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二十五話

「うう……す、すごい……」

「ブ……ブ……」

「これは……うぐ……」


 体全体がきしむような痛みを覚え、吐き気が込みあげてくる。

 く……ここで倒れるわけにはいかないのに……。

 謎の棒切れを握りながら懸命に立ち上がる。


「だ、大丈夫……?」

「ブ、ブー!」


 ブルが俺の方に駆けよって支えてくれる。


「さ、さっきのはいったい……」

「わからない。けど、この積み荷のお陰でどうにか、できたみたい」

「アレ? その前にユキカズさん。凄い速度で動いてましたよね」


 ばれてる。

 ここはアレだ。誤魔化そう。


「一族に伝わる秘伝のスキルなんだ。反動がとんでもなくきつくて滅多に使えない奴でね」


 嘘は言ってない。

 謎の侵食があるナンバー:Lチャージ系だと思えるスキルだ。


「そうだったんですか……しかし……何なんでしょうね、この武器……国が隠している新兵器でしょうか?」


 フィリンが俺の手から謎の棒切れを取って確認する。

 その直後、機能停止したのかフィリンが重さで棒切れを落とした。


「重たい……」

「何か魔法的な付与でもかかっているんじゃない?」


 そうでもないとLv差とか戦力差とかいろんな理由が説明できない。

 Lv17の雑魚が凶悪な下層域のボスを仕留めるなんてさ。

 ゲーム風に言うならバランスがおかしい。


 国はこんなにも凶悪な武器を開発していたって事になる。

 そんな物を俺達に運ばせた?

 トーラビッヒみたいな下っ端も下っ端も良い所の端の端部隊に?


 俺は棒切れを拾い上げる。

 すると淡い光を纏った。

 まるで俺が所持者であるかの如く。

 不思議なくらい軽い。


「ブ……」


 ブルが同意の声を上げる前に……俺を支えていたにもかかわらずフラフラと倒れる。


「え? う……」


 それはフィリンも同様で両手を口元に当てて嘔吐した。

 俺も同様に腹の中から何かがこみ上げてくる。

 みんな揃って、ゲロゲロとその場で吐き散らかす。


 やばい……気持ち悪いなんてもんじゃない。

 目を回して……毒とか病で死ぬとかそんな次元の嫌悪感。

 このまま死ぬんじゃないか?


『自身よりも遥かに格上の獲物を仕留めたんだ。高密度の経験値に汚染されるのは当たり前の事だろ』


 と呆れる声が聞こえたが、今の俺はそれどころではなかった。


 気持ち悪いのを堪え、倒れるブルを抱き上げてから安全な体勢で寝かせる。

 顔色が青い。

 手荷物にある薬でどうにかなるのか?


 フィリンの様子も確認する。

 吐くだけ吐いて意識がない。


 くそ……次から次へと。


「う……」


 そのまま俺は二人をオルトロスのいる大きな道から近くにある小道にどうにか運び込み座りこみ、敵が来ないかを見張り続ける。

 ダンジョンの注意事項で読んだ覚えがある。大型の危険な魔物は大きな道を通り、小さな道にはまず入ってこない。

 入れない事はないが、その所為で道の狭さで魔物も動き辛くなるので自身の首が締まるから……だとか。


 少しずつだけど、気持ちの悪さと脱力が抜けてきた。

 スタミナ回復力向上のお陰だろう。


 どちらにしても……近寄ってきた魔物がいたら仕留めるまでだ。

 二人の容体が回復するまで、長い見張りが始まった。

 何か……体から出ているような気がするけど気の所為だと思いたいな。




 1時間後。


「ブウ……」


 ブルが目覚めた。

 まだフィリンの意識は戻っていない。

 棒切れに目を向ける。

 俺が持つと棒切れは謎の取っ手に変化するようだけど……できれば使用したくはない。

 なんか嫌な感じがする。


「ブ」


 ブルが少し離れた所に放置してあるオルトロスの死体を指差している。

 回遊型のダンジョンボスだったか……。


「ああ、夢じゃない」


 魔物は……ボスの匂いを察しているのか近寄ってこないのが幸いか。

 あの後来た魔物はいない。

 オルトロスの血の匂いで逃げたってところだろう。

 ボスを倒した化け物になんて遭遇したくはないのはダンジョンの魔物だとしても考えるのは同じだろう。

 少なくとも、しばらくは……だろうが。


「ブ!」

「ああ、移動した方が良いかもしれないな。とは言っても……どこが安全なんだか」


 フィリンを背負って移動を開始しようと思う。

 その前に……オルトロスから大きな魔石を抜き取り、爪を切り落とす。

 あまりにも硬くて中々にしんどかった。


 とは言え、ツメさえ切り落とせれば、後は簡単だ。

 その爪を使って毛皮を剥いで纏める。

 ボスの匂いが付いた物があれば、魔物もある程度近寄らないだろう。

 骨や肉に関しちゃ……今は後回しだ。精々牙を採取した程度だ。


 後は……オルトロスの血だな。これがあるだけである程度は匂いを誤魔化せる。

 一か八かでもあるけれど、ボスが手負いで彷徨っているというのは魔物にとっては危機意識を持たせる。

 接近させないという意味でも、させるという意味でも。

 俺達は迅速にその場から離れた。





 それから更に1時間経過した頃。


「うう……」

「大丈夫?」


 声を掛けるとゆっくりとフィリンは目を開けて俺達を見た。

 オルトロスを倒した場所から更に少し進んだ所に、身を隠すのにちょうど良さそうな小道があり、その先の少しばかり開けた場所にあった草の洞に隠れた。


「ここは……!?」


 ガバっとフィリンが起き上がり、辺りを確認する。


「さっきのみんな揃って吐いたのはいったい……」


 するとフィリンが自身の体を確認しながら答える。


「おそらく、経験値中毒で意識を失ったんだと思います」


 なにそれ? と聞く前に本で読んだ知識を反芻する。

 えーっと、確かパワーレベリング等の強力な魔物を先輩兵士や冒険者が仕留めてLvの低い新兵や見習い冒険者に与える行為で起こる症状だったはずだ。


 魔物から溢れる経験値が辺りに漂い、受け皿を探して、近くの者へと流れ込む。

 高密度の経験値により体や魔力が急成長する。その成長に意識が悲鳴を上げて失神するんだ。

 そう……もはや変異と呼べるくらいに。

 下手をすると命に関わる症状に至るケースも珍しくない。

 十分に体を鍛えておけば、耐えきれる……とか言われていたはず。


 俺は耐えきれて……ブルやフィリンは失神したって事か。

 ふと、異世界人は強くなりやすいと言われたのを思いだした。

 この事も関わっているのか?

 この棒切れがどんな物であるのかはともかくとして、どうにか生き残ったのも事実だ。


「……どうしたらいいんでしょう。積み荷を勝手に使ってしまいましたし」

「それはー……大丈夫、確か国の規則と言うか冒険者に関する記述にダンジョン内での案件事項があったはずだから」


 俺の覚えている物だと確か……一つ、国に属するものはダンジョン内にある物資を、生命の危機から脱する緊急処置のために使用するならば罪に問わないとあったはず。

 要するに冒険者ではない者がダンジョンで手に入れた強力な武器を国に提出する前に使用する事を認める制度だ。


 発祥は強力な武器を使用せずに戦死した兵士が居て、その所為で魔物に武器を奪われて大惨事になった経緯があったとか何とか?

 強力な武具を持った者が敗れれば、それは即ち敵の強化に繋がる。


 その辺りは別の本を参照にしなきゃいけなかったからよくわからない。

 この規則を当てはめれば、ダンジョン内にある物なら何を利用してもいいって事だ。

 持ち帰ってから相談すればいい。


 おそらくだけど……この武器はきっと異世界人が振るう事を前提にしているような気がする。

 フィリンには反応せず、俺に使用できたのはきっとそれが理由だろう。

 あの妙な起動シークエンスみたいなのも気になるし。


「だとしても、これからいったいどうしたらいいでしょうか?」

「あー……うん。俺もブルもその辺りはフィリンの意識が無い間に考えた。だから心を強く持って聞いてほしい。現状の話だからね」

「は、はい」


 気が弱そうだから事実を知ったら発狂とかされると困るんだけど、フィリンを大事な仲間だと思って話そうと思う。


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