-13 見えない意図
己の体を自在に変化させながら放たれた「当たり」というユラの言葉に、さすがのアルフォンソも表情を引きつらせた。
これまでにない好戦的なユラの態度もさることながら、ユラの体に吸い込まれた黒い霧の正体も気にかかる。
しかし、声を掛けることも許されないような、張りつめた空気がそこにあった。
「たしかにさ、クレハはとんでもないことをしてくれたよ」
誰に言うでもない独り言のような口調だった。
柔らかな顔つきは昔のままなのに、まるで知らない人間のように思えてしまう。
「んー、でも、僕は感謝してるかな。クレハがいなかったら、僕にこういう能力があるって知ることもなかっただろうし」
「そ……そうか」
いつもと変わらない口調のはずなのに、アルフォンソは戸惑いを隠すことができなかった。
「うん。クレハは僕が魔族を倒すことを望んでいたみたいだけどね」
「それはどういうこと?」
食いついたのはマリアンヌだった。
アルフォンソもユラを注視しているが、口を挟むことはしなかった。
「どうって……僕の能力を見出してくれたのもクレハだし、それを伸ばすための訓練に付き合ってくれたのもクレハだ。僕を敵として見ているなら、そんなことするはずないだろ?」
「なるほど。ユラの言うことも一理あるな」
口ではそう言いながらも、アルフォンソは納得がいかない顔をしていた。
「だとしても、よ。相手は王妃よ? どうして自分の国を滅ぼす手助けをするっていうの?」
「そこなんだよ。オレもマリーと同じことが気になってた」
二人に問いただされて、ユラは困ったように肩を竦めた。
「僕だってわからないさ。クレハはあんな調子の人だし……。本心を探る方が無理なんじゃないかと思うよ」
この場にいる誰よりも長くクレハと行動を共にしてきたユラの発言に、二人は反論することができなかった。
「とにかく! この能力があれば多少時間はかかるかもしれないけど僕一人でも魔王の城まで行けるはずだ」
「……そうだな」
アルフォンソの返答に、ユラは虚をつかれたように目を丸くして動きを止めた。
アルフォンソなら止めてくれるか、一緒に来てくれるかのどちらかだと思っていたからだ。
それがこんな風に受け入れられてしまうと、突き放されたような気持になる。
けれど、それはユラ自身が望んでいたこと。
そのはずなのに、アルフォンソの態度が恨めしく思えた。
勝手に姿を消した自分が悪いのか、連れ去ったクレハが悪いのか。はたまたアルフォンソが薄情な奴だったと見るべきか。
ユラの中でさまざまな考えが浮かんではぐるぐると回る。
ところが、アルフォンソの言葉はそれだけで終わりではなかった。
「ユラがここにクレハを連れてきたから、イーラが攫われた。その責任を取ろうとする気持ちはわかるし、責任を取れるだけの能力があることも認める。
でも、ユラをここに呼んだのはオレだ」
「だから一緒に行くってことか?」
「そうだ。仲間のミスは連帯責任。マリーも一緒に来なければいけない」
わかるな? と視線を向けられて、マリアンヌは力強く頷いた。
「でも、これを見ただろ? 嫌じゃないのか? こんな……――」
頭の角を気にかける様子を見せたユラを、アルフォンソは軽く笑い飛ばした。
「ユラはユラだろ? それだけやる気を出してくれたっていうなら、心強いさ」
「……そうね。でも、アンタが魔族側に寝返ったら容赦なく殺すから。それだけは覚悟しておきなさい」
ユラを目の敵にしているとばかり思っていたマリアンヌも、冗談交じりで答えてくれている。
拒絶されて当然と思っていたユラは二人の言葉に安堵を感じた。
「二人とも、ありがとう。次は逃げずにちゃんと戦うよ」
「なに当然のこと言ってんのよ!」
マリアンヌの手のひらがユラの背中を打った。
叩かれたところがじわりと熱くなっていく感覚すら懐かしい。
「ただ、今は一旦宿に戻ろう。イーラを探しに行くにしても宿の荷物を引き払ったりしなきゃいけない。
それに、オレの職場やマリーの訓練所にも連絡を入れないとな」
連絡は手紙で済むとして……、とアルフォンソは思案する。
「僕も酒場に謝りに行かないと……」
クレハがいなくなったということは、夜の公演もできないということになる。
それならば謝りに行くのが筋だろう。
ユラとアルフォンソが頷きあっていると、マリアンヌが不服そうに口を挟んだ。
「そんなことしてて、イーラの身に何かあったらどうするの?」
「うぅん……、そんなこと言ってもさ、オレたちは道もわからないわけじゃないか。むやみに森に踏み込んで、いらない戦いをして疲弊するくらいならカンペリエに戻った方が賢いと思うんだ」
アルフォンソの説得に、マリアンヌは渋々頷いた。
これにてEpisode3完結となります。
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