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二百九十二話


「あ、みんな集まってるのね。ケント、経過はどう?」


 で、健人に声を掛けたのは……大荷物を背負ったカエルの獣人さん。

 こう、単純にアマカエルとかが人型になった感じ? もちろん横幅は多少あるけどね。

 エミールは……背も高いけど横幅もあってグフロエンスのお相撲さんって感じの体格に差があるかな?

 脇には丸い……なんだろ? ボールを抱えている。

 声からして女性……グフロエンスの知り合いか? なんか声の通りがずいぶんと良い気がする。

 人込みでも聞こえる通る声って言うのかな?

 へー……これがグフロエンスって人種なのかー。

 エミールと比べると……エミールが二回り以上大きいか。

 この人が着ぶくれしてるから判断に悩むんだけどね。

 で、なんか大きなボール……鞠を抱えている。


「うっす、治療は大分進んでるぜ。聖獣も食欲が戻って来てるし」

「そりゃあ結構ね。何か必要なものがあったら言ってちょうだい、出来る限り探してみるから」

「あいよ。とはいえ、ユキカズ何かあるか?」

「物資に関しちゃそこまでは……というか紹介くらいしろ」

「ああ、こいつはクコクコって言うグフロエンスの行商人の良い女。各地にいろんな品々を求める人の為に運んでるんだよ」

「神獣の申し子様って呼ばれてる方ね。クコクコです。よろしくお願いします」


 って祈られちゃってる。


「兎束雪一って言います。よく祈られるけど立場としては健人と同じくらいでお願いします。対応を健人と同じではないのでそこはよろしく」

「あら? 念押しされてるような? 何かあったの?」


 健人やリイ達にクコクコさんが顔を向ける。


「ケントと同じ扱いって前にお願いしたのよ」

「なるほどーふふ、とても魅力的だからそれじゃあ相手しちゃう人はいるかもね」


 朗らかに笑うクコクコさん。

 健人が気に入る女ってみんな大らかな人が多いなぁ。


「クコクコ、お前がここにいるってのは行商の時に遭遇しちまったで良いんだよな?」

「それもあるけど首都にいたグフロエンス達も一緒に来たのよ。どうも妙な魔物に狙われてて何名かやられたし行方も掴めないの」


 避難民の状況を見ると首都からの逃亡は相当厳しかったのは想像に容易い。

 ……健人がカトレアさん達のいる孤児院に寄る提案をしたあの時、いち早く首都の方を目指せたらこんな結果にはならなかったのだろうか?

 ヴァイリオの重傷具合から見て俺達が居たからと言って結果がどう変わったかなんて分かりようがないけれど、そんな考えが脳裏を過ぎる。

 エミールの手の方に移動してクコクコさんを観察してると視線に気づいたクコクコさんが振り返ってエミールの方を見つめる。


「な、なんだな……」

「どうしたんだエミール?」


 近い外見だから意識しちゃうとかそんな感じかな?

 まあ、体格差がかなりあるけどさ。


「エミールさんって言うのかしら? こっちに避難してきたグフロエンス達があなたの事を囁いてたわよー体格の大きな美形薬師が居たって」


 美形薬師……エミールがそういった範囲に入るの?


「薬を作って配ってると時々声を掛けられるんだな、で、ペタっと引っ付いてきて、グフロエンスの何処の種族? 鞠を見せてほしいって鳴かれるんだな」


 なんかエミールが困ったような声音で答える。

 グフロエンス基準だとエミールって美形なのかな? 人種内の更に区分けでもしてるのかな?

 迷宮種エミロヴィアですってサッと答えられはしないよなぁ……。


「フフフ、神獣の申し子様をそうやって持ってるとグフロエンスからしたら魅力的過ぎちゃうわね」

「おい、やらねえからな!」


 クコクコさんに見せないように健人が間に入ってくる。

 何だよお前、エミールにクコクコさんが取られるのが嫌だって態度か?

 エミールは根が善良の好物件だぞ。

 少なくともお前よりもエミールの方が良いに決まってんだろ。


「こ、困るんだな。歌ってほしいとか色々とお願いされて大変だったんだな」

「おお、モテモテだな。歌ってあげたのか?」

「お願いされたからやったらお礼を言われたんだな」


 エミールは合唱スキルを所持してたはずだから歌は得意なはずだ。好評なようで何よりだ。

 ブルみたいにエミールがモテるのは俺としてもうれしいぞ。

 見てくれる人にはエミールの魅力が分かるって事だろう。


「ユ、ユキカズの兄貴の目がキラキラしてるんだな。その目はなんか嫌なんだな。ムーイの姉貴、どうしたら良いんだな?」

「ムーイ分かんないぞー? ケント、カトレアたちならわかるかー?」

「そもそもなんでユキカズの兄貴を持ってると魅力的になっちゃうんだな?」


 あ、それは俺も気になる。

 すると広場の方から苦笑する声がしてヴァイリオがそんな俺たちを見つめていた。


「ああ、すまない。こんな状況かだからこそ……こういった空気はあった方が良いかもしれないな」

「ヴァイリオは知ってるか? どうも勿体ぶって教えてくれそうにないからさ。試練が必要とか言うなら面倒だけど」

「その程度は……まあ、そうだな。グフロエンス達は必ず鞠を所持し、その鞠の影響で力を引き出す種族なのだよ」

「はあ……」


 なんか変わった種族みたいだな。

 どうして鞠?

 いや……各地の種族の発祥の地にある神殿の記述を紐解くと答えがあるような気がする。


「そして同族内の評価基準にあるのが所持する鞠によって階級が定められる。トツカユキカズ、今の君は丸い体形をしているだろう? 神獣の申し子である鞠を所持する同族によく似た優秀そうな者が居たらどういった目で映るかわかるだろう?」

「そういう事。いやー……ちょっとドキドキしちゃうわ」

「クコクコ! あいつは雪一の舎弟でそういうのが出来る相手じゃねえからよ。似てるだけで同族じゃねえから血迷うなよ」

「もーケント、ちょっと焦りすぎじゃないの」


 健人が目移りしないでくれとばかりに説得を試みている。

 嫌がらせの為にエミールにはプレイボーイをして貰うか?

 いや、エミールはきっとやらない。だって良い奴だから。


「出来なくはないだろう?」


 ねえちょっと、かなり不吉な事を言ってない?


「な、なんだな」


 そっとエミールが俺を地面に降ろして数歩下がって手を合わせる。

 いや、そんな俺を露骨に拒否しなくてもいいだろう。

 一歩踏み出すとその分、エミールが下がる。

 モテ期だぞエミール。俺が鞠をしてやるからお前をみんなに知って貰おうぜ?


「まあ、そこの彼はどうやらそういったつもりは微塵もない、どちらかと言えば無害なタイプのようだけど」


 ヴァイリオの分析は間違ってないなーと思う。

 エミールは善良だもんな。

 だから、俺から距離を取らないでほしい。

 そんなに俺が怖いのだろうか? 一緒には来てくれるんだけどなー……。


「ユキカズの兄貴、ムーイの姉貴とラウの坊ちゃんの方に行ってほしいんだな。オデの事は気にしなくて良いんだな」

「そういわれると傷つくんだが……」

「う……ごめんなさいなんだな。オデ、ユキカズの兄貴が嫌だってわけじゃないんだな。でも困るんだな」

「うーむ……そのうち、グフロエンスの町や村とかにエミールと行くことになったら大変そうだなー」


 狼男姿のブルみたいな事になりそう。

 女性に囲まれて困ってたもんなー。

 男は妬んでくるのかな?


「でも見方によってはエミールをみんなに広めて信頼を得るには良いかもしれない。出会いは大事だし、エミールの事を心から好いてくれる人だってさ」


 別に俺は良い人コレクションを独り身でいてほしいとか独占欲は持たないぞ?

 だってブルが本能に逆らえずに問題を起こしてしまった場合に備えて貯金をしていたくらいだし。

 そのことを話したらドン引きされてしまったけれどさ。

 エミールが幸せな結婚をしてくれるなら俺は心から祝えるぞ?


「な、なんだな? なんか背中がぞわっとするんだな。これ、何なんだな? オデ病気なんだな? 治す薬が思い浮かばないんだな!? どうなってるんだな?」


 どうしたというのだろうか? 何か鳥肌を立てているブルみたいな反応だ。

 エミールの体調をチェックするけれど特に問題はない。

 ずっと薬の生成や植物の成長補佐をして貰っている所為か魔力が枯渇傾向だけど、それ以外は問題は無さそう。


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