百二十一話
格納庫内には待機状態の魔獣兵と魔導兵が鎮座していて手前でラスティが機材とにらめっこしていた。
「ラスティさん、ライラ教官は?」
「魔導兵に乗ってるわよ」
何してんだろう? フィリンみたいに何か模擬戦でもしてるのかな?
フッとラスティの見ている画面に目が行く。
レーダー表示かな? なんか無数にマーカーがあるけど……凄い勢いで動いてる。
異世界の機材のシステムって良くわからない所があるなーバルトならこれが何か分かるかな?
なんて思いながらライラ教官が乗っているらしい魔導兵に近づく。
あ、やっぱフィリンみたいに何か訓練をしているっぽい。
とは思ったけどヘルメットを被っている。
で、何をしているのか一発で分かった。
白兵戦のシミュレーターを使って模擬戦をしているんだ。
なんだ? ライラ教官がずっと避け続けているぞ? 敵が凄い機敏に動いている。
で……ズバァ! っと七つの影を仕留めた所でライラ教官は苛立ったようにため息をしていた。
「もう一度だ」
パァっとステージが初期配置に戻ったようだった。
カウントダウンが始まっている。
声を掛けるなら今かな?
「ライラ教官」
「停止……シミュレーター終了」
俺の声を聞くと同時にライラ教官はヘルメットを脱いでしまった。
「トツカか。一体どうした?」
「おやつの差し入れに来ました。ルリーゼ様達も気に入っていますよ」
「それはフィリンから貰ったぞ」
「アレはラスティさんの分でライラ教官の分じゃないですよ」
「どれだけ貴様は作ったんだ。物資はタダじゃないんだぞ」
「悪くなりそうだったので作っただけですって、所で何をしてたんですか? 見た所模擬戦をしていた様ですけど」
先ほどのラスティの方にあった画面が脳裏を過る。
ライラ教官の見ている画面との繋がりがさ。
もしかしてアレってまんまレーダー表示だったんじゃないか?
「ああ、これからの戦いを想定した戦闘訓練をしていた。私は王と姫様達に此度の戦いで重要な戦力物資を預かったのだからな」
それって異世界の戦士の武器の事だよね?
ちなみにライラ教官は言うまでも無くレラリア国でも有数な剣術の使い手であるそうだ。
道理で教えるのが上手なはずだ。
「ギャウギャウ」
バルトがここで魔導兵のコア……が伸ばした手を咥えてる。
何かしらのデータのやり取りしているのだろうか?
「ギャウ……」
あ、なんか呆れてる様に額に手を当てる動作。
ライラ教官、アンタ何をしているんだ?
俺も気になったので確認しよう。
「ちょっと見させて貰っても良いですか? 俺やフィリン、ブル達もみんなで連携して事に挑むわけですし」
「ふむ……」
ライラ教官が魔導兵のコックピットから出て持ってきた菓子をついばみ始めたのでライラ教官の訓練データを再生させる。
おいおい……。
出てくるデータとライラ教官の訓練の動きに唖然の言葉しか出ないぞ。
まず前提として戦場設定、見晴らしの良い平らな戦場、相手は異世界の戦士の武器を持った兵士で……数は7体だ。
コイツ等を相手にライラ教官は大立ち回りで避けながら何度も武器を振り被って殲滅してクリアしていた。
が、その後の再挑戦のデータで、魔導兵のコアがピックアップした物が表示されている。
どれもクリアはしているのだけどライラ教官は不満げに武器を見ている所で再挑戦の指示だ。
何がしたいんだ?
なんて思っていると6体と戦っていた映像が映される。
ライラ教官が満足したように頷いたのは、最小限の動きで避けて一撃で6人仕留めた時だけだ。
「あの、ライラ教官。つかぬ事を窺いますがこの模擬訓練の目的は?」
「ああ……お前と国が私に預けた武器で最小限の消費の元に敵を屠るための訓練をしていた」
つまり異世界の戦士の武器を使用するのは一振り、後は出来る限り消耗しない様にする最小限の能力増加で戦ってたのか。
なんて制限掛けてやってんだこの人。
この人に異世界の戦士の武器を持たせたら異世界の戦士よりはるかに活躍するだろうと言うのは容易く想像出来るな。
一振りで6人までは対処出来るのかよ。
「戦闘時間を極力掛けずに殲滅するのはどうなんでしょうか?」
「そっちは既にやっていてな。エネルギー効率はどっちが良いかは分かっている。正直……ごり押しが効くのは二人くらいまでだな」
武器出力が同じなのにごり押しが効いちゃうのが凄いんじゃないかな?
あくまでデータ上の話だけどさ。
「相手側に相当の使い手等が居た場合の事で想定しているがな……異世界の戦士に関しては謎が多くて困る」
「同じ土俵だとライラ教官さえ居ればどうにか出来そうだって言えますよ」
俺とブルが必死になって戦った藤平も、ライラ教官が同速で同じ攻撃力を持って居たら赤子の手を捻るようにして勝てたのは間違いない。
的確に藤平の意識を落として最悪の事態は瀬戸際で避けられたかもしれない。
……アレだけの力を振るう藤平の事だから残された時間は微々たるものだったかもしれないけどさ。
現在、ライラ教官は異世界の戦士の武器を所持している。
鬼に金棒とはこの事だろ。
「敵の実力はどの程度なんです?」
「報告ではまだ相手の動きはぎこちないそうだ。過ぎた力に振りまわされているのだろう」
本格的に戦いの心得のある奴と遭遇した場合は下手な異世界の戦士なんかよりも武器の力を純然に使いこなせるのは間違いない。
希望的観測とこの事態の速攻解決をするしかない。
時間が経てば経つ程こちらが不利になる。
こんなハードモードで訓練してるとか本気で凄いとしか言いようがない。
ライラ教官に比べたら俺なんてまだまだだ……。
こう……ブルとは別の意味で尊敬する。
「……作戦は上手くやる事を前提にしてますけど、勝てると思いますか?」
クラスのみんなの弔いであり世界の命運を賭けた戦いなのは分かっている。
何があろうとアイツには皆をおもちゃにした報いを受けさせないといけないけど……これだけやって勝てるのだろうか。
「ここで無理だと私が言うと思ったか?」
「いいえ」
「なら無駄口など言わずに進むほかあるまい」
「でしょうね」
「貴様も心得ているだろうが、ここで私達が負ける様な事があれば国も世界も全てが奴等の手に落ちることになるだろう。そもそもこれだけの力を……言い方は悪いが異世界の戦士達の力を世界征服などと言う下らない事に使うのは間違っている」
「気にしなくて良いですよ。非人道的な技術であるのは事実ですし、この世界の人達が俺達を利用しようとしていたとしても……覚悟はしていました」
「……貴様達異世界の戦士達に申し訳ない真似をしてしまったと私は思うのだ。この様な事をする為に異世界人を呼ぶなど言語道断だ。こんな真似をしなければ滅ぶ世界ならば潔く滅べと言いたくなる」
そりゃいきなり召喚されたけど、それなりにこの世界も困っている訳だから助けを求める訳で良いとして、俺達に戦ってもらう事に関しては俺達自身に選択を与えられている。
だが、俺達を武器の素材としてエネルギーを奪ってあんな末路を歩ませるのは間違っている。
もしもこの世界の者達が最初から俺達を利用しようとしているのだったら俺だって逃げるし何処までも抵抗する。
けど……ライラ教官を始めとしたフィリンやブル、セレナ様達はそんな事の為に呼んだんじゃない。
世界を良くする手立てがあると信じたから実行に移して俺達が出てきたに過ぎないんだ。
「確かにコレが最初から目当てだったら俺も逃げてましたよ。けど、違うから俺はここに居てライラ教官やセレナ様、王様達は協力してくれている。まだ滅ばねばならないかは決まってませんよ」





