百十三話
「ともかく、今は一刻も早く、この手掛かりの地点を調査せねばな」
「俺も行くべきですよね?」
「当然私達も急行するが……ここは先に国の者達に行って貰っている」
おお……フットワークが早い。悠長に俺達が向かうよりも早く異世界の戦士たちの消息を掴まないといけないとライラ教官を始めとした国の人たちが動いてくれている様だ。
「無駄足になってしまっているな……完全に遊ばれている」
「だけど……敵はペンケミストル国の城を占拠しているんですよね?」
「ああ……各地で敵の派閥所属の者が前線に立って蹂躙の限りを尽くしているとの話だ」
「……先に向かうべきでは?」
「異世界の戦士たちの手掛かりのある地点へ寄るのは大して時間はかからん。トツカ、今は仲間達の事を心配していれば良い」
と、ライラ教官は俺の肩を優しく叩いて励ましてくれた。
「少なくとも安易に力を使わない様にするんだぞ。トーラビッヒとの戦闘で貴様が力を使わなかったのは大いに評価している。異世界の戦士由来の武器を持った者に同様の力を使わずに勝つ手立てがある証明をしたのだ」
「は、はい」
「ラスティ。戦闘データログを解析してこれからの戦いに役立てるようにしておいてくれ」
「わかってるわよ。ったく……この兵器相手に魔獣兵が効果的に戦えたのは私としては大いにメリットのある事よ。改めて礼を言うわ」
ラスティが俺に微笑を浮かべて褒めてから、端末に意識を向ける。
これ以上は話をする必要は無い……か。
「国の者達が情報地点に先に向かって貰う事になっている。私達もこれから向かう。準備は良いな」
「はい!」
と言う訳で魔獣兵の修復をそこそこに俺達は基地から移動する事になった。
異世界の戦士達がいないと判明し、これ以上の探索と討伐が難しい基地も近々放棄する事になるかもしれないとの話となったとか。
一部の兵士達が俺達の移動に同行する事も決まったらしい。
来た道を戻るだけなので道中の道に関して苦労する事は無かった。
人員も多かったからね。
ただ……足取りは早めになり俺も焦っているのを自覚してしまう。
バルトによる俺のバイタルも焦っているとの指摘が出てしまうくらいだ。
道中ラスティはコンテナ内でずーっと武器と俺とバルトのデータとにらめっこをしていてまともに話をする機会が無い。
「ユキカズさん。大丈夫ですか?」
移動中フィリンが魔導兵の通信で声を掛けてくる。
「あ、うん……俺よりもフィリンの方が大変でしょ」
実家が占拠されてしまって世界中にって、フィリンの事情を知る者で敵対的な人たちが居たらこれ幸いとばかりに面倒事に巻き込むのは目に見えている。
最悪人質にされるだろう。
フィリンを人質にした程度で大人しくしてくれる相手であるかが問題なんだけどさ。
「私は……大丈夫です。末席の王族ですし、どうせあのままいたら他国に政治の道具にされていたでしょうから……」
愛国心とか家族への想いとか王族では割りきらねばいけない……って事なのかもしれない。
そう思うと……フィリンは強いな。
ただ、今のフィリンの立ち場は非常に危うい。
にも関わらず俺の方を心配しているのは……フィリンがそれだけ仲間思いなんだろう。
セレナ様が守ってくれているのは想像するのは容易い。
レラリア国の王族は完全に腐ってはいないのがセレナ様とのやり取りで感じさせてくれる。
これで実はセレナ様が俺達を利用していたとかあったら辛い所だけど……。
そんな事態があったとしたら……何があっても俺はフィリンを守らなければいけない。
そう思えるほど、俺はフィリンやブルを大切に思っている。
「心配するより行動した方が良い。俺達が出来る事をして行けばいいんだよね」
「……ですね。迷宮に取り残された時も不安で何もして無かったら生き残れませんでした。私達は進むことでどんな困難だって乗り越えられますよね」
「うん」
「ブー?」
何話してるの? とばかりにブルが声を掛けて来た。
「ああブル、フィリンとちょっと話をしてたんだ。通信だったから輪に入れられずすまなかったな」
「ブ」
大丈夫と、ブルが鳴いて答える。
「色々と大変だけど頑張って行こう」
「はい」
「ブ!」
うん……ちょっと焦りの気持が落ち着いて来た。
俺にはブルもフィリンもみんなもいるんだ。
落ち着いて行こう。
こうしてブルの母さんと出会った街まで俺達は特に問題なく到着し、その足でラスティの用意した飛空挺に乗って次の目的地へと移動をする事になった。
次の目的地、武器の装飾品に刻まれた座標へと俺達は向かった。
「ふむ……どうやらこの座標は表向きは製薬工場だった様だな」
製薬工場……国内で冒険者たちや兵士たちが採取した薬草類が集められ傷薬等を作ったり研究したり、栽培する施設であるらしい。
訓練校にも似たような部屋と設備があったがそれを大きくした様な建物ってことね。
なんとなく教会っぽい趣もある様だ。
道中の補給地点に飛空挺は着地し、物資の補給を行う。
そこで……。
「おーい。みんなー」
飛野とライラ教官の騎士仲間が補給所で手を挙げて出迎えてくれていた。
着陸した飛空挺に飛野達が乗り込んできたので俺も魔獣兵から降りて出迎える。
「飛野! そっちの様子はどうだ?」
「俺の方は特にコレって事には巻き込まれて無い。むしろ俺じゃ無くて兎束、お前の方が大変だったんだろ。話は聞いたぞ」
飛野が駆けよって来た。
そうか、飛野の方は特に大きな騒動に巻き込まれずにいたのか、それは良かったと見るべきだろう。
俺の方を突いたので国の警護も厳重になったってのもあるのだろう。
「なんで飛野がここに?」
「そりゃあこんな騒ぎになったら兎束、お前に会いに行くだろ」
まあ、そうだよな。敵の策謀には対処するために出来る限り安全そうな場所にいて貰うのが良いとは思うけど、飛野も敵にとって注目する相手なんだ。
「ナンバースキルを使った時に上がる浸蝕率の件で騒動になっただろ?」
「……ああ」
「話は聞いたよ。藤平の奴が……浸蝕しきったんだったな」
飛野の台詞に俺は頷く。
「俺の目の前で藤平は異形の姿に変質した……自我の無い獣と化したよ」
今でも思い出す。
藤平が異形の姿に変質するあの様を……震える藤平に言いたい放題言った事は無視するとしてもアレはおぞましい事態だ。
「……本当なんだな」
「嘘だと思うなら……後で藤平を見ると良い」
無言で頷くと飛野がゴクリと唾を飲み込む。
俺や飛野の体の中にある爆弾の恐ろしさがヒシヒシと伝わってくる。
「飛野、お前の浸蝕率はどの程度の物なんだ?」
「俺か? 良く無いんじゃないかって思ってほとんど使わずにいたから13%って所だ」
うお……俺よりもはるかに少ない数字だ。
羨ましい限りだなぁ。
『我が選んだのだからな……仕方あるまい』
また声が聞こえた。
おい。それってどういう意味だ?
……返事がこない。
どうも聞こえる時と聞こえない時があって厄介極まりない。
「兎束、お前は……」
「使わなきゃ生き残れなかった時が多くてさ。大分浸蝕してる」
「そうか……」
絶望的な程ではないけれど、これ以上の使用は極力避けねばならない。
それだけは分かる。
「バルトがその浸食を出来る限り抑え込んでくれるらしいからこうしてずっと引っ付いて貰ってる」
「ギャウ!」
もちろん魔獣兵から降りても俺は背中にバルトを背負っている。
「そうか……兎束の事を頼んだぞ」
「ギャウ!」
もちろん! とばかりにバルトは胸を張って答えた。





