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百九十話


「ああああ!?」


 急な移動に助けられた村人は声を上げて目を回し始めた。


「ッキュアアアア!」


 ラウの方は機嫌が良い。高い高いみたいなつもりかな?


「ケント」


 ムーイが屈んで健人の金属化した足へと手を添えると、元に戻る。


「お? 足が元に戻ったぜ。助かるな」

「仕組み的には奴が奪ったムーイの力で変質されたものだからムーイの力で戻したに過ぎないな」

「そうは言ってもな。つーか、タイミングでも狙ってたのか? いきなり動きがよくなりやがって」

「違う」


 ドクンドクンと力が漲ると同時に嫌な感覚が体中を駆け巡る。

 ムーイの皮膚にナンバースキルを使った時に走る文様が浮かび上がった。


 3%


 俺の視界にもムーイの視界にも揃って久しく見なかった%で表示される。


「雪一……お前」

「罵倒は素直に受け入れる。これ以上の無茶をムーイにはさせない。臨界になんてさせられるものか!」

「ユキカズを責めないで、オレが選んだ。これがユキカズとケントが悩んだ力なんだな……絶対にこれ以上の犠牲者を出させない!」


 ムーイが決意を込めて叫び、カーラルジュに向けて構える。


「ヴガアアア」


 おや? お前は……ああ、まさかと思ったがあの時の奴か。

 とばかりにカーラルジュは見下げた顔でムーイを見る。

 やっと思い出したか。

 こうでもしないと眼中にすら無かった雑魚とでも思って居たのか、既に殺した相手だから忘れて居たのか。

 何にしても……この力でお前を倒すほか無い。

 俺に宿る神獣の力は浸食が異様に早い。悠長にしていたらムーイが後戻り出来なくなるまで浸食してしまう。

 できる限り消耗しないうちに、一気に片付ける。


「ヴガアアアアアアアアアア!」


 力をまだ持っていやがったみたいだなぁああ! よこせやぁあああ!

 そう言っているようにカーラルジュは雄叫びを上げて素早く接近しツメを振りかぶる。


「はぁ!」


 ムーイが片手でそのツメを受け止めるが……カーラルジュの力を強く押し返すには少しばかり足りない。


「ガアアア!」

 カーラルジュがもう片方の腕を振り上げて切り裂かんとツメを振り下ろすのをムーイは腹に拳をたたき込む。


「ヴグウウ! ヴァアアアアア!」


 負けるかぁあああ! と、そのままカーラルジュの振り下ろしを肩に受けるムーイ。

 殴った方の肩に深々とツメが食い込むが負けじとムーイは拳を引いて再度殴り掛かる。


「これはユキカズの分! これは……ラウの村の人たちの分!」


 攻撃に傷つけられた人たちの事を織り交ぜて殴る……ムーイの怒りは他者から来るのか。

 本当に、尊敬するくらい良い奴になったよな。ムーイは。


「ヴガアアアア!」

「ふん!」


 何度も殴ってんじゃない! と、カーラルジュが口を開いて噛みつかんとした所でムーイが頭を引いてガツン! っと頭突きを加えた。


「ガアアウ!?」


 これには思わずカーラルジュも効果があったのかたじろいて頭を振るう。

 バッと、カーラルジュは力強くムーイを押して距離を取り、周囲を見渡す。


「もう誰かを人質になんてさせないぞ」


 ムーイはその距離を素早く詰め、両手を組んで振り下ろし、カーラルジュの頭に叩きつける。


「ヴガアアアア!」


 少しばかりだけど押している……ただ、単純な力はまだカーラルジュの方が上か。

 くそ……神獣の力とはいえ、俺を経由したものでしか無いから異世界の戦士としての力には及ばないのか。

 期待して居る効果よりも少ないのが悲しい。

 であると同時に心臓代わりにして居る俺のエネルギー消費が果てしない。

 みるみるエネルギーが減っていって、浸食率よりも俺のエネルギー切れの方を心配した方が良いくらいだ。

 挙げ句……ムーイの体よりも俺の体が悲鳴を上げていて、さっきからブシュっと激痛が走る。

 これが代償か……ただ、俺自身の無理なら決意している分、受け入れやすい。


「こっちも忘れてるんじゃねえよな?」


 健人がカーラルジュの足に刺さった槍を引き抜いて回転突きで再度突き刺す。


「ヴガアアアアアア!?」


 おお、助かるぞ健人、いくらこっちが出力向上で善戦していると言っても決定打が少し足りないんだ。

 連携して追い詰められるなら良いに決まっている。


「これも喰らえ!」


 流れるようにムーイが蹴りを加えようとした所でゴン! っと音が響く。

 蹴った感覚が……金属みたいだったぞ。

 と思ってカーラルジュを確認すると自らの毛皮を金属質に変化させてムーイの攻撃を受け止めて居るようだった。


「ヴウウウウ」


 カーラルジュが不敵に笑った。

 どうやらムーイから奪った力の源で自身の毛皮を強化してきたようだ。

 攻防一体の便利な能力……ムーイ+カーラルジュを相手にしているようなもんで、俺とムーイで追い詰めるってのは相当に難しい。


「ヴガアアア!」


 ムーイに向かってツメすらも変化させて切り裂いてくる。


「む!」


 ムーイが防御態勢を取ってツメを受け止めるけれど、それでも肉が切り裂かれる。

 即座に傷が塞がるけれど、それでもカーラルジュの攻撃が強力になったのは間違い無い。

 再度カーラルジュの魔力が凝縮し、先ほど放った爆炎が巻き起こる。


「やべぇ! みんな伏せろ!」


 大きく下がった健人が周囲の者たちへ呼びかけ、みんなカーラルジュの攻撃に伏せて対処する。

 その爆発に向かって防御姿勢を維持したまま突撃するのはムーイと俺だ。


「ヴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 爆炎が巻き起こり、爆風が周囲を焼き焦がして行くが、そこを増加された力で耐えきり、姿を隠そうとするカーラルジュに肉薄する。


「ヴガアアア!?」


 驚愕の表情だったカーラルジュだったが即座に俺達へと攻撃を続行してツメを振りかぶる。

 ガッと、ツメを再度受け止め、続くもう片方のツメもムーイは抑え込む。

 煙が晴れた所で健人達が立ち上がり、ムーイが叫ぶ。


「ケント! オレとユキカズが抑えてるから、攻撃!」

「おう! 頼もしくなりやがったなお前等はよ!」


 と、健人がこの隙にカーラルジュの急所目掛けて狙いを定める。


「ヴガアアア!」


 くそぉおおおお! と、カーラルジュは俺達の連携の前に大きな隙を見せて手傷を負う。

 そう思っただろ? なんて言ってるかのように叫ぶのをやめて邪悪な笑みで押し合いになっているカーラルジュが笑い、ツメを立てていた手でムーイの手を逃げられないように力の限り掴んだ。


「何!? くっそ!」


 二尾の尻尾の一つを健人に狙いを定めて振り回し、一つを鋭くさせて逃げられないムーイの腹部、前回ムーイから力の源を奪い取った様に突き刺してきた。

 状況判断能力が恐ろしく早いな。

 残忍で狡猾なだけの事はある。


「ユ、ユキカズ!」


 ここで俺が目を開いて増幅された力で熱線を放てば、大ダメージを与えられる見込みは高い。

 だが――。

 ドスゥ! っとムーイの腹部にカーラルジュの尻尾が深々と突き刺さる。


「ヴガッガッガアアアア!」


 ハッハー! やったぜぇえええ! 何やら凄い力の源を隠し持っていたみたいだけどそっちも頂くぜ!

 ってカーラルジュが勝利の鳴き声を上げて、尻尾からムーイの力の源を毟り取ったように弄りだした。


「う、うぐ! ユ、ユキカズゥウウ……」


 なんでとムーイの疑問染みた声がした様な気がするけれど……。


「この時を待ってたんだぁあああああああ!」


 グジュウウウ! っと俺はカーラルジュが伸ばした尻尾の中に俺自身の体を伸ばして滑り込ませムーイの体の活動を維持しながら内部へと突き進む。


「ガアアアアアア」


 するりと異物が入り込んだ事など露知らず、コレをあふれる力の源と勘違いしたカーラルジュが勝利の笑みを浮かべているのがムーイの視線経由で見えるぞ。


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