シトラスvsセリスティスという女性同士のマッチアップはシトラスが〇〇を召喚したことでシトラスの圧倒的な優勢に傾きそうです。さて、〇〇に入るものとは一体!? 正解は貴方自身の目で確かめよう!
「……なんつーか、流石に人間共が少し可哀想になってくるな」
大日本皇国連合軍とルーグラン王国の戦争は大日本皇国連合軍の圧倒的な優勢で進んでいる。
基本的に非戦闘員の民間人への攻撃は厳禁という全面戦争という割には明らかに甘い方針を打ち立てており、人間達からの度重なる侵攻を防いできた対人間族魔国防衛部隊の隊長として大日本皇国側やロードガオン側が提唱したこの方針にはオズワルドも思うところがあった。
……が、そのような考えは全面戦争勃発からそれほど時間が経たないうちに粉々に吹き飛ばされることになる。
真っ二つにされて王都に落下する神山と、破壊される街。嘔吐を落とすだけなら明らかに過剰な戦力による騎士達に対する虐殺。
「民間人を殺さないのであればそれ以外を殺せばいい」と言わんばかりに国の防衛戦力を丸々削り取る勢いで暴れ回る各陣営の戦力を見ていると、オズワルドも「流石に人間達が可哀想だろ」と彼らに同情するようになってしまった。
戦争という非現実が生み出すアドレナリンの爆発、まるで酔っ払った熱がオズワルドの中から急速に冷めていった。しかし、だからといってここで戦いを止めるという選択肢はない。
目の前にはオズワルド達に向かって無謀にも特攻を仕掛けてくる哀れな騎士達がいるのである。
「鸑鷟飛斬!!」
「――纏雷長剣ッ!! 飛雷閃ッ!!」
オズワルドが紫色の鳥の形をした斬撃を飛ばす中、オズワルドの相棒であるヴィクターは雷を纏わせた自身の背丈に匹敵するほどの長剣に雷撃を纏わせて大立ち回りを見せていた。
太刀を振るう度に空へと雷撃が打ち上がり、降り注ぐ雷が遠く離れた騎士の身体を焼き尽くす。
近づけば太刀に薙ぎ払われ、遠くに陣取れば降り注ぐ雷によって感電死する。
「飛雷閃」は近遠共に隙のない強力な魔法だ。「やっぱり、ヴィクターと一緒だと心強いなぁ」と思いつつ、オズワルドは心に生じた同情を振り切って剣を構え直す。
オズワルドとヴィクターが騎士達相手に実力を見せつける中、逢坂詠の弟子となったレイヴンも彼らに負けない活躍を見せていた。
「流石に師匠の剣は使えないでござるが……いくらでも戦い方はあるでござる」
覇霊氣力を全身に薄く纏ったレイヴンは「瞬閃走」を駆使して狙いを定めた騎士の目の前に一気に肉薄する。
一瞬にして距離を詰められたことに驚愕しつつも騎士が剣を振り下ろそうとする中、レイヴンは得物である備前長船を鞘から抜くこともなく無手で構えを取った。
「その剣を抜かずに戦おうとは、騎士である俺を莫迦にしているのか!! そのまま切り裂かれて死ねッ! 魔族!!」
「――浸透覇掌、でござる」
剣がレイヴンの頭上に振り下ろされる前にレイヴンが右の掌を目の前に突き出す。
次の瞬間、騎士はまるで暴風に吹き飛ばされる木の葉のように遥か彼方へと吹き飛ばされた。レイヴンが決して触れることがなかった鎧にはまるで内部から破壊されたように外側に向けて激しい爆発の跡のようなものが刻まれ、ツルツルだった鎧の装甲がボコボコになってしまっている。
あれだけの威力の攻撃をその身に浴びたこともあって吹き飛ばされているその騎士はすでに絶命してしまっていたようだ。近寄った仲間の騎士が必死に呼びかけをしても決して目を覚ますことはない。
「――ッ!? 何をしたッ! 魔法か!?」
「覇霊氣力を身体の内部に浸透させて、内部破壊を引き起こしたでござる。吹き飛ばしたのは覇霊氣力を体外に流すことによって発生する衝撃波を利用したでござる。どちらも武術の勁の応用みたいなものでござるね。……まあ、予想していた通り、この程度なら刀抜きでもなんとかなりそうでござる。逢坂殿に比べたら、この程度止まって見えるでござる!!」
レイヴンのあからさまな挑発に乗り、騎士達は次々とレイヴンに斬り掛かる。だが、誰一人としてレイヴンに傷を刻むことはできなかった。
「紙舞一重」と覇霊氣力の応用技術である気を読む技術――見気を応用して騎士達の攻撃を完全に見切って最小限の動きで避けつつ、次々と「浸透覇掌」を打ち込んでいく。
レイヴンにとって戦いは、最早ただの作業と化していた。
◆
「特注式ワーブウェポン・狂乱惑刃! やっぱり手に馴染むっすね!! 最高っす!!」
「特注式ワーブウェポン・破壊砲鎚!! 砲撃モードですぅ!! 飛燕弾ッ!!」
「なんなんだ!? この魔族達!? ――いくらなんでも強過ぎるッ!!」
レイヴンが強さを見せつける中、同じ『頂点への挑戦』のAブロックに参戦したミリアとシエルも負けてはいない。
まさに変幻自在――身体のあらゆる場所から瞬時に刃を取り出して時に敵を切り裂き、時に刃を飛び道具のように投げて騎士達を攻撃する。
その高い性能と形態変化能力と引き換えに刃そのものの耐久性は下がっているが、刃の切れ味は極めて高く、騎士達の鎧を容易く貫通して騎士達の身体に深々と傷を刻みつけていた。
ミリアもシエルも装備は軽装で、騎士剣を浴びせればすぐに撃破できそうな見た目だが、実際は二人がワーブル体に換装しているため身体能力も肉体強度も大幅に上がっており、更に致命傷を浴びても換装しているワーブル体が代わりに破壊されるだけであり、本体は無傷のままである。
迫り来る容易に分厚い金属の鎧を貫通する立方体型の弾丸と変幻自在の斬撃に恐怖を覚えつつも、一撃でも当てれば大きく削ることができるという幻想に囚われて武器を振るう騎士達。
騎士達はまだ勝利への希望を失ってはいなかったが、客観的に見れば勝敗はもう決したも同然だった。
「……ん? 通信みたいっすね」
「あっ、私が出ますぅ!」
「助かるっす! よろしくお願いするっす!」
シエルが破壊砲鎚を戦鎚モードに切り替えて騎士達を吹き飛ばしつつ、ワープウェポンに仕込まれた通信機を操作して素早く通信を繋げる。
戦闘よりも通信の方に重きが置かれ、ながら戦闘になってしまうが、それだけ注意が疎かになった状態でも騎士達はシエルに攻撃を当てることができずに一方的に吹き飛ばされていた。
騎士達と、ミリアとシエルのコンビの間の決定的な実力の差が如実に現れた、騎士達にとっては残酷な事実が突きつけられた瞬間であったと言えるだろう。……まあ、その前から二人にボコボコにされて手も足も出ない状態だったので彼らの誇りも尊厳もとっくの昔にボロボロになってはいたのだが。
『あー、シエルさん。戦闘中に失礼します。そっちの戦況はどんな感じですか?』
通信の相手は二人にとって恩人である豺波肇だ。今回の戦争には非戦闘員の技術者のため参加しない筈だが、果たしてどのような意図があっての連絡なのか? と疑問に思いつつもシエルは正直に近況を伝えることにした。
「一方的な戦闘が続いていますぅ。……主要な戦力も無縫さん達が相手取っていますし、私達魔族も雑兵処理しか仕事がないくらいですから、このまま行けばすぐに戦争は終わると思いますよぉ〜」
『……そうですか。折角、内務省秘密開発部門で開発した国産のワーブリス兵のお披露目の機会になることを期待していましたのに』
「……はい? 何仰っているんですぅ? 私の聞き間違いですよね! 国産のワーブリス兵ってお話はぁ」
『いえ、確かに言いましたよ。最近完成したばかりなので、どこかで実際に戦わせてデータを取りたいと思っていました。今回の戦争はいいタイミングだと思ったんですけどね』
その言葉にシエルは戦慄を怯える。肇は優秀な技術者で、シエルもシエルの親友であるミリアも大きな恩を受けている……が、それはそれ。
肇は明らかに倫理観が欠如しているマッドサイエンティストの一面を度々覗かせている。まるで天才の頭脳と引き換えに大切な何かを欠如した状態で生まれてきたような、そんな印象が二人の中にはあった。
肇はこの戦争を実験の場というくらいにしか見ていないのだろう。そこで発生する人の生き死になどはどうでもいいことである……言葉にしてこそいないが、そんな彼の心が透けて見えるようである。
『まあ、では引き続き頑張ってくださいね。あっ、帰ってきた時にまたワープウェポンのメンテナンスをしますのでよろしくお願いします。戦闘データも楽しみにしていますので』
伝えたいことだけ伝えた後、肇は通信を切った。
シエルも側で通信内容を聞いていたミリアも「やっぱり肇さんは肇さんだなぁ」と揃って苦笑いを浮かべた。
◆
ルーグラン王国の騎士の中で最高戦力が誰かと問われた場合、男性の騎士の中ではルーグラン王国白嶺騎士団総隊長を務めるガルフォール・ハウリング、女性の騎士の中ではルーグラン王国白嶺騎士団総隊長補佐を務めるセリスティス・グレーゼバルト伯爵令嬢が挙げられる。
そんな最高戦力にぶつけられたのはこちらもクリフォート魔族王国の中核を担う二人だった。
ガルフォールと相対するのは魔王テオドア=レーヴァテイン。
本来であれば、勇者が聖なる武具でその身を固めた上で仲間達と共に挑むべき難敵だが、今回の戦争でガルフォールは確実に生きた状態で無力化しなければならない戦力であり、この不殺という条件がテオドアを縛っている。そのため本気をガルフォールに向けることはできず戦闘は拮抗状態になっていた。
一方、セリスティスと相対するのはアルビノの純魔族の女性――宰相シトラス=ライムツリーである。
ルーグラン王国側には一切の情報が存在しない謎の人物であり、魔王軍幹部や魔王軍四天王のような伝統ある役職でもない。果たして、文官の長であると思われる宰相がどれほどの強さを持っているのかとセリスティスは剣を鞘から抜きつつシトラスの一挙手一投足に注目した。
「……そういや、俺ってあんまりシトラスが戦っているところ見てないんだよな? 優れた魔法の使い手だって話は耳にしたことがあるけど……ああっ、本当に俺ってどんだけシトラスのことを知らなかったんだよ! こんなにも支えてきてもらったっていうのに!!」
「基本的には頭脳労働が私のホームですからね。デスクワークの方が得意ですが……まあ、生まれ育った環境が環境だったので自衛の手段は持っています。魔法は……別に得意でも苦手でもないですね。一通りの属性魔法は習得しています」
「……やっぱりシトラスって有能過ぎない? 俺には本当に勿体無い人材だっていうか」
「他には召喚術や剣術も多少なり心得があります。……まあ、そちらの騎士殿のような本職には劣りますけどね」
「謙遜はやめて欲しいわ。……さっきから全く隙がないわよ。本当に四天王や幹部じゃないのよね」
「えぇ。魔王陛下に貧民街で暮らしていたところを拾われて、それ以来宰相一筋です。……まあ、魔族は実力主義で力もない魔族が魔王の庇護下で権力を持つことをやっかまれて視察の最中に集団の魔族にリンチになりそうなこともありましたが……」
「……それは、許せないわね。……しかし、人間社会も魔族社会も似たようなものなのかしら? 私も女性なのに騎士が務まるのか? みたいな周りの声が弱まるまで時間が掛かったし、武勲を立てたら立てたで男性の騎士からのやっかみも多かったわ」
「その逆境の中でも騎士としての道を歩み続けた、それほど打ち込めるものに恵まれた貴方が羨ましい。……私には何もありません。何者かになりたかったのに、何者にもなれなかったこの敗北者如きに、簡単に負けないでくださいよ。――高潔なる女騎士殿」
シトラスの右側に魔法陣が出現する。
その召喚陣から現れたのは一振りの漆黒の剣――魔剣だった。
「――ッ!? それってまさか、魔剣!?」
「私は魔王の器ではありませんが、多少は魔剣を扱うことができます。歴代の魔王陛下に比べたら微々たる力しかありませんので、どうかご容赦を」
魔剣を軽く握って構え、シトラスは一切の感情が読み取れない無表情でセリスティスと相対した。




