三百九十四話
「待ってろよドーティス! 待たせた分、きゃんきゃん言わせてやんぜこらぁ。ブルトクレスに新しい弟や妹を作ってやらねえとなー」
「ブ!」
「ぐふ! 股間を蹴るのをやめろブルトクレス! いてえじゃねえか!」
あきれ顔だったブルが健人の言葉にイラッとした顔で追撃をしたのが印象的な出来事だったかな。
なんて感じに日々は過ぎ……正式に国への報告が行われてから急いで異世界の戦士だったみんなが収容されている施設へと俺達はつれて行って貰えた。
途中の飛空挺では俺が羽を広げて並走とかして見せたぞ。
飛野が飛べるのを羨ましがってて、ブルは俺が背中を掴んで飛んで見せて驚かせた。
限界を迎えた者に力を注ぎますか?
はい・いいえ
そんなこんなで異形化したみんなの中で……元に戻せる奴の前に俺が立つと、視界にアイコンが浮かんで来た。
俺は迷わずはいを選択すると俺の中にあった該当のナンバーの力が失われ、光となって異形化したクラスメイトに注がれていく。
すると異形化したクラスメイトが光に包まれやがて……。
「う……、あ……? ま、まぶし……」
と、異形化が解除され人の姿に、自我を取り戻して薄らと目を開けて座り込んでいた。
「おお……」
「本当だ! 本当に、みんなを元に戻せる!」
収容施設の研究員に始まり、国の重鎮も異形化を治療出来た事に驚きの声を上げていた。
「う……」
だけど疲労がすさまじいのか治療をしたクラスメイトは満足に体を動かす事は出来ずにいて、頭だけで俺達を見ている。
「ここは? 俺は一体どうなってんだ?」
「ああ、騙されて異世界の戦士の力を使い切られてお前はさ……自我のない存在になってたんだよ」
飛野が涙声で戻った級友に説明してくれる。
「祝福なんて実は無くて、侵食率が100になると実質死ぬって事だったんだよ」
「そ、そんな。じゃあ、俺はなんで今……」
「そりゃあさ、異世界の戦士にならずに兵士になった兎束がすげー苦労してみんなを元に戻す手段を手に入れてきたんだよ。ただ、兎束もタダじゃ済まなかったんだけどさ」
「おっす、まあ……こんな姿になってしまったけどな。あ、間違っても俺みたいになれると思ったら大間違いだからさ。今度こそ、体が安定するまで戦いとかしないでくれよ? ナンバースキルの使用は厳禁」
神獣の祝福が馴染んで侵食がなくなるまでは使用厳禁と言う決まりが元に戻ったクラスメイト達に通達されたのは言うまでも無いし、まだ元に戻せて居ない者たちに関してしっかりと見学をして貰った。
「そうだったのか……兎束、ありがとうな」
「へへ、感謝しろよ。死線を山ほど乗り越えてやっと、みんなを助ける手立てを手に入れたんだ」
達成感がすさまじい。
やっと……俺は俺自身の罪悪感を払拭出来たような気がしてきた。
遠くで神が笑ったような気がする。良い意味でも悪い意味でも。
もう……俺はみんなと同じ人生は歩めないだろう。けれど、この選択に後悔はない。
後悔の無いように、俺はこれからも生きたい。
それからもしばらくは色々と国でやりとりがあった。
ミュータントマシンの勢力は大分静かにはなったのだけど各地で迷宮から魔王軍ってカテゴリーされる魔物等の勢力が確認されて居たり、同盟を破棄して戦争に踏み切る国や怪しい勢力なんかも現われているらしい。
俺は原隊復帰したのでいろんな検査を終えたら戦争参加を命じられるかも知れない。
まあ、王様やお姫様がさせるつもりはないって顔をしてたんだけどね。
だからといって、ブルやライラ教官辺りは命令で行かざるを得ないだろうし。
そんな日々を送っていたある日の事。
「あのなームーイな。ユキカズとは離れてラウとリイと一緒にお菓子修行をしたいぞー」
ムーイがお菓子の修行に行きたいと、俺達に提案してきた。
「うん。お義母さんが行きたがってるからボクも一緒についてくよ」
「心配ですので同行しようかと」
「いきなりだな!」
ちょっと忙しいなって所でムーイ達がいきなりそんな提案をしてきたんだ。
で、話はあっという間に進み、ムーイとリイは兵士として認められてあの菓子職人が乗っている飛空挺への配属が決まった。
エミールもその希有な能力が買われて薬草栽培の仕事を受けて先に出かけてしまってるし……なんか置いてかれてる気分だ。
「ムーイの分身はユキカズに預けておくぞームーイ、お菓子を自分の手で作れる様になりたいしもっと勉強してくる。あの空飛ぶ乗り物でいろんな所を見てくるぞ」
「いや、そこまでしなくても任務の合間に各地でお菓子巡りすれば良いんじゃ」
「んーこっちの世界でなら何時でもユキカズに会いに行けるから大丈夫、ムーイはユキカズの優しさに甘えずしっかりと立って行きたい」
いやいや……不安なんだが。
ムーイに関する報告も国にはして居るんだけどね。
ああ、姫様が色々と秘匿するように手配もしてて、表向きはウサギ系の獣人って扱いらしいけど。
一応、そう言った人種が居るらしい。
兵士の服を着たムーイが楽しそうに出発の準備をして居る。
「ユキカズ、ムーイがしっかりと世界を見て、ユキカズより凄いお菓子を作れる人が居ないか見てくるぞ。それが終わったら今度こそ返事をして欲しいからなー」
ああ……ムーイは俺の返事を貰うために世界を見たいと。
なんか俺の手から飛び立って行ってしまうような、少しばかりさみしい気持ちになるね。
「じゃあユキカズー、フィリンー、行ってくるぞー」
「お義父さんいってきますっきゅー」
「では行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい……」
「いってらっしゃい」
ムーイ達は精一杯手を振り、飛空挺へと乗って行ってしまったのだった。
大丈夫かなーとは思うのだけどムーイの分身は俺の尻尾に引っ付いたまま居るので離れて居る気配はあんまりしない。
ターミナルポイント経由で手紙のようにやりとりとかも出来るようになってしまっているし……ジャンプもやろうと思えば出来てしまう。
「さーてと、俺もムーイに負けてられないかな。こう……まだ治せていない級友達の為にも戦っていかなきゃ行けないし」
「そう……ですね」
まだ4割しか級友達を助ける事が出来ていない。
なのでレラリア国を初めとした同盟国には異世界の戦士の力が使われて居るのではないかと言う勢力が居ないかの調査をお願いしている。
これが俺の当面の目的だ。
場合によっては戦場にも行くことになるだろう。
だけどここで引くわけにはいかない。
「ユキカズさん。私も頑張りますね。そうして、世界を平和に……この世界の本来の神様に許して貰えるようになりたいです」
「あんまり気にしなくて良いと思うよ。そういう次元じゃないと思うしアレ」
「それでもですよ。そして、ユキカズさんやムーイさんの助けになるように頑張って行きます」
「ありがとう、フィリン」
「ギャウ」
と、バルトが俺の隣で声を上げる。
うん……俺はこっちの世界に戻ってこれたんだなと改めて実感した。
こうして俺は新たな目標を胸に活動して行く事になった。
で、それからーー。
「ライラ教官! バルトったら酷いんですよ! 潜入工作から離脱してバルトに乗り込む前に敵の攻撃を受けて片足が吹っ飛んで命からガラ乗り込んで報告したら「早く片足を再生して戦闘継続をしてくださいって指示してくるんですよ!」片足が吹っ飛んだって報告したのに!」
「そうか、では聞くが私の目には貴様の足はしっかりとあるように見えるが?」
「そんなの足を再生させたに決まってるじゃないですか!」
メチャクチャ痛かったし、きつかったけど生やしたのだ。
「ギャウ」
バルトがヤレヤレって呆れたような声を上げてる。
絶対おかしいって! 片足が吹っ飛んだのに同情とか危険とか危機感を持ってないんだよ?
「私も同じ指示をすると思うぞ。普通はそんな簡単に足を生やせない。最低でも国の錬金生体部門に高い金を払って生体移植をして貰う次元だ。数年はまともに動けん」
「そんな……酷いじゃないですか! 誰も俺の味方をしないって言うんですか!?」
「トツカ、貴様はいい加減自身が生物の枠からはみ出た存在であるのを自覚しろ!」
いやいや、片足吹っ飛んだのに誰も味方してくれないってブラックじゃないの?
「はぁ……嫌なら危険な任務に自ら志願せずに内地に行け、貴様……敵国になんて言われているか知っているか?」
「知りません」
「レラリアの魔王だそうだぞ。見つけたら何が何でも殺せと言われている」
うわ……だから俺だってわかった瞬間、周囲の軍人が全力投入してきたの?
カーラルジュの力を使って命からがらバルトと逃亡したんだけど。
「王もお前に与える勲章の残りが少なくなってきたと嘆いて居たぞ。いい加減、貴様の損失によるレラリアの危機を考えろ」
「いやいや、まだ級友達をみんな治せて居ませんし、良い人……ブルの故郷が戦果に巻き込まれ兼ねないのでやめられません」
健人の奴が作った村、立地悪すぎて巻き込まれ兼ねないんだよね。
だからそこを守る様に重点的に戦地を俺は巡ってる。
「そもそも貴様、自分の階級を見ろ! もう私を教官と呼べる地位ではないぞ。一々私に報告に来るな!」
「いやいや、俺の中ではライラ教官はいつまでも俺の上司ですよ」
「それより貴様……自分の部下にどんな教育をして居るんだ? 配置換えで私の所に来た時、妙な話を無数にしていたぞ。何処のアマゾネスだと私は思われているのだ!」
「そ、それは……どこかおかしいですか?」
「貴様! 望み通り教育してくれる!」
と、ライラ教官が青筋を浮かび上がらせて剣を抜いてきた。
やっべ! 急いで逃げなきゃ!
「わー! すみませんライラ教官!」
「そう思うならおとなしくしていろ! 今度こそ貴様を教育してくれる!」
っとまあ……俺の兵士としての日々は続いている。
楽しい冒険者になるのはまだまだ先になりそうだけど、まあ……異世界で兵士として頑張ってる。
第二部完です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
三部は……まあ気が向いたら書きます。





