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望まれぬ英雄 ~虫も殺せない僕が魔王になった理由(わけ)~  作者: 牧田紗矢乃
〈Episode3〉

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29/53

-8 敵か味方か

 軽い仮眠から目を覚ましたアルフォンソが宿の一階にある食堂へ向かった時には、もうすでに別室の三人組は出かけた後だった。

 連日早朝から出歩いているという三人は一体どういう人物なのだろうか。

 宿の主に聞いても、男の人が二人と女の人が一人です、という他は教えてもらえなかった。


「お客様の情報については守秘義務がありますから」


 うんざりとした様子で突っぱねられ、さすがのアルフォンソも引き下がるしかなかった。

 手掛かりさえ掴めないために興味ばかりが膨れ上がる。


 他者のことを気にする余裕があるアルフォンソと引き替え、マリアンヌとイーラは目に見えて緊張していた。

 表情も強張って引きつっている。


 いつもなら二人で何かしらの会話を続けていて食事の方が疎かになるくらいなのに、今は食器が触れ合う鋭い音だけが食卓に響いていた。

 触れれば切れてしまいそうな張りつめた空気の中で摂る朝食は、どれだけ噛んでも味が感じられなかった。


「大丈夫だ。二人のことはオレが守る」


 無責任な言葉とはわかりながら、どうにか場の空気を和らげようと笑顔を作る。

 その笑みも、二人の緊張感につられて意図せず引きつってしまった。


「そ、そうよね。きっと大丈夫よ、私たちなら」

「うん……。魔族を倒すことだけが、合格条件じゃないし……」


 二人もぽつぽつと重い口を開く。

 けれど、その後に続いたのは深いため息だった。


 自分たちしか客がいないせいか、宿屋には主人夫妻と思われる二人しかいない。

 おかげで皆のため息は静寂な宿に染みこむように、ゆっくりと空気に溶けていった。




 息の詰まるような空間で朝食を終えた三人は、すぐさま支度に取り掛かった。

 目的地はカンペリエから歩いて一時間ほどの所にある廃村だ。

 フェンスの向こう側にも魔族はいるのだろうが、町の中で戦闘をするよりも少し離れた所でする方が実際の試験に近く迷惑もかけないだろうと考えてのことだった。


 こういう時は考える隙も与えず行動を起こしていった方が良い。

 考えれば迷いが生まれ、迷いは判断を鈍らせる。

 その悪循環に陥れば最悪の事態すら招きかねない。

 これまでの経験から、そのことをアルフォンソはよく理解していた。


 この道中、いかに二人の思考が悪い方へ向かないようにサポートできるかが明暗をわけるだろうとアルフォンソは感じていた。


 とはいえ、マリアンヌは天性の戦士気質だ。

 直前まで迷いがあったとしても、いざ剣を握って魔族と対峙すれば普段通りの活躍を見せてくれるかもしれない。

 闘いの女神が微笑んで、ユラが戦地に現れる希望だって捨てたわけではなかった。


 マリアンヌとイーラも、支度を整える間に少し緊張が解けたようだ。

 まだぎこちなさはあるものの、随分と表情が柔らかくなっている。

 ぽつぽつと会話をする余裕も生まれてきたようだ。


「悔いの残らないように、頑張ろうな」

「ええ。せっかくアルが来てくれたんだもの」


 マリアンヌの目が変わった。いつもの勝気な彼女に戻っている。

 必ずうまくいく。

 自分に言い聞かせ、アルフォンソたちは宿を発った。




 大きく息を吸い込むと、濃厚な森の匂いが肺を満たした。

 作業を始めて今日で三日目ということもあり、村は徐々にかつての姿を取り戻してきている。


 このまま魔族が戻ってこなければ、村にいる様々な職人たちを呼んで作業ができるようになるだろう。

 そうすれば村の修復も一気に進むはずだ。

 そこまで辿り着ければ自分たちもお役御免で、また別の村の奪還に当たることができる。


 ――地道な作業で土地を取り戻しても、魔族に奪われる速度には敵わない。

 無駄な努力だ。


 かつて浴びせられた言葉の棘は今でもアルメリアの心の奥深くに突き刺さって、じくじくと痛む。

 それでも、アルメリアは額に浮いた汗を拭った。


「ピイイィィィィィィ……――」


 不意に鳴り響いた笛の音に飛び上ったのは、赤髪のマーシーだった。

 パッと後ろを振り向いて、笛を吹き鳴らした犯人を鋭く睨み付ける。

 獣のように鋭い眼光にも臆さず、リックはそそくさと作業の続きに取り掛かっていた。


「ばかリック! 笛を吹く時くらい合図しやがれ!」

「……ふん」


 ギャアギャアと喚きたてるマーシーを軽くあしらい、苔むして墓碑のような悲哀ささえ湛えていた村名を示す看板を地面から引き抜いた。

 代わりに今朝出来上がったばかりの真新しい看板を立て直す。


『タルブ』


 ようやく読み取ることができるようになった村名は、村の新しい出発を象徴していた。

 魔族が嫌う香草を煮だして作った薬剤を撒いて、後はしばらく様子を見る。

 それで問題がなければ引き渡しの時だ。


 三人で顔を見合わせて、ようやく笑みが零れた。

 そこへ、ガサガサと草木が揺れる音が響いてきた。


「なんで? 魔族はリックの笛で寄り付けないはずなのに……!」


 パニックになりかけながらも、アルメリアはすぐさま復旧したばかりの井戸にホースを落とし込み、いつでも放水器が使えるよう準備を整える。

 マーシーも待ってましたとばかりに火炎放射器を構え、軽く引き金を引いて炎の威力を確認した。


 草むらを掻き分けて現れた影は三つ。

 一つはリックと同じくらいの長身の男。

 残り二つはマーシーとさほど身長の変わらない小柄な女性の姿をしていた。


「へぇ……。人間の姿ってのは珍しい。けどよォ、俺様はそんなんじゃ怯まねェぜ!」


 言うが早いか、マーシーは最大火力で周囲を焼き払いながら三つの人間の姿をしたものに飛び掛かっていく。


「馬鹿っ!」


 アルメリアが悲鳴のような声を上げた。

 敵対する三人はそれぞれの方向へ別れ、うち二人が剣を構えている。


 いくらマーシーの武器が遠距離攻撃に適しているといっても、三人を相手にするとなると厳しい。

 水を引きながらでしか戦えないアルメリアは井戸から離れられないし、リックはそもそも戦闘自体が苦手だ。

 それなのに一人で突っ走るなんて。


 今まで出会ったことのないリックの笛が効かない相手に、アルメリアは歯を食いしばって状況を見守るしかなかった。

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