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世界に一つの魔宝石を ~ハンドメイド作家の異世界工房~

 キラキラしてて、つるつるしてて、宝石ってすごく綺麗。

 でもさ、高いじゃん。

 たかが女子高生のお小遣いで買えるような物でもないじゃん。


 お高い宝石なんて買えないから、ちまちまと稼いだお小遣いで硝子細工を買い漁ってた。お前はカラスか!って親に言われるくらい光り物が大好きなのはご愛敬。

 でもね、硝子細工だけでは私は不満だった。

 だって、硝子だとすぐ割れちゃう。

 どんなに大切にしたって、どんなに気を付けたって、お気に入りの物はほんのちょっとの不注意で失ってしまう。一万円もした江戸切子グラスを割った時はマジ泣きしたし、割りやがった父親とは一ヶ月口を利いてあげなかったよね。


 江戸切子に限らず、せっかく高いお金を払って買った物が、私のうっかりで無くなってしまうのはあっという間。それってすごく悲しい。

 だからね、原点回帰してやっぱり宝石が一番と思うわけです。

 宝石だって絶対に壊れない、傷がつかないなんて言えないけど、手元に来たら真綿でくるむように優しく扱って、宝石箱で大切に、大切に、愛でますとも、ええ。


 だけどね、ここでやっぱり出てくる問題がある。


 宝石は高い。

 それはもうべらぼうに高い。


 子供騙しのようにパワーストーンのお店に連れて行かれた事もある。でもなんだか物足りないのよね。

 私が夢中になるのはあの透き通るような輝きなの。パワーストーンなんて目じゃない。


 だからやっぱりいつか宝石を買ってやるぞと思った私ですが、家庭科部の友人に連れられて手芸店に行った時、運命に出会いました。


 それは最近流行りの「レジンアクセサリー」!


 合成樹脂液(レジン液)という透明な液体の中に、ラメとか花とか色々いれて、紫外線で固めて作るアクセサリーの事。

 店頭のサンプルが気になって調べてみれば、出てくる出てくる、綺麗な宝石たち!

 いや、正確には宝石じゃないんだけど。


 キラキラしてて、つるつるしてて、硝子のようにすぐ割れない。

 しかも形は自由に変えられるし、琥珀みたいに封入物だって入れられる。


 世界で一つだけの、私だけの宝石。

 自分の手で、自分好みの宝石を作れる喜びに、私がはまらないはずがない!


 高校の間、必要な道具や材料を集めてはせっせとレジンを作った。最初は上手に作れなかったけれど、試作に試作を重ねた私はレジンの技術をめきめきと上げていった。

 そして高校卒業後、大学に進学した私はレジンという天啓を与えてくれた友人の誘いによって、ハンドメイド作家の祭典であるデザインフェスタに参加した。

 アマチュアの私が作家と名乗るのは烏滸がましいとは思うけど、友人のお墨付きもあって、私は幾つかのレジンアクセサリーを持って行って出店したの。


 その結果。


「美しいですね。全ていただけませんか?」


 青薔薇モチーフのペンダントを手にとって、すっごい美人な欧米系のお兄さんが私の作品を買い占めようとした。

 でも悲しいかな。そのお兄さん、日本円の手持ちがなかった。

 それでも物欲しそうに私の作品を手に取り続けるお兄さん。日本語が堪能で、あれこれ話している内に今日中の両替が難しいからと言われ、連絡先をねだられた。

 私はあらかじめ友人に用意しておくように言われた名刺を渡して、その場は事なきを得たわけです。ええ、その場は。


 お兄さん、本当に連絡してきた。

 しかも材料持ち込みで作品一個毎に手間賃一万円払うから、私にオーダーメイドして欲しいとも言われた。


 材料持ち込みで一万円ですよ!?

 人件費が安いとは言うまい。ほぼ日給一万だよ?大学生の小遣い稼ぎには十分するほど十分だもん……!


 私はお金欲しさにお兄さんに軽く請け負ったわけです。

 ほんとーに、かるーい気持ちで。


 銀に近いアッシュブロンドに蜂蜜のような琥珀の瞳をした美人系お兄さんことコンドラチイ・フォミナさん。そのラチイさんが、アマチュア作家である私に仕事の発注をしてくれる営業担当者さんになった。


 彼が持ってくる材料はとても上質。

 どこの手芸屋さんで入手しているのかすごく気になる材料ばかり。


 例えばレジン液。

 ラチイさんが持ってくるレジン液は大体着色済みなんだけど、色粉を混ぜた時のようなダマもないし、何ていったって透明度が高い。綺麗に着色がされていて、仕上がり後の輝きが市販のレジン液の比じゃないのよね。


 レジン液だけじゃない。

 私が好んで使う封入物の貝殻の破片(シェルフレーク)は、混ざり気がなくて絹みたいな光沢がある。螺鈿らしいあの不思議な色合いが各色取り揃えられているだけではなくて、貝殻とは思えないメタリックカラーまであるの。お気に入りはメタリックレッドのシェルです。


 ラメパウダーだってそれなりの種類を揃えてくれている。使い勝手のいい銀ラメが無いことが不満だけれど、ラチイさん曰く入手が困難らしい。え?私100均で買ってきましょうか?って申し出ようとしたけど、もしかしたら材料に拘っている高級志向なのかもと言葉を飲み込んだのは記憶に新しい。


 ラチイさんは私に注文をする時、作品のイメージだけ指示する。「炎の護り」とか「雨の恵み」とか「優しい微風」とか。それを受けて私は自由にデザインを考えて、作品を作るの。

 そんな感じだから、材料費を気にしないで気の向くままにアクセサリーを作れるこのアルバイトを私は気に入っていた。

 自分の手元にアクセサリーは残らないけれど、宝石になる前の原石を一から自分で磨いていると思えば顔がにやけるくらいには楽しい。

 何度もやり取りをして、ラチイさんが誠実な人だと分かったし、私の作品にも真摯に接してくれる事も知っている。今では「ラチイさん」と愛称で呼ばせてもらっているくらいの仲良しさんだ。


 ……だからね、まさかね、油断してたよね。


「すみません、今回はちょっと依頼主から直接お話を伺ってもらいたいんです」


 ラチイさんはいわゆる営業職で、私は製造元。

 今回のお客様はちょっと特別らしく、初めてお呼びだしを受けた。

 ラチイさんへの信頼もあったし、これまた深く私は考えなかったわけです、はい。

 この時点での私は、ラチイさんの見た目から、海外のお客様かな~、英語喋れるかな~、くらいに呑気に構えていたのですが。


 当日、家に直接迎えに来てくれたラチイさんを出迎えた玄関先が、ぽやぁと怪しく光る。

 なんということでしょう、突然足下に現れた魔法陣。

 感じる浮遊感。

 瞬きをした一瞬の後には、我が家じゃないどこかの部屋の中だった。






 何が起きたのかと処理できない頭で、部屋をゆっくりと見回す。

 壁に棚、中央に作業台がある。私が気に入って使っているメタリックレッドのシェルっぽい色と質感が視界に入った。何だろう、存在感があるね?

 体ごと振り返って目当てのものを正面から見据えれば、明らかに地球外生命体らしきホルマリン漬けのドラゴン(?)の生首と目が合う。


 瞬間、私は思いっきり叫んだ。


「わぁぁぁっ!!?ちょっ、ラチイさん!これ何!?何のセット!?そんでもってどこよここ!?」

「あはは、どうどう」


 隣で悪戯が成功した子供のように笑っているけど、ラチイさんや、笑い事じゃないからな!?

 私は能天気に笑う確信犯に向かって拳を振りかぶる。私の全力パンチに堪えた様子を見せないラチイさんだけど、私はめげずにポカポカと彼の胸を殴った。


「智華さん、ほら、大切なお手を痛めてしまいますから」

「だったらさっさと状況説明求むー!」


 鳩尾を狙って打ち込んだ拳をさらりと取られて、ぐいっと腰を抱かれる。ひょっ!?


「気はすみましたか」

「……」


 すんでないです、まだ殴らせて欲しいです。

 でも延々と殴ったってラチイさんは堪えないし、話も進まないから、私は渋々拳を引っ込めることにした。いいですか、一時的な休戦ですからね!納得のいく説明が貰えなければ相討ち覚悟で頭突きですからね!

 ラチイさんに腰を抱かれたまま恨めしげに睨み上げれば、くすくすと笑われる。くそう、イケメンだからって何やっても許されるわけではないんだからね!


 ラチイさんは私を解放すると、腰を抱きながら部屋を移動した。こういうフェミニスト的な所作が板についているあたり、外国人だよね。さりげないレディファーストの精神に最初の頃は色んな意味で慣れなかったけど、一年経った今じゃ私も耐性がついてしまった。日本のカフェやら飲食店やらでやられてみ?ラチイさんのイケメン具合もあいまって羨望と嫉妬の雨霰ですよ。


 最初に目があった瓶詰めドラゴン(仮)のある部屋を出ると、そこは普通のリビングだった。

 生活感のある雑貨と、ローテーブルにソファー。大きな窓からは太陽の光を取り込みつつ、庭に直接繋がっているみたい。

 部屋を移動すると、ラチイさんがここがどこかを教えてくれた。


「まずここですが、俺の家兼工房です」

「……私、ラチイさんを玄関でお出迎えしてからここに来るまでの道のりが記憶にないんですけど」


 いや待ってよ、なんで瞬きしたら移動してるのよ、と思うがままにビシッと突っ込むと、ラチイさんはなんて事もないように綺麗な微笑を浮かべた。


「さすがに世界を渡るのに車は使えませんから、俺の魔法で転移しました。智華さんにはここで、王女殿下の為の魔宝石を作っていただきたいのです」


 今絶対に無茶振りを振られたような気がするのは気のせいかな?

 しかも今、魔法って言ったよね?

 頬がひきつるのが嫌でも分かった。


 ───どうやら専属営業マンは、異世界の魔法使いだったようです。


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