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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第一部第四章「傲慢で敬虔な異世界人達に捧ぐ王教滅亡曲〜ルーグラン王国聖戦戦争篇〜」

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人間と不倶戴天の敵である魔族の居城から死んだ筈の勇者一行の一員(無能)が中継をするというただでさえ気持ちぐちゃぐちゃ状態なのに、その上全く関係ない飯テロをかますってどんな精神状態になればいいの!?

 庚澤無縫が魔王テオドアに勝利した頃、クラス召喚によって異世界ジェッソに召喚された勇者一行はというと、その大多数がルーグラン王国の訓練場で鍛錬をしていた。


 クラス召喚をされ、勇者として期待されながらもルインズ大迷宮とログニス大迷宮で相次ぐ妨害に遭い、何一つそれらしい成果をあげられていない勇者一行に対し、ルーグラン王国王侯貴族や白花神聖教会の評価は冷ややかものになりつつある。

 彼らにとって、神の使徒である勇者一行は圧倒的な力を持ち、ルーグラン王国……否、この異世界ジェッソを救う存在でなければならないのだ。


 更にはルーグラン王国の国民達からも勇者一行は実は偽物ではないかという疑いの視線が向けられており、その召喚を主導したルーグラン王国並びに白花神聖教会に対する不信感が世論に現れるようになってきている。


 しかし、だからといって春翔達勇者一行のできることは限られている。

 聖武具を手に入れることができなければ勇者の力を引き出すことができす、魔族達との戦争など現実的な話ではないのだ。


 二つの大迷宮の入り口を通行可能な状態に復旧するべくルーグラン王国の騎士団が二つの大迷宮に派遣され、依頼を受けた冒険者達と共に復旧作業を進めている。

 その間、春翔達ができることといえば大迷宮に挑戦する際に戦えるように己を鍛え直すことだけである。


 状況はお世辞にも良いとはいえないが、それでもルーグラン王国の空気はそこまで緊迫したものでは無かった。

 クリフォート魔族王国から攻撃を受けていて差し迫った魔族の脅威が目の前に迫ってきている訳でもない。

 制限時間なんてものはないのだから、ゆっくりと聖武具を集めて力を高めていけばいいのだ。


 ……などという甘い考えが、勇者一行、ルーグラン王国、白花神聖教会――誰一人として想定していない方向から早々に粉々に打ち砕かれることになるとは予想だにしていなかった。


「ん? ――ッ!? あれはなんだ!?」


 訓練場で春翔達の訓練を見守っていたガルフォールが突如として上空を指差す。

 その声でようやく気づいたクラスメイト達が空を見上げると、そこには青白く輝くスクリーンのようなものが現れていた。


「【風刃(エアブレード)】」


 クラスメイトの誰かが風魔法で刃を生み出して飛ばすが、青白い光を放つそれ――空中ディスプレイに一切のダメージを与えることができず、風の刃は擦り抜けるようにディスプレイの反対側に飛んでいく。


 ガルフォール達が奇妙なものの出現に驚き、対処を試みている頃、ルーグラン王国……否、世界各地では爆発的に異変が広がっていた。

 王都から貧民街まで、否、ルーグラン王国ではなく世界各地に空中ディスプレイが出現していく。


 それは、謁見の間であったり、図書館であったり、あるいは厨房であったり、使用人達の寮であったり……と、あらゆる場所を網羅するように出現していく。

 当然、世界各地では混乱が広まっていた。未知なる敵の攻撃なのかと警戒する者、空中ディスプレイに攻撃を仕掛けようとする者、異常事態を目の前にして国の重役を招集して知恵を絞る者――実に様々な対応がなされていた。


 一方、何も映していなかった空中ディスプレイはというと世界各地にディスプレイが出現した瞬間に映像が切り替わっていた。

 そこに映し出されていたのはどこかの城のような場所だった。ルーグラン王国、マールファス連邦、ラーシュガルド帝国――そのいずれの国にも該当する場所は存在しない。


 美しい調度品が集められ、真紅の絨毯が敷かれてシャンデリアが吊るされた部屋はなるほど、確かにどこかの王城のように豪奢だ。

 しかし、その城はどこか禍々しい要素を持ち合わせており、人間の城というよりも……どちらかといえば魔族達の城だと言われた方が納得するデザインをしている。


 そして、その予想は的中していた――。


 が、ルーグラン王国の者達を驚かせたのは映像に映し出されていた場所が魔王の居城だと思われる禍々しい場所だったから、ではない。


「――ッ!? 無縫君!?」


「……生きていた、ということかしら? あの大迷宮で命を落としていなかった……のは良かったけど、一体どういう状況なのかしら?」


 最愛の人の生存を純粋に喜んだのは美雪のみ。

 美雪の親友で、無縫の生存を願っていた花凛すらもあまりの状況の変化に困惑を隠せないくらいだ。


「――あり得ない! 無縫は、大迷宮で……奈落に落ちて死んだ……筈だ」


「う、嘘だ。無縫は死んだんだ。そうだろ? みんな見てたじゃんか。生きてる訳ない! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!」


 春翔は死んだ筈の無縫が現れたことに呆然とし、猟平が青褪めた顔で叫ぶ。

 大荒れしていたのはこの二人だったが、他の面々も大なり小なり似たようなものだ。


『大半の皆様は初めまして、ですね。俺は大日本皇国政府内務省異界特異能力特務課所属、庚澤無縫と申します。以後お見知りおきくださいませ』


 ダークスーツに身を包んだ無縫は深々とお辞儀をすると、城の部屋を後にし歩き始める。

 その後を追うように画面も無縫の背中を映しつつ動き出した。どうやら映像は一方通行で美雪達の声は届いていないらしい。


「……あいつは、一体何を言っているんだ?」


 謎の名乗りにガルフォール達は困惑していたが、それは美雪達も同様であった。


「……大日本皇国は私達の母国よ。その国の行政、政治を司る大日本皇国政府というものがあって、内務省は政府内にある行政機関ということになるわね。ルーグラン王国で言えば、政府は王家のようなもので、その下で働く大臣……のような感じかしら? 実際は各行政機関ごとに長となる大臣がいるものなんだけど」


「花凜、説明感謝する。……ということは、無縫はその政府とやらの行政機関に属している存在ということか?」


「そんなことあり得ない筈よ……無縫君は私達と同じ高校生、政府機関で働ける筈がないし、そもそも異界特異能力特務課なんてもの、聞いたことがないわ」


 しかし、出鱈目を言っているようには思えない。

 そもそも、そのような嘘を吐く理由など存在しないのだ。


 花凜達を襲った困惑――それは、その後の無縫の言葉によって解消されることとなる。


『まず、本題に入る前にざっくりと必要な説明をしておきましょうか? 疑問に持たれている方が主に召喚勇者一行辺りにいそうなので、一応説明しておきますが、俺が所属する内務省異界特異能力特務課とは、表向き存在しないことになっている組織です。邪悪心界ノイズワールドという異界から現れたネガティブエネルギーの集合体であるネガティブノイズの侵攻、地底世界アンダグラウンドからの地底人襲来、通常では認識できない隣り合う世界が存在するもう一つの宇宙のような存在である虚界(うつろかい)――そこに浮かぶ惑星状の世界の一つで怪人製造を得意とする悪の秘密結社のような者達が国を治める独立国家であるロードガオンによる侵略活動、以前から存在した妖怪などの土着の脅威……そして、今回のような異世界転移、異世界召喚などを含む所謂時空災害……まあ時空の門穴ウルトラ・ワープゲートが出現した際にその調査を行うことがほとんどですが、これらの様々な事案に対応する組織として多くの存在が秘匿されている組織の援助を受けて秘密裏に組織されました。俺はかつて内務省異界特異能力特務課の長官だったある方と、現在、内務省異界特異能力特務課の参事官として活躍されている内藤龍吾さんと縁があり、スカウトされて非正規、アルバイトという形ですが内務省異界特異能力特務課に所属させて頂いております。お二人は俺にとって掛け替えのない恩人であり、親代わりであり……と、話が脱線しましたね。さて、なんで今回、わざわざ世界中にディスプレイを配置して何を配信しようかと思われていると思いますが、実は本日、大日本皇国にとってもこの異世界ジェッソにとっても歴史を大きく変えるある重大な式典が開かれることになっています。その映像を是非皆様にも見て頂きたいと思い、会場となる魔王城から中継をしております』


「――ま、魔王城!?」


 ガルフォール達も内心嫌な予感がしていた。しかし、まさか本当にその予感が当たっているとは思わなかったのだろう。


『……ん? 無縫さんじゃないですか! こんなところで一人で話していて、何やっているんですか?』


 独り言を言いながら廊下を進む無縫、そんな彼の奇行を訝しんだのか、一人の男が画面に映り、無縫に話し掛ける。

 その男を見て、ガルフォールは憎悪と失望が混じった表情を浮かべた。


 その男は純魔族だったのだ。


『あっ、確かレインさんの部下の』


『オルファージードです。……で、何やっているんですか?』


『何って全世界放送ですよ。クリフォート魔族王国でも流しているじゃないですか。これから開かれる歴史的な式典を中継するつもりで、ほら、マイクだって上等なものを用意したんですよ!』


『なんでこんなところからやっているんですか! 会場、謁見の間でしたよね?』


『ほら、前説が必要かと思いまして。オルファージードさんはお昼ご飯ですか? 口にお弁当ついていますよ』


『えっ……あっ、本当だ。あー、これも映っちゃいましたよね。やらかした……恥ずかしい。これ、上手く無かったことに』


『残念ながらリアルタイムで放送しているんですよね』


『……くっ、くそぉ!! ……まあ終わってしまったことは致し方ない。気持ちを切り替えていこう! あっ、そういえば、無縫さんは食べましたか! 麻婆豆腐!!』


『それがまだ食べられていないんですよね。毎回ヴィトニルにドヤ顔されて……』


『それが、今日は珍しくまだ残っているんですよ!』


『本当ですか! ヴィトニルにドヤ顔される前に食べに行きたいなぁ』


『ちなみに俺は麻婆豆腐にトッピングで目玉焼きを乗せる派です。あの半熟の卵が麻婆豆腐と絡み合って最高なんですよ!!』


『――ンッ!! それ、分かります!! あー、腹減ってきた。いっそ中継やめて食べに……』


『流石にそれはまずいでしょう? 緋月さんには俺の方から伝えておきますので、どうぞ無縫さんは引き続き報道を頑張ってください! お邪魔しました!!』


 そう言い残し、純魔族の男は画面の外へとフェイドアウトしていく。

 いきなり飯テロをされて、どういう気持ちで映像を見続けるべきなのかを見失ってしまったガルフォール達だった。

◆ネタ解説・二百三話(ep.204)

・マイクだって上等なものを用意したんですよ

 言い回し的に少し宮澤賢治的かな? って思いつつ書きました。……かなり違うかな?


・口にお弁当ついていますよ

 米粒をつけていることを指摘する表現として良くあるなぁ、程度で使いましたが、地域によって様々な言いましがあるみたいですね。

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