七十八話
「うふふふ……」
「ギャウウウ……」
お菓子を食べさせた後、バルトを優しい手つきで撫でるセレナ様。
絵にはなるとは思う。
バルト、噛みつくような真似はするなよ。
「報告は目に入っておりますわ。とても素晴らしい子が一緒に居て安心ですわね」
「ギャウ!」
褒められてバルトもご機嫌な様だ。
「えー……セレナ様、本日はお遊びに来たということでしょうか?」
フィリンが若干余所余所しい感じでセレナ様に尋ねる。
「あら? 遊びだと思われちゃった? それは心外よ。今日はね。彼女たちの人探しを手伝ってもらいたくて皆さんにお願いに来たの」
そうしてセレナ様は連れてきた女性たちに顔を向ける。
あれ? なんかあの人見たことあるな。
「あ、飛空挺で丁寧にしてくれた船員さん……」
そこには、客船型飛空挺でドレスを汚してしまって困っていた女性が居た。
「あ……その節はどうも……」
他に俺が駆けつけた時には既に倒されていた不良に絡まれていた女性までいる。
「あの……彼女たちがどうしたんですか?」
「この件もあってライラやトツカ様、フィリンにお願いをしに来たのよ」
セレナ様はそのまま説明を始めた。
なんでもここ最近、各地の女性や子供が窮地の時に颯爽と助ける屈強な狼男で騒動になっているんだとか。
銀色のその毛皮はきらびやかに靡いて美しく、女性や子供を始め、男性までも何か窮地になった際に現れて助け、名を告げずに去っていくそうだ。
なんとも凄い人物の話だ。
「はあ……それがどうして私たちがセレナ様に呼ばれて手伝いをすることに?」
「フィリン。これは凄い話を聞いたぞ。是非とも友達になりたい」
ブルみたいな脊髄で善行ができる人物がいるとは……仲良くなりたいぞ。
「貴様……ずれた返答を……」
何故かライラ教官が俺を咎めるような眼をしている。
「ギャウギャウ」
バルトは嫉妬なのか俺の頭を甘噛みし始めた。
「……」
フィリンが眉を寄せているけど、何か俺悪いこと言った?
「……そうでした。ユキカズさんはブルさんと仲良くなりたいって堂々と言っちゃう人でしたね」
何を当然のことを言っているのだろうか?
フィリンもライラ教官も俺との付き合いがそこそこ長くなってきたんだからわかるはずなのに。
「それなら話が早いですわ」
セレナ様が両手を合わせて微笑む。
「この狼男さんに助けられた方々が、是非ともお礼を申し上げたいと依頼がどんどん膨れ上がってきていますの。ですから皆さんには、この狼男さんがどこのどなたなのかを教えてあげてほしいのですわ」
「あの方は困っていた私の目の前にサッと現れ、私を助けた後……名を告げずに去っていきました。あの凛々しい瞳、顔立ちに私……心を奪われてしまいましたの」
なんとも……乙女な依頼人たちだ。
つまり……人探しの依頼ってわけね。
探偵業も兵士にはあるのかー……あ、そういえばギルドにはそういった人探しの依頼って結構あるんだよなぁ。
大体がどこかに出かけた奴が帰ってこない。探してくれというあんまり良い結果にならなそうな依頼が大半なんだけどね。
ダンジョンに行った場合は、死体は見つからないのが大半だ。
近い依頼だとソルインの街に居た時の下水道に子供たちが入ってしまったが、近いかな?
「えっと……セレナが言うってことは相当……なんですね」
「ええ、彼女や他にもおてんばな貴族の令嬢が窮地を救われたことがあってね……国内で囁かれる華麗な王子様と話題になっているのよ」
セレナ様の話ではこうだ。数名ほど、家柄の良い女性の窮地を救って去っていったその狼男の噂が独り歩きしてきて令嬢たちが自身も救ってもらおうと火遊びに手を出し始めている……と。
元は身代金目当ての誘拐に巻き込まれそうだったのを助けられたってのもあるらしい。
何か大事になる前に、早急にこの噂の沈静化を図りたいって話がセレナ様の耳元まで来てしまった……そうだ。
意外としっかりしていて大きな依頼に俺も驚きを隠せずにいる。
「事情はわかりましたけど……レラリア国は大きい国ですよ?」
フィリンが困った様に答える。
そうだ。神出鬼没の狼男を捕まえるなんて雲を掴むような話だとしか言いようがない。
「各地の街で探すにしたって……俺たちだけじゃ難しいと思うのですけど……」
だからこそ、ギルドを使って人探しの依頼が積もり始めているってことなんだろうし。
「その件なのだがな……件の狼男に助けられた者たちの証言を纏めてある」
っと、ライラ教官は俺達に地図を広げてレラリア国内の目撃情報を指し示す。
「始まりは王都からでな……」
スーッとライラ教官はレラリア国中を順序良く指差していく。
……アレ? 俺の気のせいか?
フィリンも訝しげに地図を見て小首を傾げている。
「……私たちの勤務地の軌跡と見事に合致していますね」
「その通りだ。飛空挺業務をしていた際に立ち寄った各町をなぞるように目撃証言が続いている。もちろん、他の情報も錯綜しているから確かではないがな」
俺たちの移動先に次々と続いている困っている人を助ける狼男の話と……ソルインにも居たらしいしな。
たぶん、俺もニアミスでこの狼男が人助けをしている状況に立ち会った。
「つまりこの情報から考えて、この狼男は俺たちが居る街に居る可能性が高いってことですね」
「そうなる。都合の良い情報を集めているだけかもしれないし、間違いがあるかもしれないがな」
ふむ……ただ、この依頼に関して、俺は興味深いと感じている。
「わかりました。できる限り調査をしてみたいと思います」
「なんだ? 珍しくやる気だな」
「俺は普段から真面目に取り組んでいるつもりですが?」
「意気込みが違うと言っているんだ」
「はい」
何故かライラ教官の言葉にフィリンが何度も頷いている。
「ギャーウー……」
バルトも甘噛みをやめない。
「そりゃあ見つけた暁には友達になりたいですからね。そこまで立派な人物なら俺の脳内友達コレクションに、友達として入れたいです」
ブルみたいに良い人であるなら仲良くなりたいと思うのは自然なことだ。
お礼がしたいと言う依頼人たちの気持ちが痛いほどわかるぞ。
ちなみに俺の友達コレクションにはフィリンとブルしか今のところ居ない。
「まあ……素敵ですわね」
セレナ様も微笑んでくれている。
「友達コレクション……」
「ユキカズさんも大概にして変な所、ありますね」
「ああ、奴とは別方向でアイツもおかしい」
何やらライラ教官が失礼なことを言っているような気がする。
俺が藤平と同類みたいな扱いは止めていただきたい。
脳内友達コレクションにライラ教官は……入れるか微妙なところだなぁ。
「おい。何か失礼なことを考えていないか? その目をやめろ」
おっと……ポーカーフェイスを維持しないと。
目は口ほどに物を言うからね。
「ギャーウ……」
バルトは可愛いペット枠に居るぞ。だから甘噛みをそろそろやめてほしいもんだ。
「とにかく承知しました。兎束雪一上等兵。セレナ様の期待にできる限り応えられるよう努めます!」
「お願いしますわね。報酬に関しては後でライラから聞いてね」
「ハッ!」
っとまあ敬礼して俺は謎の狼男探しの依頼を受けることにしたのだった。
依頼の期限は設けられておらず、他でどこの誰かわかった時点で報酬の支払いが行われるとのことになった。
ああ、もちろん、狼男に迷惑がかかってはいけないってことで狼男が名乗りを辞退した場合でも良いとの話だ。
噂の沈静化か、一部の依頼人が再会できれば良いってことで良いみたいで助かるね。





