三百八十三話
「ちょっと待て、確かムーフリスが進化して得た能力を雪一はメフィストと言ってたな。こっちも願いを叶える悪魔だったはず……じゃあ、ムーイは、もしも童話モチーフで願いを叶えるという能力だというなら……」
「ランプの魔神だよ。ムーイ、君の本来の能力は……、それが僅かな欠片として体と力の源をこの世界に紛れ込ませたのさ」
「……ムーイはムーイだぞ」
力無く、ムーイはラウをギュッと抱きしめてから神に抗議するように答える。
「別に君を咎めたりなんかしないさ」
「どういう事だ?」
「迷宮種とは長く生きた階層主の中に迷宮の力が凝縮されて出来たコアによって進化した新たな生命体にして破壊された連中の世界の断片。この断片が世界となろうと集まり力となるのさ。兎束雪一、君もエミールに寄生して力を解き放った時に見ただろう? そして顕現し、僕の世界に根付いた世界樹がそれだよ」
「な、なんだな……?」
「そう……つまり新たな世界の種でもあるのさ。ムーフリス、君はムーフリス大迷宮の最下層、人類共が到達できない階層の主にして王。そしてボクの最高の宝物、最強の迷宮種であり意志無き願いを叶える概念存在だった。上手く扱わないと、食われてしまうのさ」
迷宮種がどんな存在なのかを知りたいとは思ったけれど、そんな真実があったって事……なのか?
どうにもピンとは来ない。
「迷宮種の力の源は寿命を迎えて風化すると限界Lvをアップさせるアイテムに変化するだろ」
「世界の力が凝縮しているが、同時に迷宮内の力も内包しているのだよ。迷宮で失われた者たちの力が集まってね……そんな事も理解できないのか? 健人」
本題からそれている、と神は指摘してきた。
「ムーイ、彼女の……ムーフリス大迷宮と呼ばれる場所が出来たのは……君たちの記憶でも記されていない古い古い、最古のダンジョンだ。そのダンジョンの最下層の討伐された事のない階層主。そう、兎束雪一、君が所持するスキル、迷宮王とはムーイの事さ」
「ムーイ本人は俺に出会う前の少し前くらいからしか記憶がないと言ってたぞ」
「出会った時に少し教えてあげたじゃないか、迷宮の申し子と……意志なんてなかったのだから記憶なんて無いに等しい」
ムーイに出会って気絶させられた時にそんな声を聴いた覚えがある。
「そのムーイの本体は生まれた時から迷宮の最下層で自我と呼べるものは無く、本能のまま階層を埋め尽くしてしまっていたのさ。それが迷宮種として力を得たまでは良かったけれど、そのまま上へ上へとね。知恵もなく本能のままにすべてを取り込んで成長して行く」
巨大なスライムが全てを飲み込む姿を神は影像で見せていく。
「時には……ね。世界を埋め尽くさんとした時もあったよ。さすがに僕も困ってね。こうして、用意した階層にそのまますべて引き込んだのさ。とはいえ時々空間を突き破って分身を出しては適度に迷宮種を捕食して呼び戻されては増えていく……って生き物だったよ」
「ムーイは……もう、そんなムーイじゃないぞ!」
拳を握ってムーイが神に言い返す。
すると神はムーイの返答に素直に頷き、笑ったような声音で答える。
「そうだろうね。いやぁ……僕も君に色々としてあげたかったんだけどどうにも手に負えず、どうしたものかと思っていたんだよ。まさか、僕が見てる彼、兎束雪一に謎の興味を見せて、自らの分身を近くに送る真似をするとはね。その結果が今につながっている」
神はムーイの返事にしっかりと答えてから俺に語り掛けてきた。
「おめでとう兎束雪一、君はね……戦いをせずに既にこの世界を救ったんだよ。僕ではどうにもするのが出来ない程の強力な存在に、心を、願いまで与えたんだ。世界を覆い尽くすほどの大海に一滴の雫が落ちる事でね。見てきただろう? 先ほどの世界を」
ムーイが何処までも続く海みたいな場所に落ちていくと波紋のように広がって、大地から何まで伸びて行った。
それから下に神への道があるからとムーイは道を開いてくれたけど……。
「ムーイ……迷宮王ムーフリスはすべてを飲み込むものではなく、創造神の領域に至った。いずれは僕の後継者として……僕のようにならず新たな世界を創造して行って貰いたいと思っているよ」
神が告げるその声音には、強い感情が籠っているように俺には感じた。
それだけムーイに期待をしている……かのようだ。
「どんな物だって君は作り出すことが出来る。その力で僕が人間共に邪魔されてできなかった創造をしてほしい」
「……どんな力で創造しても、本当に大事な心は作り出せないんだぞ。心を込めて作るお菓子は能力で作るよりもはるかに美味しい。みんなで食べるお菓子の味にはならないんだぞ」
ムーイが悲しい目で神に向かって答える。
ミダスの手によって作り出されたお菓子は、若干味が低下している。
それと同じように能力で作り出した代物は劣化する、本物ではないとムーイは言いたいんだと俺は思った。
「そこまで創造の力で作れなんて僕は言わないさ。じゃなきゃ……愛している子供たちの心を作れるとか自惚れた事を言うだろう? 僕はね……時に僕に歯向かった子ですら愛しているんだよ」
そんな神獣も居るのか……って俺もある意味それかね。
「そもそも君のその力が劣っていると思っているのは君の思い込みなのが大きい。もっと自信を持ちなさい。そうすれば知っている味とそっくりに出来る」
ムーイは神の言葉に首を横に振る。
「劣っている方が、ムーイにはピッタリなんだぞ」
「はぁ……ここはどれだけ指摘しても平行線になりそうだね。まあ、だからこそ……心を得られたと思うべきか」
そこでヒステリックにムーイを怒鳴るかと思ったけど神は引き下がるっぽい?
傲慢で身勝手って思ったけど、想像よりは話が通じそう?
『当たりは強い方だが、理解が無い訳では無いのだ』
『一応、慈悲深い方ではある』
神獣と聖獣の両方からフォローが入りました。
「それに、そんな力がムーイにあるなら……もしかしたらユキカズを……」
え? 俺にも影響が出てる訳?
「あれか、理想の雪一に無意識に変えてたってか?」
うえ……そうなのか?
どんどん無意識にムーイによって俺は理想の存在に?
まあ……色々とあって果てしない力を得た気はするけど……。
「ああ、ムーイ。君が今、不安に思っている事に関して、僕が答えてあげよう。それは否だ。兎束雪一を君は本来の能力で進化させた訳じゃない。彼は、神獣と彼自身が選んだ進化で君を苗床にしてその領域に至ったのさ」
「ムーイ、俺がムーイの能力でこんな姿になったとか今思ったのか?」
ある意味、半分は正解な気もするけどあの時の状況が大事だろ。
「君と言う最高の苗床を使ったらどんな無能だって力を所持できるさ」
「おい」
それって俺が無能だとでもいう気か。
確かにムーイのお陰で聖獣の力を内包できる程、強くなったけど……。
「知っているかい? 結局はエネルギー量が大事な体をしているから、彼から聖獣たちが抜けて迷宮種の力を抜いたらそこまでの力は出ないのだよ?」
「さっきから俺の下げが酷くないか?」
事実だけどさ。
俺自身の強さってあんまりないのかもしれない。
抱えているエネルギーで自壊しなくなって、そのエネルギー頼りの強さではあるだろう。
カーラルジュ辺りから奪った力に始まり……ね。
もちろん進化を繰り返したので相応に強いけど聖獣や神獣に比べると何も持ってない状態だと弱いだろうなぁ。
「討伐しねえといけねえ神様ムーブしてる割にはムーイへのフォローを滅茶苦茶しやがるな」
「ふん。僕をそんな下等な自称神と同類に扱わないで貰おうか」
何処が違うんだよ。と思うけどなと健人と同様の感想しか思えない。
どうもムーイは神の養子と言うか願望が形となった存在として思われているというのはわかった。
「ムーイ。君の本体に関してはいずれ聞いてくれればいいさ。これまでの旅で君は……大事な物を学んできた。今はそれで良いだろう」
「……ユキカズ」
「どうもムーイの正体が凄いのはわかった。だけどムーイは、ムーイだろ?」
「うん。ムーイはムーイだぞ」
ムーイの能力で自身の姿を変化させることは出来ても不可逆、戻れないようになるというのは……違うのだろう。





