三百五十三話
「雪一……お前、兵役についてたって話じゃなかったのか?」
「うるせー転勤族だったんだよ! 菓子作りが出来るからってどこ行ってもギルドの人員配置で菓子店の派遣させられてたんだからしょうがねえだろ」
『えーっと個人的にセレナに頼まれたお菓子の受け取りに来たんですけど……豪華飛空艇の厨房にまで行かされるなんて……』
『ライラさん辺りに頼んだりしないんだね』
『注意されるから私にお願いしたんでしょうね。セレナってこういう事を頼んで来ますし』
『ブー』
『お姫様の隠れた一面だね』
『すみませーん! ここのお菓子を注文したものですがー』
『お? 話は来てるぜ』
『ギャウ』
『お? 見覚えのある顔だな。あいつが飼ってた奴じゃないか』
『はい。そういえば、ここでユキカズさん。正式な菓子作りを教わったって言ってましたね』
『そうなんだ?』
『ええ、ですよね? 弟子にされたとかユキカズさん言ってましたよ』
『あ? 何言ってんだ。あいつを俺は弟子になんかしちゃいないぜ?』
『え? もしかしてユキカズさんの自称って事ですか?』
『あー……そうとも言い難いが、そうだな。弟子ってのは手取り足取りしっかりと技能を叩き込んだ奴だって俺は思ってるんだ。だが、あいつに教えた事は基礎的な事だけだ。これで師匠面ってのは俺のプライドが許さねえんだよ』
『はぁ……』
『有能な奴ってのは大して教えても居ないのに伸びる、そんな奴に教えて師匠面するのは三流だって事だ。恐ろしい才能をあいつは持ってやがった。各地の俺の弟子から教わっていたらしいから今頃どんな化け物になってるか見物だ。生きてたらな』
『生きていると私たちは信じてますけど……』
『どこかで菓子作りしてるのは飛躍しすぎでは?』
『あいつにはダンジョンでも菓子作りをするように叩き込んだから生きてたらやってるはずだ』
『ブー』
『そんな事を教えてたんですね。まあ、基地でも作らされてましたから間違いは無いですが……』
『美味中毒って毒物判定、俺の所じゃあれを付けてやっと一人前なんだぜ? それを大して教えてねえのに付けやがってよ。実に教えがいの無い奴だったぜ』
『なんかユキカズさんが帰ってきてお菓子を作ったら食べちゃいけない気がしますね』
『滅茶苦茶美味かったからなぁ』
『ブー』
『ギャウ』
『あの後も菓子作りを続けてるようだともう俺を越えてるかもしれねえな。負けてられねえな』
『ユキカズさん。冒険者じゃなくて菓子職人になった方が成功しそうですね』
『言ってやるなよ。あ、でも他の就職先があるのは良いんじゃないか?』
『ブー』
なんかどこかで俺が菓子職人としてだけ評価されてそうな気がするけど絶対に違うと思いたい。
元の異世界に戻って菓子作るだけの兵役とか勘弁してほしいな。
それで冒険者になった際に、俺がする仕事がどうなるかを考えると恐ろしい。
「菓子の信用度は半端ないな神獣様はよー」
「そこはアレだ。ターミナルで得られる知識とかでレシピが無意識に浮かんで来るんだから不思議でもなんでもないって」
「確かに古から続く技術をターミナルから得られるというのは聞くけど、それは一定ラインまでだYO? そもそもYOUは確かポイント取得じゃなかったと聞くけどどうなんDAI?」
「人間だった頃に……兵士流菓子調理技能(中伝)とか勝手に習得してた。人間の技能関連は変化が分かんなくなってるんだけどさ」
「絶対、既に中伝じゃないと思うYO」
うーん……ちょっと自信無くなってきた。
「あれだ。菓子を司る神獣だな!」
健人……まるで俺が菓子の神みたいな表現はやめろ。
どんな神様だよ。
いや、酒の神様とかいるらしいから存在しても不思議じゃないけどさ。
「そういや異世界においてそう言った神様とかどんな認識何だろう?」
「この世界の神様は一人っぽいが……いや、神獣がその辺りを担当するのか? となると益々、菓子の神、雪一だな!」
うへ……健人がうざーい。
「ユキカズ、お菓子の神様ー?」
「いやいや、俺なんてまだまだのはずだ」
あくまでパッと見た食材で作れるお菓子が浮かんで来るだけだし、その種類も少ない。
どちらかと言えば洋菓子が多い気がする。
和菓子とか……日本じゃ馴染みのないお菓子だって世界にはあるはずだし。
尚、フラップジャックと言うお菓子は元々いた日本のある方の世界でも存在するお菓子だったのをそのうち知ることになる。
英国のお菓子だそうだ。
「なんて話をしている間にケーキが焼けたぞー」
魔眼や念力を駆使して他にも菓子を併用で作って居たんだ。
今回はエミールが他にも余波で出してた植物の種、タンポポっぽいけど香りのよい種をケーキに混ぜ込んで焼いた。
「種で作ったケーキ。風味の違いで楽しんでくれ」
「おー! あ、なんか甘いけど口の中がスパイシーな匂いがするぞー甘い以外よくわからなかったムーイもわかる変わった匂いー」
「カレーみたいな香辛料の香りがするなこのケーキ……頭がこんがらがりそうだけど美味い」
「これも似たのをMEは食べた事あるYO。地方にあったNE」
さすがはいろんな所を冒険していた冒険者って事なのかラルオンは似たお菓子を食べた事があるみたいだ。
まあ、世界を探せば似たお菓子くらいあってもおかしくない。
「それよりこのパリパリしたキャラメルみたいなのは初めてだNE。こういうのも良いYO」
フラップジャックを作る途中で分岐させ、健人にやった菓子やナッツに近い種で和えたお菓子をラルオンがつまんで答える。
「飴っぽいパリパリでおいしいお菓子だぞームーイ大好きー!」
甘さがかなり強めでクドイかなと思ったけどムーイの口に合ってよかった。
「エネルギーバーに近いけどみんな違ってムーイ、すごく元気出るぞー!」
ムーイのスイートグロウが反応して満足したのかムキっとポーズをとっているようだ。
迷宮種の気配を俺も多少わかるようになったからわかるけどムーイの力が上がっている。
寄生時に閲覧していたスイートグロウの項目にあるステータスボーナスがそこそこ入ったっぽいかな?
「ムーイは雪一に色々と菓子作って貰ってるけど、カエルみたいにパワーアップしてるんだったよな」
「そうだぞーユキカズの作るお菓子。すごく強く成れるんだぞーでもエミールみたいのも少し興味ある」
「本当、兄貴はオデに色々としすぎなんだな」
エミールが深くため息をしている。
なんだろ……ブルも時々そのため息してた気がするけど気のせいだろうか。
「なーユキカズーエミールみたいにムーイも出来るー?」
エミールにとって俺はとてつもない劇物らしいのは何度も聞いてて元気にはなっている。
太ったと言ってたけど……確かにさっきよりお腹が出てしまっている気がする。
で、エミールが感じたものに近い状態にムーイをしてみる方法かー。
「そりゃああれだ。雪一、そんな色々と姿を変えれるならお菓子に化けりゃ良いだろ。新種の魔物ってな」
菓子に擬態って……。
「植物に変身してスイートレッドベリィでも疑似餌にとかか?」
「……考えてみればそういう方法で満たせるんじゃね?」
「ユキカズの兄貴! オデも手伝うんだな。だからムーイの姉貴にこの気持ちを共感して貰うんだな!」
エミールが猛プッシュを始めた。
一応植物系の魔物に化けれるけどさ。
そんな甘い実で誘って寄生する植物とかピンポイントで居るか?
「ハニーアントラインに俺が化けて蜜を出すのも手だけど解析終えてなかったな……」
ムーイが覚えていたお陰で蜜自体は変化で出せるけどハニーアントライン自体は解析しきれてない。
ただ、あんな砂漠の巣でどうやって蜜を生成してたんだろう?
肉とかを消化して変化させていたとかくらいは想像できるが……。
「ってよく考えれば毒使いってスキルを所持してるんだから甘みがある毒を生成すれば……」
と、出来る限り甘い味で毒を体内生成して毒腺から滲ませてみる。もちろん解毒剤も同時に作っておくけどね。
「こんな感じ……かな? ムーイ、ちょっと舐めてみるか?」
エミールに寄生する際に感じている感覚を知りたいという事でムーイに俺は生成できる甘く感じる毒で代用する。





