三百七話
「ユキカズ、君とこうして話をしているうちに、君の人となりというものをとても理解することが出来た」
「なんだよ。無力感に陥っている俺への皮肉か?」
「そうではない。君は非常に過程を重視する。結果さえ良ければ良いと割り切るような精神性をしていないのは、実に高潔な精神だと私は理解をしたつもりだよ。兵士から真面目に頑張って冒険者になろうとする所もね」
確かに俺は結果よりも過程が大事だと思う。
言われてみれば思い当たる所は無数にあるね。
「であると同時にその結果が実を結ばない事への不満も我慢できない人格をしている。良き者には相応に恩恵が無ければ許せないのだろう?」
過程が尊敬に値する事をしているのに感謝されないブルの待遇が許せなくて俺は力になりたいと……良い人が良い結果にならないから力になりたいと思ったんだ。
それは否定できない俺の信念だ。
「その為には君自身がどれだけ汚れても構わない。そうしてこの世界に、やってきた。この世界でも兵士として始めた。ある意味……私は君にとって先輩か、だからこそ話に耳を傾けてほしい」
「……何が言いたいんだヴァイリオ」
まるで何か名案があるとばかりにヴァイリオは俺を見極めるかの如く、突きつけつつ試すように聞いている。
「手立てはあると私は思うのだよ。だけど君はその手立てを頑なに、腫れ物に触るかのように思考の外へすぐに追いやる。その断片をわずかに利用するにしても、私の治療をしたおこぼれだったと納得しないと行わない」
「……」
「だからこそ、こう言えば良いか? 寄生生物としての力を使い、私から力を奪い進化しろ」
「くっ……」
やっぱりそう提案して来たか。
俺だって脳裏に浮かんでいない訳じゃないんだ。
次の敵がすぐそこまで迫っている。
このままだとうまく行ったとしてもラルオンもローティガも助けられる手立てはない。
悠長にLvは上げられない。
なら手近にいるヴァイリオから力を奪ってその分進化してどうにかする。
けどそれはヴァイリオにどれだけ負荷がかかるか。
ムーイやエミールから経験値、魔素を吸い取るのは行っていたことではあるがそれはあの二人が迷宮種という経験値が体に還元されないからこそ成り立つと無理やり納得してるんだ。
ヴァイリオとは訳が違う。
「トツカユキカズ、この方法が君にとって忌むべき事であるのは私も察している。けれど、君が望む最も都合の良い結末へ行くためには、時間が無いのだよ」
ヴァイリオが何を言っているのか、分かりたくない。
「私は君が忌むべき成長だと卑下する選択を罵倒などしない。結果的に君は本当に後悔する事を回避したじゃないか。君が真に求めるものを得るために、禁忌とすることを私は否定しない。だからこそ聖獣として君に厳しく喝を言おう」
「やめろ……」
俺の言葉にヴァイリオは馬鹿にするように鼻で笑う。
挑発して焚きつけているんだってのは分かる。
「その程度の強さでこれからの戦いに挑もうなんて笑わせてくれる。それならすべてを失う時を見てるが良い」
邪魔だとばかりに戦場から去れと命ずるヴァイリオ。
わかってるよ……短い付き合いだけどお前がそんな傷つけるセリフを言うような奴じゃないってのは。
「手段を選んでいる場合か?」
「そんなつもりはない! 知り合った人たちを救いたいだけだ!」
ああ、ムーイとエミールが死にかけた時の事を思い出してしまう。
この選択を未だに俺は責任を取らねばいけないのか。
とても正しいと思えない俺のエゴでまたも……。
「ならば、分かるだろう? 遠慮等しなくていい。私が……君にやれと命じている。神獣が君に施しをしたように、私がこの戦いを乗り越えられる施しをした、ローティガと君の友人を救うために」
ああ……どうして俺はこうして授かりものばかり受け取らないといけないんだ。
助けたいと思う相手から貰ってばかり、恩返しをしたい時はいつも体を張る羽目になる。
「なに、遠慮等しなくていい。私は神様が定めた試練を担うために作られた存在だ。今まで生きているうちに魔素が意味もなく溜まっている。君が受け取ったとしても困ることはまずない」
健人と同じく成長限界で無駄に経験値が体に蓄積してるとヴァイリオは俺が受け取りやすいように説得を試みている。
「精々そうだな……この窮地を乗り越えた後、改めて戦う時に私が授けた力で挑まれると困りそうでしかないかね」
「……問題はそれだけじゃない。操られている連中に相性の良い魔物への進化をするにしても実績が足りないんだ」
俺はヴァイリオにグレムリンの正当進化に必要な実績、機械系の魔物の討伐実績が足りない件を説明する。
この所為で足りなかったのも大きくある。
それこそ今回の敵との戦いを乗り越える事で開くか開かないかって所だろう。
するとヴァイリオは軽く笑った。
「フフ……ユキカズ、君は自身がどんな存在になっているのか君が選んだのだろう? 確かに実績が必要なのだろうが、君は今、何に寄生しているかよく考え給え。寄生して乗っ取る、自らの手足としている君の一部でもある存在が……何かを」
ヴァイリオが町のターミナルポイントである水晶にアクセスする。
ポンっと俺の視界にステータスが表示され進化項目を確認すると……プラズマゴーストへ進化するための破壊実績の項目が明るくなっている。
改めてプラズマゴーストの進化項目を確認する。
◆プラズマゴースト
機械に乗り移っていたずらする雷を纏う黒い兎の魔物。ゴーストと名を冠するが幽霊ではない。
コンピューターに甚大な被害を負わせる耳を所持し内部を食い荒らしてあざ笑う。
飛行船に入り込もうものならその船は撃沈し、多大な被害を産み出す災害獣。
進化条件 Lv45× グレムリンリーダーからの進化。
機械系の魔物、飛空艇、魔導兵の内20機以上破壊
なんとも形容しがたい厄介な魔物としか表現できない。
で、行き詰っていた機械類の20機以上の破壊の条件が達成になってしまっている?
どういう事だ?
いや、ヴァイリオは確信をもって答えていた。
「Lvが足りないけれど実績が満たせている。ヴァイリオ、これは……」
「そうだ。この世界に時々現れる奴ら、今回こそ本格的だが何度も奴らは現れているんだ。その度に私は奴らの兵器を仕留めてきた。それが魔導兵と呼ばれる代物なんだろう」
ならば私を媒介にすれば寄生している君は進化出来る……このシステムを誤魔化して進化しろとヴァイリオは続けた。
「……良いんだな?」
「良いも何も、やれと命じているんだ。時間が無く意味もなく溜まっている代物を君が有効活用するだけさ」
「……わかった。だからって思いっきり俺に流し込むなよ。俺が少しずつ耐えれる量を受け取るから」
「ああ、やるだけやってくれ、時間が惜しい。何より、君の強化は私の治療促進になる。遠慮する方が困る」
奪った分だけおそらくヴァイリオの中にある経験値が減る。
取りすぎたらヴァイリオの戦う力すら失われかねない。
これはこれで調整が難しいかもしれないが……やるしかない。
俺は慎重にグレムリンリーダーに変身してヴァイリオから魔素を吸収し……グレムリン系の上位魔物へと進化していく。
ムーイが一度死んだ時のように放出される魔素を吸収したからと言って、その分吸収できるわけじゃない。
1万の経験値をそのまま吸収できるほど甘くは無く、精々1千かそこら辺ほどの効率の悪さだった。
さあ……ラルオンとヴァイリオにどれだけ備える進化が出来るか、見物って所だ。





