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15歳でキリスト教に強制改宗ってまじすか???

 父さんが返らぬ人となった。



 職場で働いていたところ急に意識を失いその場で倒れた。死因は不整脈による心臓突然死。すぐに呼ばれた救急車で運ばれたが、病院で適切な治療を施せないまま車内で息絶えたという。


 午後8時、電話で大好きだった父さんの他界を告げられた僕は、大事な人を亡くした悲しみ、もっとああしとけばよかったという後悔、想像以上に脆く儚い命の重みに胸が圧縮され、それが一粒の涙となって目から零れ落ちた。


 「ごめんね諒君。いきなりこんな事を言って...話を続けて大丈夫かい?」


 「っ.....はい。大丈夫です。」


 電話越しに聞こえる父さんの同僚の佐藤さんに問いかけられた僕は、様々な思いををぐっと堪えて対応を続けた。4月から高校生になる身だ。ここで子供みたいにわんわん泣き喚くわけにはいかない。二言ほど同僚の人と軽く会話をした後、電話の話し声に気づいた母さんがキッチンからこちらにやってきた。



 「ちょっと、諒。友達じゃないなら早く切ってよね。お父さんがそろそろ帰ってくるでしょ?夕飯の支度でも手伝いなさい。」


 電話の切断をせかされた。普段、友達と電話している時より明らかに活力が無い僕に疑問を感じた様だった。この様子だとまだ父親の訃報は耳に入っていないようだ。少々突き放すように分かってると言った後、佐藤さんに一つお願いをした。


 「すみません、佐藤さん。母に電話を代わって貰っていいですか?多分まだ知らないっぽくて。」


 「あ、ああ。そうだな。自分も動揺して気が回らなかった....すまなかったね。ありがとう。じゃあお願いするよ。」


 僕は耳から子機を離して、母さんに差し出す。


 「今、父さんの職場の人と話してたんだ。家の人に話があるから代わってほしいって言われて。じゃあ僕、二階に行ってくるから。」


 返答の隙を与えないほど早口でそう伝え、駆け足で自室へ向かった。一見すると平常心を保っているようにも思える僕の行動と口調だが、内心、日常の崩壊を体で感じてその場で泣き崩れそうだ。


 やっとの思いで自室についたが僕の精神は安定する事を知らず、心拍数もどんどん強まっている気がする。突然の出来事の連続でパンク寸前の頭を整理するために、僕はベットに潜り布団を頭までかぶる。


 あの時、焦って電話を代わってしまったが大丈夫だろうか...。少しぐらい内容を話してもよかったんじゃないのかと頭を抱える。


 父さんが...身内が死んだってことは、通夜や葬儀にも参加しないといけなくなるわけで。細々とした手続きは母さんがやるだろうけど、僕も他人事ではいられない。明日からは非日常が続くのだから。






 「諒...」




 あーだこーだと考え事をしていると、扉越しにか細く僕を呼ぶ声がした。急いで布団をはぎ扉を開けると、が目から涙を流し僕の前に立っていた。


 「母...さん。」


 「っ...ごめんね。まさかあの人が突然死で死ぬなんて思わなくて...。諒もいきなり訃報を聞いてつらかったんじゃないかって...。」


 その場で崩れ落ち手で顔を覆いすすり泣く母さん、ものすごく広く感じる自宅、2人いるのに強く感じる孤独感。それら全てを重ね合わせて、改めて父さんが死んだ事を実感する。


 その瞬間、無意識に溜めていた涙が一気に溢れ止まらなくなった。その絶望の結晶は目から頬へ、頬から顎へと集まり床にポタポタと落ちていく。


 「う゛っ...だいじょ...うぶ.....ウグッ...だいじょうぶ......。でも、この先どうしよう....。この後の生活も、進路も影響しそうで....」


 「それなら大丈夫。お母さんにまかせて。貯金も少しはあるし、仕事を見つけて働いてお金も稼ぐ。諒は今まで通りの生活を続けて。進路の心配もいらないわ。」


 母さんのこんな真面目な表情を、こんな間近で見たことが今まであっただろうか。こんな大きな事件が無かったらそれを知らないまま一生を終えていただろう。


 「あっ...ぅありがとう...。」


 精一杯の感謝の思いを伝えるが、空気が喉に痞えて上手く言葉に出来ない。そんな不器用な僕を母さんは何も言わず温かい目で見守ってくれた。心地よいぬるま湯に浸かっている感覚が僕を包み込む。



 どのくらい時間が経っただろうか。母さんが思い出したかのように僕に話しかける。

 「そうだ。お葬式が終わったら一緒に来て欲しい所があるの。心が洗われて神聖な場所よ。きっと諒も気に入るはず。」


 【心が洗われる】【神聖】... 日常生活ではまず聞かない言葉に違和感を覚えたが、それと同時に興味が沸いた。他の人には不謹慎だと思われそうだが、心の安定のために1つや2つの楽しみは持っておくべきだろう。


 「うん、ありがとう。折角の母さんからの誘いだし、僕もそこに行ったみたいな。」


 「決まりね。...じゃあ晩御飯にしましょうか。栄養をつけて明日からの通夜に備えましょう。」


 母さんが差し出した白く華奢で力強い手を握り、ゆっくりと階段を下りる。目の前の母さんの後ろ姿は、今までのどんな場面よりも美しくて頼もしい。大丈夫だ。僕は一人じゃない。











 それにしても母さんは凄いや。あんな状況下でも心の切り替えが早い。さっきまで号泣していたのに、今では泣いてもなければ目も赤く腫れてない(・・・・・・・・・)。僕も見習わなければ、ね。








 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「つっかれたぁぁぁぁ~~~~~~...」


 父さんが死んでから三日目。葬儀が執り行われた。家族や親戚は勿論、職場の関係者の人・友人とその家族も出席していたため葬儀場はかなりの人数で埋め尽くされることとなった。


 葬儀は無事に終わり、今は遺骨が入った骨壺を抱え玄関で大の字になって倒れている所だ。今からでも布団に入って爆睡したい。1日25時間ぐらい寝たい。


 「諒ーー!ちょっと準備があるから骨壺そこに置いて先に車に乗ってて!」


 リビングから母さんの声が聞こえる。そうだ、今日は3日前に約束していたなんか、神聖な場所に行く日だ。骨壺を玄関の隅に置き、車の鍵を手にして僕は再び外に出た。中学の制服の真っ黒な学ランが太陽の光を受けジリジリと熱を籠らせる。


 後部座席に乗ってから十数分後、母さんも運転席に乗り車を走らせる。








 それから30分後。駅前の大通りを過ぎ、人気の少ない裏通りを通った先にある建物についた。車から降り、よく観察してみる


 真ん中に縦に長い長方形、その両隣には円形の建築物がそびえ立っており各建築物の屋根の上には十字架がぶっ刺さっている。正面から見ると狭そうに思えるが、奥にはまだ壁が続いている。結構大きい建物のようだ。


 一見、ちょっとしたお城にも見えなくもないが、間違いない、これは


 「...教会?」


 「そう。ここは駅の外れにある馴座(なれざ)教会。さぁ、中へ。」


 僕の家ってキリスト教じゃないよな? そんな疑問をかき消すかのように、母さんは半ば強引に僕手を引き教会の門をくぐる。




 薄暗い教会の中に長椅子のぞろぞろと列をなしている。正面には外で見たものより何倍も大きい十字架が、半裸の男性(あれが世界史で習ったイエス・キリスト?)と共に壁に掛けられている。


 左右の壁にはステンドグラスが貼られており、それが教会内の雰囲気と合わさり幻想的な空間となっている。


 「綺麗...。」


 「気に入ってくれたようでよかった。あ、一番前の長机辺りは祭壇だから近寄らないでね。」


 母さんの言う通り、僕はこの教会の虜になっていた。【神聖】という言葉にピッタリな場所だ、と心から感じる。...でも1つの謎が心にひっかかり疑問覚える。


 「うん。とってもいい場所だ。でもどうしてこんな所を知ってたの?」


 僕の家は一般的な無宗教だ。何かきっかけがない限りこんな裏通りの場所を知ってるわけがない。


 するとさっきまで穏やかに長椅子に座っていた母さんが笑いを込み上げらせてついには腹を抱えて笑いだした。


 「あっはははははは!!!!!まっ、まさか諒がそんなおかしなことを言うなんてふふっ...あーあ面白かったぁ...。そんなの私が馴座教会の信者だからに決まってるじゃない。」


 「あはは~~ごめんごめんそうだったよ~うっかりしてtえええええええええええ!!!!!??????」


 あまりの衝撃につい大声をあげてしまった。高い天井が僕の声を反射して響き渡る。」


 「私が20歳の頃に洗礼を受けてね。結婚して妊娠した時、諒も信者にしたかったけどあの人がそういうの嫌がってね。いくら説得しても駄目だったから、あの人が死ぬのをずっと待ってたのよ。葬式を終えたら絶対諒を信者にするんだって心に決めてたわ。まさかこんなに早く夢が叶うなんてね。この日をずっとずっと待ってた。」


 母さんの瞳は無垢な少女の様に輝き、上機嫌な声で衝撃的な事実を語る。もしかしてあの時の泣いた後とは思えない目の腫れてなさも、実は泣いてなかったってこと...?僕は今までの全てを裏切られた感覚に陥り困惑し心が苦しくなる。





 「奥の部屋で神父様が洗礼の準備をしてくださってるわ。諒、早く来なさい。今日は新しい神の子羊が生まれる素晴らしい日よ。」


 ロングワンピース型の喪服に身を包む母さんは3日前の夜のように手を差し伸べる。でもあの時の美しさも頼もしさも感じない。




































 あれは僕を非日常に連れ込む悪魔(サタン)だ。

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