二十六話
「俺達がいるのはダンジョンの地下25階。前情報で聞いた話だと、地下10階くらいまではそこまで脅威となる魔物は出てこないけれど、地下11階からは別になるって聞いた。そこからは一階毎に強力な魔物が出てくるってさ」
「確か……現在の先発隊は地形が変わったために地下20階の中継経路の確保をしている最中でしたっけ……」
しばらくは安全なルートの確保、国の兵士が調査をしてマップを埋める作業をしている。
危険な魔物、ボス等の討伐も行われていたはずだ。
「そうらしいね。地下20階より先は更にルートの確保が困難になるという話だったね」
時空間の歪みが酷くて、空間が複数に分岐するそうで、同じ階層のはずなのに絶対に合流できない。なんて事が確実に起こるそうだ。
地下20から30階に安全なルートやマップの確保は難しく、上位の冒険者や騎士、竜騎兵や魔導兵等が陣形を組んで降りていくのが定石なんだとかダンジョンに潜る前の講習で知った。
支給されたアクセサリーでは地下何階にいるのかくらいしか分からないけど、どこかでターミナルでも見つければマップを閲覧する事はできる……はず。
「俺達がいるのはそんな難しくなると言われている地下20階層以降である地下25階だ。これがどれだけ危険な状況なのかはわかるはず」
「……はい。分かりました」
ブルは洞から外を常時警戒して魔物が来ないかを確かめてくれている。
「俺達が取れる行動はいくつかある。一つ目はここで救助が来るのを待つ」
できる限り目立たないように潜んで、魔物が襲って来ない事を祈りながら救助部隊が来る事を待つ。
「トーラビッヒが俺達に責任を擦り付けて脱出を図ったけど、ライラ上級騎士がそんな話を信じるとは思えない。詰問して白状させる……と思う」
その後、救助部隊が派遣される……という流れだ。
フィリンとライラ上級騎士の関係に大いに依存する作戦だけど勝算が無いわけではない。
「アクセサリーから受信される信号を拾ってもらえるかにかかっているだろうね」
「確かに……ライラさんなら、私達が死んだだろうという状況でも来てくれるかもしれません。ですが……」
「ライラ上級騎士の権力や動かせる人員頼りだし、地下25階という救助に来るのは非常に困難な場所だ。食料は元より、相当な幸運に頼る事になる。二重遭難……隊を危険にさせかねない」
正直、これが地下15階程度ならばかなり現実的な作戦だったと思う。
近隣の兵士とか冒険者にも遭遇できるかもしれない階層だからね。
だけど、さすがにこの階層まで来れる人というのは相当限られている。
そんな場所にライラ上級騎士が救助に来る事ができるのか? という問題だ。
一介の新兵三人を助けるためにどこまでできるか?
たとえフィリンが良い家の出だとしても、だ。
日本じゃないんだから無理だろう。
危険な魔物が蔓延っているんだ。
「……無理だと思います」
「賢明だね。俺もブルも同意見だったよ」
「ブー」
フィリンも同じ意見か。
まあ、間違いない。
救助を待っていられるならいい。
だけど現実的じゃない。
「国が抱えた戦力が偶然通りかかるとかに期待したり、その戦力が力試しに流れてきた情報で俺達の所へ来てくれるかもしれないけど、そんな奇跡に頼るのは間違いだね」
「はい。それじゃあ物語とかである、助けを待つだけのお姫様じゃないですか。それは嫌です」
なんともメルヘンな返答だね。
とはいえ、話が異世界の戦士であるクラスメイト達に届けばありえない話ではない。
この武器はアイツ等が使う事を前提に運び込まれていたのなら……ね。
これが一本だけとは考えづらい。
「二つ目は非常に危険ではあるけど、この武器を使って魔物を殲滅していく案。現状把握として、フロア回遊型のボスは、どうにか倒す事はできたからね」
「確かに……その武器を使用していけば生きて帰れるかもしれません」
俺自身も不思議なくらい力が出てボスであるオルトロスを二匹殲滅できた。
これに頼って魔物を殲滅していけば、脱出する事はできるかもしれない。
俺は元より、ブルやフィリンにも多大な経験値が入って、武器を使用せずに戦えるようになる可能性だってある。
ただ……あの時、囁かれた声を参考にすると安易に使っていい物でもない。
なので、できれば避けたい。
「だけどそんな奇跡がそう何度も起こる前提で動かれると非常に困る。何か振る毎に体が悲鳴を上げるんだ」
この異世界人を想定した武器だと思うんだけど、使用するのはできれば避けたい。
一振りする毎に命を削り取られるような嫌な感覚がする。
現に俺が持つと淡く光るけど、それ以上にはならない。
魔物とか生命の危機に作動する代物なのかもしれないけど、それを前提にするのは間違いだ。
「わかりました。頼りたくはあるのですが、それは最後の手段にしましょう」
フィリンの了承を頷いてから次の案を出す。
「三つ目は魔物と遭遇しないように注意しながら移動……運が絡むけどダンジョン内にある物資を利用して脱出を図る」
「ダンジョン内の物資?」
「そう、具体的には帰路のオイルタイマーを見つけるんだ」
地下25階ともなると未開の領域に等しいのも然ることながらいろんな場所に宝箱など、いろんな物が落ちていたりするそうだ。
しかもアーティファクトと呼ばれる代物なんて物が見つかる場合もある。
このダンジョンというのはどんな構造なのか詳しくは分かっていないのだけど、過去から語り継がれている話によると、いろんな世界の断片の吹き溜まりなんて説がある。
他にも過去や未来が複雑に絡み合った場所とか、推測や説は探せば無数に転がっている。
で、いろんな武具や道具が高頻度で見つかるわけだ。
そんな場所で脱出アイテムである帰路のオイルタイマーが無いとは言えない。
というより、ここで出土した物が現在も使われているわけだしね。
他にも同様の脱出アイテムに該当する品を探すのが望ましい。
「……そうですね。確かにそれが良いかと思いますが……問題は、見つかったアイテムがどんな物かの判断が付くか、ですね」
フィリンの言葉に頷く。
この案の短所は見つかった武具の鑑定ができない。
俺達が鑑定系のスキルを習得していないからだ。
それこそなんとなくで使うしかない。
「他に宝箱などに仕掛けられた罠とか、道中にそういった危険な罠の可能性もあるね」
現に俺達はトーラビッヒが不用意に開けた宝箱の罠にかかってこんな事態に巻き込まれたわけだし。
「ミミックなども警戒しないといけませんし……リスクが高いですね」
そう、この案の最大の短所が魔物以外の危険だ。
下手に踏み抜いたら全滅なんて可能性もあり得る。
ミミックは……訓練校で聞いた話によると宝箱に擬態するってのは俺も知っていたが、その後の補足の話だ。
侵入者や外敵が宝箱に擬態したミミックに襲われるだろ?
そうして食われた奴の装備をミミックは腹に残してしまう。
やがてミミックも飢えなどで死んだ時、そこにはミミックが消化できなかった武具が箱の中に残るんだと。
しかもミミックは近くの物資を蓄えて体内で装備を作ったりもできるそうだ。
これもトレジャーハンターを狙った生きる知恵なのかね。
魔石等も一緒に入っていたりして、餓死したミミックの亡骸が宝箱となっている事がある……なんて世知辛い話を聞いた。
「幸いなのは俺達は新兵だけど訓練校で多少は罠解除の知識を得ているところか」
俺は読書で罠に関する事を読んだ。
ブルも賞金首を狩る仕事をする際に落とし穴を掘って仕留めたから多少心得はあるだろう。





