主人公の無縫君が持っていない極神技能ことディヴァイン・スキルを三つずつ持っている能因草子と百合薗圓とかいう前作主人公達のせいで本作主人公の庚澤無縫が霞みそうなんですけど!!
「久しぶりだな……腕が鈍っていないといいが」
上空に陣取った能因草子は大学構内での戦闘で使用していた『世界樹の神杖』と呼ばれる杖を腰に帯び、無手の状態になった。
下級、中級、上級――ネガティブノイズ達がまるで波濤の如く迫り来る中、草子は異世界から帰還して以来、封印していた技能を行使する。
「【叡慧之神】!」
その技能は、異世界リブラリアで獲得した講義スキル【魔術学概説】が草子の旅の果てで度重なる成長を遂げて辿り着いた境地であり、ユダヤ教神秘主義思想カバラの基本教典の一つ『形成の書』、或いは『創造の書』から名を借りるに相応しい究極の技能――極神技能であった。
能因草子が持つ三つの極神技能、学術系技能の統合の果てに生まれたこの力には、思考超加速、万象鑑定、直列思考、並列思考、無詠唱、能力改変、未来攻撃予測の能力が含まれている。
今回の【叡慧之神】はこのうち未来攻撃予測を使用するために発動したものだ。
大量のネガティブノイズを目の前にその全ての行動を予測するべく思考超加速、直列思考、並列思考の三つの思考技能を併用し、溢れんばかりの膨大な情報を処理していく。
「【窮極之神】!」
続いて発動したのは、破壊と混沌を司る窮極の神であるクトゥルフ神話の主神アザトースを彷彿とさせる極神技能だ。
異世界アルバサルサにて獲得した【異食症】と呼ばれる特殊技能を様々な技能と掛け合わせたことで誕生した極神技能は【叡慧之神】が叡智を司るものであったのに対し、破壊を司る強力無比な力を有している。
その力は虚無崩壊、万象喰、時空間掌握、多重次元結界、無限房室から成り、今回、草子が使用する虚無崩壊は宇宙の原初の混沌――即ち世界創造に匹敵する膨大なエネルギーを生み出す能力である。
しかし、【窮極之神】にはその究極的破壊エネルギーを生み出す力はあっても制御する力はない。このままエネルギーを放出すれば、制御できない力が暴走して大惨事を引き起こしてしまうだろう。
「【創世之神】!」
しかし、草子には三つ目の極神技能――【創世之神】がある。
高次の霊または霊的な階梯圏域に位置する真なる神アイオーンの一体にして超越性の更に超越性にあるとされる先在の父を彷彿とさせるこの極神技能は創造を司る能力で、万物創造、生命創造、魂魄創造、虚無掌握、能力創造、能力複製、能力贈与、能力記憶から成る。
このうち、虚無掌握と呼ばれる能力は【窮極之神】の虚無崩壊によって生じる膨大なエネルギーを掌握する力を持っており、二つの技能を組み合わせることによって宇宙創造が可能なほどの力を完全に御することができるのである。
【創世之神】は様々な異世界で獲得した技能を解析して、技能の本質を識った【叡慧之神】がほぼ全ての技能を生贄にして生み出した力であり、まさに能因草子の旅の全てが結集された究極の力だと言えるだろう。……残り物をただ寄せ集めただけとは絶対に言ってはならない。
【叡慧之神】で敵の動きを予測、【窮極之神】でエネルギーを生み出し、【創世之神】で力を掌握してネガティブノイズ達だけを確実に混沌エネルギーで破壊していく。
その一切隙のない完璧なコンボを前に、ネガティブノイズは何もできずに消滅していった。
「流石は草子君! 私の出番は無かったね!」
このタイミングで白崎華代が合流を果たす。
地上にいる華代の手には聖剣が握られており、聖女と勇者の天職を持つ華代がネガティブノイズ達と交戦する気満々だったことは誰の目から見ても明らかだった。
「これはこれは、熾天超天使地母神様ではありませんか。折角の主役の活躍場面を、このようなモブキャラが奪って申し訳ございません」
「なんか、呼び方変な感じにグレードアップしているよね!! 後、私は主役でもなんでもないし、どう考えても草子君の方が強いよね!! 神の名を冠する三つの極神技能なんて持っているし! 絶対におかしいバイアス掛かっているよ!!」
「まあ、それは昔からだからね。気にしちゃダメだよ、白崎さん。……この辺りのネガティブノイズは草子君のおかげで全滅したみたいだけど、まだまだ結構残っているね」
「これまでも何回か侵攻があって、私も対処したことがあるけど……今回は類を見ない規模の侵攻だよね。いつもは魔法少女さん達が対処してくれているけど……」
「あー、それなんだけど……これは割と信頼できる情報筋から聞いた話だけど、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスは今異世界召喚されて大日本皇国にはいないらしい。それに、聖さんが来た時に確認を取ったけど、政府の動きがかなり鈍い。……魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスは政府高官、大田原惣之助総理とも近しい存在だからね。彼女のために、政府の中心戦力が異世界に行っている可能性は高いと思う」
「……それって主戦力がいないタイミングに侵攻を仕掛けてきたってことだよね? ……あまりにもタイミングが良過ぎないかな?」
「聖さんの考えている通り、狙われた可能性は十分にある。ここ最近、ネガティブノイズへの対処の初動が割と遅かったから、何かあったと勘付かれたのかもしれないね。まあ、だけど……もうそろそろ俺達の出番は終わりなんじゃないかな?」
無数の時空の門穴が次々と展開されていく光景を眺めながら、草子と聖は「やるべきことが終わった」と判断して地上に降り立った。
「と、ところで草子君? 折角会えたんだし、これからカフェに行かないかな?」
「……白崎さん、よくあたしがいるところで誘えるよね?」
「も、勿論聖さんも一緒にって思っているよ! ホントダヨー!」
「よく分からないけど、俺はこれからゼミがあるからね。午後のゼミ発表のために大学に戻るよ。白崎さんも仕事を抜けてきたんだよね? 帰らないと流石にまずいんじゃないかな?」
「そ、そうだね……うん」
「あっ、聖さんってこれから時間あるかな? 担当編集さんの許可もらえそうならスペシャルゲストとしてゼミに参加してもらいたいなぁって。それに、まだ光穂さんいると思うから会談の日時を決めておいた方がいいと思うんだよね」
「そうだね! あっ、担当さんへの電話、草子君に頼んでもいい? あたしよりも草子君の方が信頼されているし」
「……幽霊になってちょくちょく抜け出すからでしょ。まあ、あの担当さんは俺の小説を本にする時に出版社との顔繋ぎをしてくれた人だし、それなりに繋がりがあるから電話しておくけど……もしかしなくてもただ面倒なだけだよね」
「えへへ! バレたか!」
「それでは熾天超天使地母神様、俺はそろそろ戻りますので仕事……いえ、世界をより良くする活動を頑張ってください! 大いなる女神様の慈悲に心から感謝を。それではさらだばー!」
聖をお姫様抱っこして、大学の方向に向かって全速力で駆け出していく草子に必死に手を伸ばし「……ああ、また草子君に逃げられちゃったよ」とがっくりと項垂れるストーカー……じゃなかった、かつて異世界を救った勇者兼聖女様だった。
◆
所変わって百合薗グループの本拠地――百合薗邸にて。
「刀殺殲戮!」
メイド服に編みタイツを合わせた忍者メイドのコスチュームに身を包んだ常夜月紫が忍刀を鞘から抜き払う。
鞘から白刃を抜き払った瞬間、埒外の速度で周囲を斬撃が襲った。
「魂を含め狙ったもののみを的確に断ち切る」という究極の斬撃が迫り来るネガティブノイズ達を悉く両端し、戦闘不能に追い込んだ。
究極剣技「刀殺殲戮」――月紫の有する最強の一撃は、月紫が圓の「自身の創作物の登場人物を三次元世界に召喚したり、付与した設定を現実の人物に与えることができる力」創作実体化によって月紫をモデルとした忍者メイドの設定を取り込むことで獲得した究極の剣技である。
想像を実体化させるこの能力は、圓自身の飛び抜けたセンスも相まって月紫の得意分野と見事なまでにマッチしており、彼女を剣の腕に優れた凄腕の女忍者から、世界最高峰の剣士の一人へと押し上げている。
そんな「理想の自分を再現する能力」は、極神技能の一つ【創作之神】の力、設定付与によって生み出されたものである。
【創作之神】はユダヤ教神秘思想の中心となる基本文献である『光輝の書』とグノーシス主義におけるこの世を造った「偽の神」であり、プラトンの『ティマイオス』に登場する世界の創造者であるデミウルゴスと同一視されるヤルダバオトからその名を取った極神技能の一つで、その原点は百合薗圓が異世界に渡った際に獲得した「自身の創作物の登場人物を三次元世界に召喚したり、付与した設定を現実の人物に与えることができる力」にある。
これを圓が異世界で手に入れた創造系の究極技能と融合する形で誕生した。
創作実体化、設定付与、万物創造、生命創造、魂魄創造、異界創世から成り、能因草子の【創世之神】と似たような位置付けである。
そして、百合薗圓はこの他に二つの極神技能を獲得している。
大日本皇国において、極神技能の獲得者は能因草子と百合薗圓の二人だけだ。
異世界のスキルの使い手の中では間違いなく双璧を成す最高戦力であり、異世界帰りの実力者という条件であれば、二人に比肩する者はいないだろう。
それだけ、能因草子と百合薗圓――二人は強大な力を持っているのである。……まあ、基本的に二人は力を誇示するタイプではないため、その力を振るうことは滅多にないのだが。
◆ネタ解説・二百十九話(ep.220)
・『世界樹の神杖』
「文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜」における能因草子の武装エルダーワンドに相当するもの。
キスカヌはシュメール神話に登場する巨樹キスカヌ、アロンは『旧約聖書』の『出エジプト記』に登場するモーセが神から授かった杖から。
・【叡慧之神】
名前の元ネタはユダヤ教神秘主義思想カバラの基本教典の一つ『形成の書』、或いは『創造の書』。
思考超加速、万象鑑定、直列思考、並列思考、無詠唱、能力改変、未来攻撃予測を内包するスキルという設定は「文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜」におけるMANAS、叡慧ト究慧之至高神/セーフェル=イェツィラーに近い。
名前の由来はどちらも『形成の書』である。なお、この書物の存在は佐崎一路氏のライトノベル(WEB版)の「吸血姫は薔薇色の夢をみる」で知った。
・【窮極之神】
名前の由来はクトゥルフ神話に登場する原初の外なる神アザトース。
虚無崩壊、万象喰、時空間掌握、多重次元結界、無限房室を内包するスキルという設定は「文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜」における【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】に近い。ただし、【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】の設定は百合薗圓のスキルの方に濃い影響を与えている。
勿論、伏瀬氏のライトノベル『転生したらスライムだった件』から極めて強い影響を受けて生み出された能力。
・【創世之神】
名前の由来は高次の霊または霊的な階梯圏域に位置する真なる神アイオーンの一体にして超越性の更に超越性にあるとされる先在の父。
創造を司る能力で、万物創造、生命創造、魂魄創造、虚無掌握、能力創造、能力複製、能力贈与、能力記憶から成る。
伏瀬氏のライトノベル『転生したらスライムだった件』に無理矢理当て果てるなら「豊穣之王」に「虚空之神」の性質の一部を無理矢理組み合わせたようなもの。
並行世界の草子のスキルは三位一体を強くイメージしており、クローバー(シャムロック)に例えている。
ユダヤ教、クトゥルフ神話、グノーシス主義がそれぞれモデルとなっており、個人的にはなかなか面白い組み合わせなんじゃないかと感じた(いずれもキリスト教に隣接しているという意味で)。
・「刀殺殲戮」
元ネタは「百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜」に登場する常夜月紫の必殺技「ジェノサイド-魂-」。
「斬りたいものだけを斬ることができる」という剣技の究極系である。
なお、元ネタの元ネタと辿ればきららファンタジアに登場したロッコというワニの必殺技「ジェノサイド」に行き着く。
・【創作之神】
作中解説の通りユダヤ教神秘思想の中心となる基本文献である『光輝の書』とグノーシス主義におけるこの世を造った「偽の神」であり、プラトンの『ティマイオス』に登場する世界の創造者であるデミウルゴスと同一視されるヤルダバオトが名前の由来。
その原点となった「自身の創作物の登場人物を三次元世界に召喚したり、付与した設定を現実の人物に与えることができる力」は「百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜」における異世界ユーニファイドの性質に由来する。この性質により、常夜月紫は空想でしかなかった「ジェノサイド」という技を行使できるようになった。
創作実体化、設定付与、万物創造、生命創造、魂魄創造、異界創世で構成されており、能因草子の【創世之神】と対をなすように設定されている。




