二百九十七話
『ユキ、カズの兄貴。ちょっとオデの体を操作してほしいんだな。植物さんで邪魔するとオデのとっておきをやりきれないんだな』
エミールが内心で俺に語り掛けてくる。
「お? 何かあるのか?」
『あるんだな。オデの知る一番凄い植物さんを呼び出すんだな。そうすれば上手く倒せるかもしれないんだな』
「そんなのがあるのか」
『なんだな。ただ、この植物さんを呼び出すのにはすごく時間が掛るんだな。フレーディンの兄貴と一緒に迷宮種と戦う時、頼まれてオデ、一日使って力を貯めて足止めに耐えて呼び出したんだな』
「じゃあダメじゃないか?」
フレーディンと一緒に居た時に使ってたらしいが詠唱に一日も掛かるのを悠長に使えない。
『今ならユキカズの兄貴のお陰でもっと早く呼び出せると思うんだな! 早くしないといけないんだな』
ああ、ササっと仕留めたいから手段を択ばず最短の手だてを提案してるのか。
「了解、避けるのは任せろ」
「お願いするんだな……」
おお……なんかすごい勢いでエネルギーが吸われていく。
まだ発動してないけれどずいぶんと大詠唱って感じだ。
「むむむ……」
「はああああああ!」
っと、ルバラムが尻尾を振りかざして剣技、アクセルエアに似た攻撃を仕掛けてくる。
当然のことながらナンバースキルのような強化攻撃だ。
「チッ! 当たったらやべぇから避けるしかねえのはきちいな!」
健人のLvによる速度で衝撃波を避けつつ槍で突き刺すけれど弾かれてしまった。
勝手知ったるナンバースキルだからかなんとなくどんな攻撃が来るかはわかるのが幸いか。
「ははは、早くその腹を引き裂いて、石を詰め込んで井戸に沈めて苦しむ様を見せてぇええ……それから美味しくいただいてあげるからぁあああ」
「本気で気色悪りぃいいいい!」
健人の心の叫びが響くなぁ。
病んだヤバい奴みたいな迷宮種だ。
実にモテモテ。
「ほ!」
っとその間に入り込んでムーイがルバラムの顔面を蹴り上げる。
そこにブラムがムーイを追いかけてメテオインパクトという衝撃波でクレーターを起こす程のたたきつけを放って来ていた。
「食う前にブチ殺してやるからその前にお前のコアをよこせぇええええ! ギギ」
「シャアアアア!」
で、ブラムと組んでファルレアが俺とエミールに炎のブレスを吹きかけつつ尻尾近くの鱗を逆立たせてムーイに向かって振りかぶる。
すると鱗が剥がれてムーイに飛んで行っていた。
「おっと!」
ジャンプで跳躍しながらエミールの長い舌で鱗を動体視力で掴んで纏めて投げつける。
投擲は得意なんだ。
本当は魔眼とか使って迎撃した方が威力とかありそうなんだけど、エミールの奥の手の発動が遅れるので使わずにいる。
「行くぞー!」
ジャリイイィ! っとムーイが握った剣を振り上げてブラムを切りかかる。
が、火花が散って致命傷には至らずにいるようだ。
「ユキカズ、こいつユキカズ達の方の力で動いてるから」
「分かってるけど動きを抑えないと難しいだろ」
俺が引っ付けば奪えるなら良いけどそうはいかないだろう。
少なくとも戦闘不能と判断させないとブラムの体から異世界の戦士の力っぽいのは出ていく気配はない。
デリルインの時はほぼ自爆で出て行った癖にな。
……状況判断をしていると見れば良いのかな?
で、こっちはエミールに能力集中させて攻防をしてる最中だ。
何を使おうとしてるのかわからないけどエミールの必殺は後どれくらいで発動できるんだ?
そう意識すると55%……60%……と、視界に発動までの%が表示されていた。
凄いエネルギー消費をしていく、こりゃあエミールだけじゃ唱えるのにとんでもない時間が掛るのは納得だ。
俺自身が内包したヴァイリオから貰った余剰エネルギーと神迷コアから生み出されるエネルギー、そしてエミールの中にあるエネルギーがあるからこそこの速度で詠唱出来てるのだと思われるけれどそれでも遅い。
どんな効果なんだろう?
フレンシア・アルノシェード
フッと何を呼び出そうとしているのかの名前が浮かんでいる。
これがエミールの知るとっておきの植物なのか。
「おらよ! っと」
「シャア――」
腰に力を入れてブル直伝のブルクラッシュをファルレアの尻尾に叩きつけてやる。
「シャガ――」
ムーイと健人に飛び掛かろうとしていたファルレアをそれだけで地面に縫い付ける事に成功。
「シャアアアア!」
ズモモっと地面に潜ったファルレアがマグマと共に飛び出してくる。
間違いなく何らかの力で放った強化スキルなんだろう。
ボコボコぶっ放しやがって。
「シャアアア!」
挙句魔眼から熱線を横なぎで放ってくる始末。
80%……87%……95%……。
「むうううう」
ムーイが剣を手放してブラムを掴んで物質変化を放つ。
「ぐうううう……なんだ、その力っは……ムーフリスの力は、そんな力じゃないだろ」
「お前、さっきから思ってたけど絶対、人違いだぞ」
神獣の力で抵抗したようでブラムの爪を砂糖細工にするので精一杯のようだった。
爪が割れたけれどすぐに生え変わってしまった。
「倒させて貰うぞ」
やっぱりムーイが一番、この中じゃ強いかねー。
健人は早いけど決定打を与える程の力が無い。
俺は寄生してサポートがメインだし……戦えなくはないけどファルレアが大型で攻撃は命中するけど決定打が出し切れない。
エミールの必殺技を放った後は魔眼にエネルギーを貯めて俺も必殺と行くかね。
と、思った直後。
「出来たんだな! 行くんだな!」
バァ! っとエミールが腕を振りかぶる。
すると地面から……フレンシア・アルノシェードという花が急速に生える。
大きなラフレシアのような……薔薇のような花の、これ魔物だろ! 単純な植物じゃない!
「キシャアアア――――」
と、叫び声に聞こえるような超音波をフレンシア・アルノシェードが放ったかと思うと周囲に花粉をばら撒いた。
「うわ!?」
「うお! すげー花粉!?」
「な、なんだこれ? 凄い粉っぽいぞー!」
「鼻が――ぶえっくし!」
俺たちを含めた周囲全てに花粉が降りかかる。
花粉以外に花の蜜は俺たちとムーイ、健人だけ降りかかった。
何なんだこれ? 花粉をばら撒く植物か? しかもすぐに枯れてしまった。
と思ったのもつかの間。
「あ……あう――」
「うあああ……」
「シャ、シャアアア――」
クラっと迷宮種ルバラム、ブラム、ファルレアが上の空になって呻き始めた。
「なんだな」
で、エミールがそう声を上げた直後。
「あああ……はぁああああ!」
ルバラムがファルレアに攻撃を仕掛ける。
「シャアアアア、シャアア!」
で、ファルレアはそのまま地面に転がって丸まって攻撃を受け続けているようだった。
「うぐ……ははは、やっと、取り返したぞ。ハッハー!」
ブラムは気色悪く笑っている。
「なんだこいつら?」
「大丈夫かー?」
「しばらくは混乱してるんだな。今のうちに倒すんだな」
「何なんだこの攻撃」
エミールのとっておきの必殺技みたいだが。
「オデが昔出会った一番凄い植物さんを呼び出したんだな。この植物さんの花粉を吸うと幻覚に捕らわれちゃって植物さんの意のままに操られちゃう挙句、どれだけ攻撃されても起きないくらい寝ちゃうんだな。フレーディンの兄貴もこの花粉を吸って操られそうになったことがあるんだな」
「ほう……」
「効果が抜けるのには数日かかるんだな。この植物さんの花粉を耐えきれなかったのは見た事ないんだな。唯一蜜を受けてると大丈夫なんだな」
つまり呼び出した時に味方には解毒効果のある蜜を受けて敵には幻覚効果があった後に眠ってしまうと。
ちなみにヴァイリオに帰ってから話した所、フレンシア・アルノシェードというのは相当ヤバい植物型の魔物で聖獣でも下手をするとイチコロだそうな。
もちろん対処方法が無いわけじゃないが耐性を貫通するほどの植物なんだと。





