一撃、中級種のネガティブノイズも数撃の攻撃で撃破してみせた。
一方のマリンアクアも『渾天の翼』を展開して天使のような白い翼を生やす。
無数の羽を飛ばすと同時に、その羽へと瞬間転移ができる力を駆使して戦場を縦横無尽に動き、ネガティブノイズ達を翻弄しながらノーマルのワーブウェポンである『凝夜閃刃』で確実に一体ずつ撃破に追い込んでいった。
「……さて、私も使おうかしら。ワーブリングシステム解除」
ワーブル体への換装を解き生身に戻りつつ、フィーネリアは「これもまた、巡り合わせなのかしら?」と小さく呟いた。
シルフィアから魔法少女の力を得た時にはネガティブノイズと戦うことなど想定もしていなかった……が、今思えば、あの時、対ネガティブノイズの力を受け取った時から運命が決まっていたのかもしれない。
「――変身! ワーブリングシステム起動!!」
フィーネリアは魔法少女プリンセス・マスケットに変身した直後にワーブル体へと換装する。
これにより、右手に白ワーブウェポンである『赫霆剣』を、左手に『白銀の魔杖』を構え、魔法少女の魔法とワーブウェポンの併用を可能になったのだ。
「空飛ぶ砲台展開!!」
固有魔法の『魔銃魔法』によって無数の砲台を展開したフィーネリアは砲台を操ってネガティブノイズへの一斉攻撃を開始する。
砲台から放たれた極太の青い光条は下級種だけでなく中級種のネガティブノイズすらも一撃で消し炭にして、上級種のネガティブノイズにも大きなダメージを与えるほどの圧倒的な威力を秘めていた。
運良く砲撃から生き延びたネガティブノイズも斬撃を振るうことで雷鳴が轟く範囲に赫雷の斬撃を降らせる『赫霆剣』による二撃目によって確実に仕留められる。
二種類の攻撃を生き延びれるような少なくとも上級種の中にもいないようだ。まだまだ数という点では優っているネガティブノイズだが、その数も徐々に削られ、いずれは全滅に追い込まれるだろう。
それほどまでにフィーネリア達の士気は高く、彼女達には火力も勢いもあった。
◆
ネガティブノイズという第三勢力の出現により、戦場は大きく形を変えた。
無差別に攻撃を行うネガティブノイズと登場は超然とした態度を取っていた真の神の使徒達を大きく動揺させた。
神の使徒である彼女達は神山を切り落とすほどの戦力が敵陣営にいる現状でも自分達の敗北を欠片も疑っていない様子だが、たった数手で戦場を掻き乱した庚澤無縫には危機感を抱いているらしい。
「……おっと、またしても電話だ。ここまで待ってくれたんだし、もう一回ぐらい待ってもらえないかな?」
「――ッ! これ以上待つつもりはありませんよ、イレギュラー!! これ以上、不都合なことをされては構いません」
巨大な白銀の双大剣を構えると同時に銀翼を羽搏かせて臨戦態勢を取る真の神の使徒達。
これ以上、厄介なことを持ち込まれてたまるものかと一斉に銀羽を弾丸の如く射出する。
「――ッ!? つまんねぇこと言うなぁ……後、遅ぇよ。欠伸が出ちまう」
恐るべき連射能力と威力を秘めた飛来する銀羽は無数の真の神の使徒達の翼から放たれ、それはまるで銀色の嵐のようだった。
しかし、それほどの濃い弾幕も無縫には通用しない。覇霊氣力を駆使した見気と「紙舞一重」を組み合わせて一切無駄の無い動きで攻撃を躱してしまう。
まだまだ余裕綽々といった様子で、携帯電話を操作して怒涛の攻撃の中でも平然と着信を受けていた。
「こうなれば、広範囲攻撃の大魔法で一気に――ッ!?」
だが、オルトリンデ達は行動に移せなかった。突如として真の神の使徒の一体が殺害されて天空から地上へと落下する姿を目撃したからだ。
その上半身にはあまりにも巨大な穴がぽっかりと空いていた。
「無縫、そこの天使共の相手は俺がしよう。電話に対応しつつ、王都に召喚された【七皇】を始末しに行くといい。強さの優先度で言えば、彼女達よりもあちらの方がよっぽど厄介だ」
「――ッ! 了解です。大田原さん、後は頼みます」
無縫は魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスに変身して【七皇】アリオトと魔法少女プリンセス・カレントディーヴァが対峙する王都の北区画へと向かう。
「――ッ!? 逃がすものですか!」
オルトリンデ達は無縫に追撃を仕掛けようとする……が、結果的にオルトリンデ達は魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスの戦線離脱を見逃さざるを得なくなった。
高速で飛んでくる小さな石と、その石によって胸元から腹部にかけて巨大な風穴を開けられて地面へと落下する同胞――目の前の脅威に目を向けざるを得なくなってしまったのである。
「つれないな……俺では相手にもならないと、力不足と言いたげな態度。まあ、無縫をどうにかしたい気持ちも分からないでもないが、戦場で自分達の命を脅かしかねない相手に対する態度ではないと思うが」
「――何をしたのですか」
「何、ただ小石を投げただけだよ。君達のような羽虫を落とす程度、そこら辺に落ちている小石で十分ということだ」
「……あり得ない。我々の身体は神により創造されたもの。たかが小石如きに破壊されることなどあり得ません!」
「ああ、ただの小石ならな。だが、俺には特殊技能【獅子修羅道】がある。『武器の性能を一倍から最大で一万倍まで強化する』スキルがな。……そして、このスキルは俺が武器だと解釈したものの性能を強化できる。ただの小石、他人の拳や魔法、自然現象に至るまで……。ただの小石であっても強化すれば砲弾以上の威力となる。どれだけ防御に優れようと、一万倍まで強化した小石を投げつけられたら身体も消し飛ばされる……あのように、な」
オルトリンデ達は惣之助の言葉を否定しようとした……が、できなかった。
自分達が神によって作られた上位存在である。人間如きに負ける筈がないと信じようとしても、無惨に魔力供給源諸共上半身を消し飛ばされた亡骸が否応に彼の強さを思い知らせるのである。
「さて……君達も小石如きでやられるのは立つ瀬がないのだろう。特別に我が刀『獅子刀・百獣護国』にてお相手しよう」
惣之助は新生最上大業物二十四工の一つ『獅子刀・百獣護国』を抜き払う。
その瞬間、爆発的な覇霊氣力が嵐の如く吹き荒れて無数の黒い稲妻を迸らせる。
黒い稲妻は神霊覇気の段階に至り、その色を純白に染め上げた。
白稲妻と呼ぶべきものは大地を、天を、あらゆる方向に発散され、稲妻に打たれた地面は砕け散り、空は白い稲妻が迸ると同時に雲が裂かれ、天が二つに割られてしまう。
「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない!! こんなこと、あってはならない!!」
「否定して目を逸らすか……所詮、木偶の坊は木偶の坊……神の玩具ということか。これは、随分とつまらない戦いになりそうだ。……これなら、俺がしゃしゃり出ずとも無縫一人ですぐに片付けられただろうな」
惣之助は『獅子刀・百獣護国』を構えると同時に姿を消す。
次の瞬間、オルトリンデの真横に現れた惣之助は、惣之助の姿を完全に見失っているオルトリンデに一太刀浴びせ、一撃でその命を断ち切った。




