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望まれぬ英雄 ~虫も殺せない僕が魔王になった理由(わけ)~  作者: 牧田紗矢乃
〈Episode3〉

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24/53

-3 それは欠けていた記憶

 気が付くとユラの体は小さく縮んでいた。

 いつの間にか周囲も暗くなっている。

 何が起こったのかと辺りを見回すと、目を覆いたくなる光景が飛び込んできた。


 カマキリのような魔物が巨大な鎌を母の体に突き立てている。

 恐怖と絶望に顔を歪ませるユラの前で、魔物は彼女の体を引き裂き、その肉を咀嚼した。


 次の瞬間。

 ユラは足元にあったこぶし大の石を手に取り、それを魔物に投げつけた。


 魔物はユラの方を横目で見ると、鬱陶しそうに鎌を大きく横へ振った。

 軽く横跳びして魔物の攻撃をかわすと、次の石を手に取った。

 考えるよりも先に身体が動く。


 前の土砂崩れの影響か、周りには同じくらいの大きさの石がゴロゴロ転がっていた。

 それを幸いとばかりにユラは続けざまに石を投げた。


「かあさんをっ……はなせっ!」


 渾身の力を振り絞って投げつけた石が、固そうだった外殻にヒビを入れた。

 魔物はギチギチと音を立てながら不機嫌そうにユラを見据えた。


「いけるっ……!」


 確信したユラはさらに一回り大きな石を投げると、落ちていた大ぶりの枝を剣のように構えて突進した。

 母の体をすべて飲み込んだ魔物はついにユラへ攻撃する態勢を取った。


 魔物の身体に当たった枯れ枝はあっけなく折れ、敵の間合いの中に丸腰のユラが取り残される形になる。

 そこへ何度も鋭い鎌が振り下ろされた。


 本能に任せて敵の攻撃をかわそうとするが、今度はそうもいかない。

 鎌に切り裂かれた頬から血が飛ぶ。手足にも鋭い痛みが走った。

 それでも、ユラの目から闘志が消えることはなかった。


 ユラは石を握りしめ、がむしゃらに魔物を打ち付ける。

 その間も魔物の鎌がユラの体に突き立てられ、幾筋もの傷をつけた。




 獣のような声を上げ、ひたすらに攻撃を続けるユラ。

 一歩も退かない魔物。

 しばらく続いた膠着状態は、ある瞬間をもって崩れ去った。


 魔物の鎧のような体が、ついに砕けたのだ。

 そこからはあっという間だった。


 ユラが一撃を加えるたびに外殻が剥がれ落ち、柔らかい肉があらわになる。

 これにはさすがの魔物も動揺したようだった。

 腹部から伸びる肢をばたつかせ、ユラを追い払おうともがく。


 なおもユラは攻撃の手を緩めず、石を捨て、今度は素手で魔物の外殻を割り始めた。

 そして、ある程度の大きさの穴が空くと、ユラはそこに手を差し込んだ。


 ぐちゅりと水気の多い音がする。

 生暖かい感触が指先に伝わった。


 魔物は怯えた声をあげ、ユラの背中に深く鎌を突き立てる。

 ユラはわずかに顔を歪め、憎々しげに魔物の臓物を殴りつけた。


 内臓をまさぐっていた指が、どくりどくりと拍動する臓器に触れる。


「……あった」


 命の根幹とも言えるその臓器を、ユラは迷うことなく引きずり出した。

 太い血管が音を立てて千切れた。

 鮮血が飛び散り、返り血がユラの顔を汚す。


 魔物は低く呻いた後、バタリと倒れこんで動かなくなった。


 緊張の糸が切れると、急激に感覚が戻ってきた。

 猛烈な痛みに呼吸さえままならない。


 肩で息をしていたユラの目の前で、黒いもやが立ちのぼる。

 靄は風に揺らめくと、ユラの方へすうっと流れてきた。


 その靄がユラに触れた瞬間。

 ユラの体に吸い込まれるように消えていった。

 慌てふためくユラを激しい動悸が襲う。

 助けも来ない山の中、ユラは死を覚悟し意識を閉じた。


「ここにいたのね、愛しい子……――」




 ――そうか、これが初めてじゃなかったんだ。


 謎の安堵感に包まれて、ユラは少しずつ体の感覚が戻ってくるのを確かめた。

 ユラが目を開くと、そこにはクレハがいた。


 思考はハッキリしているし、体も普通に動く。

 どうにかなってしまうのだろうと覚悟していただけに拍子抜けしてしまった。


「良かったわ、目を覚ましたのね」


 心底ほっとしたようにクレハが微笑み、目元を拭う。

 その時、嫌な予感が頭をよぎった。

 クレハの視線を気にかける余裕もなく、己の頭に手を伸ばす。


 ユラの頭の瘤は、一回り大きくなっていた。

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