百十五話
「俺は良い人が正しく評価されてほしいだけなんだよ」
「わかってるから落ち付けって騒げば騒ぐほど理解されなくなる奴だから」
「そうですね。気持ちは分かりますから……ユキカズさんが何をしたいのか分かってるからみんなこうして集まっているんですよ。フジダイラさんみたいな人じゃないのは知ってます」
……うん。
なんかこのやり取りでさっきまでの不安が少し解消出来た気がする。
「何をバカな事をしているんだ……」
ライラ教官がやってきて呆れたような視線を向けてきた。
「アサモルトが異世界の戦士たちは変人だらけみたいな事を言うからですよ」
「違うのか?」
「ライラ教官まで言うんですか!? なあ飛野!」
「否定する為にここは黙る。兎束も行動で示せ」
く……封殺される状況と言うのは嫌らしいもんだ。
藤平は絶対に黙らず叫んで暴れるか何処かへ行く状況だぞ。
「やっと静かになったか。トツカ伍長、貴様は事態の重さを分かっているんだろうな?」
「当然ですよ。飛野の話だと目的の地点の占領は既に終わっているとの話みたいですが」
「ああ……これから向かう事になる。が……」
ライラ教官が歯切れ悪く僅かに顔を逸らした。
それだけであまり良い状況じゃないと言うのが伝わってくる……。
俺は心を強く持とうとさっきの賑やかな空気を胸にして頷く。
「行こう。飛野も覚悟は……出来てるだろ?」
「……ああ」
「わかった。では補給が完了次第向かう。トツカもヒノも心を強く持つんだぞ」
ライラ教官の言葉が既に答えなのだと俺はこの時、察する事が出来た……。
思えば……敵がなんで俺達にこんな土産を残したのか、理由がわかった様な気がする。
全ては俺と飛野を敵として招こうとしている事なんだろう。
飛空挺で目的の施設近くに着陸した俺達はその足で向かう。
なんとなく研究所ってバルトと会った時の出来事を思い出してしまうもんだ。
本来は薬の生産プラントである建物の中を通る訳だけど、施設内にはレラリア国の兵士達が今も調査をしている最中の様だ。
施設中に兵士たちがいて、ライラ教官を見ると敬礼をしている。
その中を先発で調査した兵士たちの案内で……俺達は隠されていた区画へと入った。
ふと……俺は脳内で在りし日の学校風景が呼び起こされる。
「あー……授業面倒くせーなんか休みにでも成らねえかなー」
「ゲームやってるだけで良い授業とかな」
「そんなのある訳ねえだろ、それより学校終わったら何処行くよ」
「そうだなー……おーい。兎束、お前も付き合うよな?」
ごく普通の日常風景、俺や飛野はそんな面白みも刺激も薄いけど当たり前だった平和な日本での日々を過ごしていたんだ。
まだ……あれから1年にも満たないんだよな……なんか自分の年齢に関して疑問に思えてくる。
あのまま俺達は異世界に来る事無く学生をしていたら、今みたいに成長しただろうか?
……なんとなく、特に変わることなかったんじゃないか?
それが悪い事では無いのは理解している。
ただ、掛け替えの無いものなんだろう。
大事なモノとは……失ってから初めて気づくなんて良くある言葉だけど、本当の事なんだな。
「ォウウ――」
「ンヒュウ――」
「クワックゥ――」
施設内にあったのは……無数の観察室であり、その部屋はマジックミラーの様なもので部屋の外から見る事が出来る。
室内には……変わり果てたクラスメイト達……だと思わしき異形の生き物たちが一部屋一部屋に入れられていた。
一部は藤平の様な培養カプセルに入れられて眠らされている様だった。
そして……部屋の表札にはナンバーと……クラスメイトの名前が記載されている。
「っ――」
飛野が言葉を失い、拳を握りしめながら室内を見ていた。
俺も出来る限り冷静であろうと黙って見つめる。
「兎束……これって本当の事だと思うか? アレが元クラスメイト達の成れの果てなんてさ……」
「飛野、お前はどう思う?」
「そりゃあ……違うんじゃねえか? って言いたくなる。それくらい、面影すらないだろ」
「……そうだな」
言われなければ分からないし、藤平以外は現場に遭遇した訳じゃない。
なので嘘だと言われたら「そうだよな」って言いたくなる。
けど……何故だろうか、アレがクラスメイトの成れの果てなんだろうと俺は不思議と確信してしまうんだ。
「でも……兎束、俺さ……嘘じゃないんじゃないかって、なんか感じる。何故だろうな」
「……もしかしたら異世界の戦士だからかもしれないな」
何か、今にして思えばこの世界に来てからクラスメイト達に何か感じるモノがあったのかもしれない。
最初は仲間意識と感じていたけど、今この場にいても分かるのは異常だ。
何かしらの要素で俺達が無意識に感じているのかもしれない。
これは否定しようがない。
無慈悲な現実が……目の前にあった。
「……誰かまだ変わり果てていない奴はいないのか?」
一緒にこの世界に来てしまった人数は把握している。
17人……俺、飛野、藤平を除くと14人いるはずなのだ。
「……」
観察室の中にある成れの果ての数は……照らし合わせたかのように14体。
出来れば俺達の勘違いであってほしいけれど、あまりにも希望的観測としか言いようがない。
「今回の騒動を起こした黒幕は俺達が来るようにしているんだろうな」
「……ああ」
拳を握りしめて飛野は俺に尋ねて来たので頷く。
あのローブを羽織っていた奴は俺達を怒らせて完全に敵対関係にしたいのだろう。
もはや隠す素振りすらなく、こんな非人道的な事を俺達に知らしめた。
同時に世界征服とばかりに世界中へと喧嘩を売っている。
「兎束……こう言う時に俺達がすべきことって何だと思う? 怯えて逃げ惑う事か?」
「……」
飛野は俺を見つめて尋ねる。
……元より答えが出ているって決意に満ちた顔をしておきながら言うもんだ。
「いいや……仮に逃げ回っても碌な末路は待ってないだろ」
ここまでやらかして正体を現した奴が俺達をおめおめ逃すはずもない。
しかもレラリア国は元より、各国の者達も俺達の能力を解析したいと躍起になるだろう。
騒ぎが起こっている今だからこそ多少は誤魔化されているがいずれ俺達が奴等の武器の力の元である事がばれる。
そう……俺達はもう逃げ場なんて用意されていないんだ。
「ならする事は一つしかないだろ。相手の挑発に乗っている様で癪だけどクラスの皆の弔いの為に……」
死ぬのが怖くないなんて奴はいない。
自分達の末路を見せつけられて良い気分なんてするはずもない。
けど、逃げる事も出来ない。
ならやるしかない。
その行動の果てに死んでしまうとしても……ここは進むしかないんだ。
「ああ! やってやろう! 俺達をこんな目に遭わせた原因に報いを受けさせなきゃ皆も浮かばれない!」
飛野もやる気を見せて拳を上げる。
やる事は決まった。
このまま逃げてアイツにおめおめと世界征服を成功させるよりどうにかしてアイツに報いを受けさせるのが先決だ。
やられっぱなしってのはやはり良い気分じゃない。
藤平のだって俺は結局やり返した様なもんだ。
「さあ……異世界の戦士の本気って奴を見せてやろうじゃないか!」
と、俺も飛野に合わせて決意を固めた。
「……」
心配そうに見つめていたブルとフィリンの方に振り向いて俺は出来る限り冷静である事を意識して微笑む。
「そんな訳だから……俺達もしっかりとこの世界の為、こんな事を仕出かした奴に報いを受けさせたい……ブル、フィリン……君たちは……」
「ブー! ブゥウウ……ブウウ……」
ブルが拳を振り上げてやる気を見せていた。
絶対に着いて行くと言う怒気まで混じっている。
この怒りは俺よりも上かもしれない。





