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ちぇんぢ!!  作者: 草加人太
ガルフレイク編
22/37

幕間 この世界の恋愛事情と聖月シスターズ

 本来なら『クロノの一日』系列のエピソードの最後に挿入するつもりだった幕間なのですが、そうすると投稿が4週間後になってしまい、読み直しの必要が生じてしまうかな、と思いましたので、今日投稿します。

「あの、副長は大丈夫なんでしょうか?いきなり帰ってきて、布団と格闘した挙句、寝込んでますけど…」


「う、うん。布団から漏れ出てくる声からすると、クロノ殿が原因みたいなんだ」


「でも、幸せそうな鼻歌も漏れ聞こえてきますわ。これは恋の香りがいたします!!」


 聖月騎士団に割り振られた迎賓館の一室にて。同騎士団の団員であるアリエル、イーナ、ウルスラは、たまにぴくぴくと動く布団をみつめながら、会話を続ける。


 つい先ほどのこと。昼食を食べていた3人の部屋に、外出したはずのシロディールが戻ってきた。自分達と同じく非番であり、買い物に出かけたハズなのに、10分もせずに戻ってきたシロディールを訝しんだアリエルが、忘れ物でもしたんですか、と聞く。すると、顔を真っ赤にしたシロディールは違うのにゃ、とだけ呟いて、自分のベッドに飛び込み、そのまま布団にくるまってしまったのだ。


「副長、どーしたんですか?教えてくださいよぉ!!」


 3人の中では一番物怖じしない…幼いともいう…性格のアリエルが布団にくるまったシロディールをゆさゆさと揺らす。それを、若干男勝りなところのあるイーナと、お嬢様気質だが、恋愛に関連するあらゆる事象が大好き、という奇特な令嬢ウルスラが興味深げに覗き込む。


 そのうち、シロディールを包んでいた布団はめくれていき、繭のような防御壁は消失。そこに隠されていたシロディールの頬は紅玉のように赤く染まり、その白磁めいた首筋との対比が一種、扇情的な雰囲気を醸し出していた。


 しかもその表情は、だらしなくも、至福と呼ぶにふさわしい程に蕩け切った笑顔であった。黄金色の猫耳も、彼女の気持ちを代弁するかのように、へにゃり、と垂れ下がり、時たまぴくぴくと動いている。それを見た3人のテンションが急上昇する。


「副長、何があったんですの!?どうか教えてくださいまし!!」


 序列などという考えは吹き飛んでいた。普段は淑やかな所作を崩さないウルスラが、シロディールの肩を両手で握りしめ、がっくんがっくんと揺らす。他の2人も好奇心を隠せない様子で、腕を掴んで、同様に揺らす。


「ちょ、そんなに揺らさないで!!分かった、相談するから、ちょっとストップ!!」


 その言葉を聞いた3人は、シロディールを揺するのを止めて、ワクワク、といった擬音が背景に浮かびそうな勢いでシロディールをみつめる。そんな分かりやすい様子の3人に辟易しながらも、シロディールは先程廊下であった出来事について話し始めるのだった。



「うわー、運動後に急接近、ですか。それは惚れてまうわー、って感じですねぇ」


「でもさ、クロノ殿は獣人系の亜人が、強者の香りが大好き、ってことは知らないんだよね?だとしたら今、かなり戸惑ってるんじゃないかな」


「そうですわね、その可能性もありますが…でも、熱があるかを心配してくれたということは、一定以上の好感を抱かれているという事の証明ではないでしょうか!!副長、ここは押しの一手に限るのではないかと!!」


 3人寄れば姦しい、という比喩表現の通り、様々な感想や意見を述べる3人。しかし、それに答えるシロディールは、困ったような表情で頷く。


「ちょっとね、私自身も自分の心が分からないの。最初は憧れてるだけでよかったのに。気が付くと、クロノ殿を探してしまっていたんだ。それでね、気さくに話しかけてくれるし、あんなに凄い人なのに、私と同じ目線で接してくれる。そんなことが、とっても嬉しかった」


 クロノが聞けば、すっころんだ後に、そんな大層な人間じゃないですよ、と否定するであろう評価。しかし、彼の実力から言えば、居丈高な態度で振る舞うのがある意味では当然だったのだ。少なくとも、今まで彼女たちが護衛してきた『優れた人物』達はそうであることが多かった。ところがクロノは、人を顎で使い、はばかることなく金品や賛辞を要求するようなことはなく、むしろ紳士然とした態度を崩さなかった。 


 それどころか、身の回りの世話をしているメイド達にすら頭を下げる様子が度々目撃されており、聖月騎士団の面々もそれを見習って、それまで尊重はしつつも、空気の様に接していたメイド達に丁寧に対応するようになっていた。そうした変化の恩恵を受けているメイド達に、非常に感謝されていることを、クロノは知らない。更に言えば、そうしたメイド達の言葉を聞いたノアが、クロノを起こす前に、前髪をそっと撫でてから起こすようになっていることも、クロノは知らない。


 彼にしてみれば、自分如きが居丈高に振る舞うとか何様だ、弁えろよ、といった自意識に従っているにすぎないのだが、そうした態度は概して好意的に受け取られていたのである。そして、その柔らかい応対や、話し方は自然と多くの人々に好感を抱かせており、レオナとシロディールが上手い事いったら、自分も狙ってみようか、という人員も相当数いたりもした。


 クロノが思う以上に、この世界における『強さ』というパラメーターは、女性にとって魅力的なものだったのである。強者であればあるほど、自身の実力に対するプライドなどから、自儘になることが多い。その点、そうあることを、むしろ罪悪とさえ捉えているようなクロノの生き方は、多少の無理は通しても狙ってみる価値あり、と彼女たちに判断させる程に、魅力的なものとして映っていたのである。


 シロディールの言動を見て、だったら、と鼻息を荒くするウルスラ。しかしシロディールはウルスラを手で制してから、絞り出すように言葉を連ねる。


「だけどこれ以上、その…す…ううん、好意を持ってしまうことを怖く感じている自分もいるんだよね。レオナには、私に遠慮しないで、むしろ一緒に好きになろう、なんて誘われているんだけど…。でもね、自分の心をしっかりと自覚して、動き始めたら、私……自分を止められる自信がないの。クロノ殿は、これからもっと凄い人になっていくと思う。なのに、私がその重荷になってしまったら、とか考えちゃって…」


「それは…うーん、考え過ぎだと思うんだけどなぁ。どうなんだ、ウルスラ。お前、人の恋路を覗き見るのが趣味だろう」


「ちょ、イーナ!!人を変態みたいに言わないでくださるかしら!!私は恋という甘美な火に惹かれているだけですわ!!」


「ウルスラちゃん、どうどう。そしてそれって同じことじゃないかなぁ?」


 キャンキャンとやりあう3人を尻目に、指と指を、いじいじと合わせながら俯いてしまうシロディール。猫耳も、力なくへたれてしまっていた。そんな彼女の様子を見て、ウルスラは表情を真面目なものに変える。そして、自分が出来る限りの助言を行うことにした。


「シロディール副長。私達は、今のところ好感以上の感情をクロノ殿には抱いておりませんので、副長の気持ちに共感することは難しいです。なので、ここは同じ気持ちを共有できる、レオナ団長とよく話し合うべきではないかと思います。そして、可能であるならパートナーとして協力していくことをオススメしますわ」


 一夫多妻が通常の形態と化しているこの世界においては、同じ男性を好ましく思っている女性はライバルではなく、パートナーとして見られる向きが強い。その為、意中の男性を落とすために、前衛と後衛といった役割分担を決めて、協力して勝負をしかけるという、クロノからすれば到底理解できない恋愛形態が、現在は主流なのだった。


「そうか、団長が本懐を遂げてしまったら、もう協力体制は展開できないものな。普通、付き合ってしばらくの間は、自分一人で独占したい、って考えるものだし」


「イーナちゃん、本懐とか直接的過ぎるって!!間違ってはいないけど!!…えっと、クロノ殿は急進的なアプローチをされると戸惑っちゃう人に見えたから、じわじわと外堀を埋めて、窒息したところをブスリ、とやるのが良いと私は思います」


 三者三様ながら、アドバイスの言葉を送ってくれることを嬉しく思いながら、シロディールは3人に順番に抱き着いて、感謝の念を伝えた。ただ、アリエルにはデコピンでツッコミを入れる。


「みんな、ありがとう。うん、レオナとよく話し合ってみるよ。その時にどうなってしまうか、なんて…私らしくない悩みだったかもね」


 まだ頬を赤く染めながらも、シロディールは朝日を祝福する花の様な笑みを浮かべる。その笑顔を見た3人も、ツヤツヤとした笑みで、それに応えた。いい話だなー、と結びの言葉が付きそうな雰囲気。だったのだが…


「話は聞かせてもらった!!シロディール、今日から私たちはパートナーだ!!」


「にゃっ!?」


 突如として開け放たれるドア。そこには眼鏡をかけ、胸元に小さなピンクのリボンがあしらわれた、白のワンピースを着込んだレオナが、仁王立ちをしていた。びくり、と肩を震わせるシロディール。またすごいタイミングで来たな、と内心思いながら、3人は様子を見守る。


 レオナは、ツカツカとシロディールの目の前まで歩いてきた後に、信愛に満ちた表情で抱き着いた。それを見ていた3人は、おお、と感嘆の色が混じった声をあげる。聖月騎士団の黒姫と白姫が抱き合っている、という光景は、同性から見ても非常に美しく感じられる取り合わせであり、すごいものを見た、という感想を等しく胸に抱いていた。


「3つの頃から、一緒に過ごしてきたシロディールと、同じ殿方を好きになれたこと。…とても嬉しく思うぞ。どうだろう、午後から私はクロノ殿に国際情勢について教えることになっているのだが…その、一緒に来ないか?」


「う、うん…今日は、ちょっとやめておく。もう少しだけ、心を落ち着ける時間が欲しいんだ。ごめんね、レオナ」


 気にするな、とシロディールの頭を優しく撫でながら呟くレオナ。そうしたやり取りを見ていた3人は、クロノ殿の貞操待ったなし状態だな、とかなり下世話な思いを共有するのだった。

 徐々に追い詰められるクロノと追い詰める女性陣、というエピソードでした。


 ちなみにシロディールは恋慕の相手が優秀過ぎると尻込みするタイプで、レオナはむしろ自分もその領域に並び立って見せよう、と奮起するタイプです。


 聖月シスターズには、クロノとヒロインズの関係の推移を第三者的な視点で見る時に活躍してもらおうかな、と考えています。

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