三百八十七話
「藤平は人格改造を施してお前に凄い信仰する真人間にして良いというのならどうか? この世界の連中みたいに良い感じに出来ない?」
「何言ってんだお前……」
神は不敵に笑い、健人は呆れている。
「フフフ……君も言うねえ。その返事は少し面白いかな。考えておいてあげるよ」
交渉が上手く行ったか? 藤平真人間改造計画……。
「ああ、この願いをムーイにお願いすればそんな事をしなくても良いんじゃないかと思うかもしれないが、無理だよ。僕だからこそ出来る事だよ。そもそも僕が作り出した子達由来の変異だからムーイに期待してはいけない」
ムーイがピンと来ない様子で首を傾げている。
「仮に近い状態に出来たとしても、それはムーイの力で創造された者たちとなるのが関の山だ」
まだムーイは未熟、いや……ムーイでは不可能な事なんだろう。
「で、これが一つ。もう一つは君がどれだけ頑張っても習得することが出来ない……オーク言語の加護。こちらも僕の悪意による力で君がもっとも欲するオークとの意思疎通は出来ない様にしてある。この悪意を除去してあげよう」
どくん……と、俺の心臓と言うか輝石回路が大きく鼓動をしたのを感じる。
「なん、だと?」
俺はオーク言語を習得することが出来ないだと?
なんて代物を俺に仕込んでやがったんだこの神は……つまり俺はブルやドーティスさんとどう頑張っても会話が出来ないという事に他ならない。
「生憎とオークと君たちが呼ぶ人種は僕がもっとも人間共に憎悪している時に作った子の眷属でね。人間共とは分かり合えない様にしたんだけど……例外とでも言うべきか、君の気に入ったオークたちは色々と事情があってね」
なんだ? ブルやドーティスさんにはまだ謎があるというのか!?
「言え! 何があるんだ!」
「おっと、それを話すのは面白くないだろう?」
く……くそ、こいつは絶対に話さない。それは嫌でもわかる。
神獣と化したこの体の本能が教えている。
「ああん? オークと話って出来るだろ。話にならねえ野蛮な奴が多いけどよ。すげー野望を抱いて仕留めるしか出来ねえ奴も居たが……あいつ、思えば神獣の断片をその身に受けたのか、それとも迷宮種だったのか、どっちだ?」
健人も昔、オークと戦った事があるって事っぽいが、それ所じゃ無い。
「大上健人、それは君が僕の子に選ばれて体が馴染んだからだからだよ。子供たちの加護があればこの世界の者たちに受け入れて貰えるのと同じさ。だけど兎束雪一はその前に僕が弄ったのさ」
どうする……一緒に召喚されてしまったみんなの救済、だがみんなはもう既に死んだような過去の人と言う認識も無くはない。
神は元に戻してくれるというがムーイの問題にあるよく似た別の存在にするだけとか俺だけ願いを叶える類の禁忌に触れて破滅するポジションに配置されている可能性もある。
だが、オーク……ブルやドーティスさんとの会話だぞ。
ブルがどんな言葉遣いで話をしているのかしっかりとしてみたいという考えもあるし、臨界と言う爆弾が無くなった今、ドーティスさんがまだ帰ってこない旦那を待っているというなら旦那を忘れて他に生きてくれないかと説得と言うのも一つの手だ。
女で一つ、村があるらしいけど苦労も多い。
支えてあげたいというかブルと一緒に力になりたいし何より、その村に俺も住んで冒険者になりたい。
ここでクラスメイトの皆を見捨てればブルやドーティスさん、ブルの弟妹とも話ができる。だがしかし、ブルみたいに良い人になるにはそんな自分の欲望を優先した願いなんて選んではいけない。
けどこの機会を逃したらブルとしっかりと言葉を交わす手立ては無いに等しい。
「おーい。ユキカズー……ユキカズが硬直してるぞーなんかすごく考えてるー」
「ユキカズの兄貴にとって非常に悩ましい選択みたいなんだな。こんなに悩むユキカズの兄貴、初めてなんだな」
ムーイが俺の目の前で手を振り、話をしているとエミールものぞき込んでくる。
で、神はニヤニヤと俺をどこまでもあざ笑っているようだった。
「ははは、僕の想像通りになって実にしてやったりだよ」
「く……どこまでも卑怯な二択を迫りやがって」
「フハハ、とはいえ、君がどうなりたいかを進化する際の選択で見させられているからね。答えは……決まっているだろう?」
神の問いに、俺はこれまでにない位、大きくため息を吐いた。
「絶対に恨むし、お前の事は信仰なんて死んでもしないからな」
「それでも結構、実に面白い玩具だよ君は」
さらばオーク言語……俺がこの姿で欲しいと思う能力。
「クラスのみんなを元に戻せる手段を俺は選ぶ」
「うん。その選択こそ、僕の子達も気に入る代物だろう。君が求める良い人はそれを選ぶ」
『本当、すまない。こんな親で……』
神獣たちの謝罪がぽつりと聞こえたし、ヴァイリオ達が四つん這いで屈辱を味わいながら決断した俺を同情の視線を向ける。
ボワっと神が提示したオーク言語習得の光が闇に消えた。
「じゃあ話を進めるとして、この代価は非常に大きい。君たちが手に入れた迷宮種の力の源も僕にほぼ謙譲することになる。ポンコツから取り返した僕の子達由来の力は、異形化した者たちを元に戻すために使われるので当然失われる。大上健人、わかったかな?」
「チッ、しょうがねえなおい。いい女たちの移住権利は保障されるんだろうな?」
「もちろんだとも、最低保証はしてあげよう。何なら、第一層の住民すべてにその選択を与えて置いてあげるよ。兎束雪一の反応が想像通りで機嫌が良いから大サービスだ」
「ありがとうございましたー」
健人……棒読みで感謝するんじゃねえよ。
「じゃあ代価を貰っておくよ」
そう言われてフッと俺の中やみんなから力が取られる。
「おー」
「ユキカズの兄貴の友達の為なんだなー」
まとめると……俺が手に入れていた聖獣の力、迷宮種の力を没収、異世界の戦士の力は残ってるけどみんなを元に戻すために失われる。殆ど中身無くなって強さは大幅にダウンしそう。とは言え、カーラルジュの力の源やフレーディンの力の源とかそこそこ、力の源は俺の中に残っている。
ムーイとエミールへの配慮か?
まあ……進化した体の基本的な強さはあるし、Lvを上げりゃ相応に強い。
あくまで弱体化をそこそこしたけど下手な迷宮種より強くはあるし出来る事も多い。
成長性もまだある。
「さて、大分話はまとまってきたとして、今後の話を多少してあげよう。これはあくまで助言であり、あっちとこっちの世界の現状の説明だ」
「ああん? 何があんだよ」
「君たちはあのポンコツを倒した事で平和になったと思っているけれど、そうでもないって話さ」
「何? どういうことだ?」
「あのポンコツが起こした出来事を引き金に、ダンジョンや各地で息を潜めて活動していた連中が続々と動きを見せ始めたのさ。例えば竜の魔王と呼ばれる……ポンコツの出自と似たような人間共に反旗を翻した竜兵器とか、破壊された世界に元からあった超文明の古代兵器とかね」
竜の魔王はこっちの世界には来ないけどね、と神は小さく呟く。
「そういった勢力が暗躍して人間共の国でも争いの火種がくすぶっているっぽいのを僕の子供が報告してくれてるよ。ああ、あのポンコツ、本拠地もこっちに乗り込んできた奴も倒されたけど、まだ色々と飛び散って生き残っているみたいでもあるんだ。しぶとい奴だよ。人間共と同じで反吐が出るね」
嫌な事情説明するなよ……俺たちの平和はどこにあるんだ?
「大きな戦いになるのはどれくらい先になるかはわからないけど平和な時なんて割とすぐに過ぎてしまうから準備はしておいた方が良いんじゃないかい? 僕もこっちの世界の防衛を強化するために子を呼び戻して、兎束雪一を転勤させるって事にしたんだし」
「おいおい……それだけの問題があるなら力を取るんじゃねえよ」
「なんで僕が人間共の助けになるような真似をしなきゃいけないんだい? 僕もこっちの世界を守らないといけないのをわかってる? それだけのエネルギーだよ。何より、戦えるだけの分は残してあるからしっかりと力を磨け。健人、君も……良い感じに成長出来るようになってるよ」
「おい……それってこいつらに巻き込まれた所為だよな! なんかうるせえ声が聞こえるようになったこれが理由だろ!」
健人にも不吉な事を言った神は、ムーイへと顔を向ける。
「まあ、すぐに本格的な戦いが起るという訳ではないだろうけれど、あちらの世界を見てくると良い。僕の世界だったあの世界を君がどうにかしてくれたら良いと思ってる」
「ムーイじゃなくてユキカズが平和にしてくれると思うぞ」
「だと良いね。では、そろそろ謁見を終えるとしようか。帰還までの時間はわかるようにしてある。しっかりと準備をするように」
と神は告げたかと思うと俺の視界に元の異世界に戻るまでの残り時間、三日の猶予を表示させて、俺たちは神のいる空間から追い出される形で……戻ったのだった。





