三百八十六話
「……あっちのみんな大丈夫だっただろうか」
「人間共も活発化したあのポンコツ軍の侵攻に対処してたみたいだね」
うへ……俺が命がけで解決したと思ったのに、その後も戦いが続いてるのかよ。
「今回の問題を深く見て、あの子をこっちに呼び戻す代わりに君にはあっちに行って貰うのさ。まあ、話を詰めるとして……ムーイは言ってしまえば僕にとって最高の宝だ。それを放棄した世界の方に行かせることがどれだけの損失なのかを考えて貰えないかい?」
「ムーイはユキカズの話す異世界に行きたいぞー」
「それとこれとは話が別……僕からすると迷宮種はせっかく収集して色々と世界を彩る宝物、エミールなら妥協してあげるけど、宝物が良い感じに仕上がった物を見送るというのはね」
「うー……」
「と、言って僕の後継者が引き下がるとは思えないので譲歩はしてあげるよ。これくらいは恩を着せておかないとね。ムーイ、もっといろんな所を見て、人間共が如何に問題があるのかを知ると良い。同じ迷宮から生まれた者をその身に取り込んで学んだだろうけど、もっと知ると良いさ」
閉じ込めても空間をこじ開けて行きかねないから止めようもないしと、神は小さく呟く。
まあ……ムーイの行動力を神が制御しきれないって事なんだろうなぁ。
「とはいえ、君の大きな体と世界の結晶……力の源の大半は置いて行って、ここで僕の後継者としての勉強もして貰うよ」
そう告げてから神はムーイの耳元に口を近づけてヒソヒソと内緒話を始めた。
「え? あ……う、うん。うん……」
ムーイは最初、驚いたような顔をしたけど俺の方を見てから何度も頷いていた。
ちょっと赤くもなってたのが非常に気になるんだが?
「わかったぞ……ムーイの大きな体は神様の勉強する」
「理解してくれて何より、と言う訳でムーイもあちらの世界には行くが、今の溢れるほどの力の源は持って行かせはしないよ。譲歩する気はないからね」
「力業で突破やお前を倒すって選択は?」
「したければするがいい。その場合、兎束雪一、君がどうなるかの保証は出来かねるよ。ムーイ、仮に君が能力で彼を蘇らせたり再現したとして、果たしてそれは君にとって大切な彼であるかな?」
うへ……嫌な脅しを。
「うー……」
「存分に唸ってくれて結構、僕はムーイ、君に憎まれても期待しているんだからね」
本当、ムーイへはゲロアマだなこの神は。
「まあ色々と小さな視点では僕が身勝手に映るだろうけどもっと大きな視点で物を見て欲しいね。君は見て凌駕するあの子の子供みたいなものなんだから」
「今度は俺への説教か?」
「いいや……君たちの叶える願いの総合からのまとめと取引に入るんだよ」
そうして神はコホンと軽く咳をしてから俺に顔を向ける。
「ま、兎束雪一。君は僕に大きな借りがあるのは理解しているかな? 臨界を迎え、異形化を果たして別の存在になり果てるのを救った。と言うね」
「魔物化なんてずいぶんと変わった経験をさせてくれたもんだよ。挙句、こんな姿になってな。挙句、妙な世界に引き込まれるまで来たもんだ。そっちはどうなんだよ」
「しっかりと意志を残せているかと言うのもあるし、手元まで連れて来ないと出来なかった事もある。ワザワザ望みどおりにあっちに送ってあげる必要なんて僕には無いじゃないか」
くそ……俺には微妙に辛口だなおい。気に入ってはいるとか抜かしたけど弄る意味で気に入っているだろ。
「まず調整的に言うのならば聖獣たちとその力は君の力ではないので預かる……いや、聖獣たちは戻って貰おうか」
パチンと神が指を鳴らすと俺の中にあった聖獣の力が抜けて行き、光の玉が四つ離れて聖獣たちが実体化した。
「うお!?」
「か、神を……慈悲に感謝いたします」
「あ、あああ……」
聖獣たちは少しだけ離れた所で敬礼している。
「そうそう、接続自体は維持しているから休憩中とかは意識を飛ばして彼の意識と繋げて傍観をするのは許可してあげるよ。もちろん、応援したい場合もあるだろうから、距離があって送る量に限度こそあれ力を少しは送っても良いよ。神獣たちも娯楽として彼の視点で世界を見てるからね」
「お、大いなる慈悲に感謝いたします!」
ヴァイリオが神の提案に深々と頭を下げている。
「……君たちの事だって、僕は見守っているさ。あまり卑屈にならない様にね」
「あ、ありがたきお言葉!」
ああ、ヴァイリオ達、聖獣は神からすると関心が薄い、神獣のような子供みたいに大事にしてないと思っている話への神なりのフォローかな?
「それだけの力があればとか健人や雪一、思っているだろうけど僕は既に隠居しているような創造神だよ? 全てを解決は出来ないし、君も想定した通り、細かい調整が出来ない問題だったんだよ」
「はいはい。面倒くせーから話を進めろ」
健人が話題をそのまま流そうとする。俺も同意見だ……言いたいことはたくさんあるけどはっきり言ってあんまり関わっていると面倒なのは間違いない。
「さて……では更に話を進めるとして、兎束雪一。君の願いに関する話と行こう。あっちの世界に行くというのは予定路線としてだ」
「配下になったつもりはないが、転勤が決まってるのは良いとして、他に話があるのかよ」
「もちろんあるとも、大上健人の願いを叶える件との兼ね合いもあるけれどこれは君にとって非常に魅力のある選択を、君がここに来るまでの間に僕は考えてあげて置いたんだからね。同時に君が可愛い孫とは言ったけど憎い人間でもあるのは変わらない。ここまで善意を向けた僕の悪意も一緒に味わってくれ」
と、これまでの無い程、背筋がぞわっとする嫌な気配が漂い始めた。
『出た……偉大なる創造主様の難点が……』
『これさえ無ければ兎束雪一ももう少し、信仰してくれるだろうに』
『完全に気に入られてしまっている。雄々しき英雄だと思っていたのだが非常に哀れな』
聖獣たちが抜けたお陰で神獣たちの声がより聞こえるような気がする。
いや、今まで黙ってただけか。
「勿体ぶってねえで話せよ。俺の良い女の行き来計画が大事なんだからよ」
健人は自分の事しか考えてねえ!
「ふ……さて、兎束雪一に提示する選択次第だと言っただろう?」
神は両手を広げて二つ……光を左右の手で浮かび上がらせる。
「一つは騙されて力を使い切ってしまい異形化した者たちを元に戻す手段」
何!? それって異世界の戦士として国に招かれ、儀式と称して……アポ・メーカネース・テオスとムーフリスによって……異形化したみんなを元に戻せるという事か!?
俺が目を見開くのを確認するかのように神は答える。
「もちろん、君が思い描いた通り……僕の子供たちに選ばれ、与えられた力を使い果たして姿を変えた者たちを、変わる前に戻す事を……僕はしてあげても良い。正し、君が異世界の戦士の力と認識する代物、抽出された力を敵から取り戻す事が前提にあるけどね」
「今、俺の体に中にある取り返した因子は?」
「もちろん使えるとも……だが、あのポンコツがこの世界に投入したのはすべてではないし、君が異形化した際に使われたのも僅かであり、僕の子が奴の本拠地を破壊して得たのを集めても……4割行ったらいい方か、あのポンコツがいざって時を考えて世界中に散らばらせたからね」
異形化したみんなを……元に戻すことが出来る……く、くそ。確かにそれは俺にとって目先に吊るされた人参のような甘美な響きのある宝の提示だ。
「ただし、自らの意思で力を使い切った者には慈悲は無いのを先に理解するんだよ?」
「藤平は除外って事だな?」
「そう。僕はああいう身の程をわきまえない奴が大嫌いだからね」
藤平……こんな所でも除外か……奴の最後を思うと哀れだとは思うけど、じゃあ仮に助けられたとして助けても、俺に向かってシャウトするのが思い浮かぶもんなぁ……。
異世界地雷十か条! 恩着せがましい! 助けたからっていつまでも調子に乗ってんじゃねえ!
異世界地雷十か条! 接待世界! 何お前が優遇されてんだよ! 面白くねえんだよ! お前の語り!
とか罵倒されるのが関の山だしなぁ……どうにか出来なかったもんかなー。





