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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第一部第四章「傲慢で敬虔な異世界人達に捧ぐ王教滅亡曲〜ルーグラン王国聖戦戦争篇〜」

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堕ちた勇者によるルーグラン王国への宣戦布告に、正義を騙る殺人教唆勇者への死体蹴り。……ルーグラン聖戦戦争はよりカオスな方向へと舵を切ってしまっているようだ。

 巨大な戦艦と『龍皇(マスター・ドラゴン)』ファディロスが王都の空中に陣取り、北地区を異世界アムズガルドのイシュメーア王国の勢力が、東地区を異世界ハルモニアのルビリウス王国の勢力が、西地区をロードガオンの勢力が、南地区を異世界アムズガルドの魔王国ネヴィロアスの勢力と神界の天使と悪魔達がそれぞれ制圧を進めている。


 残る戦力は真っ直ぐ神山と王城のある王都中心部を目指した。

 大日本皇国政府に、鬼斬機関、陰陽連、ドルグエス、神界の二柱、そしてクリフォート魔族王国の主戦力と王都制圧並びに退路の破壊のために戦力を割いたとはいえ、現在も多くの戦力が王城と神山の制圧のために動いている。


 この時点で、ルーグラン王国と白花神聖教会の戦力と大日本皇国を含む連合勢力の戦力差は決定的なものになっていた。

 しかし、これほど危機的な状況に陥りながらもルーグラン王家は白嶺騎士団の第一部隊、第二部隊、第三部隊を増援として派遣せずにいた。


 これは、王城の守りを固めるために派遣を渋った……という話ではない。

 正確に言えば、ルーグラン王家は騎士達を派遣しなかったのではなく、できなかったのである。


 ――主に無縫達による侵攻開始と同時に発生した一人の召喚勇者が引き起こした大事件によって。


「何故だ! 何故こんなことをする!! 波菜ッ!! ――ルーグラン王国の人々を殺すだと!! 考え直すんだ!! なあ、俺達は仲間じゃないか! 魔族に苦しめられた人々を守ると誓ったじゃないか!!」


 王城の第二王女の部屋の窓際で漆黒の荊棘のようなもので第二王女イリスフィア・ムーンライト・ルーグランを拘束し、大胆にも「これより、ルーグラン王国国民を皆殺しにする!」と宣言した波菜に、春翔が説得を試みる。

 波菜に憧れていたファン達はこのタイミングであろうことか王女を人質にとって「ルーグラン王国を敵に回す」と宣言したことに衝撃を受けていた。


 あの品行方正な理想の王子様が理解できない憎悪の炎をその双眸に宿している。

 あの穏やかで、誰にでも優しい王子様の印象が粉々に破壊され、自称波菜のファン達の心はズタズタになっていた。


 そのタイミングで無縫達が王城の訓練場付近まで侵攻してきた。

 春翔はあろうことか人類の敵と手を取った裏切り者を目の当たりにして憎悪の篭った視線を向ける。


「無縫君!! ――助けて!! 波菜さんが!!」


 春翔が無縫に言葉を投げ掛ける前に、美雪が無縫に向けて願いを叫ぶ。

 本当は「会いたかった!」とか「心配していたんだよ!」とか、もっと掛けたい言葉があった。しかし、この状況ではその言葉を投げ掛けるよりも先に伝えなければならないことがあったのである。


 ――だが、無縫はその美雪の言葉を無視した。


「やあ、波菜さん。さっきぶりだね。俺達の侵攻に合わせて王女を人質にとってルーグラン王国に対して宣戦布告をするとは……やっぱり、賢いねぇ。そういうやり方、俺は好きだよ」


「……どうせなら作戦の方じゃなくて、僕のことを好きだって言ってくれた方が嬉しかったんだけどね。それで、無縫君。僕の手伝いをしてくれるかな?」


 美雪にも花凛にも……この場に居合わせた召喚勇者達にも理解ができなかった。

 どうやら無縫は波菜が隠してきた本性を知っていたらしい。……確かに波菜は無縫が珈琲を好んでいることを知ってきた様子で、無縫の方も波菜の紅茶好きを知っていた。クラスメイト以上の繋がりがあることを匂わせてはいたが……果たして、無縫はいつから彼女の本性を知っていたのだろうか?

 そして何故、波菜が平然と人殺しに手を染めることを受け入れることができるのだろうか?


 いや、そもそも無縫もまた命を奪うことに躊躇をしていない様子だった。何故ここまで、この二人は非情になれるのかと、無縫と波菜の人間離れした精神性にクラスメイト達は恐怖を覚える。


「言った筈だ。大日本皇国は大日本皇国の義務を果たす。召喚勇者を保護し、敵の首魁であるエーデルワイスは俺達が貰い受ける……が、俺達にはルーグラン王国民を積極的に殺す理由がない。まあ、敵対行動を取るようであれば排除はするけどね。だって鬱陶しいし。……ただ、君のように率先して殺す気は俺達にはないんだ」


「……まあ、そうだよね」


「だけど、君の邪魔をする理由も俺達にはないんだ。元勇者の黒崎波菜、君の心の傷を俺は多少なり理解しているつもりだよ。幼い頃に親元から引き離され、異世界に召喚されて魔族との殺し合いを強制され……そして、あらゆる尊厳を踏み躙られ、文字通り道具として酷使された君には異世界召喚を行う人間を恨む権利はある。あの時は異世界オルフレイの異世界召喚を起こした王国を滅ぼした……けど、それは君を助けるためだ。今回とは前提条件が違う。……まあ、でもさぁ、復讐ってのは自分の力だけで達成してこそだと思うんだ。その方がさぁ、清々しいと思うんだよね」


「無縫がなんかヤバいことを言っておるのじゃが……良いのか? クラスメイトのお仲間がエイリアンでも見たような顔になっておるぞ?」


「ん? 別にいいよ。俺はあいつらのこと仲間だと思ったことなんて一度もないし、ね。残念ながら政府の人間として庇護しなければならないというだけで……敵対していいなら真っ先に殺しているよ?」


「まあ、だよねー。率先してイジメをする奴とイジメを黙認する奴らなんて百害あって一利なしだもんね」


「あっ、それと……今から言う奴はできれば殺さないでくれると助かる。ガルフォール・ハウリング、セリスティス・グレーゼバルト、後はそこにいる……えっと誰だっけ?」


「――イリスフィア・ムーンライト・ルーグランです!! なんで忘れているんですか!! 珈琲畑でお話もしましたし、先日の電話でも直接お話ししましたよね!!」


「この三人は後のルーグラン王国再建に必要な人材だからね。後は……仲が良い司書さんが何人かいるからできればその人達も殺さずにいてくれると嬉しいなぁって。まあ、あくまでできればのお話だけど」


「なんでスルーするんですか! 王女なのに……王女なのに……」


「イリスフィア、そのツッコミを入れている場合じゃないと思うんだけどね。まあ、三人はともかく司書さんに関しては君の都合百パーセントだよね……まあ、それだけの恩があるから別に良いけどさ」


「特に珈琲のことを気に入ってくれたって本の返却の時に言ってくれたあの司書さんなんか率先して守りたいって思うよ」


「……よし、作戦変更だ。真っ先にその珈琲好きの司書を殺すとしよう」


「何言ってんだ? 紅茶党。てめぇから先に始末するぞ! 黒崎波菜!!」


「二人とも相手戦力が雑魚過ぎるからって完全に遊び過ぎだよね! もうちょっと真剣に相手をしてあげた方がいいんじゃない? 特にそこの似非勇者とか」


「――庚澤無縫!! お前だけは絶対に許さない!! この国の、いや、世界中の無辜な人々を苦しめてきた魔族に加担するなんて! お前を倒して正すのが、正義の勇者である俺の役目だ!!」


「おい、本性出ちゃっているぞ。……ってかさ、ルーグラン王国とか世界のためとか言っているけどさ、お前のためだろ? 美雪と花凛、幼馴染二人に意識されるためには俺が邪魔だった。だから、猟平を利用して俺を殺させるように仕向けた。……気づいていないと思ったか? 流石は獅子王、血は争えないと思ったよ。流石は穢れた血だ、悍ましいほどにね」


「――な、何を言っている!! 俺は、俺はそんなことは……それに、証拠はあるのか!! ……それに仮に俺が気に食わないとしても、獅子王家の侮辱だけは許さない! 父さんと母さんは、立派な人だ! 尊敬すべき司法の守護者なんだ!!」


「獅子王春翔君、俺はね。君に感謝しているんだ」


「……はっ?」


 満面の笑みを湛えた無縫の言葉が、春翔には理解できなかった。

 猟平を唆して己を殺そうとした相手に、何故こんなにも優しく微笑みかけられるのかと春翔は困惑する。


「大日本政府にとって司法庁は目の上のたん瘤だった。警察、検察、裁判所……司法に属するものを全て押さえられたことで、司法庁の発言力は増していたからね。立法を司る国会と行政を司る政府を合わせた我々に比肩する発言力を持ち、実質的な二権分立状態となっている現状は大日本皇国政府にとって望ましくない状況なんだ。大日本皇国政府はずっと司法庁の解体を望んでいた。司法庁にも当然、闇はある。だが、司法庁が警察を握っているせいで捜査しようとしても物理的にできない。本当に困っていたんだよ。……それに、俺個人も獅子王家には恨みがあったんだ。大昔の汚点の一つを握られてしまっていてね……そのせいで、大田原さん達恩人に迷惑を掛けてしまうのではないかという後ろめたさがあった。でも、ようやくこれで安心できそうだ。――獅子王春翔、殺人教唆の容疑で君を拘束させてもらう。安心してくれ、君が異世界召喚以前から俺を秘密裏に殺そうとしていた疑いがあるものとして、獅子王家に内務省異界特異能力特務課が家宅捜査に入らせてもらう。司法庁司法次官の獅子王萬才、元検事局長の獅子王冷華――君の尊敬してやまないご両親もすぐに同じところに送ってあげるよ。そう、君達にもっとも似合う場所、獄中にね」


 「――あ゛あ゛あァッ!! 庚澤無縫! お前だけは絶対に殺すッ!!」と剣を鞘から抜き去って構えた春翔だったが……いつの間にか春翔の真隣に肉薄していた無縫がその頬を撫でるように触りつつ「君にはね、本当に感謝しているんだ」と耳元で囁くと動きが完全に停止してしまう。

 その隙を突き、無縫の放った手刀が確実に春翔の意識を刈り取った。


 この瞬間、ルーグラン王国の希望であった勇者は戦場から退場し、ルーグラン王国戦争はよりルーグラン王国と白花神聖教会にとって最悪な方向へと舵を切っていくこととなる。

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