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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第一部第四章「傲慢で敬虔な異世界人達に捧ぐ王教滅亡曲〜ルーグラン王国聖戦戦争篇〜」

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あの珈琲畑での話の続きをする時が来ました。 〜庚澤無縫の天秤論〜

 大日本皇国、ロードガオン、クリフォート魔族王国、イシュメーア王国、魔王国ネヴィロアス、ルビリウス王国、異世界アルマニオス・ミトラシスコロニー、神界――八つの勢力によるルーグラン王国並びに白花神聖教会に対する宣戦布告はルーグラン王国、否、世界を大きく揺るがせることとなった。


 ルーグラン王国国王オルティガ・ムーンライト・ルーグランと教皇パグスウェル=グオンツはその日のうちに庚澤無縫並びにその一派を神敵と定め、更に来たる戦争を聖戦(ジハード)と位置付けた。


「勿論、勇者の皆様は我が国のために戦ってくださいますよね? なんたって、神に遣わされた使徒なのですから」


 パグスウェル達は当然のように召喚勇者達に協力を要請。


「――みんな! 今こそ立ち上がるんだ!! 無縫も大田原総理もクリフォート魔族王国に騙されている! 俺達が倒して、アイツらの目を覚まさせるんだ!!」


「春翔の言う通りだ!! 今こそ一致団結すべき時じゃねぇのか?」


 ここで声を上げたのはやはり勇者・春翔だった。

 その声にパグスウェル達は満足げな表情を浮かべていた……が、その声に真っ先に賛同したのは城野猟平だった。


 既に無縫の元クラスメイト達の大半は理解していた。

 無縫達が完全に正気であり、クリフォート魔族王国が無縫達を裏で操っているというよりは寧ろ無縫達があれだけの戦力を巻き込んだのだろうと。


 これは、既に一つの世界での戦争ではなく複数の世界による異界間戦争なのだ。

 そして、その中核を成す存在こそが大日本皇国――つまりは母国であり、この戦争は自分達の祖国を敵に回すという地球出身者にとっては利益どころか損失しかない戦争である。


 そんなことは、聡明な春翔であればとっくの昔に気づいている筈だ。

 では、何故ここで春翔が戦争を煽るようなことを宣言したのだろうか……。


(……あれ? これ、もしかして無縫君を殺そうとしたのって春翔君なんじゃ。今回殺し損ねたことが分かったから、今度こそ息の根を止めるつもりなのか?)


 無縫殺しの下手人として真っ先に疑われたのは猟平だった。

 彼は積極的に無縫に対するイジメを行っていたからである。そして、それは無縫に思いを寄せる美雪が要因となっていた。

 だが、彼は小物だ。躊躇いなく人を殺すような勇気はない。……となれば、誰かが唆した可能性が高い。


 殺人というものは大変危険な行為だ。それを犯す以上はそれを上回って余りある利益が必要となる。

 例えば、その結果として美雪を手に入れることができる可能性が生じるのであればそれは大きな利益になり得るのではないだろうか?

 それに、直接手を下していないのであれば自分に被害が及ぶこともない。いざとなれば、その実行犯を告発してしまえば証拠隠滅だ。


 相手に正体を知られていても、もしその人物が圧倒的なカリスマ性を持っていたら話は変わる。

 犯罪者の言うことなど、誰も信じようとはせず、その言葉は揉み消されることになるだろう。


 そして、無縫の死を利用して利益を上げている人物がたった一人だけいる。無能と蔑まれた彼を擁護し、勇者として名声を高めた男が。


「――悪いな、春翔。俺はもうお前のこと信じられねぇんだわ。ってことで、俺達は勝手にやらせてもらう。戦場にさえ立たなければ殺されることもないだろう」


 第二パーティを纏めていた岩澄信輝は真っ先に勇者パーティからの離反を表明。

 ルーグラン王国を去る決断をして、賛同する仲間達と共に旅支度をするべく謁見の間を後にした。

 当然、オルティガの命令を受けた騎士達が止めようとした……が、信輝と信輝に賛同する者達は強引に押し通ってしまう。


「信輝君も愚かよね……例え逃げたところで、殺されないとは限らないわ。無縫君が執念深く追いかけてくるかもしれないし、このまま敵前逃亡したところでルーグラン王国……いえ、この世界の様々な国から厄災を持ち込んだ存在として迫害されることになる。……もう、どちらにしろ、逃げ場なんてないのよ。あるのはただ破滅だけ」


 一方、照は悲嘆に暮れていた。もう全てが終わったと言わんばかりに絶望し、部屋に引き篭もってしまっている。

 聡明な彼女には悍ましいほど絶望的な未来が見えてしまっているのであろう。

 そんな照を五十鈴は必死に慰めようと彼女の部屋に通い続けている。


 戦おうとする者、逃げようとする者、絶望に苛まれる者……様々な者達がいる中、花凛はというとどの陣営にも属さず独自に行動を進めていた。

 美雪とガルフォール――信頼できる二人を自分に割り当てている部屋に集め、戦力の分析を進めていた。


「……あの調印式のメンバーに、私は一つ違和感を覚えたわ」


「違和感どころか、色々と理解不能なレベルで戦力が積み上げられていって絶望しか無かったけどな」


「私は無縫君が、幼い頃に助けてくれたあの子と同一人物だと実感できて良かったけどね」


「……この初恋莫迦はこの際放っておきましょう。今回の戦争、鍵になるのはやっぱり大日本皇国の戦力だと思うわ。そもそも、どういった戦力があるのかすら国民なのによく分かっていないのよね」


「内務省の組織も、表向き存在しないって話していたよね? ということは、同じように秘匿された組織が他にも参戦する可能性はあるんじゃないかな?」


「……私が気掛かりなのは、魔法少女よ。独立国家ロードガオンを含め、ありとあらゆる外敵から国を守り続けてきた秘匿されていない存在。何人か存在は確認されていたけど、その中でも特に有名なのは魔法少女プリンセス・カレントディーヴァと、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス。特に魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスは何度もロードガオンの侵攻を食い止めて国を救ってきた英雄よ。今回の戦争、彼女が参戦する可能性があるんじゃないかしら?」


「あはは……花凛ちゃん、それは考え過ぎだと思うけどね」


「あら、根拠ならちゃんとあるわよ。いつからロードガオンと内務省が密約を交わせるようになったのかは知らないけど、ああしてパイプができているということはどこかにロードガオンと内務省の橋渡しをした人がいるということよね? この可能性が一番高いのが魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスだと私は思うのよ」


「……よく分からないが、それはないんじゃないか? 不倶戴天の敵なんだろう? そんな奴との交渉に応じるとは思えないけどな」


「不倶戴天の敵ということは最も近くにいた存在だということも考えられるわ。……それに、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスの所属は不明だったけど、内務省である可能性と思うわ。いずれにしても、彼女が大日本皇国側として参戦する可能性はかなり高まる。そして、彼女が参戦することが決まった時点でルーグラン王国の勝率はゼロパーセントになると思うわ」


「……そいつはそこまで強いのか?」


「魔法少女には固有魔法が一つずつ備わっているそうよ。魔法少女プリンセス・カレントディーヴァには水操作があるように、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスにも固有魔法が備わっている。では、その固有魔法は一体なんだと思う?」


「そんなにやばい魔法なのか?」


「正解は『分からない』よ。これまで、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスは一度として固有魔法を使っていないの。逆に言えば、固有魔法を使わずとも護国の役目を全うできたということ」


「……ああ、それは確かに……また、一つ嫌なことを聞いちまったな」


「参戦するべきか、逃げるべきか、何をするべきかは私にも分からない。でも、冷静に戦力を分析し、いざという時に取るべき手段を検討しておく必要があると思うわ。私達が生き残るために、ね」



 美雪、花凛、ガルフォールが戦力分析をしている頃、第二王女の私室に閉じこもっていたイリスフィアはというと。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 完全に壊れてしまっていた。目の焦点は定まらなくなり、譫言のようにひたすら「ごめんなさい」と呟いている。

 それは、無縫という厄災を招いてしまったことに対する自国民への謝罪の言葉か、将又、戦争に巻き込んでしまった召喚勇者への謝罪の言葉か……それとも、最早意味を失った呪文なのか。


 一方、同じ部屋にいた波菜はというと――。


『ん? あっ、久しぶりだね、波菜さん。元気していたかい?』


「元気していたかい? じゃないよ! 無縫君!! しばらく連絡ないと思ったら、一体何が起きているんだよ!!」


『あー、楽し過ぎて電話すっかり忘れていたよ。すまんすまん。そっちから掛けてくれたら良かったのに。……全部話した方がいいよね? えっと、猟平の放った火球に当たったふりをして自由落下。そこから内務省の面々とフィーネリアさん達ロードガオンの面々と共に迷宮攻略……』


「まあ、取引を持ち掛けると言っていたから不自然ではないけどね……」


『で、迷宮攻略したら聖なる武具と一緒に古代遺跡を発見してね。で、フィーネリアさんに移住先として欲しいって言われてね。流石にあれだけじゃ移住できないってことで人工惑星を作ってそこに古代遺跡を移植することで話が纏った。その後はしばらくフィーネリアさんと二人旅で、無法都市のカジノに行き、三大マフィアの一角であるブラックナイトファミリーを壊滅させた』


「本当に異世界旅行をエンジョイしていたんだね。羨ましいよ。……で、流石にブラックナイトファミリーを成り行きで壊滅させることにはならないでしょう? 君らしいといえば君らしいけど」


『女の子の姿でカジノで遊んでいたら、ほら魔法少女って美少女でしょう? だから狙われちゃって返り討ちにしたってこと。で、フィーネリアさんに奴隷を助けたいって懇願されたから、カジノで稼ぎつつミル=フィオーレ・ファミリアと『黄金の塔(トーレ・ド・オーロ)』のボスと交渉して奴隷保有そのものを禁止して今いる奴隷は全て購入した。で、その後再出発のための斡旋をしてから、途中、異世界アルマニオスの問題を解決する代わりに移住先の星をもらったりとか色々しつつ魔族の奴隷達と共にクリフォート魔族王国へ。魔王と謁見したいと言ったら、「頂点への挑戦(サタン・カップ)」で優勝してと言われたから、十人の魔王軍幹部と勝負しつつクリフォート魔族王国を巡り、多くの友人達の出会いに恵まれつつ、楽しい旅をして、十人全員に勝利してから本戦出場。魔王軍幹部との再戦や四天王との戦い、友人でありライバルでもあるみんなとの激戦を潜り抜けて魔王と勝利し、今に至るって感じかな? あっ、途中で天空カジノで散財していた莫迦二人を発見したりとか、ヴィオレットが国庫の金着服してギャンブルしていたことが発覚したり、ヴィオレットの支持率低迷で交戦論者の台頭を招いて異世界アムズガルド全体で再び戦争時代の状態に戻ってしまうんじゃないか? っていう世論が強まって、それをどうにかするために代わりにリリスさんが魔王を目指したり、その過程でタタラさんを頼った結果、クリフォート魔族王国滞在中に留まっていた宿屋の看板娘のスノウさんと仲良くなって、異世界ハルモニアのルビリウス王国王都コランダームからクリフォート魔族王国のバチカル区画に移住することになったとか……後他には初代魔王と会ったり、魔族の神と出会ったり、色々あったけどね』


「……本当に色々あったみたいだね。というか、寄り道し過ぎだし、その過程でいくつもの世界に影響を及ぼしているのは流石というべきか、なんというべきか。……で、クリフォート魔族王国と共に戦うことにしたってことなんだね」


『まあ、巻き込んだのは俺達の方だけどね。……ところで聞き覚えのある女の子の声が聞こえる気がするんだけど、もしかして王女様?』


「イリスフィア第二王女殿下だよ。彼女を絶望させるために正体明かしたら……何故か同情されて懐かれてしまってね」


『百合かな?』


「違うよ? で、どうする? とても電話できるような精神状態じゃ……」


「も、もしかして……無縫さん、ですか?」


 幽鬼のような顔をしたイリスフィアがのそりのそりと波菜の方へと歩み寄ってくる。

 波菜が電話を手渡すと、波菜の真似をして耳に当てた。


『やあ、お姫様。珈琲畑の時の話の続きをしようか? 俺はかつて貴女に天秤のお話をしたような気がします。何かをしてもらいたいのであれば、それに見合う対価を反対側の皿に乗せるべきだと。俺は、世の中上手くできていると思うんです。どこかでちゃんと釣り合うようにできている、と。貴女達は異世界召喚をして、自分達の手を汚すことなく魔族を滅ぼそうとした。まるで勇者を使い捨ての道具のように、ね』


「……否定は、しません。波菜さんから、聞きました。勇者として異世界に召喚された彼女の境遇を……それほど酷いことはしていない、と言いたいところですが、やっているようなことは似たようなこと、です。……私達は取り返しがつかないことをしてしまいました」


『そして、今こそ清算の時です。その天秤の対価として、俺はエーデルワイスの身柄を召喚勇者達の解放と共に乗せます。それ以外は認めません。……まあ、異世界召喚をした報いだと思ってください。それじゃあ、次は戦場にてお会いできる日を楽しみにしています』


 ぷつりと電話は切れてしまう。イリスフィアは蒼白な顔で、黙ってスマートフォンを波菜に返した。

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