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三百七十九話

 決戦が終わって振り返ると悠々と大きな世界樹が生えている訳で、絶景と言えば絶景か。

 何はともあれこの世界に潜んでいる脅威はこうして払われた。

 ラルオンを治療したように操られた者たちの頭に付けられた装置は俺とムーイが迅速に撤去して無力化させるに至った。

 とはいえラルオンよりも症状が深刻な為に町の病院で隔離治療となり、ラルオンが同類たちの手当てと事情説明等をするという事でそこで厄介になる事になった。

 俺たちは拠点にしている町へとターミナルジャンプで戻り、勝利を各々喜び合い、戦勝会となった。

 まあ……数日前も祝ったので今回はそこまで大きくはないけどね。


「単純に戦っていた時間はそんな経ってねえってのによ。疲れたな。おい」


 健人がそんな中で俺たちに言う。


「そうだな。色々とあった。死線をどんだけくぐったもんか」


 とは言いつつ……ローティガとの戦いの激戦と比べると幾分か俺は楽だったという印象だ。

 それだけ、ムーイを苗床にした進化で至った強さがあったというのもある。

 俺を焼き焦がすエネルギーの上限が撤廃されたような状態で、今の俺は……まあ、いろんな力をその身に宿してしまっている。

 更にムーイやエミールにこのエネルギーを回すことで世界樹とか作り出せてしまうようになっているんだし。


「つーか! なんか昔みたいに神獣の声みてーのがブツブツ頭の中で聞こえんだけど? 目玉の化け物さんよー!」


 健人は相変わらず変身素材にされたのを根に持った言い回しで詰問してくる。


「ワン・アジンの声が聞こえるようになったんなら良いんじゃねえの?」

「女好きなのはお前だけだ、しっかりと周囲に周知させろってブツブツブツブツ、ずーっと俺に愚痴って来てうるせー」


 滅茶苦茶根に持ってんなー……そこまで気にしてるのか。

 俺の方でも神獣の声が聞こえるようになったんだけど、今の会話で苦笑が聞こえたぞ。


「ムーイ達の勝利だぞー」


 そんな感じで町では勝利を祝いつつ普段の日常に戻ってきているようだった。

 エミールも俺が治療と言うか色々としたお陰で全回復したけれど精神的な疲労までは取り切れないと言った様子で早めに休んでしまった。

 ラウはムーイにじゃれて居て、健人は……カトレアさん達相手に今回の武勇伝的な話をしている。

 まあ、ワン・アジンを呼び出す素材にされた事に関してチクチク俺に嫌味を言っている感じだ。

 とはいえ、健人の女性陣は「神獣様の力に成れたんだからよかったでしょ? 健人にはピッタリよ」と言われてしまってしょんぼりしていたかな。

 良い女たちに同意して貰えなかったって事でやけ酒をしてしまった。




 そんな戦勝会の中、見回りをしていると孤児院の屋根の上でムーイが眠っているラウを抱えながら街並みを見つめている所を目撃したので舞い降りた。

 ああ、俺に先に行かせてやらかしたムーイだけど、活躍したのは事実なのでお菓子はある程度振舞ったぞ。

 頑張りにはしっかりと報酬を与えるのが俺のポリシーだから。


「ユキカズおかえりー見回りはどうだったー?」

「特に問題なし、ルセトさんとかが相変わらず休まず見回っているかもしれないと思ったけど、注意したからか健人たちの輪に混ざって休んでたよ」

「そっかーよかったなー」

「ムーイもそろそろ寝る時間か?」

「んー……もう少し起きてる」

「きゅー……」


 ラウがすやすやとムーイの腕の中で眠っていて、そんなラウをムーイは見て微笑んでいる。

 ……ラウの両親の声があの時、聞こえた気がした。

 うん。俺たちが義理の親としてしっかりと見守っているよ。

 すくすくとラウはどんどん成長して行ってるね。

 目に見えて成長していて……大分大きくなってきたかな?

 ここ最近、戦いの連続だったから気づかなかったけど健人の腰くらいまで成長してるじゃないか。

 人間でいう所の7~8歳くらいかな? 早いなー。

 で、そんなラウの寝顔を見ているとムーイが何やら手で転がしているようだった。

 何だろうと見ていると……。


「あ、これかー? クコクコにお願いしたら譲って貰えたんだぞー」


 と、ムーイが手で転がしているものを見せてくれた。

 それは……この世界の金銭として扱われている硬貨だった。

 ムーイの隣に金袋がある。

 なんでムーイがお金なんか持ってるんだ?


「お金なんて必要なのか?」


 ラウの養育費……とかなら考えられるけど現状、必要性はかなり薄い。

 まあ、あって困るもんじゃないし、俺たちの活躍から善意で町の人たちは色々と物を恵んでくれるってだけなんだけどね。


「えっとなー、このお金はな。ちょっとムーイが欲しかったら貰っただけだぞ。こうやって」


 と、ムーイはピーンと硬貨を弾くとパクっと口に含んでボリボリと食べてしまう。


「ム、ムーイ?」

「ん? あのな、これがもう一人のムーイのご飯だったみたいだぞ」


 硬貨があいつの主食……だったのか?

 コイングロウとかその辺りだったという事らしいけど……ムーイの食性に変化が出たって事で良いのか?


「いろんな人の手に渡ったこれ、いろんな味がするんだぞー」

「そうなのか」


 硬貨をムーイが食べるのは、ちょっと違和感がある。


「もう一人のムーイは、お金がご飯で食べなきゃいけなかったんだぞ」


 何とも……なんか光の巨人か何かでそんな怪獣が居たような……? なんかそれだけは知っている。


「ムーフリスの事を考えていたのか?」

「うん。もう一人のムーイからムーイは色々と知ったぞ」

「お菓子と硬貨だったらどっちが美味しいんだ?」

「ユキカズのお菓子の方が美味しいぞー! あくまで食べてみただけだぞ」


 あ、そこは譲れないのか。


「じゃあ……そうだな」


 と、ちょっと冗談で作ってたお菓子を収納していた空間から俺はムーイに差し出す。


「んー? これってお金?」


 それは硬貨の形をしたお菓子だ。


「だと思うだろ? ちょっとここを捲ってみな」

「うん。お? 中にチョコが入ってるぞー!」

「コインチョコって言うんだ。驚いたか?」

「おー! 凄く面白いなー!」


 ムーイはコインチョコをパクパクと食べる。


「なんかムーイともう一人のムーイの両方が満足できるお菓子な気がするぞー! ユキカズ、ありがとー!」


 もぐもぐと嬉しそうに食べるムーイを見ていると嬉しい気持ちになる。

 今回の戦いは始まってから時間はそんなに経ってないけど壮絶な戦いだったのは事実だ。

 これもムーイが居なかったらどうなっていたかわからない。

 その結果、ムーイが……ムーフリスを取り込むって形になったんだけどさ。

 俺は……ムーイに余計な事を言ってしまったのだろうか。


「ねえユキカズ」

「どうした?」

「ユキカズは、叶えたい願いってある?」


 唐突な事をムーイは聞いてくるなぁ。一体どうしたんだろうか?

 そういえば……ムーフリスが進化した際に得た能力がメフィストだったか。

 ムーイ自身の能力がミダスの手で……エミールはいばらの魔女だったけどエネルギーをどんどん振り込むことで世界樹を作り出すほどにまで成長していた。

 ……ムーイには今、いろんな迷宮種の力の源を加工した段階で納められている訳で。

 一体どんな力が使えるようになっているんだろうか。

 そういう意味で俺に聞いてきたのかな? 今の俺が持つ力を持って何をしたいのか?

 って。

 だって脅威となる敵は存在せず……聖獣たちは助けられたけど、現状……この世界の守護者として代理しているようなものだから。


『そうだ。今度こそ、特に理由は無いが私を呼び出してくれないか? ヴァイリオが満喫した感覚を味わいたい』

『ローティガ! ずるいぞ!』

『ずるくない。ヴァイリオだけなのがずるいだろ』

『楽しそうな事をあなた達はしていたようだね』


 聖獣たちが俺の中で楽し気に会話している。

 はは、早く復活してくれ。

 って考えが脱線した。

 俺の叶えたい願いか……そんなの決まっている。


「叶えたい願い……いつも言ってるだろ? 俺は、良い人の力になりたいんだよ。それはムーイ、お前も入ってるからな」


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