百七十七話
投稿部分を間違えていました。
「ギュアアアアア!」
声を上げながら死肉を寄越せと空でミディアムパープルコンドルの群れが声を上げている。
余計な獲物を呼び込んでしまったもんだ。
ムーイの魔力でチェーンソーミクスウルフやチェーンソーコヨーテの死体をお菓子の材料にしてやるか?
無駄な消費になるけどアイツらに狙われるよりマシかも知れない。
「……ユキカズ、アイツらも仕留めるべきかー?」
「下手に近づけば狩られるのがわかっているから隙さえ見せなきゃ大丈夫だ」
「そうか」
ただ……何にしてもこの廃村では魔物が虎視眈々と村人の亡骸を狙っている。
埋葬をしたとしても死体を掘り起こされるかも知れない。
……あくまで俺達の自己満足でしかないけど、やらないで居るのは俺もムーイも嫌だ。
何より、赤ん坊にとって大切な者たちに安らかな眠りを与えたい。
「キュー……キュー」
疑似砂嚢に収まっている赤ん坊は落ち着いた声を出してうつらうつらとして居る。
まだこの子の生命力は完全に回復したにはほど遠い。少しずつ栄養のあるミルクとかを与えつつ回復魔法を施して行かないと。
「ムーイ。赤ん坊を吐き出すぞ」
「うん。ユキカズ、お願い」
ぐぐっ……っとムーイの体に干渉して疑似砂嚢に収めた赤ん坊を吐き出させる。
ムーイもしっかりと吐き出せる様に口をできる限り開いて手を口の中に伸ばして赤ん坊を支えて取り出した。
あんまり涎とかでベトベトにさせる訳にはいかなかったからムーイの食道への負荷があって、吐き気もかなりあるだろう。
「ゲホ……」
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫……ユキカズがすぐに喉の乾きを弄ってくれたんでしょ? もう変な感じしない」
「ああ……」
「キュー……」
抱きかかえるムーイに赤ん坊が眠そうに声を上げている。
こんな状況で眠そうにしているって大物になりそうだなコイツ。
事態がよく分かって居ないのがせめてもの救いか。
「ユキカズ、この子のお世話って他に出来る事は無いのか?」
「どうにか水分を補給出来た段階だからな……後はできる限り安静にさせたままで様子見が一番だろう。ムーイ。布をこうやって赤ん坊を軽く体に縛り付けるんだ」
と、俺は抱っこひもで抱える様にする映像を、ムーイへ分かりやすく地面に照射して見せる。
「こう?」
「あんまり強く縛るなよ? 優しく、それでありながら落さない様にするんだ」
「わかった」
俺の指示通りにムーイは布を抱っこひもにして赤ん坊を固定させる。
「きっとすぐに空腹を訴えるからミルクの用意をしておいて……村の者たちの埋葬をして行こう」
「うん……」
俺達はそうして、廃村の中で転がっている村人の亡骸を集めてから墓穴を掘るためにムーイの手の形状を変えて地面を掘り始めようとした。
するとまたも何やら俺の視界に招かざる来訪者らしき影を確認する。
ムーイも察知したのか気配の方向へと顔を向けて殺気を放つ。
本当……死体漁りをする魔物ってのが多くてうんざりする。彼らを静かに眠らせる事さえ許さないのか。
と、苛立ちを覚えたが――。
そこに現われたのは……銀色のきれいな毛並みをした、狼男らしき奴だった。
視界に浮かぶ相手のLvは……155!?
くっそ高い! 人間基準だったら俺よりも格上だぞ。
「数日前に未知の魔物の襲撃を受けて壊滅した村だって聞いたが、まさかまだ居るなんてな」
狼男は業物らしき槍を持って俺達へと構える。
「悪いがお前には報いを受けてもらわねえと」
言葉が通じる? けど、この言語……レラリア国で使われて居る言語じゃない。
魔物になってからは独り言を含めてムーイに教えていた言語、日本語だった。
「さーて、お手並み拝見と……行きますかー!」
狼男が目にもとまらぬ早さで突撃してきた所で困惑していたムーイが咄嗟に赤ん坊を庇うように両腕で守りの姿勢に入る。
「ま、待て!」
俺は日本語で狼男に言い返す。
ピタっと狼男は槍でムーイを貫く直前に止まった。
「その言語、お前……日本語で良いんだよな?」
「こりゃあ驚きだ。ここで日本語を耳にするとはな。それともどこぞの魔物の声帯模写……って訳でもねえみたいだな。お前さん、その赤ん坊を守ろうとしているみてえだ」
サッと槍を引いて、ムーイが守った赤ん坊が目に入ったのか狼男は構えを解く。
「ユ、ユキカズ以外で話が出来る人だ。あのな。オレ、この村を壊滅なんてさせてない」
「ああ? さっきの止めた声とは違うな。なんだお前?」
「えっと、オレはな。ユキカズが名付けてくれた名前はムーイ。本当の名前は迷宮種・ムーフリスって言うらしいぞ。この子はな。家の中で隠されて居た生き残りの子。絶対に守らなきゃ行けない」
ムーイが迷宮種と名乗った所で狼男は眉を寄せたが、赤ん坊をしっかりと確認して黙ってムーイを睨み続ける。
「ユキカズ? そのユキカズってのは何処にいやがるんだよ。さっき声を掛けてきた奴か?」
「そう。ユキカズ」
「あー……これには色々と事情があってな」
と、俺はムーイの赤ん坊を抱き上げるようにさせて……腹部の目を見開く。
うわ! 脊髄反射って動きなのか狼男が俺の目に向けて槍を向けて居る。魔眼とか警戒してるって事だろうが、まずは話をしなきゃ始まらない。
こっちの声にあっちも一度は制止してくれた訳だし。
「俺が雪一だ」
「こっちの迷宮種って名乗った奴も珍妙な奴だがそれよりも奇妙な……人面瘡の類いか?」
人面瘡って……酷い言いようだ。腹部にある一つ目の化け物って事なら否定できないけどな。
「ギガパラサイトだ……この姿なのは色々と事情がある訳だけど俺は元々人間の兎束雪一、日本出身の高校生だ」
「何処をどうしたら人間が……いや、俺も人の事を言えた義理じゃねえか」
声や体躯、雰囲気からしてこの狼男、二十代は過ぎた三十代な印象を覚える。
なんだかんだ兵役をしていただけの事はあって、人種の年齢を見る事は結構あったからな。
ギルドの受付をしていたら自然とな。
元々俺を選んだ神獣って見るという能力持ちで、俺に反映されていたのならこの辺りの適性は高かったんだろう。
何より……狼男姿のブルが思い出される。
だからか狼男の年齢を外見でなんとなく判断出来るんだ。
「お前からは妙な感覚がするから嘘じゃねえか」
「それはこっちの台詞でもあるんだがな」
狼男からは飛野や今は亡き藤平やクラスメイト達から感じられた何かと同等の気配があるのだ。
「お前も異世界の戦士として呼び出された日本人って所か」
「正解だ目玉の……雪一だったか。俺の名前は大上健人。異世界の戦士とか懐かしい呼び名だぜ」
まさかこんな所で同郷の奴と出逢うとは思いもしなかったと言いながら健人と名乗った狼男は答える。
目で解析を行うのだけど、健人の狼男姿の分析は……%が出現しない。
既に解析済み……か?
まだ俺が人だった頃にナンバースキルを使っている時にブルの姿を解析していたからその影響かも知れない。
「で、同郷とは言ってもなんでお前はそんな姿でこんな所に居るんだ? 場合によっちゃこっちも戦わねえといけねえぞ」
「ユ、ユキカズ……」
どうしたら良いんだ? って困った様子でムーイが赤ん坊を庇うように抱きしめたまま俺に不安そうな声を出す。
「俺がこんな姿になった経緯は後で話すとして、俺達がここにいるのは迷宮種・カーラルジュを追ってきた所で奴に滅ぼされたらしき村にたどり着いた。このまま奴を追いかける事も出来たけど無残に打ち棄てられた村人達を埋葬しようとしていたんだよ」
村人達の亡骸は近くの建物に集めたと視線で誘導する。
「ミディアムパープルコンドルが未だに空を旋回してるのは死体漁り目当てだけど、お前等が邪魔をするからってか。なるほど……筋は通っているみたいだな。この村をこんなにした奴が迷宮種・カーラルジュって言う話が本当ならば、だがな」
「お、オレはこんな事をしないぞ!」
ムーイが怯え気味に健人へと向けて言い放つ。
「どうだかな。迷宮種ってのは災害とも言える魔物。その災害が無害だと言ったってな……とはいえ、お前からは迷宮種独特の妙な気配は薄いみたいだがな」





