三百八十一話
「あ、ユキカズ」
風に耳をはためかせてムーイが俺の接近に気づいて声を掛けてくる。
そして俺に手を伸ばすので俺も手を伸ばしてムーイの手を握るのだけど……。
「……大丈夫、ラウや健人、エミールの方に行って欲しいぞー!」
「え? おい!」
ブン! っとムーイは俺をラウや健人、エミールの方に投げ飛ばした。
「うおう!?」
それから優しく笑みを浮かべて手を振り、海へと真っ逆さまに落ちて行く。
「ムーイ!」
俺はラウ、健人をエミールに掴ませてから背中を掴んで羽ばたく。
急降下する勢いをどうにか殺してそのまま飛び続ける。
「なんだこりゃ!? ここって一体どんな場所だよ! そこら中からすさまじい迷宮種共の気配がしやがるぞ」
最近、精度が非常に落ちた健人の迷宮種達の感知する気配でも感じ取れるほどの気配が辺りに漂っている。
「な、なんだな……」
エミールに至ってはラウと健人を抱きしめたままブルブルと震えている始末だ。
「ユ、ユキカズの兄貴。オデたちを絶対にあそこに降ろしちゃダメなんだな」
何かわかったのかと思ったけれどエミールは下にある変わった色の海の方を見て震えているようだった。
「わかったけど、それを言ったら……ムーイ!」
おい! そんな危ない所にムーイが今落ちそうになってるだろ! そう思っていると……ムーイがその海へと着水する瞬間が視界に入った。
水しぶきがおこり、ムーイが海へと入ると……ビリビリと空気が振動を起こして大きな波紋のように海に波が起り始める。
「ムーイぃいい! 早く浮かんで来い」
海面に少しだけ近づいて声を掛ける。
浮かんで来たら急いで手を掴んで引き出さないと。
そう思っていたのもつかの間……ムーイが落ちた場所から波紋が何度も起こり、ブワっと大地が津波のように現れてそこから緑や山、様々な草原……津波のように海を塗り替えて現れた。
サーっと、その海がどんどん塗り替わる姿は地平線の先まで続いて行く。
で……ムーイだと思わしき、部分はどんどん地面の奥深くへと沈んで行っているのが薄っすらと見えていたのだけど……やがて遠くの海がトゲのように伸びて更に大地……世界が広がって行ってしまうようだった。
「これは一体どういう事なんだ? 一体俺たちは何を見せられてんだ?」
訳が分からない。
そう思っていると……遠くで山のようなムーイ? が頭を起こしてこっちに手を振っているようだった。
いや……そこら中から、ムーイっぽいウサギみたいなのが俺たちに手を振っている。
ちょっと狂気が入ってて怖い。
俺がそう思ったのもつかの間、ムーイ達は元の山は山に戻って行き……地面からムーイが水面から顔を出すように姿を現した。
「プハ! もう大丈夫だぞー」
「ムーイ」
俺は地面にみんなを降ろしてムーイに近寄る。
「一体何なんだよ。ここは」
「……ここは、ムーイの前のムーイだけの場所だったみたいだぞ」
「それってどういう事だ?」
「今、ムーイはわかったぞ。あのな……ユキカズに会ったムーイは、ここにいるムーイが力の源を少しだけ持たせた分身だったんだぞ」
いや、何を冷静に説明してるんだ?
ムーイが分身? 理解が追いつかない。
「おいおい。それはどういうことだよ」
健人がムーイに尋ねる。そりゃあみんな同じ感想だろ。
「分身って事はよ。ムーイ、お前、この前の戦いの時もそうだったけど大丈夫なのかよ」
「そうだ。ムーイ、無事なのか?」
「うん。無事だぞーでもここにあるムーイの本体はなームーイの影響を受けて、ムーイになったんだぞ」
いや、まるで分らない。
ムーイの本体もムーイになったって説明が分からん。
「オデはわかる気がするんだな」
「迷宮種同士だから理解できるって事?」
「原理としてはオデの体と力の源の意識と同じなんだな。ムーイの姉貴の本体は、ムーイの姉貴と接触した事で色々と理解したんだと思うんだな」
うーん? わかるような、わからないような。
「こういう事だぞー」
っと、ムーイが何か意識をすると遠くの山が先ほどみたいにムーイに変わって手を振っている。
「ここにある全部がムーイなんだぞ。今はユキカズ達の為にここを地面にしてるんだぞ」
「そ、そうなのか……なんか、すごく広いな。どれくらい増殖したんだろうな」
「どこまでかムーイもわかんない。きっと世界規模だぞ」
そんなとてつもない大きさなのか!?
「あ、でもな。ムーイの体に全部、ムーイが伝わるのはまだまだ時間が掛かるぞー」
「なんでそんなムーイの……本体らしき代物がこんな所にあるんだよ」
と、俺がムーイに尋ねた直後だった。
『それを知りたければ、僕の元に来ると良い。ここのムーイの下に……僕への道が用意してあるよ』
神って奴の声が響き渡った。
「うえ……俺たちにも声が聞こえたぞ」
「なんだな」
「これが神様の声っきゅー?」
「本当、理解するのに手間がかかるような場所に連れて来られたなぁ……ムーイ、あいつがそう言ってたけど、わかるか?」
「うん。ここだぞー」
と、ムーイが言うと俺たちの前にグボっと大きく穴が開いて先ほどと同じく光の柱が伸びてくる。
ここを通れって事で良いのか。
「どうやらムーイが通れる力の量が制限されてるみたいだけど、行くぞー」
「あ、ああ……行って、良いんだよな?」
「うん。もう大丈夫、きっと神様ってのがこの先にいるぞ」
ついてきてとばかりにムーイはそのまま光の柱の中へと入って行ってしまった。
今は進むしかないか……。
そのまま俺たちは柱をくぐって移動をする。
すると今度は……まるで宇宙空間のような所で足元が水晶の板で構築された場所に視界が切り替わる。
「おー……なんか古いRPGのラストダンジョンみてえな場所だな」
「ここで最後のドンパチをするのか?」
俺をどこまでもからかってきた奴を殴れるならそれでもいいんだけどな。
「いやいや、僕は戦う気は毛頭ないよ。まあ……殴りたいなら素直に殴らせてあげても良いけど」
と言う声が俺たちの前から聞こえてきた。
そこに居るのは……仮面で顔が隠れてよくわからないけれど、導師のような服を着た人のような者だった。
「ああ、この姿は君たちが分かりやすいように用意した姿だよ。ようこそ、異世界の戦士達と迷宮種諸君、それとラウだったね」
目の前にいるのが神……、そう言われてもどうにもピンとは来ないのだけど、俺の中に居る聖獣たちがこぞって敬礼をしている。
どうやら本物らしい。
「おめーが神か、で……何をどうするんだ?」
「大上健人、そう警戒しなくて良いよ。僕は確かに人間を憎悪しているけれど、僕の子供が選んだ君に関しちゃそこまで嫌ってないからね。ある程度、相談にも乗ってあげるし、願いがあってここに来たんだろう? 君が思い描く願いを曲解して叶えて破滅なんて無粋な真似はしないよ」
「お、おう」
健人が懸念していたメタ的な要素は無いとばかりに神は答える。
ファジーに、しっかりと要望を叶えるってのはサービスが行き届いているって事で良いのかね。
「状況が状況だったし、聖獣たちに挑んで勝利した訳でもないって事だけどそんな事にケチを付けるのもね……しっかりと盛り上げて僕を楽しませたんだ。配慮くらいはね。とはいえ、相応に代価を支払わないといけない所はあるけどね。確認くらいはするよ」
代価……ね。
「そうだね。まずは何を話そうか……うん。僕の身の上話から聞いてもらった方が、その後の話をするのもすんなり行けるかな」
「身の上話? ムーフリスが昔、話した事があったし健人もある程度収集した奴か」
「まあね。正確に教えてあげた方が良いだろう? 誤解されるのも癪だし、こうして話すんだ。感謝してほしいね」
こうして神は……身の上話をするようだ。





