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百四十六話


「聞いてみないとわかんないぞ、ユキカズ」

「まあ……そうか、じゃあ話していくけど俺は地球という別の世界で生まれた人間でな」

「別の世界ー? 洞窟を抜けたところにある別の空みたいなもんか?」


 そういえばダンジョンって洞窟だけじゃなく別のフィールドにも出るんだよな。


「感覚で言えば近いけどすごく遠い遠い場所の話さ。こことは何もかも違う場所って思ってくれ」

「わかった。そこでユキカズは生まれたんだなー」


 深く考えるなって感じで一応に納得してくれた。


「その地球という場所で子供は勉強をする学校って場所で学ぶんだ。勉強って言うのは今、俺がムーイに話しているお話みたいなのだと思ってくれていい。俺も子供で学んでいたんだよ」


 国語とかがある意味近いか。社会も混ざるのか? ムーイに教えていくのは。


「そうなのか、子供ユキカズが色々とお話してもらってたんだな」

「そう。で……ある日の事、教室で――」


 と、俺はムーイに異世界の戦士として召喚され、戦ってほしいと言われたけれど断る権利も言い渡され、正しく冒険者になるために兵士になって色々な出来事を話して言った。

 その途中でムーイの返事が無くなったので頭をムーイの顔に向けると、ムーイはすやすやと幸せそうな寝息を立てて眠っていた。


「今日はこれくらいにするか……覚えが良いからって詰め込み過ぎるのも良くないだろ」

「すーすー……んん……ユキカズ……これ、おいしい」


 夢の中でもお菓子食ってんのか。まあいいや……なんか抱き枕にされっぱなしだけど……俺も寝るとしよう。

 こうして一緒にサバイバルする仲間が増えたのだった。




 あれから一週間が経過していた。


「ガアアアアア!」


 アンブッシュベリードラゴンタートルが俺を見つけるなり獲物がやってきたとばかりに駆けてくる。


「ユキカズ任せろー!」


 ここでムーイが前に飛び出し、拳を握りしめてアンブッシュベリードラゴンタートルに向かってアッパーカット。


「ガグゥ!?」


 顔面を思い切り殴りつけられてアンブッシュベリードラゴンタートルは大きく仰け反った。


「いくぞー! ごーごー!」


 ドガァ! って効果音が響きそうな音を立てながらムーイはその体躯よりも遥かに大きいアンブッシュベリードラゴンタートルを相手に縦横無尽に動き回ってボコボコにしていく。


「とおおおお!」

「――!!!???」


 ピョーンと大きくムーイは跳ね上がり、アンブッシュベリードラゴンタートルの甲羅に向けて踏みつけを行うとバキャ! っと音を立ててアンブッシュベリードラゴンタートルは陥没し、声にならない叫びをあげて絶命した。

 一応……アンブッシュベリードラゴンタートルって竜騎兵で戦うクラスの大型魔物なんだけどな。

 白兵戦でもものともしないと言わんばかりのムーイの戦闘力。

 ちなみにムーイ曰く、俺を捕まえようとした際に鍋を投げたのだけど加減の判断ができなかったって話だ。

 ああ、しっかり謝ったからな。許したぞ。


 ともかくグビっと近くにいた俺にも経験値が流れ込んできた。

 これで何匹目のアンブッシュベリードラゴンタートルがムーイによって仕留められたんだったか?

 覚えている限りでは7匹目か……哀れに思うしかない。

 ビリジアンワイルドタイガーは元よりアンブッシュベリードラゴンタートルという強敵はムーイによって処理してもらうので脅威ではなくなってしまっている。

 色々と助けて貰っているなー。


「ユキカズ! 今日は収穫がたくさん!」


 アンブッシュベリータートルの背中に生えているアンブッシュベリーという果物をムーイは持って高らかに答える。


「今日はこれでどんなお菓子を作るんだー?」

「んー……ジュースはこの前作っただろ? となると今度はジャムにするのも良いかもな」

「ジャムー」


 っと、そんな感じで俺達は手に入れたアンブッシュベリーを拠点に持ち帰って菓子作りに励む。

 ムーイは暇さえあれば菓子を食いたいというので相変わらず菓子作りの毎日だ。


「小麦粉が尽きてる……ムーイ」

「わかったぞ。ムムム」


 と、ムーイは土に手をかざして土を小麦粉へと変化させる。

 今までも確認出来ていた事なのだが、この変化に関してムーイは詳細を色々と教えてくれた。

 なんでも気づいた時には出来ていたムーイの力で、触れた物を知っている素材に変化させる能力だそうだ。

 もちろん何の代償もなく使えるわけではなくムーイの話を総合して魔力を元にして物質変換を行っているっぽい。


 で、この力は生き物にも使えるのだけど、相手の力を超える力をムーイが持っていないと変換は出来ないとか。

 しかもできれば弱っていると変化させられる。

 ビリジアンワイルドタイガーやフライアイボールはムーイからすると雑魚って話な訳だな。

 それで知っている素材と言っても金属などよりも果物とか小麦粉とかの方がムーイは力を消費せずに変化させられるとの話だ。


 ただ、ムーイ曰く俺の菓子を食べて知ったけどそれを使って石を菓子に変えても味がかなり劣化するとの話だ。

 そういや水をアエローで作った砂糖……蜜にして試食したっけ。

 なんか微妙に薄い感じがしたけれど、どうやらムーイの話では変換するとそれだけ質が落ちるって事なんだろう。


「出来たぞユキカズ」

「ああ、ありがとうな」


 この能力は……物質変換って言うのか?

 ムーイに金を教えて石を金に変えさせるとかできるのだろうか?

 色々と検証すべきことではある。

 ただ……触れた物を金に変えるってなんか日本に居た頃聞いた物語にあるよな。

 今回はアンブッシュベリーでジャムを作って生地に練り込んだ食パンを作った。


「ほい完成」

「いただきまーす! んーユキカズ! このお菓子も甘くておいしー!」


 出来上がったジャムをムーイはムシャムシャと食べながら感想を述べてくれる。

 貪るように食べちゃいるんだが……なんだろうな。

 食片が飛ぶような食い方はしない分だけムーイの方が藤平より遥かに品のある食い方をしている。

 藤平……もうお前はこの世にいないようなもんだけどお前……野生の魔物であるムーイよりも品がないんだな。

 別にムーイを馬鹿にしている訳じゃない。馬鹿にしているのは藤平なんだが、ムーイの方がはるかに可愛げがある。

 仮に藤平が生きてて俺が菓子を作ったりなんかしたら完全に馬鹿にした面をするんだろうなー……。


『お前、異世界に来て何菓子なんか作ってんだよ。兵士はどうしたんだ? 馬鹿じゃねえの?』


 とか絶対に言うはず……間違いない。

 ……この考えはやめよう。藤平はもう死んだようなもんだし、奴が歩んだはずの末路の先に俺がいるわけだしな。

 もしかしたら藤平も俺みたいに異形化した後、自我を取り戻しているのかもしれないし。

 そう考えると自我を取り戻すであろうところが羨ましいな。

 完全に安全圏だろ。

 生きて帰ったら確認しよう。

 帰るための理由が一つ増えた。


「ごちそうさま!」


 ムーイは食べ終わると手を合わせて言った。

 これも俺が教えた事を実践している感じだ。

 ちなみにムーイは基本お菓子とか甘い物しか食わない。

 普通の食事とか食わせた方が良いとは思うのだけど俺も基本的に菓子しか作れないからなぁ。

 一応総菜パンとかも作って食べさせるのだけどウケはあんまりよくない。

 菓子以外受け付けない体みたいな感じらしい。


 検証の結果、ムーイに変化させてもらった小麦粉とかは俺が調理すると違和感が無くなる。

 蜜とかも再度煮詰めるなどの加工をすれば良いだけだし。

 後は……実はずーっとムーイを凝視して分析を行おうとしているのだけどムーイが遥かに格上なのかそれとも何か理由があるのかわからないけど全然ムーイの分析ができない。

 %の上昇が微々たる数字過ぎる。ずっと一緒に居て今まで見ていたにも関わらず0.001%という分析の遅さよ。

 それだけムーイが強力な魔物って事で良いのかな?


 で、難点はムーイはその見た目に合わせるかのように体重が重たくて、俺が掴んで飛び上がるなどの芸当は出来ない。

 そのため高所にいる魔物などに対処するのは難しいという所だ。

 もちろんムーイを狙って高い所から降りてきてくれればいいけどそう上手くは行ってない。

 ムーイ自身の投擲技術とかを頼りにする方法なども考えたけど、狭い拠点内で近い俺に投げたから当たった程度の腕前なようで……。


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