三
走り勢いをつけフルスイングした拳は相手の顔面へ叩き込まれ体ごと飛ばす。一人目を行動不能にすると息をつかないまま後ろ向きの二人目の膝を蹴る。バランスを崩した瞬間に頭を掴み地面へ叩きつけ意識を飛ばす……残り三人になった時にようやく相手はテツへの攻撃へ開始するが遅い。
「てめぇら真砂の大番長に何してるんじゃぁああああ」
囲まれる前に三人目の前に立ち前蹴りで腹を貫く。怯んだ瞬間に畳み掛けるように左右の連打で顔面を叩き切り刻んでいく。とにかく顔面への攻撃、数で負けている以上一人に時間をかけてられないと拳を振り抜いていくと視線が落ちる。
「なんだおっさん」
地面が見え頭が熱くなり赤い雫が落ちていく光景で自分の血だと気付く。振り返れば木材を持った大男が振り回してくる。避けられない距離で倒れ掛かっているテツは片腕を盾に防ぐが骨の悲鳴を聞き苦痛の声を漏らす。
「つぅ!! お前ボクシングやってんだろ」
「だからなんだよ」
「ボクサーだったら武器なんか使うなよ~」
大男の名前は長谷川。テツの考えた通りボクシングジムに毎日通い真面目に練習しているが長谷川が表面上は真面目だが本性は逆だった。
「俺はなぁ!! 喧嘩に強くなるためにボクシングやってんだよおっさん!!」
鋭いジャブがテツの頬に突き刺さり顔が横に飛ぶように流れていく。素手の拳は肉を切り裂きまさに凶器に変わっていく。
「まったく本当に自分が嫌になる」
「なにいってんだおっさん!!」
あのまま黙って立ち去っていればこんな痛い思いも惨めな思いもしなかった……ただ痛みで横たわり震えている紅孔雀を無視できなかったちっぽけな正義感にテツは嫌になった。
「気持ち悪いんだよ!!」
救いなのは残った二人が手を出さず長谷川が一方的に殴る姿に喜び攻撃をしてこない。ただ血が足りなくなってくる、手足の感覚が遠のき殴られてる痛みが薄れていく事に気付きテツは力を振り絞る。
「だらっしゃぁあああああ」
気合の一声で大振りの拳を振り抜くが長谷川が嘲笑うかのように紙一重で避ける。反撃へ拳を上げ瞬間の長谷川が違和感を感じた頃にはテツは襟を掴み上げていた。
「坊やここはリングの上じゃないんだぜ、喧嘩だ……少し臭い台詞だったかな」
一気に襟を引き寄せ長谷川の鼻先へ額を叩き込み一撃で沈めテツの勝利で終わるが残っているのはまだ二人。完全に力を使い果たしたテツは膝から崩れ落ちて最後に紅孔雀を見る。
「ここで格好良く助ければ理想なんだが~詰めが甘いの俺らしいなぁ」
意識を立ったのは顔をサッカーボールのように蹴り上げられた痛み。五対一という無謀な喧嘩に挑んだ結果は無様な敗北だった。




