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望まれぬ英雄 ~虫も殺せない僕が魔王になった理由(わけ)~  作者: 牧田紗矢乃
〈Episode3〉

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30/53

-9 メリーとマリー(挿絵あり)

「……っ、こんなの聞いてないぞ!」


 とっさに身をかわしながら、アルフォンソはイーラの背を押した。

 イーラは蹴躓いて地面に倒れ込んだが、おかげで炎からは逃れることができたようだ。

 急いで剣を抜いて、急襲してきた相手の攻撃に備えた。


 ここが魔族に支配された村だということは聞いていた。

 だからこそ、ここを試験前の練習の舞台に選んだというのに。


 それなのに、ここにいる敵は一体どうだろう? 魔族ではなく人間ではないか。

 しかも、自分たちのことを魔族と勘違いして襲い掛かってきている。


 状況が飲み込めない今、アルフォンソが求めるのは対話だった。

 先客がいる可能性など微塵も考えていなかったので、理解も追いつかなければ対応策も浮かばない。


「ま……、待ってくれ。オレたちは人間だ」


 ――とにかく、何があってもマリーとイーラは護らなきゃいけないな。


 アルフォンソは一息ついて混乱した思考をクールダウンさせる。

 敵意を剥き出しにする赤髪の少年をどうにか宥めようと、アルフォンソは剣を鞘に納めた。


 こちらには戦う意思がないと態度で示すが、少年の目つきは相変わらず鋭いままだ。

 マリアンヌも少年に対して警戒を続けながら間合いを取っている。


「マーシーっ!」


 後方にいた女が怒鳴ったかと思うと、アルフォンソに銃口を向けて少年が持つものとよく似た武器の引き金を引いた。


 ――しまった。


 少年に気を取られて他の人物への注意が散漫になっていた。

 後悔に苛まれながら、鞘に入ったままの剣を体の前に構える。


 お粗末な盾でも、ないよりは多少マシだろう。

 諦めにも近い感情で立ち尽くすアルフォンソの顔に、細かな水の飛沫が降り注いだ。


「……いっっってェ!」


 バチバチと激しい音を立てる水が襲っているのは、あろうことか仲間の赤髪の少年だった。

 後頭部を押さえて恨めし気に女の方向を振り向く。


「メリー! 何しやがる!」


 そのまま彼の標的は女の方へ変わり、勢いよく飛び掛かろうとした。

 その時。

 それまで状況を静観していた青年が懐から笛を取り出した。


「ピイイィィィィィィ……――」


 突然のことに驚いたイーラが耳を押さえてうずくまる。

 少年も動きを止めた。


 ようやく落ち着いたのだろうか。


「そこまでだ」

「ごめんなさいね。……貴方たちは旅行者? それとも何か用があって来たのかしら?」


 赤髪の少年を羽交い締めにした女が、アルフォンソたちの出で立ちを眺めながら問いかけた。


「オレたちはレーベルクにある魔族討伐部隊の訓練校から来ました。もうすぐ最終試験があるので、その前にここで実戦を経験しておきたいと思って……。

 あなた方はどうしてここに?」

「……あら! それは申し訳ないことをしたわ」


 赤髪の少年を解放した女――アルメリアは自分たちが魔族に占領された土地を取り戻し、清掃して本来の姿に戻すことを生業なりわいとしていることを語った。

 この旧タルブ村も依頼があってその対象となったのだという。


「そういう危険な仕事をなさっていたら、オレたちを魔族と間違えても仕方ないですよね」


 半ば自虐するようにアルフォンソが零す。

 すると、アルメリアは困ったように眉を寄せた。


「うぅん……、そこが引っかかるのよね……」

「どういうことです?」

「俺様は魔族の気配がわかんだよ。ぜってー魔族がいるはずなのに……クソッ」


 アルフォンソの問いかけに答えたのはマーシーだった。

 足元の小石を蹴り上げ、舌打ちしながら周囲を見遣る。

 当然のことながらそこに魔族の姿はなく、後方でそれを眺めていたリックが首を横に振った。


「まずは非礼を詫びるべきだろう?」


 リックに非を責められ、マーシーは一層不機嫌な顔になる。


「おいリック! テメェ年上に向かって横柄な口きくんじゃねぇ!」

「メリーさんだってマーシーより年下だぞ」


 淡々と告げたリックに、アルフォンソたちは驚きで目を丸くした。

 出会ったばかりだが、その体格と行動からマーシーの方が年下だとばかり思っていたのだ。

 その反応にますます不機嫌になったマーシーはアルフォンソたちに向けて威嚇のポーズを取っている。


「ぜッッッてー許さねえ!」


 その場に居合わせた全ての人間に向けて毒をまき散らす。

 彼の普段の行動を考えれば、武器を構えて襲い掛かることも想像に難くない。

 けれど、今はアルメリアによって再び取り押さえられたため最悪の状況だけは防がれていた。


「わかったから。ねえマーシー、落ち着いて?」


 自分を羽交い締めにしている相手から言われたのでは逆らいようもない。

 不服そうな表情を浮かべていたマーシーは静かに振り上げていた拳を降ろした。

 それを見てアルメリアもマーシーを拘束していた手を緩める。


「ったく、メリーは関節極めやがるから卑怯だ」

「失礼しちゃうわ。非力な乙女が身を守るには必要不可欠なスキルよ」

「すごい! 私、接近戦なんて危険なだけだと思ってました。こんな風に男の人を抑え込めるなんて……!」


 柔らかく微笑むアルメリアに、マリアンヌは感銘を受けたようだった。

 目をキラキラと輝かせアルメリアに弟子入りしそうな勢いの仲間をイーラが後ろからつついた。


「マリー……。落ち着こ?」

「メリーにマリーか。おっかねぇ女だと思ったら名前まで似てんのか」


 マーシーの言葉に女性二人から鋭い視線が突き刺さる。

 普段なら仲裁に入るリックも、この時ばかりは呆れ顔で肩をすくめていた。


「いきなりの襲撃、失礼した。馬鹿の代わりに謝罪させていただく」

「いやいや、こちらこそ。人がいるなんて思わないから、剣を抜いて刺激してしまったようで」

「自分はリック。ちっこいのがマーシーで、こっちがアルメリア」

「ああ……、オレはアルフォンソだ。そしてマリアンヌとイーラ。よろしく」


 落ち着いた口調で挨拶を交わす二人を前にして、他の面々も姿勢を正して会釈した。

 ただ一人、マーシーを除いて。


「リック! テメェ俺様のことチビ呼ばわりしたな!?」


 思いきり食ってかかるマーシーを軽くあしらい、会話の焦点は試験へと移った。


「試験の前にって言ったけど、ここは私たちが綺麗にしちゃったのよね。どうしたらいいのかしら?」

「ううん……まあ、違うところを探しますよ」

「そうよねぇ。この近くでいい所ってあったかしら?」


 六人が連れ立って移動しようとしたその時だった。

 上空を巨大な影が横切る。

 それと同時に、マーシーが鋭く空を睨んだ。


「良かったな、お出ましだ」


 魔族だ。

 それぞれが武器を構え、リックは魔族除けの笛を口元へあてがった。


 緊迫した空気の中、腰ほどの高さに茂った草を掻き分けて中折れ帽を被った一人の男が姿を現す。

 その姿を認めたアルフォンソは、脱力したように声を漏らした。


「……ユラ?」





挿絵(By みてみん)

桧野陽一さま(https://10819.mitemin.net/)より挿絵をいただきました。

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