三百六十四話
「んじゃユキカズー行こうー」
「ああ!」
バサァ! っと羽を大きくして飛び上がり、塔を外から一気に通過して決戦の地に着地を決める。
その塔のオブジェになっている最後の聖獣の亡骸をしり目に……。
形状をつなぎ合わせると大きな魚のような聖獣のようだ。
『……あいつの意志がこの建物内に取り込まれていてバラバラになっている。回収するのは戦いが終わってからが良いだろう』
『おのれ……』
『私たちも大概だが、このような屈辱を晒す事になろうとは……』
『ユキカズ、何が何でも奴に報いを受けさせろ。その為に私たちの力を存分に振るってくれていい』
『むしろ私たちの今後を考えて温存等したらそれこそ無礼と言うものだ』
聖獣たちの怒りがヒシヒシと伝わってくる。
近くを飛んだ事で僅かに敵に捕らえられている聖獣の意識の欠片のようなものが俺に流れ込んできているけれど、明確に意識までは回収しきれない。
「取り込まれた聖獣様がお見えだけどよ。あの形状を見るとよ」
「ん?」
健人が何か思う所があるようだ。許せねえとかだろうか。
「ヴァイリオが雪一、お前に取り込まれた演技した時あるだろ?」
「あ、ああ……」
「モデル的にこっちの方が取り込まれた奴って感じだよなー」
「……」
こんな状況で何を言ってんだお前は!
「こいつ、どんな攻撃するんだったか? 場合に依っちゃ相手が使ってきそうだぜ」
む……確かに、その可能性は捨てきれない。
取り込まれているんだから利用されている可能性はあった。
「健人、戦った事はないのか?」
「ないのかー?」
「ねえよ。ヴァイリオに挑んでボッコボコにされたんだからよ」
ああ、最初に挑んだ聖獣がヴァイリオだったって事ね。
ヴァイリオ達、何か知ってるか?
『見てわかる通り水を使いこなす聖獣だ。他に酸や毒も使いこなせる』
『お前たちの人員で考えると倒す面で相性が良かった聖獣かもしれんな』
『もしもがあったとしてユキカズ、君が寄生をするのは不可能だったろう。このような扱いはしてくれるなよ?』
出来る訳ないだろ。俺の事わかってないなペリングリは。
『ペリングリ、彼はそういった事を絶対にしない気質だよ。私がお願いしたから今の形になっているに過ぎない』
『そうだったな。お陰でこうして座に近い所で力を蓄えつつ守るはずだった世界を見て居られるのだから』
ヴァイリオとローティガが俺の事を理解するように説明してくれている。
……とりあえず健人とムーイには説明しておくか。
「水系の聖獣らしい。毒とか強酸も使えたらしい」
「なるほど、ここの建物の材料にされてんだから内部にも影響を与えてるのは当然かよ」
「助けられると良いなー」
この戦いが終わったら絶対に助けてやるから……と、後ろ髪を引かれるけれどそのまま飛び上がっていく。
結界のような代物があったけれどエミールの張った世界樹で既に機能は停止していたのでそのまま登り切る事が出来た。
で、塔の上にある広場を見渡すと……何ともデジャヴとでもいうのか、神を僭称した奴が待ち構えていた場所に似たようなデザインで玉座があり、その後ろに肉塊と黒い霧が合わさった脈動する繭が鎮座していた。
その繭は淡い光を放ち、羽化を待っているかのようだ。
どくん……どくん……と、鼓動と共に俺の体を通るすべての力が呼応するように何かを感じ取っている。
遠くからでも感じられたソレがなんであるのか……俺の視界にはこう表示されている。
迷宮種ムーフリス
と。
それがどういう意味を成すのかまではわからない。
ウィーンと言う機械音と共に塔の中心を通るエレベーターのようなものが玉座の下から迫りあがってきた。
そこから現れたのは大きな目玉のようなコアを中心に組み上げられた魔導兵。
名前は邪神討伐プログラム・アポ・メーカネース・テオスと表示されている。
「よくここまで来た。愚かな邪神の下僕に成り下がった素材の成れの果てと、邪神の僕に選定された駄犬……そして邪神の愛玩道具」
どうも相手は俺、健人、ムーイの事をそれぞれ言ってるのかね?
「何そのどこぞの魔獣兵の開発者よりキレの無い悪意マシマシのネーミングセンス。言葉で傷つけるならもっと鋭さを持たねえとな」
「あ? 地獄への道は善意で舗装されてるって皮肉もあるもんな。どこぞの神獣がやらかしそうだって思ってるぜ?」
「健人……お前な」
俺の善意で周囲の人たちが地獄を見るとでも?
そんな事があったら俺は死ぬほど後悔するから勘弁してほしいもんだ。
「フ……どこまでも奴の傀儡として良いように利用されているというのを理解していないとは……あまりにも哀れでしょうがないが些か調子に乗りすぎているな」
「そいつはどうも、たださ。俺に関しちゃすべての原因はお前なんだけどな」
少なくとも暗躍して異世界召喚なんてしなけりゃ俺がここにいる事は無かった。
挙句、ここまで追い詰められてヤケクソで戦う羽目になんてならなかっただろう?
「口の減らない身の程が分からない奴だな貴様は」
「ああ、それ……お前が操って居た奴も同じことを俺に言ってたぜ?」
異世界の戦士の力を全部集めて自分は神になったとか僭称したアイツがまさにそれだった。
結局、俺を選んだ神獣が現存しててしかもすべての神獣たちの力の大本になっているから敵わなかったって事だった訳だし。
その所為か、大して脅威に感じられなくてねーってね。
どうもこの体が神獣に属するようになった挙句、その性質も引き継いでいて神獣……異世界の戦士の力で脅威は感じなくなっているんだよね。
「自身を改造されているという自覚の無い救いの無い哀れな存在め……私はお前を実に哀れに思うぞ」
「言うほどじゃないがな。まあ……周囲が俺に望むことに関してちょーっと困る事はあるけど」
寄生してくれとか寄生に関して嫌じゃないとか思われる状況はね。
ムーイやエミール、更には健人の良い女、この世界の人やドラゴンは揃いも揃って俺が寄生することに関して拒否感を持たないからさ。
「は! 何にしても、よくここまでやってきたものだ。さて……相手の名も知らぬまま殺されるのは嫌だろうし、どこかで名を目にしたかもしれないが改めて自己紹介をしてやろう」
お? ずいぶんと思わせぶりに情報封鎖や削除をしていた割にここで名乗ってくれる訳?
じゃあ神って奴に聞かなくて良さそうでよかった。
正直、あんまり神って奴とは仲良く出来そうにないから話を減らせるなら良いと思うんだよね。
「私の名は邪神討伐プログラム・アポ・メーカネース・テオス……私に課せられた命題は、世界を破壊する化け物とその創造主、異界の神を名乗る存在の討伐。何億、何千億、いや、何兆回の推論と演算を行ったが、導き出される結論は何時も決まっていた」
異界の神ねー……と言う事はこいつも元々他の世界出身だったって事かね。
「異界の神?」
健人がここで首を傾げる。
「私の世界の人間共が新天地を求めて次元の扉を開き、新天地の開拓をしていたその時……ここでいう所の神獣が私の世界に逆に入り込み人類の殲滅を始めたのだ。神獣と神が告げた言葉は一つ、卑劣な侵略者共め、この世から消え去れ! だったそうだがな」
「ああ、迷宮がそんな感じで作られたってお前が暗躍していた際に前に出した奴も言ってたな。お前はその破壊された世界の奴だったって事か」
その辺りは想像できたけど、その範囲内でしかないのかね?
「つまり神獣と神を倒すために作られたって事だろ? それくらいは察してたぜ? どんな科学力を持っていたか知らねえけどよ」
「ふ……」
機械と言うか魔導機械って言うのかね。奴は俺と健人の推測を鼻で笑った。





