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百七十二話


「大丈夫、ユキカズ。オレの体のお腹をできる限りご飯を食べれるようにして、ちょっとやってみる」

「何をする気だ?」

「良いからお願いユキカズ」


 く……ムーイに何か考えがあるのか、このままじゃどうせエネルギー切れを起こして果ててしまう。

 ならムーイの望む事をしよう。

 俺は頼まれるままムーイの体の胃袋の胃液の分泌量、酸性度、エネルギー吸収部分を引き上げる。

 ジュウウ……っと胃液の分泌量が増した所為でムーイの胃袋が焼けを起こし始めた。


「よーし、あーあー」


 ムーイがなんか自分で体……じゃない、頭を動かし変形し始めた?

 それから徐に飛びかかってきたアントラインラーヴァを片手で掴む。


「ギィイイイイ!」


 捕まって抵抗をするアントラインラーヴァを力技で握り、ムーイは顔へと近づける。


「ガァアアア!」

「ギイィ!?」


 牙が生えた大口を開いてムシャムシャと咀嚼をしてゴクリと飲み込む。

 うへ……とは思うけど食べた物が胃袋で消化されてエネルギーとして補充される。


「ユキカズがオレの体を色々と使ってくれていただろ? やり方覚えてきた」

「そ、そうか……お菓子以外を食って大丈夫なのか?」

「味は分からないけどユキカズの力になるだろ? 魔石も」


 アントラインラーヴァの魔石に内包されたエネルギーは少ないけど回復手段としては十分か。強酸状態の胃液で食べた獲物はすぐに消化される。

 人間だったらあり得ない体の構造をして居るけどエネルギー不足になっていた俺からすると助かるのも事実か。

 俺とも連結して……味は分からないけど促進させる。


「隙あらば食べていくから絶対にここから出ような! ユキカズ」

「ああ!」


 って事で応急的な手段だけど俺達はアントラインの巣で大立ち回りを行いながら進む……その途中……腹が大きく透明なオレンジ色に膨れたハニーアントラインという魔物を見つける。


「ユキカズ、なんかアイツ甘そう!」

「たぶん、あの腹には蜜が入ってそうだな」


 何処で集めたのか分からないけどアントライン達の食料を溜め込んでいるのは一目瞭然だった。


「いただきまーす!」

「ギィイイイ!?」


 戦闘班ではないのだろう。逃げようとしていたハニーアントラインだったけどムーイは飛びかかって腹に噛みついて啜る。


「あまーい! ユキカズ! 甘いぞー!」


 ぐーん! っとエネルギーが大幅に回復した。ムーイの体はやっぱり甘い物がエネルギー源だな。

 グビグビと蜜を急いで飲み干してムーイは襲い来るアントライン達を倒して進む。

 やがて……どうにか巣から脱出する事が出来た。


「地上!」


 バッと跳躍して巣穴から飛び出しそのまま走り抜ける。


「ギィイイ!」

「ガァオオオオオ!」


 っとアントライン達はしばらく追いかけてきたけれどサンドキラーシャークの生息地域まで来た所で地上では不利だと悟ったのか追うのを諦めてくれた。


「ふう……」


 アントライン達が見えなくなり、サンドキラーシャークの気配がない岩の上でムーイは腰掛けた。


「あー……疲れた」

「どうにか逃げ延びたな……」


 暗い巣の中、どれだけ戦って居たのか時間の感覚が麻痺ってしまって分からなくなってしまっている。

 安全地帯とは言いがたいけどどうにか一息つけた状況だ。

 という所でグギュウウウウ……っと嫌な音が俺と周囲から響き渡る。


「う……」


 もちろんムーイの胃酸などは既に本来の状態に戻してあるのだけど……無茶なエネルギー補給にムーイの体が抗議を始めたと言う所だ。


「ユ、ユキカズ……」

「本当、謝るしか出来ないな。無理をしてごめんな」

「う、うん……じゃあ……」


 まあ、ちょっと岩陰でな……出す物は出して済ませよう。

 って感じで俺が色々と体内環境を調整して三時間ほど……ムーイは出す物を出し続ける羽目になってしまった。


「ふう……もう大丈夫だぞユキカズ」

「それは良かった。正直エネルギーが尽き掛けて危なかった」


 あのまま死ぬのかと思ったけど、ムーイのお陰でどうにかなった。


「それでユキカズ、まだ戦えるかー?」

「随分とやる気だな……何処かもう少し安全な所で一旦休んだ方が良いと俺は思うんだが」

「じゃあサンドキラーシャークの解析、後どれくらいで終わる?」


 えっと……俺の覚えて居る範囲でサンドキラーシャークは……。


「じっくり観察すれば後一匹くらいで終わると思うぞ」

「わかった。じゃあ休めそうな所を探しながらサンドキラーシャークを探そう」


 どうしてそんなにもサンドキラーシャークが気になるんだ? とは思ったけれど、移動をしながらサンドキラーシャークを見つけ、しっかりと凝視を行ってから今度はちゃんと倒した。

 アントライン達を無数に倒したお陰で大分Lvが上がったのだろう。大分余裕で倒せた。

 結果的に大きくプラスだったって思う事にした。









「で、サンドキラーシャークの解析は終わったぞ?」

「じゃあユキカズ、解析したサンドキラーシャークの変化をオレにして欲しいぞ」

「ん? 分かった」


 言われるままにサンドキラーシャークをムーイの体に施す。

 俺の感覚だとムーイの肌がサメ肌になる感じなんだが……ムーイは何をする気だ?


「あのな。ユキカズが進化をしてから出来るんじゃ無いかって感じた奴なんだけどな」


 ムーイは砂地で軽くジャンプするとそのまま地面に向かって飛び込みを行う。

 その直後、ムーイの体の形状が変わりサンドキラーシャークに似た姿へと変化して砂地を潜って泳ぎ始めた。


「これが泳ぐって奴なんだなユキカズ」

「えっと……」


 さも当然の様にサンドシャークみたいな姿になって泳ぎ始めるムーイに言葉が出ない。


「変身をムーイも出来る様になったって事なのか?」

「なんとなくだけどなーただ、ユキカズに教えて貰わないと真似るの難しそう」


 より俺の変身に近い事をムーイの体は出来る様になったという感じだろうか。

 いや……どちらかと言えばムーイは姿を再現したというのが正しいのかも知れない。

 元々マシュマロみたいな体をして居る訳だから見た目だけ似せるのは出来ない事じゃ無い。

 俺の干渉で体の一部を完全再現出来る様になり、姿を模倣したので同様の動きが出来る。疑似再現という感じか。

 皮膚だけとか体の一部分だけだったのが全身再現が出来る様になったって事で……良いか。


「どうだユキカズ。サンドキラーシャークと同じように泳げるようになっただろー?」

「泳ぐことはな」


 一番の問題はサンドキラーシャークの特徴である砂の中でのエコー的なセンサーの再現度は低い。

 皮膚から得られる振動による情報処理までは完全に把握出来ていないんだ。

 その為、深く潜ると周囲が分からなくなってしまうという所がある。

 ただ、地上を歩いていると狙われるのが砂の中を潜って移動する事で魔物との交戦を避けれるというメリットが得られる。

 まだ馴れていないから上手く使えないって気もする。

 俺はムーイほど天才じゃないって事なんだろう。

 ともかく、砂の中を俺達は泳いで進んで行った。カーラルジュの痕跡は……岩に爪痕が残っていたり、肉の形で絶命している魔物の死体が腐敗していたりしてわかりやすいからな。

 痕跡を追っていると水を感知……これって砂の中に空洞があるぞ?


「ムーイ、その先が空洞になってるな」

「うん」


 恐る恐る空洞内に半身を出して周囲を確認。

 どうやらアントラインの巣ではないようだ。ムーイの視界から流れる情報に魔物の名前は出ない。


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